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なぜ座席に「飲み放題の蛇口」のある居酒屋が増えているのか…若者の飲み会シーンで起きているスゴい変化

プレジデントオンライン / 2023年4月5日 19時15分

写真提供=GOSSO

若者の「友達づきあい」が変化しつつある。Z世代のトレンドに詳しい芝浦工業大学の原田曜平教授は「SNSによって交流範囲が広がった反動で、『深く狭い友人づくり』を求めるようになっている。このため飲み会シーンにも変化が起きている」という――。(第2回/全2回)

■「濃密な時間」を過ごすZ世代のアイデア

「Z世代」と呼ばれる10代から20代前半までの若者の間で、友達との向き合い方に変化が起きています。ひとことでいえば「広く浅い人間関係」から「深く狭い友人づくり」という変化です。

前回は、Z世代がSNSを駆使して「友情の再構築」を試みている様子・トレンドを紹介しました。今回はリアルに焦点を当てます。具体的にどんなことをしているのか。以下の6個のキーワードにまとめたので、順を追って説明しましょう。

①コスメクリエケーション……好きな色のコスメを作ることで友達との思い出を残す
②呼び出しおしゃれ……会わないと気付けないお洒落をして会うきっかけを作る
③お酒れブランド……デザイン性の高い服でさりげなく「お酒好き」をアピール
④スマホ利用飲みゲー……誰もが持っているスマホで大声を出さずに飲み会を盛り上げる
⑤同調飲酒……お酒の強さに関係なく、気を遣わずにみんなで飲み会を楽しむ
⑥背徳友情……夜にハイカロリーなパフェを食べる背徳感を友達と共有する

■学校帰りに非日常を気軽に楽しむ

①「コスメクリエケーション」とは、身近なコスメを自分たちで作りながら(クリエイティブ)友達と親睦を深める(コミュニケーション)のことです。

自分に合った、好きな色のアイシャドウや口紅、香水といったコスメを一緒に「創る」ことで友達との思い出を残したい――。そんなニーズから生まれたトレンドです。SNSでもコスメ作りの様子が頻繁に投稿されるようになりました。

TikTok「LIP ATELIER」
TikTokでは、コスメをつくる様子が頻繁に投稿されている。

これは、仲のいい友人と旅行に行って旅の思い出にろくろを回して食器を作るような、かつて私たちの世代がしていた行動と性質は同じです。しかし、コロナ禍のせいで深く狭い友情はおろか、広く浅い交友すら失ってしまったZ世代は、できるだけ多くの友達とできるだけ多くの思い出を残さなければなりません。

大人数での旅行はみんなの予定も合わせづらいし、かといって2人で旅行に出かけるほどまだ深い間柄ではない。そもそも旅行はお金も時間もかかるから、1カ月に何人もと遠くへ遊びに行くのは無理がある。

そこで考えだされたのが、学校帰りにも気軽にできる「コスメクリエケーション」という方法でした。日常において非日常を創出することで、コスパ・タムパ(タイムパフォーマンス)よく友達と付き合い、友情を築き直そうとしていると考えられます。

■対面で会うための口実を上手に作り出す

②「呼び出しおしゃれ」とは、会わないと気付けないお洒落をして会うきっかけを作ることです。細部にこだわったお洒落であり、ほとんど誰も見ない爪の裏にラメを塗ったりパールをつけたりする「裏ネイル」が典型例です。

例えば、歯につけるジュエリー「ティースジュエリー」は、Zoomだと歯に青のりがついているかと思うほど見えづらいのですが、アメリカ人歌手のケイティ・ペリーさんや、韓国の音楽グループBLACKPINKのLISAさんなどの有名セレブの影響で日本でも話題になりました。

