ライブドア事件で10億円を稼いだ人間がいた…ホリエモン逮捕のウラで荒稼ぎしたリーマン社員の倫理観
プレジデントオンライン / 2023年4月12日 10時15分
※本稿は、恩田饒『実録 バブル金融秘史』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。
■ホリエモンの第一印象は「飾り気のないナイスボーイ」
2005(平成17)年頃、“ホリエモン”は時の人だった。日本一有名な経営者・堀江貴文の姿をメディアで見ない日はなかった。
筆者も、当時『勝ち組に学べ!』という書籍(磯崎圭二との共著・シグマベイスキャピタル刊)を執筆するにあたり、堀江とは何回か面談した。
場所は、当時ライブドアの本社のあった六本木ヒルズ38階の応接室。
筆者の見た第一印象は「飾り気のないナイスボーイ」だった。話し方も、彼の服装同様に「ノーネクタイ調」で、若手の経営者によく見られるような気取りや格好付けたところもなく、本音をオブラートに包まずズバリと表現するところは、ごく自然で好感が持てた。
■ニッポン放送の株を取得し、フジテレビの支配を目論む
堀江は2003年、経営破綻した無料プロバイダー「ライブドア」を買収し、自ら創業していた「オン・ザ・エッヂ」の社名をライブドアに変更していた。
当時は新進の企業家として注目されたが、料理に例えるなら、付け足しの「珍味的存在」などといわれてもいた。
それが翌年、近鉄バファローズ買収騒動あたりから、堀江の名前は全国区となる。
さらに2005年には、いわゆる「郵政解散」に伴う総選挙に立候補。小泉政権の放った刺客として、亀井静香の地盤の広島から無所属で立候補し、結果は落選したが、強いものに向かっていくドン・キホーテ的姿勢は若者の圧倒的な支持を得た。
一方で、ニッポン放送の株を取得し、フジテレビの支配を目論んだ(結果は失敗)あたりから批判的な目で見る人も増えてきた。
そして「ライブドア事件」が起こる。
■「ライブドア事件」で懲役2年6カ月の実刑判決が確定
2006年1月16日、東京地検特捜部がライブドア本社の捜査に入り、1月23日には偽計、風説の流布などの証券取引法違反で、堀江はCFO(最高財務責任者)・宮内亮治などの幹部と共に逮捕された。
同時に、ライブドアの監査をしていた港陽監査法人の二人の会計士も在宅起訴される。
堀江は2011年、最高裁で懲役2年6カ月の実刑判決が確定し、収監された。これが、いわゆる「ライブドア事件」である。
■当時は「循環取引」が横行していた
当時は、売上高を水増しするための「循環取引」が横行していた。
年度末に他社に商材を売ったように見せかけて売り上げを立て、後日、その売却先から買い戻す、というものだ。
これは粉飾決算であり、投資家を騙すことでもあるので、決して許されることではない。
こうした証券取引法の無視や違反が多発していたので、検察は、一罰百戒の意味も込めて堀江を逮捕、処罰した、つまりは“見せしめ”なのではないかともいわれた。
■「そのための見せしめ逮捕だ」
ここで、ライブドア事件を振り返ってみたい。
堀江の罪状は「マネーライフの企業買収をめぐる偽計、風説の流布、粉飾決算、有価証券報告書への虚偽記載など」だが、偽計、風説の流布での有罪判決は無理だろうといわれていたし、粉飾決算、有価証券報告書への虚偽記載は確かに問題ではあるが、それでも「執行猶予付きの有罪判決」程度だろうというのが、大方のマスコミの見方だった。
堀江自身も「検察が勝手に打ち上げた花火だ」とぼやいていた。
検察の捜査は恣意(しい)的なものだと言うマスコミ関係者もいた。「ニッポン放送を買収し、フジテレビを乗っ取ろうとしている社会秩序を乱すけしからんやつ。それを許しておくのはまずい。そのための見せしめ逮捕だ」と。
■堀江から甘い汁を吸っていたリーマン・ブラザーズ
検察は堀江主導を印象づけようとしていたが、これにもずいぶん無理があるように筆者には思える。東京地裁の判決文にも「検察が主張するように、被告人が最高責任者として本件各犯行を主導したとまでは認められない」と明記されている。
一方で当時、堀江社長のまわりには、金儲けを目的とした連中が数多くいた。2008年に破綻した米国の大手証券会社リーマン・ブラザーズもその一つである。
リーマンの社員は、稼ぎに応じて支払われる多額なボーナスのためにあらゆる手段を弄(ろう)し、堀江から甘い汁を吸っていた。
例えば、ライブドアがリーマン・ブラザーズ主幹事で発行した、特殊な転換社債を利用して儲けたのだ。
リーマンの法人部は、堀江の所有するライブドア株を「担保にするから」などのさまざまな理由を付けて借り入れ、それを売って儲けていた。その転換社債は、発行後に株価が下落すれば転換価格も下方修正される仕組みの、いわゆる「MS型転換社債」だった。
■10億円のボーナスを手にした者もいた?
