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「自分が一番」の人々をまとめる人間関係力に欠ける…橋下徹が「自分は政治家に向いていない」と思う理由

プレジデントオンライン / 2023年4月2日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/webphotographeer

上下関係のない組織をまとめ上げられるのはどういう人か。元大阪市長の橋下徹さんは「リーダーシップを発揮するには仕事ができる人間であることに加えて、ウェットな人間関係も重要になる。安倍晋三元総理はもともとマネジメント・リーダーシップ力に長けているうえに、周りに菅さん、麻生さん、二階さんのように官僚グループや政治家グループをまとめられる人材がいたから、外交、安全保障の仕事に専念できた」という――。

※本稿は、橋下徹『日本再起動』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

■自民党の強さは「まとめる力・まとまる力」

なぜ日本の野党は弱いままなのか。その答えは組織としての弱さにあります。

政治家は政策を語りますが、どんなに立派な政策を語ったとしても「組織の力」がなければ、政策は実行できず、単なる机上の空論で終わります。

つまり、政党は政策を実行するだけの組織力を持つ必要があります。

僕が大阪都構想を提唱したのも、大阪をよりよくするための政策を実行するには、しっかりとした役所の組織づくりが必要だと思ったからです。

大阪府庁と大阪市役所の統合・再編です。このような僕の考えに対して、「制度を変えても何も変わらない」という意見もありましたが、僕は大阪全体をよくする政策は、大阪府庁と大阪市役所の2つの役所組織に別れたままでは実行できないと考えました。

これは地方自治体の役所組織だけではなく、政党という組織も同じです。政治家それぞれが政策やビジョンを語ることも大切ですが、それを実行に移せるだけの政党の組織力が大事なのです。

組織力を強くする第一歩は、まずは自らの組織内にある異なる意見を1つにまとめることです。現在はバラバラに存在する野党が最終的には1つにまとまるために、まずは個別の野党が1つにまとまることが重要。

野党が自民党に選挙で勝利し、政権を奪取して自らの政策を強力に実行するために、この「まとめる力・まとまる力」が必要不可欠です。

自民党は、長い時間をかけ、数多くの経験を積み重ねながら「まとめる力・まとまる力」を蓄えてきました。だからこそ、たとえ党内の意見に大きな開きがあるときであっても、対立する意見をまとめ、党の統一した意見としてしまうだけの知恵を持っています。

どれだけ党内に激しい対立があったとしても、「決まったことには最後は従う」という不文律があり、決める過程において各メンバーの面子を保つ知恵と工夫がある。

ありとあらゆる人間関係を使って調整し、反対意見も尊重し、最終的には人間関係力をもった人間が組織をまとめる。それにとくに長けているのが自民党なのです。

■政治力のある人物の存在が必要不可欠

現在、どの野党も持つことができないでいる自民党の「まとめる力・まとまる力」のメカニズムは大変面白いものがあります。民間企業や役所には見られない特徴です。

というのも、多くの組織では、役職の上下関係は組織のルールで明確に規定されており、上意下達が円滑なのですが、政党という組織はメンバーに加わるためには選挙で当選しなければならず、メンバー間の入れ替わりが激しいので、役職の固定が難しく、規律正しい上下関係、上意下達が成立しにくい。

このように政党とは、組織上のルールによる上意下達によってまとめることはできず、結局は、メンバー間の個人的な人間関係によってまとめるしかありません。このまとめる力を一般的には政治力とも言い、政治力ある者が力を持つのです。

たとえ大臣という役職に就いたとしても、政治力がなければ党内の異論を抑え込むことができず、ことが進みません。それが政治、政党の世界の現実です。

つまり、政党が1つにまとまるには、この人間関係というあいまいで定義しがたいものをうまく使いこなせる政治力のある人物の存在が必要不可欠なのです。

「この人が言うのであれば、聞かざるを得ない」とか、「この人に従っていれば間違いはないだろう」という存在です。

■橋下徹が「自分は政治家に向いていない」と思う理由

人間関係力に優れた政治家には調整力があります。じっくりと異なる意見を聞いて段階を踏んでまとめていく。意見の対立が起きたときには早急に結論を出さず時間を割く。

そして最終的には、「あなたにすべて任せます」という一任を取りつけ、自身の権限において異論を押し切って決定していくのです。

人間関係力が不十分な政治家は、これができません。対立意見をまとめる調整力がないまま、自分の役職権限を使って決定・実行しようと思って組織内で反感を買い、最終的に政党崩壊につながる危険性が生じることもあります。

