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「スタバを抜いて1位に…」経営悪化のマクドナルドがV字回復を遂げ外食産業で"1人勝ち状態"の理由

プレジデントオンライン / 2023年4月10日 8時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

業績悪化が続いたマクドナルドはいかにして奇跡のV字回復を実現させたのか。高千穂大学の永井竜之介准教授は「2015年を底として、マクドナルドは奇跡的なV字回復を果たしていく。その背景には、マクドナルドを『信頼してくれるファン』を増やすための、きめ細やかなマーケティング戦略があった」という――。

■老若男女に愛されるマクドナルド

日本マクドナルドは、いまや、トップクラスに好感度が高く、子供や若者だけでなくファミリー層や中高年層も、安心してお得に便利に利用できる「信頼できるブランド」としてファンを拡大し、さらなる成長を遂げている。

マクロミル ブランドデータバンクが2021年1月に実施した「よく利用するカフェ・ファストフード店」の調査によれば、5年前の調査では男女ともに1位はスターバックスだったところ、マクドナルドが男女いずれもスコアを2倍以上に大幅上昇させて1位に躍り出た。また、CM総合研究所の「2022年11月前期調査 作品別CM好感度ランキング」では、マクドナルド「三角チョコパイ」が総合1位に輝き、トップ10のうち、じつに4つがマクドナルドのCMという圧倒的な支持を集めた。

■業績悪化からの奇跡的なV字回復

しかし、わずか10年前、マクドナルドは信頼とは程遠いイメージで、売り上げを低迷させて苦しんでいた。ここでは、日本マクドナルドの奇跡的なV字回復について、「信頼してくれるファン作り」という視点から見ていこう。

1948年にアメリカ・カリフォルニアでマクドナルド兄弟の始めたマクドナルドが、日本に進出したのは1971年、東京の銀座三越にオープンした銀座店だった。そこから日本全国に約3000店舗を展開するまでに拡大したが、現在までの道のりは平たんではなかった。

1990年代後半から2000年代前半にかけて、最も安い時にはハンバーガーを50円台で販売するほどの安売りによってブランドイメージを低下させた。また、2010年代前半には原材料の賞味期限切れ問題や異物混入騒動が立て続けに発生し、ブランドイメージと業績を大幅に悪化させて、2014年から2年連続の赤字を経験してしまった。

しかし、2015年を底として、そこからマクドナルドは奇跡的なV字回復を果たしていく。その背景には、信頼を回復し、マクドナルドを「信頼してくれるファン」を増やすための、きめ細やかなマーケティング戦略があった。

まず、それまでの効率性や話題性に偏重していた方針を改めた。安易な安売り、店頭のメニュー表廃止、60秒以内に商品提供できなければ無料券配布キャンペーンなど、提供商品やサービスの水準を低下させて「安かろう悪かろう」のイメージを招いていた方針をやめて、安心と品質を最優先する方針へ舵を切った。

■食品の安全性に特に敏感なお母さんからの厳しい意見

2015年5月開始の「Mom’s Eye Project(ママズ・アイ・プロジェクト)」は、その象徴的な取り組みといえる。日本マクドナルドの社長自ら47都道府県を回り、計352名のお母さんたちとマクドナルドについて話し合う「タウンミーティング with ママ」を実施した。問題や騒動が起きても、それでもマクドナルドの利用を続けてくれているお母さんたちに、利用しなくなったママ友を連れてきてほしいとお願いして、率直な厳しい意見にしっかり耳を傾けた。

この取り組みを通じて、食品の安全性について特に敏感なお母さんが、安心して子供と一緒に利用できて楽しめる店づくりを共に実現していった。「店が汚い」という声を受けて店をカフェ調に改装したり、各商品の安全性をより明確に分かりやすく知ることができるようwebサイトメニューページや商品パッケージQRコードを改善したり、要望に応えて野菜を沢山取れる温かいスープ商品の提供を開始したりするなど、様々な声を実現させた。

ドライブスルーのあるマクドナルドの店舗
写真=iStock.com/shaunl
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shaunl

■ファンの心を掴んだ新メニュー

新メニューも続々と好評を博した。「おてごろマック」の新バーガー、平日ランチタイムのお得な「バリューランチ」、肉厚パティの美味しさにこだわった「グラン」シリーズや「サムライマック」、そして17時以降にプラス100円でパティが倍になる「夜マック」など、お得で、ニーズに応える商品が、ファンの心を掴んだ。

