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爪をはがし、指を落とし、痛みと絶望の中で処刑する…タリバン政権が「アメリカの協力者」に科す残虐行為

プレジデントオンライン / 2023年4月3日 9時15分

2022年8月15日、カブールの空港近くで、政権奪取1年を祝い歓喜するアフガニスタンのイスラム主義組織タリバンの戦闘員(アフガニスタン・カブール) - 写真=AFP/時事通信フォト

■SIMカードを持つだけで拷問や投獄の対象になる

2021年夏、米軍が撤退したアフガニスタンで、武装勢力タリバンが再び権力を掌握した。タリバン政権は旧政権の関係者や少数民族の弾圧を続けており、その実態を海外メディアが報じている。

タリバンによる迫害の主な標的となっている民族集団のひとつに、ハザラがある。アフガニスタンでは3番目に多数を占める民族だ。人口は300万人ほどで、アフガニスタン国民の1割を占める。

アフガニスタンで主流のイスラム教スンニ派と異なり、ハザラの人々にはシーア派が多い。宗教観の対立を理由として、長年迫害の対象となってきた。

また、容姿の違いも差別の要因になっているとされる。平均的なアフガニスタン人とは異なり、ハザラの人々は比較的に色白だ。東洋でよく見られる顔立ちをしており、日本人にも風貌が近いとされる。

こうしたハザラの人々をはじめ、少数民族が迫害の標的となっている。特に、政権崩壊以前に政府関係のポストに就いていた人物やその家族をターゲットとし、意図的に痛みを与える形で残虐な刑に処す蛮行が絶えない。

米軍が撤退しタリバンが実権を掌握した2020年8月から4カ月後、米ワシントン・ポスト紙はすでに、「タリバンはいま、2001年に政権を追われて以来かつてなかったほど、強大になっている」と指摘している。タリバンが不適切とするSIMカードを所持しているだけで、拷問や投獄の対象になるという。

■英紙が報じたタリバンの拷問施設の実態

影響はいまも続く。英インディペンデント紙によると国連は昨年、タリバンが実権を掌握した以降、法的に認められない殺戮が少なくとも160件、拷問が56件、不当な逮捕が170件生じたと発表している。

これらは国連によって正式に文書に記録された件数のみを集計したものであり、実際には悲惨な事例はさらに多数に上るとみられる。

インディペンデント紙は今年2月、タリバンの拷問を生き延びた男性の証言を、ザーイドという仮名で報じた。拷問施設の過酷な実態を物語っている。

ザーイドさんは狭い監房に入れられ、200日間の収容期間のあいだ、ほぼ毎日パン半分と水だけしか与えられなかったという。居住環境は劣悪であり、幅1.5メートルの狭い監房に、氏を含め8人が押し込まれていた。

同じような監房が20部屋ほど並んでおり、通路の先にはトイレがあるだけだったという。この施設は拷問に特化していたようだ。同じ監房から毎日誰かが引きずり出されては拷問部屋へと連れて行かれ、5~6時間経ってから手足が折れた状態で戻ってきたという。

外側のドアは開けられていて、鉄格子が見える監房
写真=iStock.com/lopurice
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/lopurice

■うめき声、泣き声が絶え間なく響いていた

自身も繰り返し暴行を受けたというザイードさんは、「天井から逆さまに吊るされ、感覚がなくなるまで毎日殴られました」と過酷な200日間を語る。脚に器具を付け、電気ショックを与えられることもあった。

ザーイドさんが住むパンジシール州には、東イランをルーツとする少数民族のタジク人が多く住む。また、民族抵抗戦線と呼ばれるレジスタンスが活発であり、タリバンは長年支配に手を焼いてきた。ザーイドさんはレジスタンスへの関与を疑われた形となった。

「顔に水をかけられては、意識が回復すると再び殴られ、パンジシール州で蜂起している抵抗運動に関与したと認めろ、と迫られました」

不幸にも、拷問を耐え抜くことができない仲間も少なくなかった。「周囲の監房からは、うめき声や泣き声が絶え間なく響いていました。ときおり(人数が減って)、誰かが拷問中に力尽き、その死体は処分されたのだと知りました」

半年以上にわたる拷問の末、ザーイドさんはレジスタンスと無関係だと判断され、解放された。タリバンは釈放の際、多額の裏金を要求したという。賄うために組んだローンを、家族はいまも支払い続けている。政府が国民に「身代金」を要求するという、にわかに信じがたい顚末(てんまつ)だ。

安息もつかの間、再びタリバンの手がザイードさんに迫っているとの情報が1月、氏に寄せられた。憩いのわが家を離れ、ザイードさんは現在、逃亡生活を続けている。

■元レジスタンスの男性宅にはロケット弾が撃ち込まれた

タジク人のほか、冒頭でも触れたように、東洋にルーツを持つ少数民族のハザラ人もタリバン政権の攻撃の的となっている。国際人権団体のアムネスティ・インターナショナルは、繰り返される蛮行の数々を非難している。

同団体は昨年6月にタリバンが実行した、中部ゴール州での一家襲撃事件を報じている。前政権の治安当局に務め、2021年まで地元のレジスタンスを率いていた、ムラディと名乗るハザラ人の男性が標的となった。

アムネスティによると事件は、2022年6月26日の夜に起きた。タリバン軍が村を訪れ、男性と家族の暮らす家を急襲。住居にロケット弾を撃ち込んだ。

この攻撃により、男性の娘で地域の医療に貢献していた22歳女性が死亡したほか、家族も重傷を負っている。12歳になる下の娘は腹部に重傷を負い、苦しんだ末に翌日息を引き取ったという。

