本質的には"アイコラ"と同じ…実在コスプレイヤーのソックリ画像を生成する「AIコスプレ」の法的な問題点
プレジデントオンライン / 2023年4月8日 10時15分
※本稿は、小林航太『オタク六法』(KADOKAWA)の一部を加筆・再編集したものです。
著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想または感情を自ら享受しまたは他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる。ただし、当該著作物の種類および用途ならびに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
②情報解析の用に供する場合
■他人のイラストを勝手にAIに学習させてもいいのか
昨今、画像を自動生成できるAIサービスが大きな注目を集めています。AIと著作権との関係にはさまざまな深い論点がありますが、そのうちのいくつかについて簡単に触れてみたいと思います。
まず、AIの開発などのために、AIにイラストを読み込ませて学習させることは、著作権法第30条の4第2号にいう「情報解析」(著作物から、構成要素になっている言語、音、影像といった情報を抽出して、比較、分類等の解析を行うこと)のために著作物を用いる場合として、著作権者の許諾なく著作物を利用できる例外にあたります。
そのため、著作権者の許諾なくイラストをAIに読み込ませても、著作権侵害にはなりません。もっとも、これは日本の著作権法の規定ですから、日本の著作権法が適用される場合(=利用行為が日本国内で行われる場合)に限られます。
なお、著作権法第30条の4のただし書では、「著作権者の利益が不当に害されることとなる場合」には著作物の利用が認められない旨が規定されています。このただし書は、技術の進展等によって、現在想定されないような新たな利用態様が現れる可能性があることなどを踏まえて規定されたものであり、ただし書の場合にあたるケースは限定的であると考えられます。
■「AIへの学習を禁止」という意思表明は意味がない
mimicというサービスは、特定の描き手のイラストから描き手の個性・画風をAIに学習させて、その描き手の描き方が反映されたイラストメーカーを自動作成できるというものです。このmimicのベータ版がリリースされた際には、少なくないイラストレーターたちが、自身のイラストを勝手にAI学習に用いられて自身の画風と似たイラストを生成されないよう、自身のイラストをAI学習に用いることを禁止する旨の意思表明をする事態になりました。
しかし、このような意思表明を一方的に行っただけでは、AI学習に著作権法30条の4が適用されることには変わりはありません。ただし、「AI学習に用いてはいけない旨の利用規約に同意したうえでないとイラストを閲覧できない」というようにした場合であれば、利用規約に同意してイラストを閲覧した者との関係では、イラストをAI学習に用いれば利用規約違反の問題になります。
この場合も、利用規約に同意していない第三者が、利用規約に同意してイラストを閲覧した者などから提供されたイラストをAI学習に用いても、その第三者自身が利用規約に同意していない以上は、その第三者との関係では利用規約違反の問題は生じません。
なお、mimicについては、もともと描き手がイラストを描く際の参考資料にすることを目的としているサービスであるため、描き手が安心してサービスを利用できるよう、著作権者以外の者がイラストを学習させることを禁止し、これを防止するための課題を解決したうえでの正式リリースを目指しているようです。
■適法かどうかとは別にモラルの問題もある
AIに学習させることが適法かどうかとは別に、モラルの問題もあります。
NovelAI Diffusionという画像自動生成AIは、二次元イラストの生成に強いAIとして注目を集めましたが、実は、特定の無断転載サイトにアップロードされているイラストをデータセットとしてAIに学習させていることが判明しました。このような違法に複製された著作物を学習させる場合も、学習が日本国内で行われる限りは、著作権法第30条の4の適用があります。しかし、そのような学習を経たAIを使うことを「よし」とするかは、利用者個々人の倫理観の問題でしょう。
■AIイラストに著作権があるかは判断が分かれる
著作権は、著作物を創作した著作者が享有する権利の総称ですが、現在の法制度の下では、権利の主体になりえるのは生身の人間だけです。したがって、少なくともAIが著作者になることはなく、AIに描かせたイラストに著作権が生じるのは、生身の人間が創作した(=思想または感情を創作的に表現した)ものだと言える場合に限られます。