ノートパソコンを見ながら、二人で意見のすり合わせ
写真=iStock.com/courtneyk
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/courtneyk

かつて民主党が崩壊したのも、政党の持つ特殊な意思決定力である、「まとめる力・まとまる力」が不足していたからでしょう。

その力を得るための人間関係力を養うことが政治家の重要な課題です。それが目的で、政治家は日夜、さまざまな人とのつき合いを重ねているわけです。

僕が政治家に向いていないと思う理由は、まさにここにあります。人間関係力を蓄える素養をまったく持ち合わせていないからです。

■小沢グループ50人が離党…民主党はなぜ分裂したのか

民主党は、政権与党だった2012年、消費税増税に賛成か反対かで党内がもめたとき、意見をまとめることができずに分裂しました。

このとき、増税に反対したのは、小沢一郎さんや鳩山由紀夫さんのグループなどで、増税に反対する議員が多かったのです。彼らの主張は民主党のマニフェストに反するというものでした。

このとき民主党は3日間にわたって合同会議を行いましたが、党内はまとまらず、政調会長だった前原誠司さんが一任取りつけをして強引に増税を決定してしまいました。当然怒号の嵐が起こり、賛成派と反対派でのもみあいが始まりました。

その結果、小沢グループの50人が離党し、民主党は政権を失うことになったのです。このとき、前原さんが多数決を採用していれば、少なくとも離党騒ぎは起こらなかったでしょう。

多数決で負けたから党を去るなどということは、政治家として何よりも恥ずべきことだからです。

前原さんには、「多数決では増税派が負ける」という判断があったのでしょう。もちろん、間違った意見が多数派を占める場合もあります。前原さんもそのように言っていました。

しかし、まとめる力を持たない政党、人間関係力を持った人間がいない政党の場合、最後は多数決で決めるしかありません。

もし、前原さんに増税は絶対にやらねばならないという信念があるならば、じっくりと議論を重ね、反対派を説得し、増税賛成派を増やす努力をしなければならなかったのです。

にもかかわらず、政調会長という役職を振りかざして、一任取りつけを行ったことは最悪の方法でした。一任取りつけができるのは、その人物が役職を持っているからではなく、人間関係力を持っているからなのです。

ですから、現在の野党の再生策を考える場合においても、もっとも大事なことは政治家の人間関係力の構築です。

■政治家組織は「自分が一番」と思っている人々の集まり

同じ政治家でも知事や市長の場合は、役所組織において強力な人事権を持っているので、僕のようなタイプの人間でもリーダー役を務めることができました。

義理と人情に代表される人間関係を構築しなくても、最後はルールに基づいた人事権の行使によって組織をまとめることができます。

これが政治家組織になるとそうはいきません。基本的には皆が上下のない同列のメンバーで、「自分が一番」と思っている人々の集まりだからです。

リーダーシップを発揮するには仕事ができる人間であることが大前提ですが、それに加えて、ウェットな人間関係も重要になってきます。

この人に言われたら、少々理屈が合わなくてもついていこうと思わせるだけの人間関係力が必要なのです。仕事に集中することと、人間関係を築くこと。1人で両方兼ね備えるのが難しければ、分担してもいい。

その点、安倍晋三元総理はもともとマネジメント・リーダーシップ力に長けているうえに、周りに菅さん、麻生さん、二階さんのように官僚グループや政治家グループをまとめられる人材がいました。

ですから、安倍さんは外交、安全保障の仕事に専念して、国際社会において日本という国家の存在を際立たせる仕事ができたのでしょう。官僚組織や党内をまとめる役割は、菅さん、麻生さん、二階さんたちに任せました。

■各野党に人間関係力で組織をまとめられる人材はいるか

一方、立憲民主党はどうでしょうか。泉健太さんはリーダーですから党の看板役で、看板政策を国民にしっかりと伝える役割があります。

では、政治家グループをまとめる役割を誰が担うか、それがきわめて重要な課題です。それだけの人間関係力を持っている人が立憲民主党にいるのか。

泉さんのそばに党をまとめられる人材がいなければ、泉さんが両方の役を担わなければならず、党の看板としての仕事に専念できません。それでは政党としての推進力は生まれないでしょう。

