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都道府県のトップは実は「よそもの」が多い…知事47人中27人が「東大出身のエリート」である本当の理由

プレジデントオンライン / 2023年4月4日 18時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/OOKAMI GRAPHIX

47都道府県のトップである知事はどういう人たちなのか。評論家の八幡和郎さんは「47人中27人は東大卒。これは総務省など官僚出身の知事が半数以上だからだ。行政経験と東京とのつながりを評価される傾向があるが、多様性に欠けるともいえる」という――。

■地方自治体のトップはどういう人たちなのか

第20回統一地方選挙が、都道府県と政令指定都市の首長と議会は4月9日投票、市町村長と議会は4月23日投票で行われる。

そのうち全国的に注目されるのは、北海道、神奈川、福井、大阪、奈良、鳥取、島根、徳島、大分の9道府県で行われる知事選挙だと思うが、今回は、47都道府県の知事がどういう人たちで、どのくらいの期間にわたり地方自治体のトップを務めているのか、についてご取り上げたい。というのは、地元住民にとっては、なんとなく当たり前と思っていることでも、他の都道府県と比べてみるとさまざまな発見があるからだ。

私は、2007年に『歴代知事300人 日本全国「現代の殿様」列伝』(光文社新書)という本を書いて、いまでも関係者の間ではよく読んでいただいている。また、『47都道府県政治地図』(啓文社書房)を改訂版として書いて、戦後の公選知事とその選挙をすべての経緯を分析しているので、それに基づいて、知事制度の現状や課題をご紹介したい。

ちなみに、1947年(昭和22年)の第一回統一地方選挙から2023年3月末までに、選挙で選ばれ、就任した知事は336人である(返り咲いた人が2人いるが、それは1人として計算)。まずは概要を見てみよう。

■平均在任期間は安倍首相の在任期間より長い

平均の在任期間は10年あまりであり、つまり歴代最長の安倍晋三首相の通算在任期間(8年8カ月)より長い。経歴は断然、官僚が多く過半数を占め、学歴も東京大学出身が半分を超える。1993年に退任した宮沢喜一首相を最後に、総理大臣を輩出しなくなった「東京大学法学部ブランド」も、知事への特急券としては健在だ。

約3割が他府県出身者であること、2000年に太田房江が大阪府知事選挙に当選して一気に女性知事が増えそうな気配だったが、現在は東京の小池百合子知事と山形の吉村美栄子知事の2人だけということも興味深いところだ。

■総務省は伝統的な「知事の供給源」

現職の47都道府県知事の初就任時の平均年齢は52.6歳である。最年少は鈴木直道(北海道)の38歳で、最高齢は服部誠太郎(福岡県)の66歳である。30歳代が2人、40歳代が16人、50歳代が14人、60歳代が15人である。

職歴を見ると、いわゆる官僚が28人で過半数を占める。

47都道府県知事の当選回数と職歴一覧
図表=筆者作成

自治省・総務省が内堀雅雄(福島)、阿部守一(長野)、杉本達治(福井)斎藤元彦(兵庫)、平井伸治(鳥取)、丸山達也(島根)村岡嗣政(山口)、飯泉嘉門(徳島)、浜田省司(高知)、山口祥義(佐賀)、河野俊嗣(宮崎)の11人で、通商産業・経済産業省が大井川和彦(茨城)、古田肇(岐阜)、湯崎英彦(広島)、広瀬勝貞(大分)、塩田康一(鹿児島)の5人。

旧運輸省が花角英世(新潟)、一見勝之(三重)・荒井正吾(奈良)、大蔵・財務省が長崎幸太郎(山梨)、岸本周平(和歌山)、外務省が達増拓也(岩手)、大野元裕(埼玉)、旧建設省が西脇隆俊(京都)、池田豊人(香川)、農水省が大村秀章(愛知)である。

大石賢吾(長崎)は厚生労働省の医系技官、村井嘉浩(宮城)は自衛官なので少し異色だ。

■「生え抜き知事」は福岡知事1人だけ

伝統的な供給源の総務省のほか、平松守彦大分県知事の出現から一世を風靡した経済産業省が現在は減って、あちこちの役所に散らばっている傾向がある。

地方公務員では、服部誠太郎(福岡)は生え抜きの県職員ではただ1人、副知事から知事になっている。佐竹敬久(秋田)も元県庁幹部だが、佐竹氏は旧藩主佐竹一門だから少し意味合いが違う。福田富一(栃木)は早くに県庁を辞めて市議からのし上がった。鈴木直道(北海道)は東京都庁から夕張市役所には出向、市長から知事になった。

