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「生活保護では足りないので知り合いに覚醒剤を売った」5回服役した70代女性の目を覚ました孫の言葉

プレジデントオンライン / 2023年4月6日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wengen Ling

女性が収監される理由は窃盗の次に覚醒剤取締法違反が多い。ジャーナリストの猪熊律子さんは「万引きなどの窃盗が46.7%、覚醒剤取締法違反が35.7%。50歳より下の年代が多いが、覚醒剤は他の犯罪に比べて再犯率が高く、女性では90%以上。入所と退所を繰り返すうちに65歳以上の高齢者になってしまうことも少なくない」という――。

※本稿は、猪熊律子『塀の中のおばあさん』(角川新書)の一部を再編集したものです。

■70代で入所5度目の女性が語ったこと

ここにきて、5年近くが経ちます。覚醒剤の営利目的使用の罪で入りました。刑務所は5度目です。恥ずかしいです。いずれも覚醒剤ばっかりです。

覚醒剤と関わるようになったのは、密売人と知り合って、一緒になったからです。それで徐々に深入りするようになって、見よう見まねで自分も売りさばくようになりました。籍は入ってなかったですけど、30年ほども一緒におったもんで。でも、縁を切らんことには絶対、この道から足は抜けられへんと、今回初めて、この年になって気づきました。

生まれは関西です。中学校を卒業して、家の仕事を手伝ったりして働きました。20代の頃、ある人と一緒になって子供もできたんですが、これが働かん男で苦労して。うちの親などにも迷惑かけて、これではあかんと思って別れました。

■子連れで結婚した相手に殴る蹴るのDVを受けた

そのうち、子供ごと面倒見てくれるという人に出会い、一緒になったんです。最初の人とは籍を入れてなかったんですが、今度は籍を入れて。その人とは15年ぐらい一緒にいてました。でも、酒癖も女癖も悪くて、またすごく苦労して。酒飲んだらすぐ殴る、蹴るでね。生傷が絶えなかったんです。

私、子供を連れていったから、連れ子ですわね。それを承知で一緒になったのに、連れ子め、といわれた。この言葉には泣きました。別に隠して一緒になったわけじゃあるまいし、知り尽くして一緒になったのに、なぜこんなこといわれなあかんのかなと思って。我慢しよう、我慢しようと暮らしてきましたが、あまりに生傷が絶えないのをみて、身内が間に入ってくれたんです。それで別れることができました。

■離婚後に覚醒剤の売人に惚れ自分も注射を打った

40代になり、友達の紹介で知り合った人が覚醒剤の売人やったんです。最初は知らなかった。でも、賭博をやってはったから、すぐわかりました。売人とわかった後でも別れんかったのは、まあ、惚れてたってことですよね。

クスリは好奇心から自分でもやりました。自分で注射を打つんです。怖いというよりは好奇心で。打つと、やっぱり気が晴れるというかね、嫌なことを何もかも忘れられる。どっぷりつかってしまいました。で、クスリが切れてきたらしんどいからまたやる。切れてくると何をするのも嫌になり、気分が悪くなります。

見つかって、最初に刑務所に入ったのは40代の半ば近くです。そこから出たときは、子供が引き受け手になってくれました。そこにまた売人の男がやってきて、ついまたね、よろよろと子供との暮らしを忘れて男のほうに走ったりして。

【図表1】覚醒剤取締法違反 入所受刑者人員の推移
出所=法務省「令和2年犯罪白書」

■生活保護では足りないから知り合いにクスリを売る

実は、子供と住んでいたとき、子供夫婦が夜、いつもけんかをしていたんです。聞くと、刑務所帰りの私と一緒に住むのが怖いと子供の連れ合いがいっていると。私、それを聞いたとき、いっぺんに泣けてきました。悲しくて、悔しくてね。それがわかった以上、ここにはいてられないと。ちょうどそんとき、男がやってきたから、その売人のほうに行ってしまったんです。

覚醒剤を売りさばくようになったのも、子供夫婦とのことがあったからです。家を出ようと思ったとき、お金のないみじめさを思い知りました。ああ、お金は持っとかなきゃいかん、絶対お金は必要やと。初めて、お金に執着がわいたんです。

