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「がんばる人」「気の利く人」が多いから成果が出ない…元自衛隊陸将が指摘する「日本型組織」の根本問題

プレジデントオンライン / 2023年4月6日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

優秀な人材とはどんな人か。元自衛隊陸将の小川清史さんは「日本型組織では、気が利いて一生懸命がんばる部下が評価されがちだが、軍組織では違う。やる気がある将校より、やる気がない将校のほうが全体最適につながり、出世する」という――。

※本稿は、小川清史『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く「作戦術」思考』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

■経営と現場の齟齬をなくすための「作戦術」

戦略とは「未来をより良いものに変えるために、今後どうするか」というビジョンであり、時間と多くのアセットを使用してより良い未来を実現するための方法と手段です。

一方、戦術とは「いま起きていることにどう対応するか」に関する技術です。

経営(運営)レベルの戦略と現場レベルの戦術に齟齬が生じていると、組織の戦略目標の達成、すなわち全体最適の達成は難しくなります。

実はこれは軍事の世界でも大きな課題であり、かつてアメリカやロシア(ソ連)はこの「戦略と戦術の齟齬」の問題に大いに頭を悩ませていました。

そこで、戦略と戦術の中間に「作戦」というレベルを設定し、戦略がしっかりと個別の戦術に反映されているか、個別の戦術が戦略目標に寄与する内容になっているかを調整・コントロールする技術を磨いていったのです。こうして生まれたのが「作戦術」です。

■個別最適をどうやって全体最適につなげるか

言葉の響きから「上手な作戦の立て方についての技術」といったイメージをされるかもしれませんが、実際は「戦略目的(全体最適)を達成するための現場(個別最適)のコントロール術」のようなものです。

とはいえ、それは上(軍本部)からの一方的なコントロールではありません。現場(前線)レベルでも戦略との整合性を意識しながら自主積極的に自らの戦術をコントロールしていきます。

つまり、組織の上も下も一丸となって「今の個別最適(戦術)をどのようにコントロールすればより良い未来の全体最適(戦略目標)につなげられるか」を考えて実行していくというわけです。

軍隊と聞くと「上からの命令は絶対」というトップダウン型の印象があるかもしれませんが、近年では、前線の兵士が上位レベルの戦略の意図を汲みながら自主積極的に動いて戦術を展開していくミッションコマンド型の軍隊が重要視されています。その理論的な基礎になっているのが作戦術なのです。

■部下はがんばっても、気を利かせてもいけない

作戦術の話を人にした際によく聞かれるのが「どうすれば全体最適は達成できるのですか?」という質問です。

もっともな疑問だとは思いますが、残念ながら「全体最適のためにはこれをすればいい」という決まったマニュアルやフォーマットはありません。

ただし、「これをすればいい」はなくても「これはしないほうがいい」ならあります。

なかでも特に日本の組織にあてはまるのが、「がんばってはいけない」と「気を利かせてはいけない」です。

これまで私はリーダーとしてチームビルディングをする際、フォロワー(部下)に対して「がんばるな!」「気を利かせるな!」とたびたび言ってきました。言葉の響きが誤解を生みそうですが、これは「サボってもいい」という意味ではありません。

「自分の能力の限界を超えるような仕事をしてはいけない。自分の役割以外の仕事(権限のない仕事)もしてはいけない。自分の能力と与えられた役割の範囲内でしっかりと仕事をしてくれ。その際には全体の方向性と自分の仕事とをマッチングさせよ」という意味合いです(そもそも頑張ろうとすると肩に力が入り力んでしまいパフォーマンスは低下します。リラックスこそがベストなパフォーマンスを生み出します)。

■ひとりががんばりすぎると全体最適が崩れる

リーダーとして私がすべきことはチームの全体最適化であり、そのためにはフォロワーたちの能力と役割を十分に考慮しながら、戦略目標に到達するための戦力配分を考えなければなりません。

そうした戦力配分は微妙なバランスの上に成り立っていることが多く、がんばって能力以上の仕事をしようとして無理をしたり、気を利かせて他人がやるべき仕事にも手を出したりするフォロワーがひとりでも出てくると、全体最適が崩れてしまいかねないのです。

例えば、フォロワーのひとりががんばって能力のキャパシティオーバーのことをしてしまい、自分のやるべき仕事が破綻してしまった場合、どこかでその損失をリカバリーするための労力が必要となり、チーム全体に負担がかかってしまいます。

