こんな人に近づいてはいけない…「不機嫌な人」が及ぼす深刻な被害を明らかにした慶大教授の衝撃実験結果
プレジデントオンライン / 2023年4月3日 11時15分
※本稿は、満倉靖恵『「フキハラ」の正体』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。
■「不機嫌ノーラ」のせいで起こる「フキハラ」
「不機嫌ハラスメント」の略。
不機嫌な態度をとることで、相手に不快な思いをさせたり、過剰に気を遣わせたり、精神的な苦痛を与えること。
本人が意図している/いないに関わらず起こりうる。
「フキハラ」がなぜ生じるのか。そのメカニズムを科学的に見ていきましょう。
脳波研究からわかったことは、不機嫌が脳からダイレクトに脳波を介してまわりにいる人に伝わるということ。まさに、脳が「ネガティブテレパシー」を発していたのです。気まずい空気、いるだけで感じるストレスは、この脳が発する「ネガティブテレパシー」が原因だったのです。
この脳の「テレパシー」は、本人の意思や意図とは関係なく発せられるため、「テレパシー」というよりは、「オーラ」と呼ぶほうがふさわしいかもしれません。
「オーラ」とは生体が発する独特の雰囲気や存在感のことです。これまでは目に見えない霊的なエネルギーだと表現されることが多かったのですが、最近では、その存在を科学的に解明しようとする動きも活発化しています。
脳が発する「電気信号」は、当然ながら超微弱で、目に見えることはありませんが、それが「ネガティブな感情」の伝播、つまり「フキハラ」に深くかかわっている可能性が高いことはすでにお話した通りです。
ポジティブにとらえられることの多い「オーラ」とは異なり、ネガティブな方向に影響を及ぼすことが多いのが残念なところではありますが、生体が発する「オーラ」と同じように、脳が発する電気信号のことを、私は、「脳のオーラ」、略して「ノーラ」と呼んでいます。
また、脳が伝える「不機嫌」な感情の電気信号を、他の電気信号と差別化して、「不機嫌な脳のオーラ」、略して「不機嫌ノーラ」と呼んでいます。この本では、「ノーラ」「不機嫌ノーラ」という言葉を使って、詳しく紹介していきますね。
さて、「ノーラ」のせいで「ネガティブな感情」が伝播するのだとすれば、他人の「ネガティブな感情」に振り回されたり、あるいは逆にそれで他人を振り回してしまうのは必然だと言えます。
直接何かを言われたりされたりしたわけでもないのに、近くに不機嫌な人がいるというだけで自分まで嫌な気分になるのも、他人が叱られているのを見るのが辛いのも、自分がただ不機嫌でいるせいでその場の雰囲気を悪くしてしまうのも、それらはすべてネガティブな「ノーラ」の仕業なのです。
そして、これまで繰り返しお話ししてきたように、「ネガティブな感情」にはとても敏感で、しかも一度抱くと払拭するのが難しいという性質があります。だからこそ、「ネガティブな感情」が伝播すること、伝播させることの影響を軽く見ることはできません。
![データ19 他人へのクレームでもストレスは高まる](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/0/1/1200wm/img_01296313ada02e5b3fbbadd668a73fe0161161.jpg)
つまり私たちは、他人の「不機嫌」に想像以上に大きなダメージを受け、また逆に自分の「不機嫌」によって別の誰かを深く傷つけているのです。ところが、このような「フキハラ」の事実に、多くの人は気づいていません。そのせいでますます「ネガティブな感情」に支配されやすくなり、他人からの「フキハラ」に振り回されたり、逆に「フキハラ」で他人を振り回したりしてしまうのです。
本稿では、脳波からわかる「フキハラ」の実態とその対策についてお話しします。
■「フキハラ」のダメージは想像以上
他人の「不機嫌」は、私たちの脳にどれくらいのダメージを与えるのでしょうか?
