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「やったことないからわからない」が口癖の"できない上司"ほど本当は仕事ができると言える理由

プレジデントオンライン / 2023年3月31日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/pinstock

優秀なリーダーはメンバーにどう接しているか。組織人事コンサルタントの小倉広さんは「できない上司の下でこそ人は育つ。最もできる上司とは、本当はできる上司であるのに、できないふりをして部下を頼れる上司である」という――。

※本稿は、小倉広『常勝チームの鬼100則』(明日香出版社)の一部を再編集したものです。

■最もできる上司は、なぜできないふりをするのか

あなたは「自分が一番成長できたな」と思えるのは何歳くらいのときでしょうか。そのときのリーダーはどのような人でしたでしょうか。

私がすぐに思い出すのは25歳、リクルート社で商品企画部門へ異動してから1年ちょっと経ったくらいのときでした。

それまでの商品企画を隅々まで知り尽くし、的確な指示命令を下してくれた敏腕上司に代わって、商品企画未経験で営業部門しか経験がなかった女性上司が新たに配属されました。彼女は私にいつもこう言ってくれました。

「ねえ小倉、こういうときどうするの? 私、営業しかやったことないからわからないのよ。どうしたらいいと思う?」

私は、頼りにされることが嬉しくて「こうしたらいいと思います。僕がやりましょうか?」

すると上司は「ほんと? さすが小倉さん、頼りになるじゃないですか!」と私を持ち上げてくれたのです。

その上司の下で仕事をしていた3年間、私は会社員人生で最も成長でき、そして仕事のおもしろさを知ることができたように思います。

できる上司の下で人は育たない。できない上司の下でこそ人は育つ。これは真理だと思います。そして、最もできる上司とは、本当はできる上司であるのに「能ある鷹は爪を隠す」で、できないふりをして部下を頼れる上司ではないか、と私は思うのです。

箱根駅伝優勝の常連校である青山学院大学陸上競技部・原晋監督もその1人です。

原監督は選手やマネジャーからの質問に対し、答えようと思えばすぐにでも答えられるのに、あえて答えないそうです。

たとえば選手が「足をけがしました……」と言ってきたときには「ふぅん。それで?」。選手が「練習に出られません」と続けると「それで?」と次を促すだけ。つまり、選手に自分で考えて答えを出させ、さらには決断することを求めるのです。

優秀なリーダーは答えを言わず、メンバーに考えさせます。そして決断を促します。そのときメンバーのモチベーションが上がり仕事を背負う責任感が生まれるのです。

■ミッションやパーパスは強烈な精神的報酬となる

「僕たちは、自分たちが儲けることしか考えていない同業他社たちからお客さんを救う『世直し』をしているんだよ。そして困った人を助けているんだ」

大真面目な顔をして先輩が語ります。彼は外資系生命保険の営業支社長。一杯酒が入り、ボルテージが上がってから彼の話は止まりません。どれだけ今の仕事にやりがいがあるか。たくさんのお客様に喜ばれ自分が幸せを感じていること。大真面目な顔で語るのです。

この場面は、仕事とは関係ないプライベートな食事の場面です。しかし彼は後輩である私に熱を込めて仕事のことを語るのです。

チームが人々の役に立っている。自分たちは世の中から求められている。

その実感を持てたとき、チームのメンバーは恐ろしいほどの力を発揮します。

逆に自分たちは人々の役に立っていない。自分たちは世の中から求められていない、と感じたならば……。どんなに高い給料をもらっていても心からやる気を出すことは決してないでしょう。

チームの存在意義であるミッションやパーパスは強烈な精神的報酬となるのです。

■メンバーにチームの存在意義を語り続けること

かつてリクルート社で求人広告の新人営業だったころ、私は営業の仕事が「世の中から邪魔者扱いされる最悪の仕事」だと感じ、毎日会社を辞めたいと思っていたものです。

なぜならば、一日に100件も200件も電話をかけ、飛び込み営業をしていたときのお客様の反応が冷たかったからです。「忙しいのに邪魔邪魔!」「またリクルート? 要らない、要らない!」と冷たい扱いを受けた私は毎日の仕事が辛く苦しく感じられました。

