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「コンサルあまり」の時代が始まった…マッキンゼー、アクセンチュアが大規模リストラに追い込まれた理由

プレジデントオンライン / 2023年4月3日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JHVEPhoto

■マッキンゼーは1400人、アクセンチュアは1万9000人

2月下旬以降、米国の大手コンサルティング企業が相次いで人員の削減を進めている。まず、マッキンゼー・アンド・カンパニーは約2000人の削減計画が報じられた。削減規模は同社にとって過去最大規模とみられる。3月23日、アクセンチュアも大規模なリストラ計画を発表した。今のところ削減規模は1万9000人に達する見込みであり、コンサル業界で過去最大級のリストラが進もうとしている。

リーマンショック後、世界の有力コンサルティング企業は、新しい事業の育成、その運営体制の企画、設計などに関する業務をIT先端企業などから受託してきた。そうすることで企業は迅速に、必要な業務運営の体制を整備できた。コロナ禍の発生によって、世界経済のデジタル化は一時的に急加速した。その結果、IT先端分野などで新しい業務運営の確立に必要なコンサルティング・サービスへの需要も押し上げられた。

しかし、競争の激化、世界的なインフレ進行、ウィズコロナへの移行、さらには世界的な金利上昇などを背景に、IT関連企業の成長期待は急速にしぼんでいる。すでに、米メタ(旧フェイスブック)などで、コンサル出身の経営幹部が要職を退いた。IT業界でのリストラは加速している。その成長を取り込んだコンサル業界などにもより強いリストラ圧力がのしかかろうとしている。

■過剰投資、過剰採用を抱えたIT企業の退潮 

足許、米国を中心に急速にコンサル業界でリストラが進んでいる。それだけ、多くの企業は、高い成長が続くと先行きの展開を楽観し、採用を強化した。しかし、世界経済の減速、特にIT先端分野での業績悪化懸念が急速に高まった。IT有力企業では過剰な投資や採用が顕在化している。それに伴い、IT先端分野での需要を取り込んできたコンサル業界でも、過剰人員などの問題が浮上し、コストカットが急がれている。

リーマンショック後、米国ではアップルの“iPhone”などのヒットをきっかけに、経済のデジタル化が加速した。“21世紀はデータの世紀”と呼ばれるように、ビッグデータの重要性は急速に高まった。データを活用することによって、新しいビジネスが次から次へと生み出された。

メタやツイッターなどはSNSという新しい業態を生み出した。それにデータを用いた広告ビジネスが結合され、収益はおおきく伸びた。物流分野では、アマゾンがネット通販で購入された品物の配達スピードを引き上げるために、物流施設の建設を増やすなどした。

■業務効率化でコンサルティング依頼は急増したが…

そうした新しい業務運営の在り方を確立し、実際のマネジメント手法を組織に浸透させるために、マッキンゼーやアクセンチュアへのコンサルティング依頼は急増した。

コンサルティング各社は、顧客企業が新しい分野に進出し、いち早く安定した業務の運営体制を確立するために必要な方法論を提供して対価を得る。具体的にマッキンゼーなどは、経営戦略や財務、管理会計の理論を結合することによって、効率的に業務運営を行う標準的な手法を確立した。

そうしたサービスを利用することによって、IT関連分野の企業は、データの利用など自社の強みがより発揮できる分野に集中しやすくなった。コンサル業界でのリストラ増加は、IT先端分野での企業の成長性が低下していることを意味する。そうした変化を機敏に感じとり、早い段階でIT先端企業を去った人もいる。

■コンサル出身のサンドバーグ氏はいち早くメタを去った

その一人として、2022年6月、シェリル・サンドバーグ女史はメタの最高執行責任者(COO)を辞すと表明した。それは、メタなどの成長の勢いが弱まり、新たな成長分野を探さなければならないという認識に基づいた意思決定だったように見える。ハーバード・ビジネス・スクールを修了した後、サンドバーグ女史はマッキンゼーでコンサルタントとして働いた。グーグルなどを経て、2008年、COOとしてサンドバーグ女史はフェイスブックに参画した。

