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通常なら家賃10万円だが…「3畳で風呂なし月5万円」の令和型狭小ワンルームの"間取り図にない落とし穴"

プレジデントオンライン / 2023年4月3日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/CrailsheimStudio

東京都心で広さ3畳ほどの新築ワンルームが増えている。不動産プロデューサーの牧野知弘さんは「相場の半分ほどの家賃で住めるだけでなく、最低限の生活費で暮らせる点が今の若者の価値観に合っている。一方、狭くて安い物件だからこそのリスクには注意が必要だ」という――。

■広さ3畳で暮らす狭小住宅の人気の秘密

1973年9月にリリースされたフォークソング「神田川」は、作詞・喜多條忠、作曲・南こうせつの名曲である。作詞家の喜多條忠が描いたのは彼が早稲田大学在学中に恋人とすごした神田川近くのアパートの情景だ。

「窓の下には神田川、三畳一間の小さな下宿、貴方は私の指先見つめ、悲しいかいってきいたのよ」

地方から上京してきた貧乏学生にとって、東京で暮らすことは生活費も高く、風呂がなく、トイレや炊事場は共用のアパートを借りるのが精いっぱいだった。

だが、生活水準も向上し、豊かになった現代日本で、今再び居住スペース3畳ほどの狭小住宅が人気を集めている。相変わらず東京には若者が集まり、地価は高く、生活していくのに苦労することには変わりはないが、人気の秘密は貧乏ではなく、「あるものだけで暮らす」「無駄なものは持たずに暮らす」という新しい生活価値観にある。

■都心の新築物件でも、家賃は相場の半分ほど

狭小住宅は都内好立地にあって、1部屋の面積はおおむね3坪(10m2)程度だ。最近のワンルームマンションは1部屋の面積が8坪(26m2)から9坪(30m2)くらいであるからおよそ3分の1の狭さだ。

間取りはトイレと洗面台、シャワールームといった水回り機能があるくらいで、居住スペースは3畳ほどだ。物件によってはロフトを確保し、はしごで上って寝起きするものもある。

家賃は立地や物件内容によって異なるが、戸当たり月額5万円から8万円程度。都心にある通常のワンルームだと10万円前後になることを考えると割安といえる。しかもこうした物件はおんぼろアパートではなく、最初からこうした仕様で企画された新築物件を中心に供給されているのだ。

では狭小住宅に住むメリットは何だろうか。もちろんグロスの家賃が安いのは当然だが、「ただ安い」から選択するわけではない。選択理由には、生活費という無駄な出費を極力抑え、自身にとっておカネを有効に使いたいとの意思があるのだ。

■現代の若者は最小限の空間で生きていける

生活費の多くを占めるのが家賃のほかに水道光熱費だ。だが狭小住宅なら部屋がうんと狭いので、寒い時も暑い時も、基本的にエアコンをつけてもすぐに暖かくなり、涼しくなる。電灯も数カ所にしかないので電気代の節約が可能だ。使用するアンペア数も面積が狭ければ、20アンペアや10アンペアなど小容量で契約することで基本料金を節減できる。

風呂もいちいち浴槽に湯をためれば、ガス代も水道代もかかる。日頃はシャワーで十分だ。最近の若者はテレビを見ない。テレビは画面の大型化が進み、壁掛けにでもしない限り、間取りの中では相当邪魔な存在だ。だが若者の多くはスマホで情報を取るので基本的にはテレビはいらない。映画やドラマもNetflixやアマゾンプライムがあれば十分だ。テレビがなければNHK受信料も払わずに済む(実際はスマホを持っていれば対象になるが)。

本や漫画本もスペースをとるが、最近はみんな電子書籍となりタブレットで読むことができる。したがって本棚もいらないからその分スペースを確保できる。

自炊をしなければ、ガスコンロはいらない。朝晩の食事はコンビニとUber Eatsで十分賄える。温めるのは電子レンジがあれば不満はない。なくてもコンビニであらかじめ温めてもらったものを持ち帰ってくれば済む。コーヒーやお茶を飲むには電気ポットで湯を沸かせばよいし、コンビニコーヒーやお茶があればポットさえいらない。

■コインランドリー、メルカリ、ジムを駆使

洗濯はどうだろう。近所のコインランドリーを使えば洗濯機を揃えることはない。したがって洗濯機置き場もいらない。

コインランドリー
写真=iStock.com/deepblue4you
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/deepblue4you

一番困りそうなのが衣服だ。衣服が多いとタンスが必要になる。日常服は点数を絞り、壁掛けや簡単な移動式ハンガーがあれば事足りるかもしれないが、結婚式や葬式などに使う礼服などはどうだろう。これらはレンタルで賄える。また、衣服も今はメルカリの時代。季節に応じて衣替えはメルカリを使って、今必要な服だけを手元に置けばよいだろう。したがって衣装ダンスは不要ということになる。

部屋が狭いので掃除も簡単だ。小型のハンディ掃除機で十分だし、箒があれば済んでしまうかもしれない。

物件によってはシャワースペースさえないものもある。風呂に毎日入る必要を感じない人であれば、近所に銭湯さえあれば、東京都の場合で1回500円(税込)である。

またジムで身体を鍛えている人であれば、ジムのジャグジーやシャワー、サウナを利用すれば快適である。ジムの会費は施設グレードにもよるが、平日会員などであれば月額1万円前後のところが主流である。ジム施設内で風呂やトイレなど用を足せば、水道光熱費の負担はさらに極小化しつつ、その一方で身体をしっかり鍛え上げることもできる。