イラストが生成されるまでの過程に関与している生身の人間は、通常、①学習元のイラストの著作者、②AIの作成者、③AIに指示を出してイラストを描かせた者です。この中で、生成されたイラストを創作した者と言える可能性があるのは、③に限られると考えられます。ただし、生成されたイラストに著作権が生じるか否かについては、いずれの見解もあるところです。
■AIイラストが著作権侵害になる可能性はゼロではない
AIが描いたイラストが他人の著作権を侵害する場合として考えられるのは、生成されたイラストが著作物にあたることを前提に、それが他人の著作物の複製・翻案にあたる場合です。そうすると、AIが描いたイラストが、複製・翻案の要件(①依拠性、②同一性・類似性)を満たすかが問題になります。
①依拠性については、AIがイラストの生成に際して参照しているのは、著作物を構成要素たる情報に分解したものであって、特定の著作物それじたいではないことから、依拠性を否定する見解もあります。しかし、極端な話、特定のイラストレーターが創作したイラストすべてをAIに学習させた場合でも、依拠性が否定されてしまうのは違和感があります。
依拠性が肯定されるとして、AIが描いたイラストから、学習元の特定のイラストの表現上の本質的な特徴を直接感得できるような場合(元のイラストとまったく同一の場合や、微細な表現の違いしかない場合など)には、②同一性・類似性も認められ、AIが描いたイラストは、学習元のイラストを複製・翻案したものとして、学習元のイラストの複製権・翻案権を侵害していることになります。したがって、著作権侵害が生じる可能性はゼロとは断言できません。
なお、AIにイラストを描かせる場合、特定のイラストレーターの画風に似ているものが生成されることも多いですが、画風が似ているだけの場合(複製・翻案の要件を満たさない場合)には、著作権侵害にはなりません。
ここからはAIイラストにまつわるよくある質問を見ていきましょう。
【Q1】仕事でイラスト制作を請け負いました。しかし、忙しいので、AIに描かせて、自分の仕事だと言って報酬を受け取ってもよいですか?
【A1】自身が描いたイラストをAIに学習させて別のイラストを描かせる限りでは、少なくとも他人の著作権を侵害するおそれはありませんし、発注者としては、要望を満たしたイラストが納品されさえすれば、特に問題はないようにも思えます(ただし、AIの利用規約において、商用での利用が禁じられている場合などは、それに従わなければならないので、注意しましょう)。
しかし、そもそも、AIに描かせたイラストに著作権が生じるかどうかははっきりしないところです。仮に著作権が生じない場合、誰もが自由に利用できてしまいますから、そのようなイラストを納品されても発注者としては困ってしまうでしょう。ですので、あくまで、AIに描かせたイラストは資料にするに留めるか、これをベースに創作的な表現を加えて、明確に自身の著作物としてイラストを創作するのが無難です。また、無用なトラブルを避けるためにも、AIに描かせたものをそのまま納品するのであれば、発注者の承諾は得ておいたほうがよいでしょう。
■大学の中にはChatGPTの使用を禁止したところも
『オタク六法』が出版されてから数カ月が経ちましたが、この間も生成系AIは日進月歩で発展を遂げ続けており、新しい話題が日々絶えません。『オタク六法』で解説した内容の時点から、日々状況はめまぐるしく変わっています。
最近では、OpenAIが昨年11月にリリースしたChatGPT(人工知能チャットボット)と、今年3月にリリースしたGPT-4(マルチモーダル大規模言語モデル)が特に世間の耳目を集めている印象です。
GPT-4に司法試験を解かせたところ、人間の受験者と併せても上位10%に入るような成績を記録したとのことで、AIに人間の法律家が駆逐される未来が現実味を帯びてきました(この記事も私が書くよりもGPT-4に任せた方がよかったかもしれません)。
他方で、これらAIがレポートや課題に“悪用”されるといった懸念も生じており、既にChatGPTの利用を禁止している大学もあるようです。
AIが生成した小説・論文等のテキストも、AIが生成したイラストと同様に、第三者の著作権との関係が問題になり得ますが、イラストの場合と同様に考えることができます。生成されたテキストが第三者の著作権を侵害するものであるか(複製や翻案に当たるかどうか)は、その要件を満たすかを個別具体的に検討して判断することになります。
■AIコスプレは本質的には「アイコラ」と同じ
ChatGPTの他にも、「AIコスプレイヤー」というものが一時期話題になりました。これは、画像生成AIに複数の学習済みモデルを組み合わせることによって、実際に撮影した写真かのような女性コスプレイヤーの画像を生成するというものです。AIで生成された画像特有の不自然さもしばしば見受けられますが、総じて生々しい臨場感のある画像が生成されており、その完成度の高さには思わず目を見張ります。