ムラディさんは砲撃で左脚を負傷し、地元の長老の勧めを受けてタリバン軍に投降した。しかしタリバンはムラディさんを家の外に引きずり出し、屋外で射殺している。アムネスティが現場の写真を解析したところ、銃弾は胸部と額を貫いていた。

■痛みを与え、苦しませてから殺害する

ほか、氏の甥に当たる人物など親戚が拘束され、2人が処刑された。甥については両手を後ろ手に縛られ、ひざまづいた体勢で、頭部に少なくとも1発の弾丸を受けて絶命したという。遺体は家から50メートルほど離れた岩場に棄てられていた。

タリバンはこの襲撃について、反政府勢力に的を絞った「標的型作戦」だと主張している。作戦により、計7人のレジスタンスが死亡したと発表した。

胸ポケットにタリバン旗を挿しているタリバンのメンバー
胸ポケットにタリバン旗を挿しているタリバンのメンバー(写真=Callum Darragh/CC-Zero/Wikimedia Commons)

だが、アムネスティによると、ムラディさんを含む3人が以前はレジスタンスのメンバーだったものの、直近で戦闘に参加した者はいなかったという。

ある犠牲者は、頭部や胸部など実に4カ所に銃創を負っていた。火薬の飛散状況からして、手脚は至近距離から銃弾を受けていたことが判明している。アムネスティは、「捕縛され拘束された者に対し、このように意図的に痛みを与える行為は、国際法上の犯罪である拷問に該当する」と指摘している。

■旧政権の特殊部隊員だった25歳男性

ちょっとした用事で外出したきり、行方をくらます被害者もいる。インディペンデント紙は22歳女性のゾーヤさんによる証言を基に、タリバンの迫害を受けた25歳の兄・ファルハンさんの事例を報じている。家族の安全のため、名前はどちらも仮名だ。

昨年の夏、出かけてくるとの言葉を残したきり、ファルハンさんの行方は分からなくなった。ファルハンさんは旧政権で特殊部隊に務めていた。

ゾーヤさんはいやな予感がしていた。母とともに気をもんだ10日間を経て、家族の元にタリバンの戦闘員から電話が入った。重病のため、すぐに病院に向かえという内容だった。

消息を知って安堵(あんど)した家族を、悲報が襲った。インディペンデント紙は次のように報じている。「到着してファルハンの名前を告げた彼らだが、期待は裏切られ、一般病棟には案内されることはなかった。連れて行かれた先は、死体安置所であった」

ゾーヤさんは当時を振り返り、同紙の取材に対し、「最初は兄の遺体だとは信じられませんでした」と感情を高ぶらせる。心情的に受け入れがたかっただけでなく、拷問により変わり果てていたためだ。「本人だと確認できないほどに痛めつけられていたのです」

■変わり果てた遺体…爪を剝がされ、指は切断されていた

ファルハンさんは身体じゅう、打撲で青黒く変色していた。左頬の皮膚は、裂けている。左目は腫れて眼球が見えないほどで、口は傷と水ぶくれだらけだ。手脚はさらにひどかった。左手の爪は皮膚から引き剝がされ、左足には指が2本しか残っていない。そして全身の至る所に、刺し傷が口を開けていた。

ゾーヤさんは痛切に語る。「切り刻まれた遺体を入念に観察して、それが兄であることを確認しなければなりませんでした」

家族とゾーヤさんは、次にタリバンに拘束され虐待されるのは他ならぬ自分たちなのではとおびえながら、日々を生き抜いているという。

このような虐殺の事例は、ほんの一握りに過ぎない。インディペンデント紙の報道によると2月、タリバンは100体以上の遺体を集団埋葬したと発表し、すべて麻薬中毒者であると主張した。死因の詳細は明かされず、隠蔽(いんぺい)工作との見方が強まっている。

■「人々の生活を破壊することに執念を燃やしている」

アフガニスタンを掌握したタリバンは迫害行為を続けており、欧米側への協力者やレジスタンスと疑われた住民へ拷問を加えている。

タリバンに関しては、女性への迫害や人権侵害が重大な問題として頻繁に報じられている。ロイターは、国連が「人道に対する罪」であると糾弾していると報じる。

こうした弾圧と並び、本稿で取り上げた海外各紙の報道が示すように、前政権の治安当局関係者やレジスタンスへの関与者に対する迫害も深刻な問題と言えよう。

ハザラやタジクの人々など、少数民族をターゲットとした弾圧がアフガニスタンの地では続く。アムネスティで南アジアを担当するサミラ・ハミディ氏は、インディペンデント紙に対し、「タリバンは昔と何も変わっておらず、昔と同じ考えと手口で、人々の生活を破壊することに執念を燃やしている」と指摘する。

状況はむしろ悪化しているのかもしれない。南部ナダリ地区で農業を営む男性は、ワシントン・ポスト紙に対し、2011年まで同地を支配したタリバンを現在のタリバン暫定政権と比較し、こう語った。「唯一、彼らの統治に変化があった点は、より残忍になったことです」

アフガニスタンの農業従事者
写真=iStock.com/Sohrab Omar
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Sohrab Omar

かつて戦闘員にだけ興味を抱いていた戦闘員たちは、勝手に税金を徴収しはじめ、食料や住処を要求し、これに応じない村人を徹底的に痛めつけたという。

2021年8月の米軍撤退以降、大きなニュースとして報じられることのなくなったアフガニスタンだが、政府が国民を迫害するという信じがたい構図は相変わらず続いているようだ。

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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。

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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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