同じことは他の野党にもいえるわけで、維新も国民民主党も残念ながら、人間関係力で組織をまとめる人材の顔があの人、この人というものが見えてきません。

日本維新の会の新代表の馬場伸幸さんは、国会議員をまとめる力には抜群に長けていますが、大阪維新の会も含めた組織全体の方向性を示す目標の提示力には弱い。

玉木さんも看板役と人をまとめる役の両方を担っているので、ずいぶんしんどいのではないでしょうか。

■反対派の急先鋒をTPP対策委員会の委員長に指名

安倍政権下の自民党は、アメリカが離脱するなか、TPP(環太平洋パートナーシップ)協定を締結しました。しかし、これに関しては、党のなかでも賛成派と反対派が拮抗(きっこう)しており、どちらかといえば賛成派が劣勢だったように記憶しています。

なぜならば、自民党には、TPPに強固に反対している農協の支持を受けている議員が多かったからです。彼らは「農林族」と呼ばれていました。ですから、このままでは、とても締結には至らないだろうというのが大方の見方でした。

実は、自民党が政権に復帰した12年、安倍さんが野党として臨んだ総選挙においても、TPPについての公約は明確にされませんでした。

自民党は「聖域なき関税撤廃ならば反対、聖域なき関税撤廃が前提でなければ賛成」と、あいまいな言い方で選挙を勝ち抜き、政権を奪取したのです。

そして政権奪取後、なんと、農林族の代表的存在であるTPP反対派の急先鋒、西川公也(こうや)さんをTPP対策委員会の委員長として指名しました。西川さんが最終目標としている農林水産大臣の椅子が約束されていたという話も囁かれていました。

こうして、TPPの締結の責任者となった西川さんはTPP反対の主張を撤回せざるを得なくなりました。

農林族の重鎮である西川さんがまとめ役に就任したことで、反対派の議員たちも反対しにくくなります。僕は、このようなやり方に自民党のすごさを感じたものです。

しかも、賛成の決定に至る過程のなかで、自民党は反対派議員の顔をつぶさないための見事な仕掛けをしています。農協からの支援を受けている反対派の彼ら彼女らは、TPPに反対する姿勢を示さなければなりません。

ですから、彼ら彼女らは農協主催のTPP反対集会に出席すると、拳を振り上げて反対の意志を表明します。

抗議デモを行う人々のイラスト
写真=iStock.com/champc
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/champc

農協関係者は、彼ら彼女らの姿に拍手喝采し、さらに応援の意を強くします。最終的には、賛成の決定がなされTPPが締結されてしまいましたが、反対してくれた議員たちに対する農協の評価が変わることはありませんでした。

反対派議員たちも、TPP締結に至ったすべての責任を西川さんに押しつけることで自らの責任をあいまいにすることができました。

西川さんは、ここで悪役に回ったことで、最終的に強く望んでいた農林大臣の椅子を手に入れました。自民党の底力はこうしたところで発揮されるのです。

■全会一致前の「トイレ休憩」

同じく自民党の底力を感じさせるもう1つのエピソードがあります。反対派の顔を立てるための手法です。

自民党では、政府から出された法案に対して反対する議員が存在しているとしても、最後は全会一致というかたちにするように全力で努める。あの手この手を使って「まとめる」のです。

もちろん支援者との関係上、あるいは自分の信念によって、どうしても賛成には回れないという議員も当然います。そういうときに、いったいどうするか。賛成の決定を出す直前に「トイレ休憩」を入れるのです。

メンバー間の阿吽の呼吸でこのサインが出ます。サインを合図に、反対派議員は会議の場から静かに退出します。そうしている間に、決を取って全会一致で賛成に決めたかたちにしてしまう。

退出した議員が席に戻ってみれば、すでに全会一致で賛成に決まっています。彼ら彼女らは自分の支持者に対して、「自分がちょっと席を外している間に決めやがった。奴らは卑怯だ。許せない」と怒ってみせることで、言い訳が成立するというわけです。

自民党は、このようにあらゆる手段を使って党としての意見をまとめていきます。トイレ休憩を入れるやり方が道徳的に立派かどうかは、人それぞれ意見のあるところだと思います。

橋下徹『日本再起動』(SBクリエイティブ)
橋下徹『日本再起動』(SBクリエイティブ)

しかしなにはともあれ、最後はまとめる。まさに人間関係力に長けた議員たちの知恵の結晶といえるでしょう。

このように「全会一致」で決めれば、組織として団結し組織力が強まります。さらに国民の信頼を得ることもできます。

かつての民主党がそうでしたが、「重要な案件が山積みしているが、党内がバラバラの民主党では何も決められないだろう」と不安を覚えた有権者は「腐っても鯛」ならぬ「腐っても自民党」と、不祥事続きであっても自民党に一票を投ずることになるのです。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著書に『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)がある。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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