もちろん、稼いで楽したいという気もあったと思います。それから、何度も捕まるようになってからは、私も相手も交互にぱくられますわね。刑務所の中での生活は、私物をほしいと思ったらお金がかかります。刑務所に面会に行くにも差し入れするにもお金いりますやん。刑務所出てから生活保護を受けていても、生活保護では足りんから、それでまた知り合いにクスリを売ってということをして、ずるずるになってしまったんですね。

■塀の中では刑務作業をしてまじめに暮らしている

ここでの生活ですか? 今は、刑務作業で、一つの班の班長をさせてもろてます。紙にひもを通す作業があるんやけど、年いった人の中には、ひもの数を勘定できん人もいます。間違ったら外から刑務所にくる仕事がもらえんようになるから必死です。納期も過ぎたらいかんから毎日が必死。でも、仕事が好きだから苦になりません。

私、仕事は好きなんです。どんな仕事でも。悪い仕事も好きやったからだめやったんだけど。機械いじるのも好きやし、得意です。体を動かすこと自体が好きなんです。健康やからね。ここにきても、風邪をひいたり、寝込んだり、薬を飲んだりしたことはないです。ここはお年寄りが多いから薬を飲む人が多いけど、私は全然飲みません、薬は。

最初は相部屋だったけど、今は一人部屋。気楽でいいです。刑務所はいろんなルールがあって自由にならへんけど、決まりさえ守っていたら、慣れたらどうということないです。私、自分でいうのもなんやけど、根はまじめで反則は嫌いやから。

■家族がいない老人は刑務所が恋しくなってしまう

ここでの一番の楽しみは食べ物です。行いが良いと、月一度、外の食事も食べられます。メニューがあって、カレーとか、焼き肉とか、中華とか、そこから選べます。月に2回、お菓子も出ます。この年になっても、食べるのが一番の楽しみですよ。

ここにおると二度、同じ顔を見る人もいます。年いってきたら、外の生活は寂しいんやと思いますわ。誰も相手にしてもらえん。家族がおらん人は、ここが恋しうなると違うかなと思います。こっちきたら同じような仲間がおるし、楽しいし、わいわいいうて話し合いもできるし。表だったらそんな話もできないもん。表やったらほんまに独りぼっちでしょ。だから戻ってくる人が多いんじゃないかと思います。

年のいった人は万引きが多いですわ。年いってて満期で帰る人も多い。引き受ける家族がいてないということだと思います。もう必要とされてないんやと思います。寂しいから、こっち来てたほうが気が晴れる。ふっと思い出して、パン1個わざと盗って来る人もいてると思いますよ。経済的なもんもあると思います。やっぱりお金出すのいやなんでしょうね。あの味を覚えたらお金出すのはいややと思いますよ。

■改心したきっかけは孫の「一緒に住もうね」という手紙

男と縁切らんことにはこの道から足は抜けられへん。そう思ったきっかけはね、孫が面会に来てくれ、手紙をくれて、おばあちゃん、一緒に住もうね、もうこういうところに来んようにねというてくれたことなんです。そんなふうに接してくれたんで。この年になっても必要とされてるんやなと思ったら今度こそまじめにならないかん、それこそ孫にも、ひ孫にも見放されてしまったら寂しい老後になる、そんなのいややし、それではいかんと心底、思いました。

ちょっと目が覚めるのが遅かったと思うけど、やっぱり最後はみんなに惜しまれて死にたい。男とはもう手紙のやり取りもしないし、つながりは切ります。わたしも年だし、最後に自分の家族にみてもらって、楽しい老後にしたいと思ってます。ただし、子供夫婦には迷惑をかけたくないから、ここを出たら生活保護を受けて、体が元気な間は働き続けます。

(2018年11月、岐阜県の笠松刑務所で)

