「○か×で答えられる質問」ではダメ…一流のリーダーが部下に「どうしたい?」といちいち聞くワケ
プレジデントオンライン / 2023年4月10日 9時15分
※本稿は、小川清史『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く「作戦術」思考』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。
■一人ひとりが自主積極的に動ける組織の基本
組織(チーム)を「第三の波」(※)の世界でも生き残れるミッションコマンド型にするには、リーダーもフォロワー(部下)もお互いの仕事内容を把握しておくことが重要になります。
※アメリカの未来学者アルビン・トフラーが1980年の著書『第三の波(The Third Wave)』で提唱した概念。現代文明が農業革命(第一の波)、産業革命(第二の波)という二つの大変革を経て、情報革命という「第三の波」のうねりのなかにあるとした。
私がかつてアメリカの陸軍歩兵学校に留学して作戦術を学んだ時には、教官が「下については2つ下の部隊の能力、上については2つ上の組織の任務まで把握するべきである」と強調していました。それができて初めて、一人ひとりが自主積極的に動くミッションコマンドが成立し、作戦術が有効に機能するということでした。
実際、私もその後さまざまな経験を通じて、上下各2ランクまでの任務・能力を把握することがミッションコマンドの基本であり、作戦術に不可欠だと実感しています。
■上司が部下の仕事を知っておくべき理由
みなさんが置かれている状況によっては、この「2つ上・2つ下の任務・能力」に該当するものがないかもしれませんが、少なくともフォロワーはリーダーの、リーダーはフォロワーの仕事に興味を持ち、お互いにしっかりとその内容まで把握しておくべきでしょう。
フォロワーがリーダーの仕事内容を把握しておくことは、チームの戦略やリーダーの意図を理解して自主積極的に動くためには欠かせません。また、リーダーがフォロワーの仕事内容を把握していないと、そもそも「作戦術」思考によるチームビルディング自体が成り立たなくなります。それこそが、基本中の基本となります。
リーダーがフォロワーの仕事を知らないということは、フォロワーの仕事に関心がないということなので、担当者もやる気をなくし、えてして見えない部分は手を抜きがちになります。そうなると当然、チーム全体の業績も上がらなくなります。逆に言うと、リーダーが自分のチーム内のすべての仕事に関心を持ち、業務内容を把握しておくことはチーム力アップの必要条件だということです。
■部下に「答え」を求める質問をしてはいけない
念のためお断りしておくと、これは、すべての仕事に対して、常に部下に報告を求めろという意味ではありません。あくまでもリーダーとしてチームの全体像をつかむために、フォロワーの仕事にも関心を持ち、その内容を把握しておくということです。全体像がわからないと心の立ち位置も決まらないと思います。
リーダーがチーム内のすべての仕事を把握しておくのはチーム力アップの必要条件ですが、その上で十分条件として、フォロワーのモチベーションが上がるよう、コミュニケーションの仕方も工夫する必要があります。
ミッションコマンド型のフォロワーを育てるにあたって、フォロワーとのコミュニケーションで特に注意すべきなのは、彼らに「答え」を求める質問をしてはいけない、ということです。
例えば次のような質問です。
「この問題の解決策を述べよ」
「この問題の解決策は、この方策(一例を示して)でよいと思うか?」
この質問はリーダーがフォロワーに「答え」を求めてしまっています。さらに2つ目の質問は、英語で言えばクローズドクエスチョンであり、○か×で答える質問です。
■引き出すのは、模範解答ではなく「意志」
日本人の大半は、社会に出るまで、学校教育や受験勉強で「答えを当てる問題」に取り組んできました。だから、「問題には決まった答えがどこかにある」という発想になりやすく、リーダー(上司)がフォロワーに答えを求める質問をしてしまうと、反射的に一生懸命答え(往々にして上司と同じ考え)を当てようとするか、過去の事例を探すなどして模範解答を答えようとしてしまいます。
他の場合はいざ知らず、少なくともミッションコマンド型のフォロワーを育てるには、そうした学校教育の延長上にある「答え当て」に導いてしまうような質問は向いていません。
その代わりとして私がお勧めするのは、フォロワーの「意志」を求める質問です。
例えば次のような質問です。
「君、この状況をどう思う?」
「君ならどうする?」
「なぜ君はそうするのか?」
「君の目的は何か?」
「君がその目的を達成するためにはどうすればいいか?」
■江戸時代の藩校も同じように指導者を育てていた
狙いは、相手の意志を明確にし、その意志を成長させる質問を心がけることです。この際、質問したリーダーは自分の意見を言わないで、相手が発言するのを我慢強く待つことがとても重要です。
このようにフォロワーが自分の意志を発露できるように質問を投げかけ、フォロワーが自分の意志をつくり上げるのに十分な時間を与えることで、フォロワーの責任感とそれに付随する自主積極的を引き出します。これによって、「第三の波」の組織にふさわしいミッションコマンド型のフォロワーを育てることができます。
リーダーの育成にも大変有効だと思います。
実はこの質問術は、私が過去に陸上自衛隊幹部学校の校長を務めていた時に実践していたものです。学生に問いかける際は答えを求めるのではなく、彼らの意志を尋ね、その意志を伸ばし、意志を堅固に保持するように誘導することが重要であると気づき、その後もさまざまな場面で実践し続けてきました。
ちなみに、民間の教育機関の先生方にこの質問術の話をしたところ、賛同していただける方がたくさんいてうれしい気持ちになりました。後でわかったことですが、明治維新前の江戸時代の各藩校では、この質問術と似たような一対一の問答を通じて、藩の指導者層の武士を育てていたそうです。
