だから家事分担の不満はなくならない…「いつも自分ばかり頑張っている」と過大評価してしまう心理学的理由
プレジデントオンライン / 2023年4月1日 9時15分
※本稿は、『イラストでサクッとわかる! 認知バイアス』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■自分に都合よく解釈してしまう認知バイアス
日常生活の中では、誰もが無意識のうちに直感や経験、先入観、願望などに囚われています。その結果、合理的でない選択や判断を下していたりします。
心理学ではこれを「認知バイアス」と言い、こうした思い込みや思考の偏りに誰もが縛られているのです。
認知バイアスは日常生活のあらゆる場面に潜んでいて、科学的に実証されているものは200種類以上あるとも言われています。
記憶や選択、信念、因果、真偽などに関連する場合に認知バイアスは生じやすいのですが、非合理的な判断をしてしまった結果、「あのとき、他の方法を選べばよかった」「なぜ判断を間違えてしまったのか」と後悔することもあります。
認知バイアスで陥りがちな失敗の一つに、自分の貢献度を過大評価してしまうというバイアスがあります。自分が持っている情報や知識を基準にして、他者のことを推測してしまう傾向があります。
本稿では、自分の貢献度の評価に関する認知バイアスを紹介します。
■お互いに「自分の貢献度」を過大評価
パートナーや、仲のいい友だちとの普段の関係を思い出してみてください。2人でやらなければいけない作業があったとき、それに対するあなたの貢献度は何%くらいでしょうか?
同じ質問をパートナー(または友だち)にも答えてもらうと、おもしろい結果が出てきます。
ある実験では、夫婦で実験に参加してもらい、「朝食の準備」「子どもの世話」などについて自分の貢献度をパーセンテージで答えてもらいました。
夫婦それぞれが自分の貢献度を正確に評価していれば、貢献度の答えの合計値は100%になるはずです。しかし実際には、多くの合計値が100%を超えました。つまり、少なくとも一方が、自分の貢献度を高く見積もっていたのです。
なお、「口論の開始」などのよくない出来事についても、よい出来事に比べると効果は弱いものの、自分の責任を重く見積もっていました。
■自分の貢献度を過大視するワケ
このように、協同作業をしたときの自分の貢献度を過大評価することを「貢献度の過大視」と言います。
自分と相手とでは手に入る情報が違うため、相手の貢献よりも、自分の貢献を容易に思い出せることが、この過大視の主な原因と考えられています。「自分ばかりが貢献している」と感じたら、相手とは持っている情報が違うということを思い出すといいかもしれません。
グループの人数が増えた場合には、ほかの人たちの貢献についての見落としも増えます。すると、自分の貢献度を過大視する程度も大きくなるようです。
大学生を対象に実験を行い、所属するグループの活動に自分は何%くらい貢献したと思うかを尋ねたところ、グループの人数が増えるにつれ、1人ひとりの過大視も増加し、結果的に自己申告された貢献度のパーセンテージの合計も大きくなることがわかりました。
![『イラストでサクッとわかる! 認知バイアス』よりイラスト](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/4/1200wm/img_2465443e92ec4bd6e85ec6db5d25fa37181808.jpg)
■「あいつは“自己チュー”」とお互いに思っている
友だちや職場の人と協同作業をしたとき、「この人は、自分の貢献度を過大評価していそうだ」と思ったことはありませんか?
このように、ほかの人は自分に有利になるように、自分の貢献度を見積もっているに違いないと考えることを、「ナイーブ・シニシズム」と言います。「シニシズム」は、ものごとを冷笑的に眺めること。ほかの人は自分の貢献度を過大視していると冷笑的に考えるところから、「ナイーブ・シニシズム」の名がついています。
■実際と予想は食い違っている
ある実験では、夫婦の協同作業に対する自分の貢献度をパーセンテージで答えてもらいました。また、「同じ質問をパートナーにした場合、どのように答えると思うか」というパートナーの回答に対する予想も同時にしてもらいました。すると、先ほどの「貢献度の過大視」と同様に、自分の行動に対する回答では、出来事のよしあしに関係なく、貢献度の過大視が見られました。
興味深いのは、パートナーの回答について予想した結果です。よい出来事の場合、「パートナーは自分の貢献を過大評価しているに違いない」と予想し、実際にもその通りでした。しかし、予想された過大視の程度は、パートナーが自身を過大評価していたよりも、さらに大きなものでした。
一方、よくない出来事の場合は、「パートナーは自分の責任を過小評価しているに違いない」と予想していましたが、パートナー自身の回答は、逆に自分の責任を過大評価するものでした。
私たちは、協同作業のパートナーが自らの貢献や責任について考えるとき、実際以上に利己的で公正さに欠けると疑っているようです。
■自分は正しい! ほかの人は間違っている
このように私たちは、他者の判断には自己中心的なバイアスが見られると過度に予想しがちなのですが、その一方で、自分については客観性を備えた冷静な観察者であると自負している傾向があります。
たとえば、会議などで多数決を採ったら、自分の予想と実際の結果が違っていて驚いたことはないでしょうか。これは、現実の捉え方に関する素朴な信念が影響していると考えられます。この信念を「ナイーブ・リアリズム」と言います。
ナイーブ・リアリズムには、「自分は現実を客観的に見ており、自分の意見は、得た情報をそのまま冷静かつ公平に吟味した結果だ」という自分に関する信念と、「同じ情報に触れて、同じく合理的に検討したなら、ほかの人も自分と同じ意見になるはずだ」という、他者に対する信念の両方が含まれます。
つまり私たちは、自分は正しく、その正しさを他者とも共有できるはずだと素朴に信じているのです。
■意見が違うのは相手に問題があるから?
ナイーブ・リアリズムにはさらに、他者と意見が食い違ったときの理由に関する信念も含まれます。
食い違いを経験したとき、私たちは「きっとこの人は自分とは違う情報を見たんだ」「この人は合理的な考え方ができない人なんだ」と考えたりします。また、「この人は自分の主義主張や利益のためにゆがんだ見方をしているのだ」と考えることもあるでしょう。
このように、自分と意見が食い違うのは相手に問題があるからだとする信念は、ときに他者との間に対立を生む原因になります。
![池田まさみ他監修『イラストでサクッとわかる! 認知バイアス』(プレジデント社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/0/1200wm/img_607d7f1d3511479799fc7d115a5305be132872.jpg)
1951年に行われたダートマス大学とプリンストン大学のアメリカン・フットボールの試合は、開始直後からけが人が続出し、審判の警告が飛び交う大荒れのゲームでした。後日この試合を題材に、次のような研究が行われました。
まず両校の学生に試合の映像を見せ、試合中に生じたルール違反とその激しさの程度を評価してもらいました。すると、お互いが異なる見方で試合を解釈し、相手チームを非難していたことが明らかになりました。さらに、両校で意見が違うことがわかると、「自分と相手が見ている映像が違うはずだ」という、ナイーブ・リアリズムに基づく主張が見られました。
(プレジデント社書籍編集部)
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