しかしお客様の一言を機に世界が変わりました。

「リクルートさんのお陰で素晴らしい人が入ってくれたよ。彼1人だけで会社が見違えるように変わった。高いと思った広告費も安かった。どうもありがとう!」。

私の仕事は世の中の役に立っているんだ。そう信じることができたときに、体中に感動が稲妻のように走ったのを今も覚えています。

メンバーにチームの存在意義を語り続けること。リーダーの大切な大切な仕事なのです。

■参加型で巻き込み内発的モチベーションを高める

社会心理学者エドワード・デシは、動機づけを2つに分けました。

1つは、賞罰・アメとムチにより外から動機づける外発的動機づけ。もう1つは、仕事自体がおもしろい、と感じさせたときに起きる内発的動機づけです。

そして、より本質的な動機づけである内発的動機づけが起きる3つの要因は「自己決定性」「有能性」「対人関係性」である、と明らかにしました。

メンバーにチーム運営へ参加する機会を与え、参加型リーダーシップを発揮させるとメンバーはこの3つともが手に入れられる。

意思決定に関与でき、有能感を覚えられ、信頼関係も高まる。つまり、参加型で巻き込むことは必然的に内発的モチベーションを高めることにつながるのです。

「参加なくして決意なし」という言葉があります。

人は参加し自ら一緒に決めたことに決意はできるものの、誰かが知らないところで決めたことに関しては決意できない、という意味です。

リーダーが1人で勝手に決めた目標に対して、メンバー全員へ「決意しろ」と迫ってもそれは土台無理なことなのです。そうではなく、目標を決める段階からメンバーを巻き込むこと。これでメンバーたちにやる気が起き、決意することができるようになるのです。

目標設定の手順を表したGROWモデルというものがあります。GとはGoal、目指す姿のこと。RはReality、現状。OはOption、方法論を指し、WはWill、意思を指します。つまり、GROWモデルとは、次のような手順で目標設定をしなさいというものです。

まずは目指す姿を描き、次に現状を確認し、そのギャップがどれくらいあるかをしっかり把握します。その上で、そのギャップを埋めるための方法論を考え1つ選びとる。そしてその方法論で目指す姿を達成するぞ、と最後に意思確認をするのです。

参加型とはこのGROWすべてのステップにメンバーを巻き込むこと。そうして初めてメンバーはリーダーと同じ高い意思を持てるのです。

しかし現実はその逆。ほとんどのリーダーはGROのすべてを自分1人で決めてしまい、最後のW=意思固めだけを求めるのです。

それではやる気になれません。ぜひメンバーを参加型で巻き込んでください。

仲間と話し合いながら
写真=iStock.com/franckreporter
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/franckreporter

■高い期待を受けるとそれに応えようと頑張る

「A先生、先生の学級のB君とC君。2人は知能テストの結果が抜群に高かったようです。そして、これから2人の成績は急速にグングン伸びるらしい。楽しみですね」

校長先生が担任のA先生を呼び出してこう告げました。それを聞いたA先生は2人の成績が伸びるに違いない、と信じ込みました。そして、そういう意識で2人に接していった結果、1年後に2人の成績は大幅に伸びたそうです。

この話にはオチがあります。実は校長先生がA先生に告げた知能テストの結果は嘘だったのです。つまり、B君もC君も急激に成績が伸びる可能性はなかった、ということ。B君とC君の2人は全校生徒の中から無作為に選ばれただけだったのです。

これはハーバード大学でローゼンタール教授により行われた、有名な二重の眼隠し実験と呼ばれる実話です。

つまり、A先生から「おまえは天才だ」という高い期待を受けたB君とC君は素質もないのに成績が伸びてしまった。

人は相手から高い期待を受けるとそれに応えようと頑張る。この実験結果から「ピグマリオン効果」と呼ばれる法則が導き出されたのです。

この結果を私たちは活かさなければなりません。

■君ならできる、と信じて期待する

すなわち、出来が良かろうが悪かろうが、メンバーへ対して「君ならできる」と信じて期待してあげること。決してその逆をしてはいけないのです。

小倉広『常勝チームの鬼100則』(明日香出版社)
小倉広『常勝チームの鬼100則』(明日香出版社)

「Dさんは出来が悪いダメな奴だ」。

たとえ本人へ対して口にしなくても心の中でそう思ったならば、それが自然とDさんへ伝わり、その人は「リーダーは僕のことをダメな奴だと思っている」と敏感に感じ取るのです。

その結果はまさに「ゴーレム効果」。そう、見事にその人はダメなメンバーになっていくのです。

「君ならできる、必ずできる」。そう心からメンバーを信じて期待を伝える。私たちリーダーに求められている大切な行動です。

メンバーが育つも育たないもリーダー次第。肝に銘じておきましょう。

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小倉 広(おぐら・ひろし)
組織人事コンサルタント/心理カウンセラー
1965年新潟県生まれ。88年青山学院大学経済学部卒業。リクルート勤務を経て、2003年より独立。『アルフレッド・アドラー人生に革命が起きる100の言葉』(ダイヤモンド社)、『もし、アドラーが上司だったら』(プレジデント社)、『アドラーに学ぶ部下育成の心理学』(日経BP社)、『任せる技術』(日本経済新聞出版社)など著作多数。http://ogurahiroshi.net

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(組織人事コンサルタント/心理カウンセラー 小倉 広)

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