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なぜ誰もおかしいと気づかないのか…学校で「背の低い順に並ぶのは差別」と主張する現役教員の納得の理由【2022下半期BEST5】

プレジデントオンライン / 2023年4月2日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Masaru123

2022年下半期(7月~12月)、プレジデントオンラインで反響の大きかった記事ベスト5をお届けします。教育・子育て部門の第2位は――。(初公開日:2022年9月13日)
なぜ、日本の学校では整列する際、背の順に並ぶのか。現役小学校教員の松尾英明さんは「背丈という本人にはどうしようもない身体的特徴を並べて比較し、小さい方から大きい方へと序列をつけて並べる。これは差別であり、いじめの類でもある」という――。

※本稿は、松尾英明『不親切教師のススメ』(さくら社)の一部を再編集したものです。

■「背の順」は身体的特徴による差別の誇示

学校では、何かにつけて「背の順」で並ぶ。このことに対し、違和感をもつ日本人は少ないのではないか。小学校入学時どころか、幼稚園・保育園児の頃からあまりにも当たり前にやらされることなので、自然にそういうものだと思わされる慣習の一つである。

冷静に考えて、背の順に並ばせるのは、身体的特徴による差別の誇示である。背丈という本人にはどうしようもない身体的特徴を並べて比較し、小さい方から大きい方へと序列をつけて並べる。一番小さい人と一番大きい人を確定して、誰の目にも明らかなように序列を公表する。

これが身体的特徴による差別であることは、大人が会社等でこれを強制されないというのを考えればわかる(体重順に並ばせるのも全く同じことである)。明確な差別であり、いじめの類の行為である。

しかし、慣習というものは、多くの場合それがもつ問題点に全く気付けない。

それでも「背の順」に納得のいく明確な理由があればいいが、大抵は論理の通らないこじつけにすぎない。実際は、単に慣例として行っていることがほとんどだからである。

こじつけの一つとして「背の順だと前がよく見える」という俗説が学校ではまかり通っているが、全く出鱈目なウソである。やればわかるが、自分と近い背丈の者が前方にいる時には、目の前の人の頭部しか見えない。眼球は頭部の頭頂部ではなく顔面中央付近に付いているのだから、当然である。

しかしながら、このようなことは過去何十年にもわたり、問題にすらなっていなかったのである。

■避難訓練から保健関係まで、整列は「名簿順」でいい

ここに大きな誤りと盲点がある。

背の低い子どもは、周りに比べて自分の背が低いという身体的コンプレックスを抱えている可能性が高い。しかし、背の順に並ぶことが学校で何の疑問もなく当たり前とされているからには、そこに異議を唱えることなど、考えられない。常に列の先頭に立ちながら、自分の背が低いことをそのたびに再認識させられることになる。

子供の成長をうれしそうに自宅に刻む両親
写真=iStock.com/Asia-Pacific Images Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Asia-Pacific Images Studio

背の順に並ばせることに限らず、学校生活におけるあらゆる決め事については、教師の側に大きな権限と責任がある。にもかかわらず、これが問題とされてこなかったことの根本には「人権意識」の欠如がある。「大した問題じゃない」「気にし過ぎ」という意見は、立場の弱い者の視点が明らかに欠けている。

「背の順」を廃止した方がよいもう一つの理由が、先にも書いた通り年間を通しての並び方を単一に固定するためである。並び方が複数あると、特に緊急時に混乱するというのが大きなデメリットである。

実際、避難訓練から保健関係まで、整列はすべて「名簿順」で事足りる。さらに、避難時には名簿順で年間固定されている方が混乱することなく素早く並べて、避難後にも名簿で確認できるため「○○さんがいない」事態を圧倒的に把握しやすく、合理的である。これが会議等で並び方を単一化したいという提案をする際に、一番に挙げる理由である。学校においては、人権という視点以上に、安全上の問題という方が重要事項として扱ってもらいやすいからである。

たぶん、炎天下でも全員が外に整列して立ったまま朝礼台からの話を聞く「全校朝会」では、台上から全員の顔がよく見える背の順での都合が多少なりともよかったのである。それくらいしか「背の順」が適当な理由が思い当たらない。

■自衛隊では背の高い者が最前方に並ぶ方式

ちなみに実際、背の順の原型は軍隊にあるが、これは背の高い者が最前方に並ぶ方式である。その方が前の台に立つ上官から見て、見栄えがいいという理由を自衛官の方から直接聞いたことがある。かつての、「気を付け!」「前へ~、ならえ!」の号令とともに全員が直立不動で話を聞き続けなければならない全校朝会の風景と、ぴたりと重なるものがある。

それでも「並び方を単一に固定するなら、逆に背の順一択でもいいじゃないか」という声が聞こえそうである。しかし、そうはいかず、身体計測のように名簿の番号順に並ぶ機会が実際にかなりある。そして何より、背の順の最大の欠点は成長の過程で順序が変動することで、混乱が生じるという点である。特に緊急避難時などの頭が混乱しやすい時には、年間通して同じ順番の方がとっさに動きやすく合理的である。

また順序が変動するという要素は、自分の方が相手より大きいとか小さいとかいう比較からの無駄な序列争いにもつながる。

松尾英明『不親切教師のススメ』(さくら社)
松尾英明『不親切教師のススメ』(さくら社)

これらのことをまとめて考えると、背の順をやめることは、子どもの主体性向上につながる。なぜならば、無思考に不条理に従うという悪習を脱し、人権について真剣に考え、見直すきっかけとなるからである。

さらに、教師の仕事量の軽減にもつながる。年度の途中でいちいち比較と並び替えをしなくて済む上に、余計なトラブルへの指導も減るのだから、一石二鳥以上の大きなメリットである。

こういった大事なことは、全校で確認すべきことである。前任校では、校長に確認し、職員会議でも話題に挙げて「確かに必要ない」と言われてから、完全に背の順をやめた。必要ない、むしろ害悪が大きいという共通認識をもつ必要のある慣習の一つである。

これを読んで納得された方は、早速ぜひ自校でもトライをしていただきたい。それによって救われる子どもが大量に出ること請け合いである。

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松尾 英明(まつお・ひであき)
公立小学校教員
「自治的学級づくり」を中心テーマに千葉大附属小等を経て研究し、現職。単行本や雑誌の執筆の他、全国で教員や保護者に向けたセミナーや研修会講師、講話等を行っている。学級づくり修養会「HOPE」主宰。『プレジデントオンライン』『みんなの教育技術』『こどもまなびラボ』等でも執筆。メルマガ「二十代で身に付けたい!教育観と仕事術」は「2014まぐまぐ大賞」教育部門大賞受賞。2021年まで部門連続受賞。ブログ「教師の寺子屋」主催。

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(公立小学校教員 松尾 英明)

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