Instagram「ティースジュエリー」
「呼び出しおしゃれ」として注目されているティースジュエリー。Instagramの投稿より。

瞳がハート型になる「ハート型カラコン」は「呼び出しおしゃれ」のアイテムです。僕も実際につけてみましたが、すごく近くからのぞき込まないとわかりません。

対面で人に会いづらい期間が続いた影響から、わざわざ友達と会うことが特別な意味を持つようになりました。互いの仲の良さを確認し、周囲への仲良しアピールにもつながります。「呼び出しおしゃれ」は相手を誘い出す口実として、Z世代の心理にマッチしました。

レストランで隣に座ることで始めて気付くようなお洒落をすることで、友達を誘い出し、「今日ハート型のカラコンしてるんだ」「え、見せて見せて」と相手との距離を縮めようとするきっかけとして活用していると考えられます。

■なぜ「お酒好き」をアピールするのか

③「お酒れ(おしゃれ)ブランド」とは、近年続々と生まれている、お酒をテーマにしたファッションです。ビール柄の靴下や、「酒飲倶楽部」「NONBEE」と書かれたTシャツなどが、Z世代のお洒落アイテムとして広がりました。

デザイン性の高い服でさりげなく“お酒好き”をアピールしたい――。そんなZ世代の心理が反映されていると思います。なぜ、彼らはお酒好きをアピールしたがるのでしょうか。

自粛ムードが明けつつあるなか、交友関係を広げるため飲みに誘いたいし誘われたいものの、コロナ禍で酒離れしている人も多く、気軽に声をかけづらくなったとZ世代は感じています。また、コロナ禍が完全に終わったとは言えない状況下でお酒好きを直接的にアピールすると周りから引かれてしまうのではないか、という懸念も生まれました。

お酒をモチーフにした服を普段からさりげなく着て酒好きという自己ブランディングをしておけば、「あいつ、いつもお酒のTシャツ着てるから飲み会に呼ぼうぜ」というように、誘われる可能性が高くなるはずです。「お酒れブランド」を着ることは、受動的であるようで積極的な、“誘われ待ち”の戦略なのです。

「呼び出しおしゃれ」が誘う側の工夫だとすれば、「お酒れブランド」は誘われる側の工夫と言えるでしょう。

■大学生の飲み会で異変が起きている

まだまだ大声を出すことがはばかられる今、大学生のなかで流行しているのが④「スマホ利用飲みゲー」です。

これは、それぞれ好きな人に同時に電話をかけて一番早く折り返しの電話があった人が勝ち、最後まで折り返しがなかった人は一気飲みをする「好きピに電話ワン切りゲーム」や、文字通り「通知来たら負けゲーム」「スマホ触ったら負けゲーム」など、誰もが持っているスマホを利用して飲み会を盛り上げる仕掛けです。

コロナ禍で大勢での飲み会が開催できず、自粛が続いて誘いにくい状況が続きました。その影響から、大声でコールをしたり、山手線ゲームで騒いだりすることはなくなりつつあります。その代わりとなるゲームが新しく生まれたわけです。大声で歌ったり、騒いだりせずとも、以前と同じように友情を深められるよう工夫しているのでしょう。

若者のお酒の席には、もうひとつ大きい変化が起きています。

ここ数年、座席に蛇口のついた居酒屋が異常なペースで増えているのにお気付きでしょうか。自分でお酒を注ぐ形式の、安価な、飲み放題の居酒屋です。東京・高田馬場などの大学生の多いエリアでは、座席でレモンサワーを自分で注ぐのが学生の飲み会のスタンダードになっているほどです。

座席に蛇口のある居酒屋
写真提供=GOSSO
人気の飲食店「ときわ亭」。テーブルの蛇口からお酒を注ぐスタイルをいち早く取り入れ、注目を集めている。 - 写真提供=GOSSO
座席に蛇口のある居酒屋
写真提供=GOSSO
手軽な価格の飲み放題とあって若い世代のユーザーも多い。 - 写真提供=GOSSO

■「自分で注ぐ居酒屋」が増えているワケ

なぜ座席に蛇口のついた居酒屋が増えたのでしょうか。お酒の強さに関係なく気を遣わずにみんなで飲み会を楽しみたいというZ世代の心理が反映されていると思います。私たちはこれを⑤「同調飲酒」と呼んでいます。