■日本型組織ならではの「飲みケーション」
フォロワーとのコミュニケーションに関して、もうひとつ注意したいのが、飲み会など業務時間外のコミュニケーションです。
近年は若者が飲み会に参加したがらない傾向があるようで、さらにはコロナの影響もあって一時期に比べると職場の飲み会が減ったと言われています。一方でいわゆる「飲みニケーション」が再評価されているとも言われ、それを推奨する企業があるという話も聞きます。
従来の日本型組織の飲み会では、上司による部下への強権的なコミュニケーションがしばしば行われてきました。「今日は無礼講だ」と言いながらまったく無礼講ではなく、「とにかく俺の話を聞け!」や「お前にそんなことを言われる筋合いはない」などといった上司の言葉が飛び交う“文化”は、おそらく今日(こんにち)においても少なからず日本の組織に残っていると思われます。
■上司が偉ぶるだけなら百害あって一利なし
コロナ禍が続いたためもあり、正直なところ、今日の飲み会の実態がどのようなものなのかは私にはわかりません。
ただひとつだけ確実に言えるのは、こうした「昔ながらの飲み会」は、「第三の波」の組織を目指すチームビルディングをしていく上では、百害あって一利なしだということです。
「昔ながらの飲み会」には、上司が部下にマウントをとって若手を嫌がらせるための機能しかないと言っても過言ではありません。「無礼講」とは言いながらも、部下が上司に対して下手な発言をするとその後の職場での人間関係にも影響があるため、部下は口をつぐみがちになり、自主積極性とはほど遠い心理状態で次の日の仕事に向かうことになります。
では、本当に「無礼講」で、上司も部下もみんなが楽しんで参加できているような飲み会だったらオッケーなのでしょうか?
もちろん、私としても「楽しい飲み会」自体を否定するつもりはありません。そうした飲み会ならチームの団結力もある程度強化されることでしょう。
■チーム力を向上させる飲み会の4条件
しかし、ひとつ注意していただきたいのは、そこで強化されるのは「疑似家族」や「疑似共同体」としての団結力であって、チームで仕事に取り組む機能を向上させる団結力ではない、ということです。
家族や共同体はそもそも仕事をするために団結しているわけではありません。だから、疑似家族や疑似共同体の団結力を強化したところで、チームとして組織的に業務を遂行する機能は強化されません。つまり、「ただ楽しいだけの飲み会」もチームビルディングには有効ではないということです。
「じゃあ、いったいどんな飲み会ならいいんだ?」というみなさんの声が聞こえてきそうですが、あくまでもチームビルディングの視点で言うなら、最低限、次の条件を満たしている必要があります。
①テーマや目的が設定されている
②酒を飲み過ぎないようにして、主に意見交換や議論に務める
③意見交換や議論の際には人格攻撃をしない(意見と人格を分けて議論する)
④飲み会を開催すること自体が目的ではない
■飲み会はあくまで「手段」であると忘れない
まず①のテーマや目的というのは、飲み会を通じて実現したいことです。例えば、「個別最適の追求に走りがちな部下を全体最適に寄与する方向に変える」という明確な目的があり、そのために職場より気楽に話しやすい業務外の飲み会でリーダーが部下とコミュニケーションをはかろうとする場合などは、飲み会が有効なチームビルディングの手段になりえます。
②は、そもそも酒を飲み過ぎるとコミュニケーションが成立しにくくなるので、そうならないよう努めようということです。あくまで酒は会話しやすくするためのツールです。酔っ払いをつくる会ではありません。
③は読んで字のごとくなのですが、意外とこれをしっかりとできている日本人は少ない気がします。相手を誹謗中傷しないというのは当たり前のことですが、例えば部下から何かを指摘をされた時に、相手の「部下」「年下」「経験不足」などの属性をもとに「どの立場でものを言っているんだ」「部下のお前にそんなこと言われる筋合いはない」「年下のくせに」「そこまで言うならじゃあお前がやってみろよ」「そういうことはもっと仕事ができるようになってから言え」などと言い返してもいけないということです。
相手の主張と属性をしっかりと区別し、相手の主張に基づいて議論するということを、大半の日本人が苦手としています。相手の主張よりも属性に基づいて、反発したり、肯定したり、妄信したりする人が少なくありません。
④は①に通じる内容であり、飲み会はあくまでもチームビルディングの「手段」であって「目的」であってはならないという意味です(「そんなものは飲み会とは言えない!」という声も聞こえてきそうですが)。
そして、この飲み会は、仕事に通じるものであるため、会社による費用負担があればより一層仕事向上のための飲み会であるとの意識が強まるでしょう。巷(ちまた)で「飲みニケーション」が再評価されているからと言って、リーダーがテーマも目的もなく、ただ会社から与えられたポストと部下を使って飲み会を開いても、チーム力の向上にはまったく役に立たないでしょう。
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元自衛隊陸将
1960年生まれ。徳島県出身。主要職歴(自衛隊):第8普通科連隊長兼米子駐屯地司令、自衛隊東京地方協力本部長、陸上幕僚監部装備部長、第6師団長、陸上自衛隊幹部学校長、西部方面総監(最終補職)。退職時の階級は「陸将」。現在、日本安全保障戦略研究所上席研究員。著書に『組織・チーム・ビジネスを勝ちに導く「作戦術」思考』(ワニブックス)。
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(元自衛隊陸将 小川 清史)
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