データ19は、他人の「ストレス」が周りの人にどれくらいの影響を与えるかを調べるために、電話で長々とクレームを訴えている人のそばに座った被験者の「ストレス度」を示す脳波を測定した結果です。
一見しただけで被験者の「ストレス度」を示す脳波が相当に強く出ているのがわかるでしょう。一時は100パーセントにも達するほどです。
念のために繰り返しますが、クレーム自体は電話の向こうの相手に向けられていて、被験者自身が怒られているわけではありません。それなのに、被験者の「ストレス」はここまで高まっているのです。実際に怒られている電話の向こうの相手に共感してしまった可能性もありますが、クレームを訴えている人の「不機嫌ノーラ」がうつったことも否定できないと思います。
実は実験を始めて15分後、被験者には別の部屋に移ってもらいました。「不機嫌ノーラ」から物理的に距離を取りさえすれば、「ストレス度」を示す脳波は治まっていくかもしれないと思ったからです。
ところが残念ながら現実はそう甘くはありませんでした。「ストレス度」を示す脳波が治まったのは、元いた部屋から出た瞬間だけで、すぐにまた強く出てきてしまったのです。
これが、一度抱くとなかなか払拭できない「ネガティブな感情」のしつこさなのでしょう。嫌な人から離れることができたという「刺激」程度では、「ネガティブな感情」から解放されるのは不可能なのです。
おそらくクレームの電話をかけていた人は、自分の「不機嫌ノーラ」が、隣に座っている人にこのような深刻なダメージを与えたことなど想像もしていないに違いありません。このように“発信元”の悪気も自覚もなく起こってしまうのも「フキハラ」の特徴なのです。
■「フキハラ」被害の理不尽な実態
「フキハラ」の被害者が深刻なダメージを受けている一方で、自覚なき加害者のほうはあっさりとストレスから解放されるということもあるようです。
データ20は、頼んでおいた荷物が届かないことにイライラしている学生Iとたまたまその場に居合わせた学生Jの「ストレス度」を示す脳波の移り変わりです。なお、測定は10分間行いました。
![データ20 フキハラは被害者ばかりが損をする](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/9/1200wm/img_e98fe6445bd9c517c50ff65dcdb90c9a190831.jpg)
測定開始早々から学生Iの不機嫌が学生Jにうつっているのは明らかですが、5分くらいたったあたりから、学生Iの「ストレス度」を示す脳波は徐々に治まっていきます。
実は、間違って別の部屋に届けられていた荷物がIの元に届いたのが3分後でした。つまり、待っていた荷物が無事届いたことで、Iの「ストレス」は解消されたのです。
![満倉靖恵『「フキハラ」の正体』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/d/1200wm/img_9d82e91a359cfc3eb3cbe199df886f6d210702.jpg)
ところが、Iの不機嫌に巻き込まれたほうのJのストレス度を示す脳波は一向に治まる気配がありません。「不機嫌ノーラ」の発信者の機嫌が直ったにもかかわらず、「フキハラ」の被害者の感情はネガティブなままなのです。
何の罪もない「フキハラ」の被害者のほうが、結果として「ネガティブな感情」を引きずりやすいとは、あまりにも理不尽だと思いますが、このような現象は実際に起きているのです。
なぜ、「フキハラ」の被害者のほうばかりが「ネガティブな感情」を引きずるのか、その理由については想像するしかありませんが、被害者はいわば「もらい事故」のような形でストレスを受けているぶん、自分のストレスに気づきにくく、そのせいで、ストレスを解消するための行動を起こしにくい、ということがあるのかもしれません。
だとすれば、「不機嫌な人のそばにただいるだけでもストレスが高まる」という事実を知っておくことは、自分自身のストレスコントロールのためにも必要だと言えるでしょう。
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慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授
慶應義塾大学医学部精神神経科学教室兼担教授、電通サイエンスジャム取締役CTO、イーライフ取締役CTO、博士(工学)/博士(医学)。 生体信号処理、脳波解析などをキーワードに、脳神経メカニズム・感情・睡眠・うつ病・認知症などに関する研究に従事。特に医工連携型研究に注力。電通サイエンスジャムと共同で、世界初の脳波によるリアルタイム感情認識ツール「感性アナライザ」を開発。リサーチ、商品開発など世界中で活用されている。心拍のみを用いた自律神経の動きに注目した睡眠の5段階解析、非侵襲ホルモン解析などの専門家。
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(慶應義塾大学理工学部システムデザイン工学科教授 満倉 靖恵)
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