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薬を出しっ放しにする医者が多すぎる…なぜ日本の高齢者は「薬のゴミ屋敷」を作ってしまうのか

プレジデントオンライン / 2023年4月6日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/andrei_r

ポリファーマシー(多剤服用)の問題点とは何か。長尾クリニック院長の長尾和宏さんは「日本は別々の診療科で同じ作用の薬を処方され、患者が気づかずに用量の倍の量を飲んでいることも珍しくない。これは認知機能が低下した高齢患者が薬を溜め込む原因にもなる」という。ジャーナリストの鳥集徹さんとの対談を紹介する――。

※本稿は、鳥集徹編著『医者が飲まない薬 誰も言えなかった「真実」』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■気づかずに用量の2倍の降圧薬を飲んで転倒

【鳥集】そもそもの話なのですが、たくさん薬を飲むとどんな有害なことがあるのか、具体的な事例を教えていただけますか。

【長尾】まず、血圧の薬を複数箇所でもらっていることがよくあります。患者さんの中には「これが血圧の薬だ」と知らない人もいます。また、内科で血圧の薬を処方されているのに、整形外科でも「私、血圧が高いんです」と言ったがために、善意で血圧の薬を処方され、結果的に2倍量飲んでいる人もいる。それで、やっぱり血圧が下がりすぎている。それで転倒したという人もいましたね。

それから、「口が渇く」という訴えも多いです。年を取ると唾液の分泌量が減るのですが、抗コリン薬(注)をいろいろな診療科でもらっている。具体的には、消化器系の薬、過活動性膀胱の薬、鼻水を止める薬、かゆみ止めといった薬です。

唾液が出にくくなる自己免疫疾患であるシェーグレン症候群かなと思って調べてみても、違う。「なんでやろ、なんでやろ」といろいろな病院で調べて、口が渇く副作用のある薬を飲んでいることに気づくまでに、すごく時間がかかる。医者によっては人工唾液とか唾液分泌促進薬を出して、ポリファーマシーをさらに上書きしていくわけです。

(注)抗コリン薬……神経伝達物質であるアセチルコリンがアセチルコリン受容体と結合することを阻害(抗コリン作用)し、副交感神経の働きを抑える薬剤。パーキンソン病治療薬、消化性潰瘍治療薬、吸入気管支拡張薬、排尿障害治療薬、催眠・鎮静薬、抗うつ薬、散瞳薬など、さまざまな疾患の治療薬に用いられる。副作用として、口渇、便秘、頻脈、動悸、不整脈、記憶障害、せん妄、眼圧上昇といったさまざまな症状を認める。前立腺肥大症、緑内障、重症筋無力症では、抗コリン薬の使用により症状が悪化するおそれがあるため禁忌となる(ナース専科「看護用語集」より)。

■薬を飲みすぎると逆に体調が悪くなる

【鳥集】重なりやすい薬には、ほかにどんなものがありますか。

【長尾】痛み止めが重なることもよくあります。内科で「何か困っていませんか」と聞かれ、「神経痛があって困っています」と答えて痛み止めを出された人が、実は整形外科でもすでに痛み止めをもらっていて、2倍量飲んでいることも多いです。NSAIDs(エヌセイズ=非ステロイド性消炎鎮痛薬)は消化器の副作用が出やすいので、その結果、知らない間に胃潰瘍ができている人も多いですね。

それから、さまざまな薬の複合的な作用かもしれませんが、意欲がない、ボーッとしている、元気が出ないという状態が続き、認知機能が低下したという人も多いです。ある人は20種類ぐらい飲んでいて、それを少しずつ切って全部やめてもらったら、別人のようにシャキッとして元気になりました。やはり西洋薬って、元気をなくす薬が多いんです。

【鳥集】確かに、受容体をブロックして、数値を下げるという薬が多いですね。

【長尾】血圧を下げる、コレステロールを下げる、血糖を下げる……。下げる方向の薬ばかりなんです。「アゲアゲ系」は西洋薬は苦手で、漢方の「補中益気湯(ほちゅうえっきとう)」のような補剤(体力を補う薬)は、西洋薬には少ない。患者さんは数値を下げる薬ばかり飲んでいる。一番顕著な例では、10剤ぐらい降圧剤を飲んでいる人を見たことがあります。

【鳥集】えっ、降圧薬を10剤もですか!

■10種類もの降圧薬を出されていることに気づかない

【長尾】そうです。もうびっくりしました。カルシウム拮抗(きっこう)薬だけでも4剤。考えられないでしょう。高血圧のすべての系統の薬が、2種類ずつくらい出ているんです。ほかにもARB、ACE、βブロッカー、利尿剤など。僕はその人を診た時に、「この人、よう生きてるな」と思った。こんなに降圧薬を飲んでいても人間は死なないのか、と逆に感心しました。

【鳥集】本当に驚きます。

【長尾】ひとりの開業医の先生が出していたんですが、患者さん本人も、降圧薬を10種類も出されているとはまったく気がついていないんです。最近はさすがに、そこまで極端な例は見なくなりましたが、昔は同じ作用の薬を何種類も飲んでいる人がたくさんいました。診察中に患者さんがもってきたお薬を広げて数えていったら、15種類、20種類になるようなケースがいっぱいあったんです。

