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夏と冬で薬の量を調整する医者がどれだけいるのか…和田秀樹が「日本の医者の9割はヤブ」と訴える理由

プレジデントオンライン / 2023年4月7日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shotbydave

日本の医学教育の問題点は何か。医師の和田秀樹さんは「日本の医学は臨床をおろそかにし、宗教化している。まるで患者を真面目に診ていない」という。ジャーナリストの鳥集徹さんとの対談を紹介する――。

※本稿は、鳥集徹編著『医者が飲まない薬 誰も言えなかった「真実」』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■ワクチンは抗体価を上げればいいというものではない

【鳥集】コロナについては、感染を防ぐという視点だけでなく、高齢者のフレイル(注)をどう防ぐか、子どもたちの心身の発達に支障はないか、自粛を続けていて経済的問題はないかといった、多様な視点から対策を考えなくてはいけなかった。それなのに、そうしたことはほとんど考慮されませんでした。

(注)フレイル……加齢により心身や認知の機能が衰えてしまった状態。①体重減少(年間4.5kgまたは5%以上)、②疲れやすい、③歩行速度の低下、④握力の低下、⑤身体活動量の低下などで判断される。フレイル状態になると要介護率や死亡リスクが高くなる。

【和田】専門家会議のメンバーに、高齢者の専門家、精神医療の専門家、免疫学者なども入れるべきなんですが、入っていなかった。この前、奥村先生と対談して本を作ったのですが(『「80歳の壁」は結局、免疫力が解決してくれる』宝島社新書)、たとえばワクチンにしても、ただ抗体価を上げればいいというものではないんです。

免疫細胞に「これが敵だ」って、教え込ませるのが本来の目的です。それなのに、「抗体価が下がっているから、また打て」といった的外れなことを言う。もともとの免疫機能が下がっている人に、ワクチンを打って教え込もうとしたって、ダメなものはダメなんです。

【鳥集】ということは、高齢者で免疫機能が落ちている人は、ワクチンを打ってもあまり効果がないかもしれないということですか。

【和田】僕はそう思います。だって、満身創痍(そうい)の兵隊に、「こいつと戦ってこい」といくら命令したって、無理でしょう。

■日本に蔓延した「ワクチン万能論」

【鳥集】高齢者だけでなく、基礎疾患のある人や免疫が落ちる病気の人も、コロナにかかりやすいから打ったほうがいいと勧められていましたが、本質的に間違っている可能性があるということですね。

【和田】僕は、間違っている可能性があると思う。

【鳥集】その反対に、若い人は免疫が強いわけですから、当然コロナにも強いですよね。だとすると、ワクチンを打つ意味のある人なんてほとんどいない、ということになる。

【和田】おっしゃる通りです。専門家会議の中には免疫学者がいないから、そうしたことがぜんぜん理解されていない。ワクチン万能論に支配されていて、ワクチンだけでコロナに対応しようとした。

だけど、コロナが流行る前、たとえばインフルエンザや悪い風邪が流行りそうな時があれば、「十分な栄養やビタミンCを摂りましょう」「暖かくしてしっかり睡眠を取りましょう」といった免疫を上げるための啓発活動をしていたのに、コロナの時はそれを一切しないで、ワクチン一本槍で戦おうとした。そこに、日本の感染症学者のレベルの低さが如実に表れていると思うんです。

■免疫についての議論がほとんどされなかった

【鳥集】インフルエンザでも、もちろんかかれば重症化する人はいるけれど、感染してたいしたことなく治れば、免疫が強化されますよね。つまり、生ワクチンを打つのと同じことになるはずです。コロナがエボラ出血熱並みの強毒ウイルスなら話は別ですが、インフルエンザより致死率が高いのか低いのか議論される程度の感染症ならば、かかること自体を悪とする必要などないはずです。どうして、そうした発想にならないのでしょうか。

【和田】わかりません。少なくとも、免疫の仕組みについて、感染症学者がこれほどまでに無知だったというのは、驚くべきことです。

【鳥集】結局、抗生物質や抗ウイルス薬、ワクチンのことや、院内感染の制御みたいなことばかり追究していたからなのでしょうか。

【和田】わからないですが、感染症が専門であれば当然、免疫にもくわしいはずなのに、ほぼ無知だった。

【鳥集】僕も最近呆れたのですが、今までは抗体が下がるから3カ月ごとにコロナワクチンを打つべきだと言っていたのが、FDA(米国食品医薬品局)が今年に入って、急に1年に1回インフルエンザワクチンのように打つことを提案してきました(2023年1月23日)。どういう根拠でそうなるのか、と……。

