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なぜ火星や金星を「惑星」と呼ぶのか…この質問に隠されている“一瞬で心をつかむ人”の会話テクニックとは

プレジデントオンライン / 2023年3月29日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/dottedhippo

雑談がうまい人は何が違うのか。作家の百田尚樹さんは「質問から入ることが効果的だ。人間は、訊かれた質問に答えたい、知らなければそれを知りたいと思う生き物だ。この気持ちを上手に使うと、簡単に相手の興味を惹くことができる」という――。

※本稿は、百田尚樹『雑談力』(PHP文庫)の一部を再編集したものです。

■質問から入る

人の興味を惹く方法の1つに、質問から入るという方法があります。

人間というものは何かを訊かれると、それに答えようとする性質があります。そしてその答えがわからなければ、知りたいという興味が湧きます。

ただし、普段全然関心のないものや、身近でないものはダメです。いつもは何気なく使っている言葉や、知っていると思っていることが、実は全然知らないものであったということに、小さなショックを受け、同時に関心が一気に高まるのです。

たとえば「惑星」という言葉は誰でも知っています。普通に使う言葉です。

天文の話題になった時、「ところで、惑星って、どうして惑星って名前が付けられているのか知ってる?」と訊かれれば、たいていの人が、「あれ?」と思います。

惑星の「惑」という字は「惑う」という意味です。これは「迷う」とか「ふらふらする」という意味です。なぜ、そんなおかしな字を使っているのでしょう。

■古代人が「惑う星」と名付けた理由

古代の天文学は天動説です。これは地球を中心に宇宙が回転しているという考え方です。これによれば、太陽も月も1日に1回、地球の周りを回ります。そして宇宙空間の多くの星も、1日に1回転します。もちろん季節ごとに軌道はゆっくりずれていきます(実際に冬の星座と夏の星座が違うのは、地球が公転しているからです)。

ところが星の中にはそういう正確な回転をしないで、不思議な動きをするものがあります。それは金星であり、火星であり、水星です。これらの星は地球の周囲を円運動しません。なぜなら、水星も金星も地球と同じ惑星で、太陽の周囲を公転している星だからです。

つまり地球を中心にして、これらの星を観察すると、見かけの動きは地球の周囲を回転するという動きにならないのです。それらの星は前に進んだかと思うと、後ろへ行ったり、また右や左にふれたりもします。

それで古代の人たちは、これらの星を「惑う星」と考えたのです。つまり惑星という名前は天動説の名残なのです。天動説が否定されて何百年も経つのに、今もその概念の言葉が使われているというのは考えてみれば奇妙なことです。

■「試金石」はそもそもどんな石なのか

また、日常使う言葉に、「試金石」という言葉があります。これはある人や団体が本当に価値があるのか、それともニセモノなのか、という試験的な意味合いの場合に使われる言葉です。スポーツの前哨戦などにも使われます。

ところが、「試金石って、もともとどういうものなのか知ってる?」と訊かれれば、多くの人はまず答えられません。はたしてそんなものが存在したのかどうかも知らない人が多いのではないでしょうか。

これは金がどこまで純度が高いかを調べる石のことなのです。かつては実際に使われていました。

金は24金が100パーセントの純金で、そこに銀を加えることによって、純度が落ちていきます。18金とか12金といわれるものです。

ところがこれはなかなか見た目ではわかりません。今なら正確に純度を調べる機械もありますが、昔はそういうわけにはいきません。かなり大きな塊かたまりなら、比重を調べて判定する方法もあります。

■「自らを納得させたい」モチベーションをつくる

ちなみにこの比重を調べて判定する方法を編み出したのは、アルキメデスと言われています。彼は王様に、王冠が純金かどうかを調べてくれと言われ、同じ重さの物体を容器いっぱいに水を入れた中に沈めれば、比重の重いものほどあふれた水の量が少ないことに気付き、それで王冠の金の比重を調べて、純金でないことを証明したという話が残っています。

話が逸れましたが、試金石はもっと単純なものです。

この石は黒曜石でできています。そしてそこには24金や18金の金で引いた線が書いてあります。これは金を石にこすりつけてできた線です。この線を比較すると、輝きが微妙に違うのです。

それで、ある金がはたしてどれくらいの混ぜ物であるかを調べるのに、この試金石に金をこすりつけて線をつけ、試金石の線と比較して、同じ輝きを持つ線を見るのです。

もちろん、今はこんなやり方をする人は誰もいません。ですから世の中には「試金石」などというものもなくなりました。でも、面白いことにその名前だけは今も残っているのです。

