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運転中に意識が遠のき死亡事故に…大阪以外でも先例あり「くしゃみで意識障害」が起きるメカニズム

プレジデントオンライン / 2023年4月5日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Estradaanton

今年3月1日、大阪市生野区で交通事故があり、2人が亡くなった。読売新聞などの報道によると、車を運転していた男性は、くしゃみで意識が遠のいたと話しているという。産業医の池井佑丞さんは「過去にもくしゃみが引き金となった可能性のある交通事故は起きており、いずれも花粉症シーズンの3月、4月だった。くしゃみで意識障害になったり、花粉症の薬が眠気を誘発したりすることがあるので、車の運転には注意が必要だ」という――。

■「くしゃみ」が引き金で交通事故

今年3月、大阪市生野区で乗用車が逆走し、歩道に乗り上げて歩行者2人をはね、病院に突っ込んだ事故について、記憶に新しい方も多いでしょう。この事故では、86歳と75歳の女性2人が亡くなりました。乗用車を運転していた男性は「事故直前に、くしゃみをして意識が遠のいた」、「持病がある」と話していることが報道されました。

事故原因については現在も捜査中ですが、「くしゃみ」が起因とされる交通事故は過去にも発生しており、今回のように死亡事故となったケースもあります。

2005年3月、岩手県遠野市では、路線バスが対向車線側の歩道に乗り上げ、下校中だった小学生2人をはねる事故が起きました。1人は全身打撲で亡くなり、もう1人は軽傷を負いました。報道によると、バスの運転手は、「大きなくしゃみをしたら、貧血のような状態になった。頭がクラクラして、気がついたら反対側に突っ込んでいた」と話していたといいます。

2017年4月には愛媛県今治市で、男性の運転する乗用車が対向車線にはみ出し、軽乗用車と正面衝突する事故が起きました。この事故では軽乗用車の男女3人が死傷しています。事故を起こした男性は、報道によると「花粉症の薬を服用していたが、運転中に目のかゆみや連続するくしゃみなどが起きて症状が激化し、前方不注意で対向車線にはみ出した」と話していたそうです。

このように、くしゃみそのものや、くしゃみによる意識障害が死亡事故につながった可能性のある事例はたびたび報道されています。報道では、すべてに花粉症への関連性について言及されているわけではありませんが、ここで挙げた事故については、いずれも3月や4月という花粉症シーズンに起こっています。

■くしゃみで意識を失うことはある

想像しづらいかもしれませんが、くしゃみで意識を失うことはありえます。

まず、「迷走神経反射」と呼ばれる症状が考えられます。これは、くしゃみのほかに排便や、注射針を刺されることで起こることがあります。交感神経と副交感神経のうち、副交感神経に含まれる迷走神経が急な刺激を受け、血管が開いて血圧が下がり、本来脳に行くべき血液が行かなくなることで一時的な意識障害を起こすと考えられています。

■脳梗塞を発症することも

海外の事例となりますが、くしゃみの直後に脳梗塞を発症したという、まれな症例も報告されています。61歳の男性は、くしゃみの直後にめまいと耳鳴りを訴え受診。左の難聴と右方向の眼振(眼球がけいれんしたように動く症状)が観察されたため、最初は「外リンパ瘻」(難聴・耳鳴り・めまいを症状とする内耳疾患)と診断されました。しかし複雑な混合症状が見られたため再検査を行ったところ、後部下小脳動脈の小脳梗塞がわかりました(※1)

このように、くしゃみが原因で脳に何らかの障害が起き、一時的に意識力が低下することがあります。くしゃみで貧血のような症状が起きた経験のある方や、持病をお持ちの方は特に注意が必要です。

■2人に1人が花粉症の可能性

ひんぱんなくしゃみを引き起こす疾患として代表的なのが花粉症です。冒頭で紹介した交通事故の中にも、花粉症によるくしゃみが事故の引き金になった可能性のあるケースがありました。

花粉症は、体内に入った花粉に対して人間の身体が起こす免疫反応です。つまり、体内に侵入した花粉を、体が異物と認識し、異物(抗原)に対する抗体が作られて、再度侵入した花粉を排除しようとする反応です。一般的に免疫反応は身体にとって良い反応ですが、免疫反応が過剰に起こって生活に支障が出ることがあるのです。このように身体にマイナスに働く免疫反応がアレルギーで、花粉に対するアレルギーは花粉症と呼ばれています。

2022年に行われた、47都道府県各100人、合計4700人を対象にした花粉症に関する調査では、「花粉症の症状がある」と回答した人が49.6%となり、約2人に1人が花粉症を罹患(りかん)している可能性があることがわかりました(※2)。ほかにも、全国の耳鼻咽喉科医とその家族を対象とした鼻アレルギーの全国調査が約10年おきに3回実施されており、花粉症の有病率は1998年が19.6%、2008年が29.8%、2019年には42.5%で、各回の調査で約10ポイントずつ増加していることがわかります(※3)

つらい花粉症の症状を抑えるために、花粉症薬の服用で対策している人も多いでしょう。しかし、花粉症薬は副作用が出ることもあるため、服用には注意が必要です。花粉症薬として代表的な「抗ヒスタミン薬」の効果や副作用についてご紹介します。