■薬を徐々に減らさないと「効きすぎ」になる

【和田】「よその科の専門家に文句を言ってはいけない」とはいえ、専門家のアホさ加減というのは、もう救いようのない状態だと思いますよ。「俺は感染症のプロだ」「俺はこの臓器のプロだ」「お前らにはわかりっこないんだから、よその科は口出すな」と。それが今の多剤併用の一番大きな原因にもなっている。循環器内科に行き、呼吸器内科に行き、お次はどこそこの内科に行き、おのおのの先生から出された薬を無批判に使っていたら、そりゃたちまち10種類にもなりますよね。

【鳥集】和田さんの外来に患者さんが来られて、たとえば10種類も飲んでいたら、和田さんご自身は他科の薬でも「これは減らしたほうがいい」と言いますか。

【和田】精神科の外来で、患者さんが「こんなに飲まされているんです」と言ってきたら、どれを減らすといいのかお答えします。それに、どう見てもぼんやりしているとか、元気がなさすぎるという時には、「ちょっと薬を減らしたほうがいいんじゃないですか」とアドバイスします。

【鳥集】浴風会病院のような高齢者中心の医療機関だと、認知症やうつ病の疑いで病院に来たけど、診察してみたら薬のせいだったということもよくあるのではないでしょうか。

【和田】ありますよね。僕が浴風会に勤めていた頃は、ベンゾ(ベンゾジアゼピン系の睡眠薬・抗不安薬)がものすごく使われていた時代でした。やはり、それを減らしていくと患者さんの状態がだいぶ違ってきました。

それに、年を取れば取るほど肝機能も腎機能も落ちるわけだから、1日3回飲んでいる薬を2回に減らし、最終的に1回に減らすといったことをしないと、薬の成分が徐々に体に溜まって「効きすぎ」の状態になってしまいます。

【鳥集】それについても、多くの人があまり意識してないことのように感じます。血圧でも血糖値でも、以前はたくさんの薬を飲まないと下がらなかったのが、肝機能や腎機能が落ちたことで薬の成分が体内に残りやすくなり、下がりすぎになることがあると聞いたことがあります。

■日本の医者は真面目に患者を診ていない

【和田】おっしゃる通りです。今朝もテレビを見ていて噛みつきたくなったんだけど、室内の温度を18度以上に保たないと死亡リスクが増えるといったことを、たまたまワイドショーでやっていたんです。そこに出てきた先生が、「夏と冬では、だいたい血圧が10くらい違うんですよ」って言うんです。では聞きますけど、夏と冬で薬を変える医者がどれだけいるの。

【鳥集】あまりいないでしょうね。

【和田】日本の医者が、いかに真面目に患者を診てないかということなんです。

【鳥集】そうですね。毎回、受診するたびに検査をしているのは、患者さんの状態の変化を見るためですよね。でも、それがあまり活かされていない。

患者の脈をとる医師
写真=iStock.com/byryo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/byryo

■日本の医者の9割はヤブ医者

【和田】たとえば夏場になって血圧が下がってきたら、「じゃあ、薬はちょっと減らそうか」。また冬場になって上がってきたら、「そろそろ増やしてみようか」と言う医者であれば、かなりまともだと思うんです。でも、そんな話はほとんど聞いたことがない。

【鳥集】検査で基準値を超えていたらとにかく薬で下げて、あとはほったらかしという感じですよね。

【和田】そうです。言いにくい話だけど、日本はヤブ医者率が9割くらいじゃないかと思ってしまいます。

【鳥集】高齢者をきちんと診てきた医者ならば、今、和田さんが話したことに賛同すると思うんです。薬漬けはやめよう。患者さんの病状だけでなく、生活状況や価値観まで踏まえて、その人がその人らしく最期まで生きられるようにサポートしよう――。そういう流れに、世の中も医療も向かっているものだと思っていました。ところがこのコロナで、実はぜんぜん違ったんだなと痛感しました。