■利用者は若者や遠距離通勤のサラリーマン

こうした発想は、貧乏だからという理由ではなく、無駄な出費を避け、自分のためにおカネを使うミニマリストの価値観につながるものだ。

実際に狭小住宅を利用している人のプロフィールは独身の20歳代から30歳代の若者が主体だ。基本給がなかなか上昇しない中、無駄な生活費は極力排除し、合理的に生きるのは彼らにとってはあたりまえだし、卑屈になることもない。

ましてや結婚することが当たり前ではなくなっている現代では、こうした狭小住宅に住み続けたいと思う人は多く、賃貸借期間は長くなる傾向にあるという。

また若者だけでなく、会社経営者が忙しい日にとりあえず寝に帰る、終電を逃しがちな遠距離通勤のサラリーマンが利用する、あるいは医師や看護師など勤務体系が不規則な人が、一時的な仮眠をとる、休憩するなどのニーズもあるという。

■坪当たりの収益性は通常のワンルームより高い

さてこうしたニーズをくみ取って物件を供給する側にとって、この狭小住宅は儲かるものなのだろうか。

まず賃料水準を考えると、通常の都心ワンルームの場合、月額賃料が10万円を大きく超えることは、単身世帯の給与水準からいって難しい。たとえば8坪で10万円であれば坪当たり賃料は1万2500円だ。一方、狭小住宅の場合は3坪6万円であれば坪当たり2万円、8万円ならば2万6666円。面積当たりの収益性は格段に高くなることがわかる。

建築コストが急騰する現代において、賃借面積の坪当たり単価が高ければ、収益性が高く、事業が成立しやすいことになる。都内のワンルームマンションは今、建築費の高騰を受けて賃借料を高く設定しないと、事業収支があわない状況に陥っている。

マンションは鉄筋コンクリート造、あるいは鉄骨鉄筋コンクリート造であるため建築費単価も高い。現在都内で一定の事業利回りを確保しようとすれば、坪当たり1万5000円以上の賃料を収受できなければならないとされる。

ところが8坪から9坪の面積になると、戸当たりの月額賃料は12万円から13万5000円以上にしなければならなくなる。さすがにこのレベルの賃料を支払える人は、上場企業などに勤める一部のエリート層だけに限られる。

それに比べ狭小住宅は、アパート仕様のものが多いために賃貸マンションに比べて建築費は安価なのに加え、坪当たりで2万円以上の収益を確保できるため投資利回りは十分に確保できることになる。事業主にとって極めて収益性が高い投資を実現できることになる。

■最も多い入居者トラブルは「騒音」

コロナ禍になって、リモートワークという新しい働き方、ライフスタイルが浸透する中で、現在都内ではワンルームを中心とした賃貸マンション相場は一部の高額物件を除いて、非常に厳しいマーケット環境にある。その一方で狭小住宅は背景にあるミニマリストのような生活価値観の台頭も含め、マーケットで着実に支持されるようになっている。

では狭小住宅は順風満帆でこの事業に死角はないのだろうか。デメリットを考えよう。入居者にとって狭小住宅は、たしかに合理的な住宅であり使いやすい反面、狭小であるがゆえのトラブルもある。

最も多いトラブルが音の問題だ。アパート仕様であればもともと音の問題は避けて通れないのだが、通常のアパートやワンルームよりも部屋と部屋が接しているために、シャワーやトイレの音、話し声、音楽などの生活音でのトラブルは多いようだ。

枕で自分の頭を覆う人
写真=iStock.com/kasinv
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kasinv

■隣人トラブルのリスクも覚悟しなければいけない

また、ミニマリストの生活価値に合っているとはいえ、もちろん家賃を負担する能力が不足している貧困層や言葉が通じにくい外国人層にもニーズがあるため、狭小住宅内での生活習慣の違いや貧富の差から生じるトラブルも後を絶たないのが現状だ。

事業主側からみても、確かに収益性が高い一方で、通常のワンルームマンションやアパートに比べて住戸面積が狭く住設機器などの設置数が増えるため、建築費が割高になる、住戸間でトラブルなどが発生すると、住戸間距離が狭いがゆえに、環境変化を嫌った入居者が一斉に退去し空室率が一気に高まるなどのリスクが指摘されている。

また貧困層や外国人が集まってしまうと住民間のトラブルだけでなく、賃料の滞納や契約不履行などのトラブルが生じることも、通常の物件よりも多くなるリスクを覚悟する必要がありそうだ。

だがこの狭小住宅、これまでの「成長する」「大きくなる」のはよいことだ、と思ってきた昭和平成型の価値観を大きく覆す考え方を体現したものとして今後も注目を集めそうだ。

人々の生活にシェアリングという発想がどんどん取り込まれていくこれから、狭小住宅の存在感はますます高まっていくことであろう。その動向には目を離せないものがある。

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牧野 知弘(まきの・ともひろ)
不動産プロデューサー
1959年生まれ。東京大学卒業。第一勧業銀行(現:みずほ銀行)、ボストン コンサルティング グループ、三井不動産などを経て、2006年日本コマーシャル投資法人執行役員に就任しJ-REIT(不動産投資信託)市場に上場。15年オラガ総研株式会社を設立し、代表取締役を務める。全国渡り鳥生活倶楽部代表取締役。主な著書に『空き家問題』『ここまで変わる!家の買い方 街の選び方』(いずれも祥伝社新書)、『不動産の未来』(朝日新書)など。

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(不動産プロデューサー 牧野 知弘)

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