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なぜテレビ局はガーシーをスルーしていたのか…国会での処分までガーシー問題が報じられなかったワケ

プレジデントオンライン / 2023年3月30日 8時15分

ガーシー(東谷義和)第26回参議院議員選挙立候補者(2022年、NHK党、比例) - 写真=時事通信フォト

暴力行為等処罰法違反(常習的脅迫)容疑などで逮捕状が出たガーシーこと東谷義和容疑者をめぐる報道が過熱している。しかし国会での処分が取り沙汰されるまで、ガーシー問題がテレビで正面から取り上げられることはなかった。コラムニストの木村隆志さんは「『ウチだけがガーシー問題を扱うのはリスクが高い』という横並び意識が影響したのではないか」という――。

■ガーシーとはいったい「何者」なのか

検索エンジンに「ガーシー」と入力すると、真っ先に「何者」という予測変換ワードが出てくる。

なぜそんなに暴露したがるのか? なぜ議員になれてしまったのか? なぜなかなか逮捕されないのか? そもそも何でこんなにメディアが騒いでいるのか?

「いまだによくわからない」という人が多いのかもしれない。

ガーシーが暴露系YouTuberとして動画をアップしはじめたのは昨年2月。4月にはチャンネル登録者が100万人を超えたが、7月には早くも停止に追い込まれてしまう。

一方で、5月に衆院選出馬を表明し当選。「ガーシー当選」というフレーズがツイッターを席巻し、トレンドワード1位になるなど話題を集めたが、メディア報道はそれほど多くなかった。

8月に著書『死なばもろとも』(幻冬舎)が発売されて10万部を超えるベストセラーになり、オンラインサロンもスタートしたが、これらもメディア報道は散発的。時折、一部のネットメディアが「帰国したら逮捕される」などと主張し、ドバイに滞在したまま国会に登院しないことを話題にしたが、大手メディアがその是非を追求するような展開にはならなかった。

この段階までメディアはガーシーに対して、付かず離れずという距離感に終始。その過激な暴露を記事にすればメディアが求めるPVや視聴率をとれそうなものだが、それをしなかったのはなぜなのか。

ネット上には、「芸能事務所とのつき合いがあるからスルーしているのだろう」「メディアもガーシーの標的になることを恐れているのでは」などの声もあがっていたが、はたして本当にそうなのか。

■ワイドショーで特集が組まれたきっかけ

風向きが変わりはじめたのは今年1月11日。警視庁がガーシーの関係先数カ所を暴力行為等処罰法違反(常習的脅迫)、名誉毀損(きそん)などの容疑で家宅捜索したことが明らかになると、メディアの報道がジワジワと増えはじめる。

1月30日、尾辻秀久参議院議長が国会出席を求める招状を発出。さらに2月8日、7日間の出席期限を過ぎたため、懲罰委員会による「公開議場における陳謝」という処分が決定する。このあたりから急激にメディアの動きが活発化し、ワイドショーでもガーシーが繰り返し扱われはじめた。

3月7日、トルコに渡航していたガーシーは本会議欠席の意向を示し、代わりに陳謝動画の提出を希望したが、与野党理事が拒否。同8日、ガーシーが参議院本会議を欠席したことを受けてNHK党の立花孝志党首が辞任し、党名を政治家女子48党に変更した。

その後、懲罰委員会が最も重い「除名」を科し、同15日の参議院本会議で可決。同16日、警視庁捜査二課がガーシーに前述の容疑で逮捕状を請求し、警視庁が外務省に旅券返納命令を要請したことが明らかになった。

2月から3月にかけて明らかにガーシーをめぐるニュースが量産されている。「除名」「党首辞任」「逮捕状」などの刺激的な内容こそあるが、これまでとの落差を見て「何で急に増えたのか」「そんなに報じるべきことなのか」などと感じた人がいたのではないか。

■テレビ局員の本音

現在、メディアの報道が増えているのは、ガーシーのニュースバリューが上がったからにほかならない。

実際、知人の情報番組プロデューサーに聞いてみたら、「除名が72年ぶりとか、即逮捕状とか、こんなに報じやすいニュースはない」と言っていた。処分検討の段階で尾辻秀久参議院議長と鈴木宗男懲罰委員長が登場し、事態が一気に劇場化したことが大きかったのではないか。