このような形でチームの全体最適が崩れるケースはビジネスの世界でもスポーツの世界でも日常的によく見かけます。

軍事の世界では、1870~1871年の普仏戦争後、フランスに勝利してドイツ統一を果たしたプロシア軍において、モルトケ参謀長によって新たな人事施策が出されました。

統一するまでの間は、出世の順番として何よりもまず「やる気のある将校」、「積極的に仕事をする将校」優先でした。

ところが、統一後は、「それいけどんどん」タイプでは、軍縮しなければならない軍組織の全体最適が達成できなくなります。

■「やる気がある将校」より「やる気がない将校」

そこで、出世の順番を①「やる気がなく」頭が良い将校、②「やる気がなく」頭の切れが劣る将校、③「やる気があって」頭の切れが劣る将校、最後が④「やる気があって」頭が良い将校、に切り替えたと言われています。

ここでいう「やる気がある将校」とは、ある意味、自分の欲望、例えば出世欲や名誉欲が強い人間です。特に頭が良く個人の出世欲が強い人材は、個人プレーや見せかけのパフォーマンスに走りやすく、結果まで出してしまうために、軍全体のバランスを崩してしまうとの危機感がありました。

一方、「やる気がない将校」とは自分の出世欲などよりも組織マインド(組織全体のことを優先して考える)を持つ人物のことを指していると思われます。

このように、統一後には個別最適を強く推し進める人材に対する警戒感があったとともに、全体最適達成のために組織マインドのある人材を強く求めたのだと言えるでしょう。

■上司の決定権を奪っている部下の行動

日本の会社では、身近にいるフォロワーがリーダーの権限(決定権)を“簒奪”しているケースが日常的に見受けられます。例えば、社外の人間から「リーダーに面会したい」とアポイントメントの電話があった場合などです。その電話を受けた担当者が「その時間は社内会議があるので」とリーダーとの面会を断ってしまうようなケースはないでしょうか。

おそらくみなさんも一度は見聞きしたような話だと思います。

その人との面会をとるか、社内会議をとるかの決定権は本来リーダーにあります。

実際、私がとある会社のリーダーに挨拶のためのアポイントを取ろうとした際、電話を受けた担当の方から「その時間は会議(または○○部署の報告時間)です。申し訳ありませんが面会はお受けできません。」と即座に断わられたことがありました。

電話に出る女性
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

しかし、本来は、会議(あるいは部下の報告)を選ぶか、部外からの面会を受けるかの決定権はアポイントを申し込んだ相手先のリーダーにあるはずです。

にもかかわらず、電話を受けた担当者が当然であるかのように判断して決定を下して、さらには回答までしていたのです。しかし、こうした担当者も最初からこのような行動をとっていたのではなく、仕事をするうちに、徐々に自分の動ける範囲を拡大して、そのうちにリーダーの決定権にまで拡大してしまうのです。

そのため、リーダーとしては気がついていたけど「今さら指導しづらいなあ、本人は一生懸命真面目にやっているし……」ということになったのではないでしょうか。

■必ず上司の意見を聞いてから対応するのが正しい

本来であれば、どれほど仕事に習熟しようとも、担当者は必ず「上の意見を聞いてからお答えするので、お電話番号をください」と対応し、リーダーには「先方はこの時間に面会を希望されていますが、会議の時間と重なっています。どうしますか?」と確認すべきだったでしょう。

リーダーはリーダーで、このようなことが起こらないように担当者を教育しておくべきだったでしょう。この点では、私も部外の視点からの担当者教育が不十分だったなあ、と大いに反省しつつ本稿を書いています。

また、当時私が指揮官として何かの認定をする際にも似たようなことがありました。

決裁権者である私のもとに上がってくる報告は、その担当部署が認定上申する案件だけに限られ、担当レベルで「却下」された案件は、(決裁権者であるはずの)私のもとにまったく上がってこなかったのです。

その判断に疑問の余地がまったくないものであれば報告は不要ですが、判断の難しい案件であっても、担当部署が「却下」した場合には、私のもとに「却下した」との報告は上がってきませんでした。

■「上司の手を煩わせるのは…」に潜むリスク

ある時、たまたま私が「却下」された案件を小耳に挟んだことによって、その案件について担当部署の判断を再考してもらったことがあります。担当部署では当初「過去の例と同様の案件であり、当該案件のみを特別扱いして認定するべきでない」と判断したそうです。

