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ネットだけの「広く浅い人間関係」にはウンザリ…Z世代が「本当の友情」を求めて始めた4つのトレンド

プレジデントオンライン / 2023年4月4日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rawpixel

若者の「友達づきあい」が変化しつつある。Z世代のトレンドに詳しい芝浦工業大学の原田曜平教授は「SNSによって交流範囲が広がった反動で、『深く狭い友人づくり』を求めるようになっている」という――。(第1回/全2回)

■Z世代の若者は「本当の友情」を求めている

「Z世代」と呼ばれる10代から20代前半までの若者の間で今、SNSの使い方に変化が起きています。それはひとことでいえば、「広く浅い人間関係」から「深く狭い友人づくり」という変化です。具体的にどんなことなのか。以下の4個のキーワードにまとめたので、順を追って説明しましょう。

①友達推し事……推しの対象を友達にして、イタい推し活を気軽に楽しみたい
友達トレカ、本人在席の誕生会、オタク拒否ポーズ

②間接バースデーPR……自分の誕生日を間接的にSNSでアピールしたい
自分が生まれた日にNASAが撮影した天体写真、花個紋、バースデーカラー

③田舎映え……田舎でしかできない映えを友達と撮影し、仲間意識を共有したい
傘ライト、月ライト、ハートサングラス、スイーツ男子

④いつメンSNS……限られた友人だけで使うSNSを通じて仲間意識を共有したい
Snapchatなど

■友達であることを確認する「友達推し事」

①「友達推し事(おしごと)」とは、身近な友達をアイドルのように応援することです。具体的には3つの方法が挙げられます。

一つ目は「友達トレカ」。自分のスマホケースに友達のプリクラや余った証明写真を入れることが高校生の間で流行しました。これまでは好きなアイドルの写真を入れることが多かったですが、友達に置き換わったわけです。

二つ目は「本人在席の誕生会」です。これは、好きなアイドルの誕生日を推し活仲間と祝う「本人不在の誕生会」がもとになっています。ラブホテルやデザイナーズホテルの一室で、バルーンやアイドルの写真を飾って誕生日を祝う、推し活の定番イベントです。

それをまねて、推しのアイドルのように友達の写真を部屋に飾り、友達を呼んで祝うのが「本人在席の誕生会」です。SNSにはこうした誕生会の様子が頻繁に投稿されるようになりました。

三つ目は、SNSで流行した「オタク拒否ポーズ」です。これは一人がグッドマーク、もう一人がハートマークを手で作るポーズです。一緒に手でハートマークを作りたかったファンを、アイドルが拒否した画像がSNS上で出回り、流行しました。もともとは拒否の意味で使われていましたが、これが「友情の証」として広まりました。

オタク拒否ポーズ
オタク拒否ポーズ

■「深い間柄」が希少価値になっている

なぜZ世代の若者の間で「友達推し事」がトレンドになったのでしょうか。

ポイントはその様子をSNSにアップすることにあります。友達本人に対して「私はあなたのことをこれだけ大切に思っているよ」というメッセージになるからです。

それだけではありません。「友達推し事」は、「スマホに写真を入れるほど絆の深い友達がいる私」というセルフブランディングに利用されている点も重要です。「オタク拒否ポーズをしてお互い嫌いだと冗談を言い合えるほど仲の良い友達が私にはいる、あなたたちにはいないでしょ?」という周囲へのマウンティングの心理も働いていると思います。

深い間柄の友達しかいなかった僕の世代からすれば、同級生と仲むつまじい姿をわざわざ周囲にアピールしても、何の意味もなかったわけです。しかし、SNSを当たり前に使い、友達関係が「広く浅く」なったZ世代には、深い間柄の友達がいること自体が希少価値になっていることがわかります。

■誕生日を間接的にアピールするZ世代の心理

②「間接バースデーPR」とは、自分の誕生日をSNSで間接的にアピールすることです。深い友情を築き直そうとするZ世代の気持ちが表れているトレンドと言えるでしょう。「間接」であることがポイントです。