かつて、県庁職員出身の知事が10人ほどいた時期もあったのだが、いまは定年延長で、都道府県庁のプロパー職員が副知事になれるのは60歳くらいであるので、「生え抜き知事」というのはなかなか誕生しにくい状況にある。

現職知事のうち、その県の副知事を経験しているのは7人だけで、福岡の服部誠太郎以外の6人は霞が関からの出向者だ。

■顔が売れているマスコミ系は今後も増えそう

広い意味でのマスコミ系も多い。三村申吾(青森)は出版社の新潮社、山本一太(群馬)は朝日新聞にいたことがある、小池百合子(東京)はキャスター、黒岩祐治(神奈川)はフジテレビ、馳浩(石川)はプロレスラー、川勝平太(静岡)は著名な大学教授、蒲島郁夫(熊本)は農協職員から大学教授に、玉城デニー(沖縄)はラジオ・パーソナリティ。顔が売れていて、演説がうまく、ルックスが良ければやはり選挙では強いし、今後も増えそうだ。

自由業は、吉村洋文(大阪)が弁護士であるだけで意外に少ない。

一般企業サラリーマンでは、吉村美栄子(山形)がリクルート、熊谷俊人(千葉)がNTTコミュニケーションズ、三日月大造(滋賀)がJR西日本、中村時広(愛媛)が三菱商事だ。新田八朗(富山)が日本海ガス、伊原木隆太(岡山)は天満屋と地吾元名門企業のオーナーである。

地方議員経験者は4人だけ。市町村長経験者は現在、北海道の鈴木直道(夕張町長)、青森の三村申吾(百石町長)、秋田の佐竹敬久(秋田市長)、栃木の福田富一(宇都宮市長)、千葉の熊谷俊人(千葉市長)、大阪の吉村洋文(大阪市長)、愛媛の中村時広(松山市長)の7人だ。

かつては、特定の市町村の首長を知事にするのには抵抗が強かったのだが、最近は増えている傾向がある。国会議員経験者は14人。野党議員が中央政界での将来に絶望してというケースもある。

■東京大学卒はなんと47人中27名

学歴を見ると、東京大学が過半の27名。1993年の細川連立政権成立以降、東京大学出身の首相は、二世代議士であり、億万長者で工学部出身というまったく伝統的な首相像とは違い、「宇宙人宰相」などといわれた鳩山由紀夫だけだ。その不振ぶりとは逆に、知事はあいかわらずで、「末は博士か大臣か」ならぬ、「末は教授か知事か」は健在だ。

47都道府県知事の年齢と最終学歴一覧
図表=筆者作成

■3人に1人は地元出身でない「落下傘知事」

ほかに複数いるのは、早稲田大学が3人、慶応大学、中央大学、一橋大学が2人、あとは1人ずつで、国立では、東北大学、お茶の水大学、千葉大学、防衛大学校、九州大学。私立では法政大学、専修大学、日本大学で地方の私大は1人もいない。

残りは熊本の蒲島郁夫が高卒の農協職員から渡米してハーバードなど米国の大学を出たのと、東京の小池百合子が関西学院大学中退でカイロ大学留学、沖縄の玉城デニーが上智専門部卒だ。

また、意外なことは、他府県出身者が多いことだ。現在は47都道府県中で17都道府県が県外出身者である。ただし、知事に立候補するまでまったく無縁だった人はない。全員、県内でなんらかのかたちで働いていたし、4人については、両親や祖父母などの出身地だ。過去でもまったくの落下傘となると、高知県での橋本大二郎くらいのようだ。

また、地元以外出身の知事に寛容なところとそうでないところも顕著だ。東京は安井(岡山)、東(大阪)、石原(兵庫)、猪瀬(長野)、舛添(福岡)、小池(兵庫)と都外出身の知事のほうが多く、地元出身は、美濃部、青島、鈴木俊一の3人だけだし、地方でも石川は1963年以来、県外出身の知事が続いている。

■不祥事によって辞職した前知事は3人

次に、知事の1人当たり平均任期が何年かだが、現職については、今後、何年務めるか分からないので、前職までを対象に分析したところ、総人数は291人で、平均は10.8年である。

4年間の任期途中で辞める人もいるから、3期12年が標準とみて良い。あの安倍晋三首相の通算首相在任期間も8年8カ月だから、いかに知事の地位が安定しているかが分かる。

ただし、20世紀の最後の時期に保革相乗りがブームになって、現職知事が選挙で非常に強かった時期に比べると、もっとも強いと言われる2期目でも安泰とはいえなくなっている。