【和田】僕もね、『老人を殺すな!』という本を1996年に書いたのですが、どうしてここまで変われないのかと呆れています。

■日本の医学は宗教化している

【鳥集】それは医学教育のせいなんでしょうか。

【和田】そうだと思います。よく、患者さんに「医者がこんなに薬を出すのって、金儲けのためですよね」と聞かれるのですが、違うんです。院外処方だから病院やクリニックは儲からないし、薬を減らしたほうが減薬加算がついて儲かる仕組みになっている。それにもかかわらず、一向に状況が変わらない元凶は、教育以外の何ものでもないと思います。

【鳥集】具体的に、医学教育のどんなところが悪いのでしょう。

【和田】ACCORD試験(注)に対する医学界の反応などを見ていて感じるのは、たとえ臨床的知見が変わっても、医者は自分たちの言うことを変えられないということ。つまり、医学が宗教化しているということです。僕はよく、「最初から答えがわかっているのが宗教。試してみないとわからないのが科学」と言っているのですが、日本の教授クラスの医者って、最初から答えがわかっていると思い込んでいるんです。

(注)ACCORD試験……米国国立心肺血液研究所(NHLBI)が、心血管リスクがとくに高い2型糖尿病の患者を対象に、ヘモグロビンA1cを目標値の6%未満まで厳しく下げる「厳格治療群」と、穏やかな7%台を目標とする「標準治療群」とで治療効果を比較する臨床試験を実施し、2008年に中間報告を発表。厳格治療群で死亡率がおよそ2割も高いことがわかり、試験は途中で中止となった。ACCORD試験の予想外の結果は、その後の糖尿病治療のあり方に大きな一石を投じることとなった。

【鳥集】なるほど。

十字架を持つ医師
写真=iStock.com/Florin Cristian Ailenei
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Florin Cristian Ailenei

■日本の医者は「謝ったら死ぬ病」にかかっている

【和田】臨床を舐めているから、そうなるんでしょう。たとえば、循環器内科医だったら、自分の専門分野である血圧のことにしか興味がない。だから、自分が思った通りに基準値に戻すことができれば満足で、「血圧は基準値になったのに、どうして患者は気分が悪そうなのか」といった疑問をもつことができないのでしょう。

鳥集徹編著『医者が飲まない薬 誰も言えなかった「真実」』(宝島社新書)
鳥集徹編著『医者が飲まない薬 誰も言えなかった「真実」』(宝島社新書)

【鳥集】先ほどのACCORD試験に関して言えば、血糖値を厳しく下げる治療は間違いだったことがわかったわけですよね。そうしたら、まっとうな人間であれば「今まで間違っていました。すみません」と過ちを認め、詫びるべきだと思うんです。しかし、エリートの人たちの多くには「何が何でも謝ったらダメだ」という不文律でもあるんでしょうか。僕はよく、「謝ったら死ぬ病」と呼んでいるのですが。

【和田】あると思いますよ。近藤さんの乳房温存療法の一件でもそうでした。

【鳥集】本当は、学会として近藤さんに謝って、時代に先駆けて乳房温存療法を提唱した功績を認めるべきでした。

【和田】そうですよね。だって、標準治療にしたわけですから。一方、糖尿病に関しては、いまだにヘモグロビンA1Cを6%以下にすることにこだわっている医者がいます。

【鳥集】それは、もう固定観念が変わらないということでしょうか。あるいは、ACCORD試験のこと自体、知らなかったりするのでしょうか。

【和田】おそらくね。

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鳥集 徹(とりだまり・とおる)
ジャーナリスト
1966年、兵庫県生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻卒。同大学院文学研究科修士課程修了。会社員・出版社勤務等を経て、2004年から医療問題を中心にジャーナリストとして活動。タミフル寄附金問題やインプラント使い回し疑惑等でスクープを発表してきた。週刊誌、月刊誌に記事を寄稿している。15年に著書『新薬の罠 子宮頸がん、認知症…10兆円の闇』(文藝春秋)で、第4回日本医学ジャーナリスト協会賞大賞を受賞。他の著書に『がん検診を信じるな~「早期発見・早期治療」のウソ』(宝島社新書)、『医学部』(文春新書)、『東大医学部』(和田秀樹氏と共著、ブックマン社)などがある。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(ジャーナリスト 鳥集 徹、精神科医 和田 秀樹)

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