Z世代は「今日は私の誕生日!」と直接アピールすることに抵抗を感じる人が少なくありません。「祝われたい欲求」が垣間見えてしまい、周囲から“イタい子”と思われることを警戒しているからです。

その代わりにSNSでは、誕生日に関連する色、花、写真を投稿し、間接的にアピールする方法が流行しました。

その方法の一つが、「自分が生まれた日にNASAが撮影した写真」と題し、NASAが運営するウェブサイト「Astronomy Picture of the Day(通称:APOD)」の天体画像を投稿すること。また、誕生日に合わせて決められた花のデザイン「花個紋」や「バースデーカラー」の投稿もSNS上に続出しています。

2014年4月3日「Astronomy Picture of the Day」より
2014年4月3日「Astronomy Picture of the Day」より

こういった写真や画像をただ投稿し、今日が自分の誕生日であることを婉曲(えんきょく)的に伝えます。投稿を見た人たちも、「これを載せているということは今日が誕生日なんだ」と理解するのです。

誕生日をアピールするのは、人とつながるチャネルを作り、関係性を深める機会をつくろうとしているから。また、お祝いメッセージをくれるかどうかで自分に対する相手の友情を測っているとも考えられます。

アナログ世代の僕からすると、こんな間接的な方法のほうがダサいと思ってしまうのですが、今の時代、空気を読んだコミュニケーションがマジョリティーなのです。

■都会より「田舎映え」を求めるようになった

③「田舎映え」とは、田舎でしか撮影できない「映え」をSNSに投稿し、差別化を図ろうとするものです。友達とプチ旅行をし、友情を深めるきっかけにもなっています。

ビーチで夕日を背景に写真を撮る人たち
写真=iStock.com/1550539
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/1550539

これは、近年SNS上で流行したとても面白い現象です。今までの「映え」は、東京や大阪のお洒落なカフェといった洗練されたスポットで撮影される、もっぱら都会的なものでした。

ところが、あまりにも多くの似通った投稿がSNSに溢(あふ)れた結果、Z世代は「都会の映え」に飽きてしまった。コロナ禍で海外に行きにくくなったことも重なり、これまで目を向けられてこなかった日本の地方が注目されるようになりました。

例えば、ライトをつけたビニール傘を真っ暗闇のなか差す「傘ライト」、100均で購入できる月の形をしたライトを海辺で投げて撮影する「月ライト」、特殊なサングラスを使って花火の光をハート型に見せる「ハートサングラス」など、田舎だからこそ撮れる映えがブームになっています。

最近では、再び旅行がしやすくなったものの、Z世代の旅行先は国内が主流です。気軽に行ける地方旅行に友達を誘い、旅先で「田舎映え」を撮ってSNSに投稿する――これも、友情を確認し合い、深めるための手段となっていると思います。

■「スナップチャット」が注目されているワケ

④「いつメンSNS」とは、限られた友人だけで使うSNSのことです。

インスタグラムやTikTokといったこれまでの広く浅くつながるSNSとは違い、本当に仲のいい「いつメン(いつものメンバー)」とだけつながれるアプリ(=いつメンSNS)を利用する人が増えました。コロナ禍で失われた「深く狭い人間関係」を求めるZ世代の心理が最も端的に表れていると思います。

「いつメンSNS」の中で最も注目されているのが、Snapchat(スナップチャット、略称スナチャ)です。友達同士やグループでメッセージや画像、動画などを共有できるSNSアプリで、アメリカでは10代から圧倒的に支持されています。

他のアプリと違うのは、一度投稿を見ると1~10秒で消えてしまうことです。インスタやTikTokでは、投稿した写真や動画は削除するまで残ります。不特定多数にも見られます。Snapchatは時間が過ぎれば投稿は消えるため、限られた友達、グループ内で気軽に投稿ができます。

Snapchatのアイコンが表示されたスマホの画面
写真=iStock.com/stockcam
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/stockcam