現職でありながら落選した9人の内訳を見ると、野党系で最初の勝利が幸運だったと言うべきなのが、福田昭夫(栃木)、後藤斎(山梨)、大田正(徳島)、三反園訓(鹿児島)で、自民党系ながら改革を急ぎすぎたのが齋藤弘(山形)、多選批判に負けたのが橋本昌(茨城)、石井隆一(富山)、西川一誠(福井)といったところだ。

■高い知名度を生かして国政進出した人も

それでは、知事が辞める原因とは何だったのだろうか。前職47人についてみると、死亡・重病が3人、落選が9人、不祥事による辞職が3人(セクハラ、公用車の不適切使用、買春)、自主的な退任が32人である。

自主的な退任の事情はさまざまだが、本人が続投を希望していたケースは数例で、高齢や健康不安によるものが15人ほど、あとは、多選で本人も潮時とみた、他府県出身で東京などに戻りたい、国政に転出したいといったのが理由だ。

そして、結果的に見ると、落選で退任した人も含めて13人が国会議員に転じている。北海道の高橋はるみ、埼玉の上田清司など全県的な知名度を生かして参議院選挙区に出馬するといったケースが多く、最初から将来の国政転出を狙っていたとみられるのは三重の鈴木英敬、高知の尾﨑直道くらいだろう。

東京都知事選には、岩手の増田寛也、宮城の浅野史郎、神奈川の松沢成文、宮崎の東国原英夫が出馬しているが、1983年の都知事選挙における阪本勝(兵庫)を含めて成功した試しはない。

これは、在日東京知事選挙ポスターボードです。
写真=iStock.com/minokku
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/minokku

■もっと多様な経歴を持つ知事が増えるために

「東大、官僚出身が半数以上」「平均在任は10年以上」「3割が地元出身ではない」といいう知事像はどこから来ているのかについては、今後改めて詳しく論じたいが、主要論点だけ指摘しておく。

東京大学出身者の多さは、官僚が多いことの結果だ。主要官庁の事務官キャリアでは大部分がそうだ。地元出身でない人が多いといっても、ほとんどは県庁などに出向した経験のある官僚で、全国各地の事例もよく知っているし、最近は海外での留学・勤務経験者も多いので、水準以上の仕事はできる。

それでは、なぜ、そのほかの仕事をしてきた人が少ないかだが、県会議員は国会議員が大臣を経験するようなことができない。いわば野党議員がいきなり総理になっても力を発揮できないのと同じことだ。都道府県庁に県議が兼ねられる閣僚に当たるようなポストを創らない限りこの状態は変わらないだろう。

つぎに、県職員など地方公務員がなぜ、知事になれないのか。霞が関の官僚なら、40歳くらいで県の部長に出向できるし、50歳前後で副知事になれることもある。それに対して、県のプロパー職員は、50歳代後半以降でないと部長になれないし、副知事になれるのは60歳くらいだ。年功序列にこだわらない抜擢制度をつくって、キャリア官僚並みの年齢で幹部になれない限り現状は変わらない。

国会議員や市長は、知事選に立候補するために現職を辞職しなければならないことが壁になっている。知事との兼任を認めるとか、当選したら辞職する制度に変えたらもっと候補者は増えるだろう。

現状は、行政経験と東京とのつながりを兼ね備えた官僚が無難だからと重宝される傾向にあり、それが安定的な地方行政につながっていると言える。しかし、地方自治を面白くするためには、もっと多様なバックグラウンドを持つ知事が増えたほうがいい。年功序列や議会、選挙制度といった旧来型の枠組みを変えていく必要があるのだ。そのあたりの具体的なプランは、また、回を改めて論じたい。

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八幡 和郎(やわた・かずお)
徳島文理大学教授、評論家
1951年、滋賀県生まれ。東京大学法学部卒業。通商産業省(現経済産業省)入省。フランスの国立行政学院(ENA)留学。北西アジア課長(中国・韓国・インド担当)、大臣官房情報管理課長、国土庁長官官房参事官などを歴任後、現在、徳島文理大学教授、国士舘大学大学院客員教授を務め、作家、評論家としてテレビなどでも活躍中。著著に『令和太閤記 寧々の戦国日記』(ワニブックス、八幡衣代と共著)、『日本史が面白くなる47都道府県県庁所在地誕生の謎』(光文社知恵の森文庫)、『日本の総理大臣大全』(プレジデント社)、『日本の政治「解体新書」 世襲・反日・宗教・利権、与野党のアキレス腱』(小学館新書)など。

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(徳島文理大学教授、評論家 八幡 和郎)

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