■出された薬の半分は無駄になっている

【長尾】それから、こんなこともありました。訪問診療でとある患者さんの家に行ってみたら、私が出した薬が1年分ぐらい、山のように溜まっていたんです。飲んでいないんですよ。それらに加えてよそのクリニックの薬も溜まっていて、思わず「えーっ!」って声が出ました。やっぱり、患者さんの家には1回は行かないとダメなんです。実は、7年前に亡くなった私の母親も、実家に帰ってみたら同じ状況でした。お薬が好きだったので、3年分ぐらいの薬が、「ゴミ屋敷」みたいに放置されていました。

【鳥集】3年前に亡くなった私の父もそうでした。母親から「こんな薬を飲んでた」って見せられたのですが、けっこうな量の薬が残っていました。

【長尾】そうなんですよ。昔は「服薬コンプライアンス」と言いましたが、今は「アドヒアランス」という難しい言葉を使いますよね。要するに服薬率。8割飲んだら優等生です。日本人の平均が、確か4割か5割だったはずです。大まかに言って、患者さんは出された薬の半分くらいしか飲まないものなんです。

1日3回と言われても、毎日3回も飲みません。とくに高齢者は飲み忘れが多い。やはり、無駄が多すぎるんです。薬を余らせているご本人も、こう言うんです。「お医者さんに言うと気を悪くすると思って、言わへんかった」って。そうやって、日本全国で余らせている薬の金額は、ものすごいことになっているでしょう。

それに、一番驚いたのがインスリン。ある糖尿病患者さんの家の冷蔵庫を開けたところ、自己注射用のインスリンが100本ぐらい出てきたんです。

腹にインスリン注射を打つ人
写真=iStock.com/imyskin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imyskin

■認知症患者の家から大量のインスリン注射器が…

【鳥集】100本もですか。

【長尾】そうです。ある大学病院の糖尿病科の一番偉い先生にかかっていたのに、血糖コントロールが悪かった。なぜならインスリンを打っていないから。認知症で一人暮らしだから、自己注射のやり方がわからなかったんです。でも、大学病院が好きだから、そこへ通っている。

それで診察を受けて、「血糖値が下がらないから、インスリンを増やしましょう」と言われて、どんどんインスリンが溜まっていった。「大事なもんやから、捨てたらあかん」ということで、冷蔵庫に保管していたんです。でも、もう入りきらんわけですね。それこそ、何十万円分ぐらい溜まっていた。「このインスリン、もって帰って売ったろうかな」と思ったけど、それもできない(笑)。

■日本の縦割り医療の弊害

【鳥集】インスリンで人殺しをしようと思ったら、できますからね。

【長尾】そうなんですよ、怖い話なんです。縦割り医療の弊害というのは、つまりそういうことなんです。このように認知機能の低下も、糖尿病の悪化に関係する。だけど糖尿病専門医は、糖尿病は診るけど認知症には気づかないんですね。認知症でインスリンの自己注射ができないなら、ほかの方法を考えないとダメなんですが、認知症の人の血糖管理という概念がほとんどないんです。

■患者一人ひとりに合わせた処方を考えないといけない

そもそも認知症の人に、「1日4回打ち」なんていうのはハードルが高すぎます。しかも、超速攻型インスリンを朝食後に6単位、昼食後に4単位、夕食後に4単位打って、寝る前に持続型インスリンを8単位打つといった複雑な作業を指示されているのです。

鳥集徹編著『医者が飲まない薬 誰も言えなかった「真実」』(宝島社新書)
鳥集徹編著『医者が飲まない薬 誰も言えなかった「真実」』(宝島社新書)

だから本当は、薬剤師が時々患者さんの家に出向き、「ちょっとお薬を見せてください」と冷蔵庫なんかも開けさせてもらって、正確に飲めているのか、どれだけ飲めているのかをチェックしないとダメなんです。それで、もし飲めていなかったら、「もっと簡略化しましょう」――たとえば、「1日に1回にしましょう」というふうに、患者さんやご家族とよく話し合わないといけない。

一人暮らしで軽い認知症のある方なんかは、家に行けばもう、薬だらけです。本来であれば、こういう問題にも気がつかないといけないのですが、医学教育では何も教えない。

【鳥集】そうでしょうね。

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鳥集 徹(とりだまり・とおる)
ジャーナリスト
1966年、兵庫県生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大学院文学研究科修士課程修了。会社員・出版社勤務等を経て、2004年から医療問題を中心にジャーナリストとして活動。タミフル寄附金問題やインプラント使い回し疑惑等でスクープを発表してきた。週刊誌、月刊誌に記事を寄稿している。15年に著書『新薬の罠 子宮頸がん、認知症…10兆円の闇』(文藝春秋)で、第4回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞。他の著書に『がん検診を信じるな~「早期発見・早期治療」のウソ』(宝島社新書)、『医学部』(文春新書)、『東大医学部』(和田秀樹氏と共著、ブックマン社)などがある。

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長尾 和宏(ながお・かずひろ)
長尾クリニック名誉院長
1984年、東京医科大学卒業。複数医師による365日無休の外来診療と24時間体制での在宅医療に従事。近著に『ひとりも、死なせへん』『ひとりも、死なせへん2』など。

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(ジャーナリスト 鳥集 徹、長尾クリニック名誉院長 長尾 和宏)

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