これまでの「登院しないガーシーがよくないことは子どもでもわかる」という白けたムードから、尾辻秀久参議院議長と鈴木宗男懲罰委員長、ひいては議員全体が明確な対立図式になったことで、「人々の関心を誘い、社会的意義がある」という見方に変わった。

また、そのプロデューサーは言わなかったが、各メディアの本音としては、「政治で数字が上がるのはこういう国民の怒りを買い、処罰を求めるようなニュース」という狙いもありそうだ。

今後も扱いの大小こそあれ、ニュースバリューが急落しない限り、「国際手配や不法滞在の状態になるのか」「現地での拘束や強制退去などはあるのか」「逃亡劇が続いていくのか」などの報道は続いていくだろう。

■メディアがガーシーに飛びつかなかった理由

これは裏を返せば、「2月までのガーシーはニュースバリューがなかった」ということでもある。

前述のプロデューサーは、「暴露の内容も、登院しないことも、人々の関心を誘うほどではなかった」とも言っていた。実際、ガーシー関連のネットニュースを注視してきたが、そのコメント欄は終始、「わざわざ書くことでもない……」という冷ややかなムードで推移している。

さらにテレビの報道局には、「こんなにレベルの低いニュースを扱う必要性はない」というプライドもあるはずだ。政治ひとつとっても、もっと報じるべきニュースがあり、「ガーシーのニュースなんてよほど数字がとれるわけでなければ扱いたくない」のだろう。

では、前述した「芸能事務所とのつき合いがあるからスルーしているのだろう」「メディアもガーシーの標的になることを恐れているのでは」というネット上の声は本当なのか。

もちろんテレビ局や大手出版社にとって重要取引先である各芸能事務所への配慮は存在するし、それ自体は他業界も同じ商慣習だけに、さほど責められることではないだろう。

ただ、それ以前にテレビ局や大手出版社が「ガーシーが暴露しただけのものに飛びつく」ことは基本的にありえない。

テレビカメラで撮影中の現場
写真=iStock.com/coffeekai
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/coffeekai

私が各局のテレビマンに聞く限り、名誉毀損や侮辱に加担してしまうリスクがあっても、「人々の関心、社会的意義、信憑性などを含めたニュースバリューがないから報じなかった」だけのことだろう。

また、「メディアが暴露の標的になることを恐れる」ということも考えづらい。もちろん個人的につき合いのあったテレビマンや出版社要職などは多少恐れていたかもしれないが、局や社全体としての影響は少ないと思われる。

■まずはリスク回避が第一

最後にもう1つ挙げておきたいのが、民放各局に顕著な“横並び”の意識。「ガーシーをどれだけどのように報じるか」という基準の1つに、「他局の裏番組が扱わないのにウチの番組だけ扱うのはリスクが高い」という意識があったように思えてならないのだ。

暴露という刺激的なフレーズで瞬間風速的な数字はとれるかもしれない。しかし、それ以上に視聴者と局内の両方から、「何でガーシーなんか扱わなければいけないのか。他にもっと報じるべきものがあるはず」などと批判されるリスクのほうが高い。

逆に言えば、リスクを負うほどのリターンは見いだせなかったのだろう。

■ガーシー関連ニュースの賞味期限

どのタイミングで、どのきっかけで報じたらいいのか。裏番組の様子をうかがっていたら、議長や懲罰委員長という「叩いてもいい」というスイッチを入れやすい相手が登場した。こうなると横並び意識は消え、MCやコメンテーターたちが積極的にコメントできる。

ともあれ今後、「ガーシーのニュースがどれくらい報じられるか」と言えば、よほど特別なことが起きない限り、人々の関心を集めることは難しいのではないか。

マスクやアクリル板が不要になり、桜が開花して花見も解禁され、WBCで侍ジャパンが大活躍など、人々の関心はどう見ても明るいものに向けられている。

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木村 隆志(きむら・たかし)
コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者
テレビ、エンタメ、時事、人間関係を専門テーマに、メディア出演やコラム執筆を重ねるほか、取材歴2000人超のタレント専門インタビュアーとしても活動。さらに、独自のコミュニケーション理論をベースにした人間関係コンサルタントとして、2万人超の対人相談に乗っている。著書に『トップ・インタビュアーの「聴き技」84』(TAC出版)など。

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(コラムニスト、人間関係コンサルタント、テレビ解説者 木村 隆志)

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