当時、リーマンは、それぞれの部署の利益の一定のパーセントがボーナスとして支給される給与体系になっていた。
リーマンの日本法人の法人部は、ライブドア株式を売却して儲けた。リーマンにはリスクがないからくりになっていて、その手法で100億円以上の利益を上げ、担当幹部の中には10億円のボーナスを手にした者がいたなどの噂も流れた。
その後、転換価格が下方修正されるような特殊な仕組みの転換社債の発行は禁止された。
前述の『勝ち組に学べ!』も、2005年の出版時はある程度売れていたが、翌年1月に堀江が逮捕されて以来、売れ行きが細ったこともあり、「ライブドア事件」は鮮明に筆者の記憶に残っている。
時代は流れ、その堀江も、今では元気にメディアにも出演し、民間ロケット開発など新しい夢を追いかけている。
■「リーマン・ショック」で世界経済は大打撃
2008(平成20)年9月15日、リーマン・ブラザーズの破綻を契機に、「リーマン・ショック」が世界を駆け巡った。
この信用不安は「100年に一度の世界金融危機」といわれ、世界経済は大打撃を被った。
このリーマン・ショックが起こる半年前、米国で、途方もない危機のマグマが地表に噴き出そうとしていた。その震源が「サブプライムローン」である。
サブプライムローンとは、米国の住宅ローンのカテゴリーで、所得の低い人向けの金利優遇のないローンを意味する。
実際にローンを貸し出した金融機関は、債権を証券会社に売却し、証券会社はこれを小口証券化して、他の金融商品と組み合わせて販売していた。
こうして「毒入り資産(Toxic Assets)」と呼ばれる怪しげな金融商品が、世界中にばらまかれていた。
■ベアー・スターンズの救済が危機を広めた
そして、住宅バブルが崩壊。サブプライムローンの返済不能者が続出した。
これを購入していた金融機関が危機に陥り、世界中に金融システムの不安が広がって負の連鎖が実体経済に及んだ。
この影響で、米国第5位の証券会社ベアー・スターンズが経営危機に陥るが、FRB(米連邦準備制度理事会)が緊急融資を行い救済する。
これで危機は一時的に回避されたように見えた。だが皮肉なことに、この救済が危機をさらに広める結果となる。
■日本のリーマン・ブラザーズ証券も破綻
ベアー・スターンズ救済の半年後、米国第4位の証券会社リーマン・ブラザーズが経営危機に陥る。
しかし今度は、FRBも米国財務省も救いの手を差し伸べなかった。
2008年9月12日、ポールソン財務長官はあらためて公的資金の使用を否定した。
このようにして起こったリーマン・ショックは、米国だけにとどまらず、世界中に大きなショックを与えた。
日本法人のリーマン・ブラザーズ証券は、従業員1200人を抱え、東証売買代金で証券会社トップに立つビッグプレーヤーだった。
9月12日の夜、ポールソン長官の「リーマンの買収交渉が難航している」との報告が日本側にもたらされ、翌13日の土曜日にはFRB議長のバーナンキからも「リーマンの破綻法申請は不可避」との連絡が日銀にもたらされる。
結局、9月16日、日本法人リーマン・ブラザーズ証券は、東京地裁に民事再生法の適用を申請。負債総額は3兆4314億円で、戦後2番目の大型倒産となった。
■ニューヨークダウが史上最大幅の暴落
リーマン・ブラザーズが破綻したその日、米証券会社第3位のメリルリンチも破綻したが、こちらはバンク・オブ・アメリカに救済売却された。
米国政府は、日本でいえば三洋証券のような“準大手”のリーマン・ブラザーズに対してはハードランディングの対処をしたが、四大証券クラスに相当するメリルリンチは救済するという明確な方針で臨んだのだ。
さらに、その翌日には、大手保険会社AIGがFRBから緊急融資を受け、公的管理下に入る。
その後も、欧米の金融市場のあちこちで火の手が上がり、信用収縮の連鎖が広がった。
それは、1929年の大恐慌を彷彿とさせる規模となる。
米議会で「金融安定化法」が否決され、ニューヨークダウが史上最大幅の暴落を演じたのだ。
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元大和証券常務
1934年生まれ。1962年に東京大学卒業。同年大和証券入社。米国大和証券社長、大和証券常務取締役、証券団体協議会常任委員長などを経て、1995年にKOBE証券(現インヴァスト証券)社長に就任。その後、2006年にシーマ(ジャスダック上場)社長、2009年にITbook(東証上場)社長、2012年に同社会長兼CEOを務め、2021年に退任。その傍ら、日経コラム「大機小機」の執筆(1992~94年)を担当。さらに『勝ち組に学べ!』(磯崎圭二との共著、シグマベイスキャピタル)、『女性を輝かせるマネジメント術』(山岸和実との共著、カナリア書房)などのビジネス書も著す。
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(元大和証券常務 恩田 饒)
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