しかし、起きた状況事態は過去の例と同様に見えるものの、実際には過去の例とは事態発生時の前提条件が異なっていたために認定するべき案件でした。

判断を再考したことにより、事態に関係していた隊員は、無事に権利を回復することができました。もともとは、指揮官である私がしっかりと教育を事前に行き届かせていればよかった問題ではありますが、ここでは「作戦術」思考によるチームビルディングをより理解してもらうために、自分の恥を忍んでご紹介しています。

こうした特に専門的な判断を行うスタッフは、意識的にリーダーの決定権を“簒奪”するつもりは微塵(みじん)もなく、むしろ真面目に、一生懸命に、仕事をしているのです。

一般的にはフォロワーとして「優秀」と見なされるタイプの人たちが「気を利かせた」結果として、こうした事態が起こっていると言えます。つまり、自己の業務遂行に集中し過ぎて、本来は誰が決定するべきものであるのかについて思いを致すことなく、「これは自分が担当する案件であり、わざわざリーダーの手を煩わせるのは避けるべきだ」と「気を利かせている」ケースがほとんどなのです。

■日本人には資本主義の基礎が欠如している

「それで何が困るんだ? 気を利かせてくれるフォロワーがいるのは良いことではないか?」という声も聞こえてきそうですが、先ほども述べた通り、全体最適を考えるリーダーにとっては、チームが使用できる資源(人、物、金、時間、場所、人間関係ネットワークなど)が、勝手にフォロワーによって取り崩されたら、全体最適化が難しくなる可能性があります。

フォロワーの個人的判断によって報告時期が遅れたために指揮官として決断するべきタイミングを失したり、フォロワーが気を利かせてリーダーに言わずにアドバイス的な指示を該当部署にしたためにその部署が気を利かせ過ぎて物や装備品などを移動させていたり、その結果、該当部署のメンバーの働ける時間が少なくなったりなど、チームとして最大限の効果を得ることができなくなるかもしれないのです。

こうした問題点は、資本主義の基本的な精神、つまり所有権がはっきりしている資本を元手に、最小限の労力で最大限の効果を得るという精神が日本人に欠如していることも原因のひとつだと考えられます。その根本をたどれば、学校教育の段階で子供たちに民主主義や資本主義の基礎を学ばせていないという日本の構造的な問題に行き着くのですが、それについてはまた章をあらためて述べたいと思います。

■日本では褒められても欧米社会では“犯罪行為”に

上司の決定権を簒奪するという行為は、実は欧米社会では“犯罪行為”にも該当します。

これは欧米社会において民主主義・資本主義の精神が社会の土台になっているからこそのことであり、日本社会ではこの種の行為が犯罪であるという認識はまずありません。むしろ「真面目」で「優秀」な部下が「気を利かせてくれた」結果として「上司の決定権簒奪」が起こったとしても、気を利かせてくれた部下を褒めこそすれ、その部下を叱責しづらい状況にあります。

小川清史『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く「作戦術」思考』(ワニブックス)
小川清史『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く「作戦術」思考』(ワニブックス)

たとえ叱責したとても、部下は上司から叱られた理由がわからず、チーム内の不満だけが高まる結果になるかもしれません。実は私にも叱られた理由がわからなかった経験があります。

また、困ったことに、日本型組織の上司のなかには、部下に対して「もっと気を利かせろ」「そんなこと、俺にいちいち確認とるな」と叱る人までいます。そういう上司が少なからず各組織にいることから、部下も「こんなものをいちいち上にあげて上司に迷惑をかけちゃいけない」という意識になってしまい、(実は上司の決定権を簒奪してしまっているけれど)「気を利かせられる部下=優秀な部下」という認識がその組織に、もしくはそもそも日本社会全体に広がってしまっているのではないかと思います。

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小川 清史(おがわ・きよし)
元自衛隊陸将
1960年生まれ。徳島県出身。主要職歴(自衛隊):第8普通科連隊長兼米子駐屯地司令、自衛隊東京地方協力本部長、陸上幕僚監部装備部長、第6師団長、陸上自衛隊幹部学校長、西部方面総監(最終補職)。退職時の階級は「陸将」。現在、日本安全保障戦略研究所上席研究員。著書に『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く「作戦術」思考』(ワニブックス)。

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(元自衛隊陸将 小川 清史)

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