※1 関雅彦、水足邦雄、田所慎、塩谷彰浩「くしゃみを契機に発症した椎骨動脈解離による小脳梗塞」Equilibrium Research, Vol.79(1) 20-26, 2020
※2 予防医学のアンファー「47都道府県ニッポン健康大調査第9弾!日本の2人に1人は”花粉症”!? ドクターが教える簡単にできる『花粉症対策』とは? 花粉症罹患率No.1は群馬県、山梨県、静岡県!」2020年2月18日
※3 環境省「花粉症環境保健 マニュアル 2022」2022年3月改訂版

たっぷりと花粉をたたえたスギの枝
写真=iStock.com/eye-blink
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/eye-blink

■花粉症薬で集中力の低下や眠気

ヒスタミンとは神経伝達物質で、花粉症の症状を起こす原因物質です。抗ヒスタミン薬には第1世代と第2世代があり、いずれもヒスタミンの働きを抑え、主に鼻水やくしゃみの症状を軽減させます。症状を抑えるのはもちろん、毎年強い症状が出ている人は、症状が出始める前に使用すること(初期療法)で、症状を軽くし重症化を防ぐことができるといわれています。

抗ヒスタミン薬の代表的な副作用は、集中力の低下と眠気です。抗ヒスタミン薬の多くは、添付文書に、自動車の運転や集中力を要する作業に関する注意喚起文が記載されています。

• 眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械を操作する際には注意させる
• 眠気を催すことがあるので、本剤投与中の患者には自動車の運転等危険を伴う機械の操作には従事させないように十分注意する
(鹿児島県医報 第56巻第2号(通巻660号)2017(平成29年))

第1世代抗ヒスタミン薬に含まれる成分として、特に注意が必要なのが「ジフェンヒドラミン塩酸塩」と「ペリアクチン」です。

ジフェンヒドラミン塩酸塩は、催眠鎮静薬にも含まれる成分で、眠気が強く現れます。また、ペリアクチンには、脳内をけいれんしやすい状態にする作用があります。特に子供は神経系が発達途中なので、脳のけいれんを起こしやすく、ペリアクチンはけいれんを誘発する危険性があると言われています。

■脳の覚醒機能が弱まってしまう

抗ヒスタミン薬を服用すると、なぜ眠たくなるのでしょうか。

前述の通り、花粉症は体内に入った花粉に対する免疫反応です。一度抗体ができた体内に再び花粉が入ると、粘膜にある抗体と結合します。するとヒスタミンが分泌され、受容体とよばれるタンパク質と結合することでアレルギー反応を起こします。

抗ヒスタミン薬は、このヒスタミンの代わりに受容体と結合することでアレルギー反応を抑えます。ヒスタミン受容体は脳にも存在しており、脳を異物から守ったり脳を覚醒させたりする役割を持っています。抗ヒスタミン薬が脳のヒスタミン受容体に結合すると、こうした機能が弱くなり、その結果興奮作用を抑制してしまい、集中力が低下したり、眠気を感じたりしやすくなるのです。これが、抗ヒスタミン薬が眠気を引き起こす原因です。ほかに、便秘や吐き気、口の渇きなどが起きることもあります。

■集中力の低下や眠気が起こりにくい第2世代

また、第1世代抗ヒスタミン薬は、緑内障や前立腺肥大症の人が飲むと、病状を悪化させる可能性があるため、使用できません。妊娠中・授乳中の方は赤ちゃんに与える影響をふまえ、担当医と相談しながら薬を選ぶことをおすすめします。

第2世代抗ヒスタミン薬は、第1世代に比べて眠気を起こしにくくなりました。「ザイザル」という薬は水に溶けにくく、肝臓で代謝されるため、脳への影響も少なく集中力が低下したり、眠くなったりしにくいといわれています。

「ビラスチン(日本ではビラノア)」も抗ヒスタミン薬の中では眠気を起こしにくいとされています。そのため、添付文書からは、多くのほかの抗ヒスタミン薬に書かれているような、運転に関する注意喚起が省かれています。

第2世代抗ヒスタミン薬は、医師の処方箋なしでドラッグストアなどで購入できるものも増えてきていますが、眠気がまったく起こらないわけではありません。自動車などの運転や、集中力のいる作業をされる方は、主治医と相談の上、生活に影響の少ない薬を処方してもらうことをおすすめします。

■「たかがくしゃみ」と考えず対策を

花粉症と運転について、意識の変化はありましたでしょうか。花粉症で悩んでいる人は、自動車などを運転する予定がある場合は、眠気を起しやすい薬の服用を避けたり、もしくは、ほかの移動手段を検討するなどの対策を取りましょう。

職業でドライバーをされている方や、車での移動が必須でアレルギー症状がひどい方は、会社に相談したり、医師に症状やライフスタイルに合った薬を処方してもらうようにしてください。「ただの花粉症だ」「たかがくしゃみ」と軽く考えず、しっかりと対策をしてほしいと思います。

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池井 佑丞(いけい・ゆうすけ)
産業医
プロキックボクサー。リバランス代表。2008年、医師免許取得。内科、訪問診療に従事する傍らプロ格闘家として活動し、医師・プロキックボクサー・トレーナーの3つの立場から「健康」を見つめる。自己の目指すべきものは「病気を治す医療」ではなく、「病気にさせない医療」であると悟り、産業医の道へ進む。労働者の健康管理・企業の健康経営の経験を積み、大手企業の統括産業医のほか数社の産業医を歴任し、現在約1万名の健康を守る。2017年、「日本の不健康者をゼロにしたい」という思いの下、これまで蓄積したノウハウをサービス化し、「全ての企業に健康を提供する」ためリバランスを設立。

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(産業医 池井 佑丞)

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