よどみなく、流れるような関西弁。まるで浪花節を聞いているような気分になった。

インタビュー後、職員からは「仕事ぶりがしっかりしており、工場で欠かせない人物になっている」と聞いた。

【図表2】自殺念慮・DV被害の経験率(男女別)
法務省「令和2年犯罪白書」より

■女性受刑者は男性から暴力を受けた人が多い

この受刑者もそうだが、女性刑務所の受刑者には、夫や恋人から「暴力を受けていた」という人が目立つ。

先に紹介した令和2年犯罪白書に掲載された法務総合研究所の調査(図表2)では、DV被害や自傷行為、自殺念慮などいずれの項目でも、女性の経験率のほうが男性に比べて顕著に高かった。特にDV被害に関しては、「これまで、交際相手や配偶者などから、身体的な暴力(DV)を受けたことがあるか」との質問に対して、肯定の回答が72.6%に上り、男性の3.5%を大きく上回る。

自殺念慮については、「これまでの人生で、本気で自殺したいと考えたことがあるか」との質問に対し、女性は46.3%で、男性は21%。自傷行為は、「これまで、刃物などでわざと自分の身体を切ったこと(リストカットなど)があるか」との質問に対し、女性は41.2%で、男性の8.1%を大きく上回った。

■薬物依存の女性の多くは更生したいと願っている

これらの調査結果を受け、犯罪白書では、「特別調査の結果を見ると、女性は男性と比べ、薬物依存の重症度について、集中治療の対象の目安とされる『相当程度』以上の者の割合が高い」と指摘。また、自傷行為、自殺念慮といった精神医学的問題が顕著に見られ、DV被害の経験率が高いとした上で、「女性については、治療を受けるニーズが高い者が多いながらも、その介入は多角的かつ慎重に行われる必要性が高いことが示唆された」としている。

一方、女性は男性と比べて断薬努力経験や、民間支援団体の利用経験が高いことから、「薬物離脱の意欲が強い傾向が見られる」とも述べている。様々な特性や問題に配慮しながら、薬物離脱と断薬維持の動機付けを行う必要があり、その点では、札幌市にある女性刑務所「札幌刑務支所」で実施されている「女子依存症回復支援モデル事業」の試行の効果が注目されると述べている。

覚醒剤に手を染めた受刑者の中には、夜間働いている人が「眠れないから」と使用を始めたり、周囲に「ダイエットに効く」といわれて使い始めたりするケースも目立つ。

「『覚醒剤やめますか、それとも人間やめますか』というのがありましたが、そんなふうに体も見た目もぼろぼろ、ではなく、ごく普通に見える人が周囲でやっているのを知り、それならと自分も気軽に始めてしまうことが多い」と調査専門官がいう。

■妻や母としての役割に疲れクスリに走る女性も

既婚者や子育て中の女性の中には、妻や母親としての役割責任をこなすことに疲れ、クスリを使い始めるケースもある。また、女性の覚醒剤事犯は「男性絡みがほとんど」という特徴がある。男性から勧められて軽い気持ちで使っているうちに快感を覚え、やめられなくなったというケースが目立つ。

猪熊律子『塀の中のおばあさん』(角川新書)
猪熊律子『塀の中のおばあさん』(角川新書)

薬物をやめるには、専門家の手助けが必要となる。依存から回復した体験者の話も参考になる。

教育専門官は「自分の過去について考えるのをやめてしまう受刑者が多いが、それは危険。これまでの自分の行動を振り返り、それまでだったら避けてきた人との関わりを新たに始めてみることが、新しい生き方を見つけることにつながる。そうした関わりに寄り添ってくれる支援者と知り合うことが大切です」と強調する。

それまでと違う生き方を始めることに抵抗感をもつ受刑者も多いが、支援者や回復者とのつながりをもつことによって「安全な場所でどう生きていくか」を考え始めることが可能になるそうだ。

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猪熊 律子(いのくま・りつこ)
読売新聞東京本社編集委員
1985年4月、読売新聞社入社。社会保障部長を経て2017年9月、編集委員に。専門は社会保障。1998~99年、フルブライト奨学生兼読売新聞社海外留学生としてアメリカに留学。スタンフォード大学のジャーナリスト向けプログラム修了。早稲田大学大学院法学研究科修士課程修了。著書に『#社会保障、はじめました。』(SCICUS)、『社会保障のグランドデザイン』(中央法規出版)、共著に『ボクはやっと認知症のことがわかった』(KADOKAWA)など。

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(読売新聞東京本社編集委員 猪熊 律子)

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