メタ創業者のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)にとって、経営コンサルタントとしてのスキル、グーグルでの広告ビジネスの高い成長を支えたサンドバーグ女史の実力は、SNS分野でのビジネスモデルを確立し、高い成長を実現するために喉から手が出るほど欲しかった要素だったはずだ。

このようにして、多くのIT先端企業は、コンサル業界出身の人材採用を強化した。また、アクセンチュアやソフトウエア分野への選択と集中を進めたIBMなどに、ビジネスモデルの確立や、新規事業の業務運営体制の企画、マネジメント手法などのコンサルティングを委託する企業も増えた。

その結果、世界的にコンサルタント人材の求人は急増した。一部では、組織運営などに関する理論に加え、人工知能(AI)やネットワーク・テクノロジーに精通した人材の争奪戦に拍車がかかった。

■ビジネスモデルの行き詰まりを鮮明に理解している

しかし、高い成長がいつまでも続くことは考えづらい。2021年の秋ごろから、徐々にメタをはじめとするIT有力企業の成長鈍化懸念は高まった。株価も下落し始めた。

2022年3月に連邦準備制度理事会(FRB)は利上げを開始し、その後は急激に金融が引き締められた。世界全体で企業の資金調達などのコストも増加した。スタートアップ企業とGAFAなどの競争も激化した。SNSやサブスク型のビジネスモデルの優位性は行き詰まり、業績懸念は追加的に高まっている。

2023年2月には、ユーチューブのスーザン・ウォジスキーCEOの退任も発表された。ウォジスキー女史もベイン・アンド・カンパニーで経営コンサルタントとしてキャリアを積み、その上でグーグルに参画した。コンサルタントとして多くの企業を見てきた経験があるだけに、彼女らはビジネスモデルの行き詰まりをより鮮明に理解しているはずだ。

カリフォルニア州サン・ブルーノにあるYoutube本社
写真=iStock.com/littleny
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/littleny

■コンサル、会計監査需要は急速にしぼんでいる

コンサル業界だけでなく、米国では大手会計事務所のKPMGも2%程度の従業員(約700人)を削減すると報じられた。3月23日、リクルートホールディングスは2012年に買収した米インディードの従業員の15%を削減すると発表した。

リーマンショック後から2022年3月まで、世界全体で、超低金利環境の長期化観測は高まった。投資(投機)資金は成長期待の高いIT先端分野の株式などに流入した。高い成長は間違いないという過度な期待は一段と膨張した。そうした環境変化を追い風に、IT先端分野での起業は増えた。

コロナ禍の発生後は、カネ余りとデジタル化の加速期待に拍車がかかった。特別買収目的会社(SPAC)による買収を通した株式の公開によって資金を調達し、事業規模の拡大に取り組む企業は急増した。こうして、採用、コンサルティングや会計監査といったサービス需要も押し上げられた。

そうした強気な環境は急速にしぼんでいる。メタなどは追加リストラ策を発表した。IT先端企業などとの取引を強化した米欧金融機関のいくつかは破綻した。IT先端企業の成長を取り込んできたコンサル業界などでも、リストラの強化は避けられないだろう。

■相次ぐリストラの背景にある「新たな成長機会」

しかし、すべての分野でコンサルティングの需要が減少しているわけではない。米国では、マイクロソフトなどが“チャットGPT”をはじめとする生成型のAIを用いた新しい広告サービスなどのビジネス創出に取り組んでいる。IBMは既存分野でリストラを進めつつAI関連の事業運営体制を強化している。

加えて、台湾問題の緊迫感は高まっている。世界の工場としての中国経済の成長鈍化懸念も上昇している。それらを背景に、世界全体でインドやASEAN地域の新興国、さらには企業の本国に近い場所に生産拠点などを移す動きも激化している。

世界規模で供給網の再編に取り組みつつ貿易管理体制を強化するためにも、企業はコンサルティング企業の助言を必要とする。コンサル業界でのリストラは、世界経済を支えたIT先端企業の成長性が鈍化し、新しい成長の機会が模索されていることの裏返しといえる。

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真壁 昭夫(まかべ・あきお)
多摩大学特別招聘教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授、法政大学院教授などを経て、2022年から現職。

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(多摩大学特別招聘教授 真壁 昭夫)

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