さて、AIコスプレイヤーのように人の実写画像をAIで生成する場合、イラストやテキストを生成する場合とは異なる法的問題が生じ得ます。
たとえば、特定の女性コスプレイヤーの写真を大量に学習させたうえで、AIにそのコスプレイヤーとそっくりな女性の性的画像を生成させた場合を考えてみましょう。
これは、アイドルなどの特定人の顔写真を性的画像と合成して(コラージュして)、実在しない合成写真を作成するいわゆる“アイコラ”を彷彿とさせますが、アイコラについては、裁判例上、名誉毀損(きそん)が成立するものと考えられています。
アイコラ画像を画像掲示板上に掲載して不特定多数の者に閲覧させた行為が名誉毀損罪(刑法230条)に当たるかが争われた事件があります(東京地判平成18年4月21日判例集未登載)。
1 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金に処する。
■見分けがつかないほど精巧な性的画像は名誉毀損になり得る
裁判所は、当該アイコラ画像が非常に精巧で合成写真であることを見抜くのが困難なものであるとしたうえで、アイコラについての前提的な知識を有している者に対してさえも、対象とされたアイドルが真実そのような姿態をさらしたのかもしれないと思わせかねない危険性をはらんだものであったことは否定できず、また、アイコラについての知識が無い者がアイコラ画像を見れば、対象とされたアイドルが真実そのような姿態をさらしたものと誤解することは確実であるとして、当該アイコラ画像を掲載した行為は名誉毀損に当たると判断しました。
要するに、閲覧した者に「え、この子ってこんな卑猥な写真を撮ってるんだ」という印象を抱かせる画像を公開することは、そのアイドルの社会的評価を低下させることになる=名誉毀損になる、というわけです。
AIで実在の人物そっくりの性的画像を生成し、その画像を公にした場合も、アイコラの場合と同様に名誉毀損が成立すると考えられます。
ただし、上記の例のように意図的に特定の人物そっくりの画像を生成したわけではなく、偶然実在の人物にそっくりな画像が生成されてしまったところ、生成された画像とそっくりな実在の人物がいることを知らないまま画像を公開してしまうという場合も考えられます。このような場合には、名誉毀損の故意を欠き、名誉毀損は成立しないと考えられます。
■実在する児童とそっくりなAI性的画像は児童ポルノになる
また、実在の児童(18歳未満)とそっくりな児童の性的画像をAIにより生成した場合には、その画像は児童ポルノ禁止法上の児童ポルノに当たると考えられます。『オタク六法』で詳しく触れていますが、実在の児童をモデルに作成した3DCGは児童ポルノに当たると判断された判例があるためです(最決令和2年1月27日 刑集第74巻1号119頁)。
さらに、著名人そっくりの画像を生成し、その画像を無断で顧客の吸引力の利用を目的に利用した場合には、当該著名人のパブリシティ権侵害に当たる可能性もあります。
他方、肖像権については、肖像権に関する判例の考え方を前提にすると、既に公開されている写真を学習させたり、またそれを元に画像を生成したりする限りでは、肖像権の侵害には当たらないと考えられます。
話題になったAIコスプレイヤーの場合、「特定の人種っぽい画像」が生成される仕組みになっている様子ではあるものの、偶然特定の人物そっくりの画像が生成される可能性は十分にあります。
今後も新たな生成系AIが登場することが予想されますが、AIで生成された成果物を公開した場合には、予期せず第三者の権利を侵害してしまう可能性があることを肝に銘じて、AIを活用しましょう。
【Q2】コスプレイヤーとして活動してコスプレ写真をSNSにUPしています。あまり露出の多い衣装や扇情的なポーズはとらないようにしています。しかし、ファンの男性が、私がアップロードした写真をAIに学習させ、実際に私がコスプレをしているかのような、露出の多い衣装の扇情的な写真を出力し、SNSに公開していることがわかりました。
【A2】名誉毀損に当たると考えられます。
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弁護士(神奈川県弁護士会所属)
2012年東京大学法学部卒業。2016年首都大学東京法科大学院修了(首席)。2016年司法試験合格。2017年弁護士登録(第70期)。2019年法律事務所ストレングス設立。趣味はコスプレとボディメイキング。
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(弁護士(神奈川県弁護士会所属) 小林 航太)
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