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来場者からどよめき…東大寺大仏の"掌に乗った気分"や座高15m「仏の目線」が味わえる超高精細VRの仰天世界

プレジデントオンライン / 2023年3月31日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/photo

■東大寺大仏…15mの仏の目線と掌の上に乗った気分

デジタルアーカイブとVR(バーチャル・リアリティー)の技術を使って仏教の文化財を保存、公開する動きが加速している。そのトップランナーは、印刷大手の凸版印刷である。

同社はこれまで東大寺大仏や高野山など、国内外の第一級の宗教遺産を、超高精細の解像度でVR化してきた。VRでは、現地では確認できない部位やアングルも自由自在に観察することができる。また、地震や台風などの災害の多いわが国において、デジタルアーカイブによる「保存」は急務となっている。文化財のデジタルアーカイブとVRの技術の最前線に迫った。

東京都文京区小石川にある凸版印刷本社の内部には、最先端のVRシアターが設置されている。ここで同社は取引先向けにVR作品の上演を行っている。

(※同VRシアターは土・日・祝日に印刷博物館の施設として一般向けにVR作品の上演。2023年3月27日より工事のため当面の間、休室。また、東京国立博物館TNM&TOPPANミュージアムシアターや、DMC高野山が運営する高野山デジタルミュージアムのVRシアターも一般公開中)

同VRシアターは、大きくカーブを描いたスクリーンが特徴だ。それによって、視野角のほとんどを占めることができるため、映像空間の中に入り込んだかのような臨場感が得られる。

ナビゲーターの案内で、「東大寺大仏の世界」と題する映像が流れ始めた。映像は大仏殿を俯瞰(ふかん)するように上空に上がると、浮遊感が感じられる。さらに堂内へと入り、座高15メートルもある「仏の目線」から内部を見回す。一般参拝ではあり得ない角度からの映像だ。来場者からは、どよめきの声があがる。

昔、万博パビリオンなどで3Dメガネを掛けると、立体的に映像が飛び出てきて驚いたものだが、VRシアターではそんな特殊なメガネは必要ない。

プログラムでは、コントローラーを操作して(一般公開ではコントローラーを使用しない)「自分」を好きな場所に移動させることもできる。たとえば、蓮弁や掌の上など。ぐっと細部に寄ることができるので、細かな彫刻や遠くの建築意匠などが手に取るように観察できる。

このVRシアターで「予習」をしておけば、現地を訪れた際にはより深い学びを得ることができそうだ。トッパンVRは東大寺の他にも、興福寺、唐招提寺、日光東照宮といった国内の宗教施設、海外では故宮博物院(中国)、ナスカの地上絵などのさまざまなラインナップがある。

凸版印刷 小石川VRシアター VR作品『故宮VR 紫禁城・天子の宮殿』
凸版印刷 小石川VRシアター
VR作品『故宮VR 紫禁城・天子の宮殿』
製作・著作=故宮博物院/凸版印刷株式会社

■肉眼で見れない微細な絵柄を面積比500倍に拡大して鑑賞

凸版印刷は、印刷技術のデジタル化を早くから推し進めてきた企業である。VRは印刷の技術開発の延長線上にある。

文化財のVR化はまず、文化財を高精細にデジタルアーカイブすることから始まる。建築や土木などで使用されるレーザー機器などで3次元計測、高精細に撮影した2次元画像、色の情報を取得し、コンテンツ化する。同時に文化財の所有者や学芸員らの学術的な監修を受けながら、「現物」に近づけていくのだ。

文化財の中には顔料が剝げ落ちていたり、地中に埋もれていたりして、視認できないものも少なくない。しかし、VRで再現すれば可視化が可能になる。つまり、造られた当時の何百年も前に時間を巻き戻すこともできるのだ。

実際の寺の堂内に鎮座している仏像は厨子に入っていたり、堂内が薄暗くてよく見えなかったりするが、VRではそれも問題なく、クリアな映像として登場させることができる。

かれこれ四半世紀の技術の積み重ねによって現在、文化財をテーマにしたVR作品は60作品以上。その間、映像の規格は「4K」「8K」と、より高精細の解像度に進歩してきているが、それもデータをアップグレードすることで対応ができているという。

凸版印刷は2007(平成19)年、高野山金剛峯寺の協力を得て、重要文化財「両部大曼荼羅(まんだら)(通称:血曼荼羅〈平清盛奉納〉)」の復元再生プロジェクトを立ち上げた。両部曼荼羅は密教寺院に祀られていることが多く、「大日経」や「金剛頂経」といった経典をもとに、仏の世界を表現している。そこには大日如来を中心にして、多くの如来や菩薩がびっしりと描かれている。