Z世代はコロナ禍前から、参加者が割り勘で同じ金額を払うことに対して、飲める人は気まずさ、飲めない人は理不尽さを感じていました。加えて、上の世代ほど飲みの場に慣れていないため、他人と飲むペースを合わせなければいけない気疲れもありました。

コロナ禍で人間関係がさらに薄くなり、それほど親しくない人たちと集まる機会が増えたことで、この心理に拍車がかかったのでしょう。安い飲み放題で代金は全員同額であれば、割り勘の引け目や不公平感を抱かずに済みます。

自分のタイミングでみずからお酒を注ぐシステムであれば、それぞれが飲んでいる量が一見してわかりづらいので、「飲める人も飲めない人もみんな同じぐらい楽しく飲んでいる」という同調感を常に保てる。おかげで誰もが他人に気を遣わずマイペースに飲めるというわけです。

■昔も今もお酒は友情を育むためのツール

こうした蛇口スタイルの居酒屋は、飲み放題で1時間500円などとかなり安価です。当然、お酒は大しておいしいわけではありません。もっとおいしいお酒、たくさんの種類のお酒が飲みたいと今の僕は思うのですが、思い返せば自分も学生時代はお金がなく、安い居酒屋に通っていたものです。

Z世代は人間関係が昔よりも広く浅くなっている分、飲み会の回数も増え、コスト意識が昔よりも高くなっていますから、より安い選択肢が支持されているのかもしれません。

これだけ若者がお酒離れしていると言われるなか、お酒Tシャツが大人気になり、大声を出さなくても盛り上がれる飲み会ゲームが考え出され、新しいスタイルの居酒屋が流行するのを目にするのは、不思議な気持ちがします。

昭和から平成、そして令和へと時代が変わっても、友情を育むためのツールとしての価値が、お酒には変わらずあるのでしょう。

■男同士の「夜パフェ」が当たり前になったワケ

⑥「背徳友情」とは、夜にハイカロリーなパフェを食べる背徳感を友達と共有したい、というニーズから生まれたトレンドです。

レストランでパフェを食べる女性
写真=iStock.com/SetsukoN
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SetsukoN

過去にも深夜にパフェを食べる「夜パフェ」がトレンドになりましたが、再び人気となっています。夜しか開店しない夜パフェ・夜アイスの専門店が、今年に入って全国各地に続々とオープンしています。こうしたお店に行った様子をSNSに投稿するZ世代が目立つようになりました。

僕にとって特に驚きなのは、友達と夜にパフェを食べて背徳感を味わうのは女の子だけではなく、男の子にも広がっていることです。

僕が若いころは、パフェの店に男二人で行くような時代ではありせんでした。男友達と食べるなら、ハンバーガーか牛丼、ラーメンだったわけです。当時はダイエットという発想はありませんでした。若いから代謝もいいし、飲んだ後にラーメンに行くのも当たり前。深夜に二郎系ラーメンを食べても、背徳など全く感じなかったわけです。

しかし、Z世代と呼ばれる今の若い人たちはダイエット意識が強いと感じます。みんな痩せていて、男の子もスラっとしており、外見にも非常に気をつけている印象を受けます。

僕の感覚だと、「背徳=違法、友情=酒」。昔はこの2つでしか男同士の友情は成立しないような時代でした。体育館の裏で隠れて喫煙するような不良たちの問題行動が「背徳友情」だったわけです。しかし、健康意識の高いZ世代にとっては、太りやすい夜にハイカロリーな「ギルティーフード」を食べる、ただそれだけのことが背徳になってしまうんですね。

僕は彼らを見て、「全然悪いことしてないじゃん」とほほ笑ましく思ってしまいます。ただ、彼らにとっては、夜という非日常な時間と背徳感という特別な感情を友達と共有することで友情を育もうとする、切実な思いがあるのかもしれません。