すぐに消えるので「いいね」や「映え」、キャラづくりも不要です。それがZ世代にウケているのです。ここ数カ月で日本でも再び注目されるようになってきました。

このほか、5~6人の友達とゲーム感覚でタスク管理ができるhabitica(ハビティカ)、通知が来たら2分以内に無加工の写真を投稿することで“ありのままの自分”を親しい友達のみに見せることができるBeReal.(ビーリアル)、つながる人数に上限があるからこそ「今トイレ」「今お風呂」という親密でたわいない報告ができるBondee(ボンディー)など、「いつメンSNS」は挙げ出したらキリがありません。

SNSを駆使するZ世代のトレンドに、僕のような昭和世代の人は隔世の感を覚えるかもしれません。でも、私たちも大学生の時は友人たちと「落第するからテスト期間中は絶対に飲みに行かないことにしよう」「図書館に集合してみんなで勉強しよう」と言い合っていましたよね。

アプリか、アナログかの違いはありますが、Z世代がアプリを使って「早起きする」「ダイエットする」といった目標を設定し、共有するのも、やっていることは昔と同じではないでしょうか。

■「いいね」だけでは心は満たされない

Z世代の若者は、インスタやTikTok、Twitterで、大勢の人と広く浅くつながっています。その一方で「いつメンSNS」などを使って深く狭くつながろうとしています。

「結局のところ、Z世代は多くの人と交流したいのか、少人数だけで仲良くしたいのか、一体どっちなのか?」という疑問を抱く人もいるかもしれません。

この問いは、時系列で考えるといいと思います。僕は、多くの人とつながりたいというZ世代の欲求心理は、TikTokの大流行でピークを迎えたと考えています。

自分も試しに発信してみたら同世代の知らない人からたくさんフォローされてプチ有名人気分に浸れたけれど、変な人から連絡が来るようにもなり、嫌な目に遭うこともあった――。そう打ち明けるZ世代が大勢いるのも事実です。

かつては、SNSでつながる広く浅い人間関係も持つ一方で、深く狭いリアルの友達も確かにいましたが、コロナ禍の3年で、リアルの交友関係が抜け落ちてしまった。すると、やっぱりSNSの「いいね」だけでは満たされないわけです。

■本当に自分を大切にしてくれる友人が欲しい

SNSが異常なほど発達したせいで、私たちはついに、「リアルでは知らない人」とつながることが可能になりました。

Z世代の若者にとって、インスタグラムで面識のない「友達の友達の友達」をフォローするのは当たり前。TikTokで全く会ったことのない同世代の人たちと交流するのも当たり前です。SNSで知り合った人とリアルで会うことも多くなりましたが、交友関係は昔より広くなった分、浅くなってしまったと思います。

カフェで楽しむ二人の女性
写真=iStock.com/recep-bg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/recep-bg

だからこそ、本当に自分を大切にしてくれる友人が欲しい。交友が広く浅くなりすぎたがゆえの反動として、今は親しい人との絆の深化へと揺り戻しが起きていると、僕は考えています。この心理のもとで、「友達推し事」や「いつメンSNS」は表れたのでしょう。

Z世代のトレンドは、上の世代からは理解できない不思議なものが多いです。しかし、若者たちは、SNSの発達やコロナ禍で奪われた友情を必死に築き直そうとしているのです。

■若者の間で「友情格差」が広がっている

とはいえ、Z世代の全員がSNSを使いこなしているわけではありません。人とのコミュニケーションが苦手で、はやりに乗るのが恥ずかしく、SNSに手が出せないという子たちは、サイレントマジョリティーかもしれないのです。

実際に僕が教えている大学では、最近までオンライン講義が続き、「入学以来リアルな友達が一人もできない」という学生も少なくありません。人間関係を再生させることもできず、孤独感を深めている若者たちが大勢います。

昔なら何も苦労せず、ただ生きているだけで手に入っていた「深い人間関係」は、もはや当たり前のものではなくなってしまいました。深い人間関係が築ける若者と、築けない若者――両者の間には、深刻な「人間関係格差」が生まれているのです。

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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。

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(マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授 原田 曜平 構成=奥地維也)

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