人は「あれ? なんだろう」と思うと、それを「知りたい」、あるいは「自らを納得させたい」というモチベーションが生じます。あなたが誰かに話をする時、相手にそういう気持ちを起こさせれば、もうこっちのものです。相手はあなたの話を興味津々に聞くことでしょう。

その意味で、さりげない質問から入るというのも、話をするテクニックの1つです。

■常識を揺さぶるような話から入る

前の項で質問から入るという話をしましたが、意外な導入から入るという手もあります。

たとえば、「地球上には、自然界で生きていけない動物が一種類だけいるんです」と言われれば、人は「えっ」と思います。

誰だってそんな動物がいるわけないと考えます。でもその動物は存在するのです。それはカイコです(正式名称は「カイコガ」)。

カイコは人類が約5000年前から飼い始めたと言われています。家畜化された昆虫で、野生には存在しません。カイコは野生で生きる力(野生回帰能力)を完全に失ってしまった唯一の家畜です。

カイコの幼虫は桑の葉を食べて大きくなりますが、足の力が弱いので、仮にカイコを野外の桑の木に止まらせても、葉っぱにつかまっていることができません。そのために1日で葉から落下して死んでしまうのです。成虫になっても、翅(はね)の筋肉は退化していて、羽ばたくことはできても飛べません。つまり人間の飼育環境下以外では、まったく生きることも繁殖することもできない動物なのです。

カイコ
写真=iStock.com/TuelekZa
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/TuelekZa

■葉っぱに捕まることも飛ぶこともできない

でも人間が飼育する以前は、カイコは自力で生きて、繁殖していたはずです。ところが今に至るも自然界でカイコのルーツは見つかっていません。クワコという昆虫がそうではないかという説もあるようですが、生態も性質もまったく異なるので、否定的な意見が多いようです。おそらくカイコのルーツとなった昆虫は絶滅してしまったと考えられています。

それにしても、カイコは怠け者というか、いい加減というか、人間に飼われているうちに、生きていく能力をすべて捨ててしまったのです。これは呆れるばかりです。

エサは人間が与えてくれるから、幼虫は歩く能力も葉っぱにつかまる能力も捨ててしまい、また人間が雄雌同士を出会わせてくれるから、成虫になっても飛ぶ能力を捨ててしまい、挙句に成虫はものを食べることができません。つまり人間に飼育されることによって不要となった器官を、カイコは惜しげもなく放棄していったのです。そしてついに自然の中で生きる能力をすべて失ってしまったというわけです。

■相手の興味を逸らさないように話を展開する

進化論の世界では、「ラマルクの用不用説」(よく使用される器官は世代を経るごとに発達し、使われない器官はだんだん小さくなりやがては退化するという説)は否定されていますが、カイコを見ると、「用不用説」は正しいのかと思えてきます。

百田尚樹『雑談力』(PHP文庫)
百田尚樹『雑談力』(PHP文庫)

それはさておき、カイコを見ていると、なんとなく教訓めいたものを感じます。ぬるま湯のような生活を長く送っていると、生存能力やたくましさといったものがどんどんなくなっていくということです。

日本は戦後、高度経済成長を遂げて、世界でもトップクラスの豊かな国になりました。でも、若い人はどんどん弱くなっているような気がします。上司にちょっと怒られただけで会社に行けなくなったり、人間関係で鬱になったりする人が多く、学校でも登校拒否児童が増えています。もちろんそれにはいろいろな原因があるのでしょうが、私にはカイコが弱くなったのと似ているような気がしてなりません。

少々話が脱線してしまいましたね。もとに戻しましょう。

冒頭にも書いたように、人の常識を揺さぶるような話から入るというのも、1つの手です。人に「えっ」と思わせることができれば、導入はほぼ成功なのです。あとはその興味を逸らさないように話を展開していけば、その場は大いに盛り上がるでしょう。

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百田 尚樹(ひゃくた・なおき)
作家
1956年、大阪府生まれ。同志社大学中退。放送作家として人気番組「探偵! ナイトスクープ」などを構成する。2006年『永遠の0』で作家デビュー。13年『海賊とよばれた男』で第10回本屋大賞を受賞。

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(作家 百田 尚樹)

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