■フォロワーが多くても「本当の友達」は少ない

「広く浅い人間関係」――これが、SNSが浸透したZ世代の友達付き合いの特徴です。40代の僕から見れば「知り合い」に過ぎないような人を、10代から20代前半までの若者たちが「友達」と見なしていることはよくあります。

直接会ったり話したりしたことはあまりなくても、SNSのおかげで、毎日何をしているか、趣味は何か、誰と付き合っているかといったプライベートが把握でき、継続した関係性が発生しているからです。

共通の趣味をきっかけとしたSNS上のつながりがリアルの親交に発展することもありますが、相手のことを「親友」と呼びながら、住んでいる場所や家族の職業など相手の基本的な個人情報すら知らない場合もあります。

通っている高校が一緒で個人情報だけ知っている状態から次第に趣味を知っていく……という昔の友情の深め方とは真逆ですよね。よくそれで心を許しているなと、僕は驚いてしまいます。

コミュニティによって“キャラ”を変える人もいます。例えば、大学のゼミでは飲みキャラだからがさつな格好をしているけれど、SNSで知り合った推し活の友人たちと会うときは小ぎれいな服装をして出かけるというものです。

所属するグループに合わせて見た目や性格をカメレオンのように変えるのです。自分の限られた一面だけしか表に出せないような人付き合いは、大変です。

■「空白の3年間」で失ったリアルな友人関係

どんなにSNSが発達しているとはいえ、リアルで会うことが人間関係の構築に大切な役割を果たすのは、Z世代にとっても同じです。その友情を築く機会を、コロナ禍はZ世代から3年間も奪ってしまいました。僕の学生も、授業はオンラインになり、人と気軽に会えなくなったせいで、大学に入ってからほとんど友達の顔を直接見ていないという子ばかりです。

歩道橋の上で一人で夜の街を眺めている女性
写真=iStock.com/Satoshi-K
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Satoshi-K

再び人と自由に会えるようになった今も、昔のようにただカフェでおしゃべりしたり、映画を見に行ったり、居酒屋で飲んだりするだけでは、コロナ禍で失った時間を取り戻すことはできないのでしょう。

Z世代が放課後にわざわざ友達とリップを作ったり、これまで飾らなかった爪の裏や歯まで飾るようになったり、あえて夜にパフェを食べに行ったりするのは、一回一回のリアルな経験を濃密にしようとしているからだと思います。“過剰なリアル”を追求することで、Z世代は友情を築き直そうとしているのです。

かつての日常が戻りつつある今、若者たちは、失われた3年間の空白を必死に取り戻そうとしています。それがトレンドとして表れているのではないでしょうか。

ビーチではしゃぐ仲間たち
写真=iStock.com/molchanovdmitry
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/molchanovdmitry

■「本当の友情」は当たり前のものではなくなった

僕は学生を見ていて、思春期にコロナ禍が起きてしまったことは本当に可哀(かわい)そうだったと思わざるを得ません。大学に入っても、彼氏・彼女はおろか、友達すらできない子も少なくありません。

「本当の友情」は本来、放っておいても得ることができるものでした。クラスメイトや同級生、部活やサークルの仲間など、狭いながらも深い人間関係ができたのです。しかし、Z世代にはそれが当たり前ではないのです。

SNSの利用やコロナ禍の「空白の3年間」がZ世代に及ぼす影響は、とてつもなく深刻なのではないかと危惧しています。

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原田 曜平(はらだ・ようへい)
マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授
1977年東京都生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダーを経て、現在はマーケティングアナリスト。2022年より芝浦工業大学教授に就任。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。主な著作に『ヤンキー経済 消費の主役・新保守層の正体』(幻冬舎新書)、『パリピ経済 パーティーピープルが経済を動かす』(新潮新書)、『Z世代 若者はなぜインスタ・TikTokにハマるのか?』(光文社新書)、『寡欲都市TOKYO』(角川新書)、『Z世代に学ぶ超バズテク図鑑』(PHP研究所)などがある。

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(マーケティングアナリスト、芝浦工業大学教授 原田 曜平 構成=奥地維也)

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