平安時代に描かれた高野山の両部大曼荼羅は描かれた当時は、赤や青や緑などの極彩色で輝いていた。しかし近年、傷みが激しく、当時の美しい姿が失われつつあった。曼荼羅は絹本に着色され脆く、奉安(尊いものを公開すること)を続けると劣化も進む恐れがあった。

歴史の生き証人である国宝や重要文化財は、なるべく制作当時に近い状態で復元・再生し、可能なら展示、学びなどに生かして継承したいところである。これを、デジタル技術を使うことで可能になる。

両部大曼荼羅は、約8年の歳月をかけて復元することに成功した。さらにこの復元プロジェクトで取得したデジタルアーカイブデータも活用し、VRによる作品を2021年に完成させた。

「曼荼羅に描かれた肉眼では見ることが困難な微細な絵柄を、面積比で500倍以上に拡大しながら鑑賞するなど、通常では見ることができない視点から文化体験ができるようになりました」(同社文化事業推進本部)

このVRコンテンツは、DMC高野山が運営する高野山デジタルミュージアムのVRシアターで上演。高野山の中核施設である「壇上伽藍(がらん)」の空間と建造物を紹介するプログラムとして公開している(VRコンテンツ『高野山 壇上伽藍―地上の曼荼羅―』)。

VRコンテンツ『高野山 壇上伽藍―地上の曼荼羅―』
VRコンテンツ『高野山 壇上伽藍―地上の曼荼羅―』
製作協力=高野山真言宗 総本山金剛峯寺
製作著作=凸版印刷株式会社 ©TOPPAN INC.

観光客には、壇上伽藍を参拝する事前・事後の学びとして一般公開され、また企業には、研修のコンテンツとしても活用されている。

■江戸城の100万個超の部材を細部まで精緻にVR化

トッパンVRのさらなる魅力は、江戸城天守や安土城天主、平城京といった現存しない建造物までも、当時の設計図などをもとにVRで復元していることだ。

江戸城は15世紀に太田道灌が築城し、徳川三代将軍家光の代に莫大(ばくだい)な費用をかけた、五重の天守が完成した。だが、1657(明暦3)年に発生した明暦の大火によって、天守をはじめ多くの建造物を焼失。天守はその後再建されなかった。江戸城は大正時代の関東大震災、先の大戦における空襲でも大きな被害を受けていた。

その江戸城が仮に現在まで約360年間建ち続けていたなら、どんな姿なのだろう。トッパンVRでは経年劣化も含めて再現した。葵紋の金具に刻まれた葉脈や、鯱の鱗を留めるための鋲など、100万個を超える部材を細部にいたるまで精緻にVR化した。

VR作品『江戸城の天守』
VR作品『江戸城の天守』
製作・著作=凸版印刷株式会社

歴史を振り返れば、わが国は災害大国だ。火災や地震などで消滅した文化財は少なくない。文化財を高精細のデジタルデータで保存しておけば、「万が一」の時には再生・再建に役立てられるかもしれない。それを実体験したのが、2016(平成28)年の熊本地震であった。

「実は熊本地震で大きなダメージを負った熊本城とその石垣は、震災5年前にVR作品にしていました。特に震災後の石垣の組み直しは途方もない作業になりますが、当社のVR制作時に取得した櫓や石垣など4万点の画像が残っていたことで、復旧作業の効率化に貢献しているようです」(前同)

そういう意味では2019(令和元)年10月に火災で正殿などが全焼した首里城を、VR保存できていなかったことが悔やまれる。

自然災害だけではない。人口減少が進むなかで、特に地方寺院の無住化が深刻だ。現在7万7000の寺院が存在するが、無住寺院は1万7000カ寺ほどあると考えられている。2040年にはさらに1万カ寺ほどの寺が「消滅」するとも指摘されている。

貴重な建築物や仏像などの日本の宝が、いま存続の危機に直面している。

高度なデジタルアーカイブ技術は、仏教界が独自にできるものではない。このVRの制作が、消滅危機にある名もない地方寺院にまで広がりをみせることは仏教界の悲願ともいえる。それも、さほど遠くない未来には期待ができそうだ。

たとえば、寺の住職がスマートフォンで撮影した仏像などの画像をもとにしてVRがつくれる「簡易VR」の技術である。すでに一部の企業では、その技術も確立しつつある。この簡易VRが普及すれば、全国の寺院に存在する数百万体ともいわれる仏像や、宝物の調査・管理・公開が一気に広がりをみせることになる。

VRの保存・公開は、宗教界や国、行政、大学、そして民間企業が一体となって取り組むべき、急務だと感じた。

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鵜飼 秀徳(うかい・ひでのり)
浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)近著に『仏教の大東亜戦争』(文春新書)、『お寺の日本地図 名刹古刹でめぐる47都道府県』(文春新書)。浄土宗正覚寺住職、大正大学招聘教授、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。

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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)

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