また、プロモーションも大きな効果を発揮した。1つは、SNSでバズることを重視したプロモーション戦略だ。商品パッケージは、「写真に撮ってSNSでシェアしたくなる」デザインに変更した。商品名は、Yahoo!やLINEのニュースの記事タイトルに収まるように、短く省略できる呼び名を付けた。「エッグチーズバーガー」は「エグチ」、「チキンチーズバーガー」は「チキチー」のように短い呼び名を付けることで、記事タイトルに採用されやすくしたわけだ。

最も投票数の多かった内容が実現されるというキャンペーン「マクドナルド総選挙」では、遊び心にあふれた動画を30本以上作成し、ユーザーを楽しませるとともに、「ツイートで投票」で1ポイント、「食べて投票」で100ポイントと設定して、店舗で食べて投票するように誘導した。その結果、大規模な広告は打たずに自社SNSで告知しただけだったが、大きくバズることに成功し、合計約2億ポイントもの投票が集まった。

■ユーザーに最適化したデジタル・クーポン

効果を発揮したもう1つのプロモーションは、ユーザー1人1人に最適化したデジタル・クーポンだ。例えば、よく利用してくれるが、固定メニューだけで、新メニューには手を出してくれないユーザーには、新メニューを大幅に割引するクーポン。よくセットメニューを購入してくれるユーザーには、セットにもう1品追加する商品の割引クーポン。利用をやめてしまったユーザーには、以前に購入していた商品の割引クーポン。まるで行きつけの店が常連さんに特別なサービスをしてくれる感覚で、「個別対応」のクーポンを専用アプリで届けることで、ユーザーを掴んで放さなかった。

こうした各種取り組みによって順調にV字回復を進めた日本マクドナルドは、コロナ禍という未曽有の危機をチャンスに変えることで、「信頼できるブランド」として飛躍し、さらに業績を伸ばすことに成功した。

芝生の上に座りスマホを使用している女性
写真=iStock.com/Oleksii Didok
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Oleksii Didok

■コロナ禍のニーズにいち早く対応

もともとマクドナルドは店舗内で飲食してもらう体験価値を重視していたが、コロナ禍で対人接触を避けて「安心で便利な外食サービス」を望む新しいニーズが生まれると、いち早く新ニーズを満たすサービスを提供していった。

レジに並ぶことなくスマホで注文・決済できるモバイルオーダー、対人接触を抑えてテイクアウトできるドライブスルー、自宅で受け取れるデリバリー、駐車場で受け取れる「パーク&ゴー」など、安心・便利にマクドナルドを利用できる選択肢を豊富に提供することで、幅広いユーザーの信頼を獲得した。

コロナ禍でオフィス街の来店客数は減少したが、それを補って余りあるほど、郊外や住宅街のファミリー層を中心としたまとめ買いが伸びて、増収増益を実現させた。外食産業全体が危機を迎えた中、日本マクドナルドは「1人勝ち」と言われるほどの驚異的な成果をあげることに成功した。

■ファンを増やした「納得」と「便利」

マクドナルドが「信頼してくれるファン」を増やすファンマーケティングに成功した背景には、「納得」と「便利」という2つのキーワードがある。商品・サービスの機能や品質に、心の底から納得できて初めて、顧客はそのブランドを「信頼できる」と判断する。「自分のことを考えてくれている」「このブランドなら安心だ」と感じて、信頼関係が生まれる。ただ良い商品・サービスというだけでなく、コストパフォーマンスに優れている方が納得感を得やすくなる。また、顧客に「便利な価値」を提供する商品・サービスは信頼を獲得しやすい。「使いやすい」「役に立つ」といった便利な価値は、顧客からの信頼を集めることができる。

地道にファンの声を聞きながら、ファンと共に安心・安全の美味しさを提供する店づくりを進めたからこそ、マクドナルドは納得して信頼できるお店に生まれ変わることができた。そして、ニーズに応える商品・サービスを提供し、コロナ禍でも利用しやすい選択肢を豊富に提供することで、便利で頼りになる外食サービスとなって「信頼してくれるファン」を増やすことができた。

ファンの中で一度確立された信頼は、裏切りを起こさない限り、「コロナ特需」として簡単に終わるものにはならないだろう。マクドナルドを信頼するファンは、コロナ禍が収束した後も離れることなく、信頼して支え続けてくれる心強い味方だ。

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永井 竜之介(ながい・りゅうのすけ)
高千穂大学商学部准教授
1986年生まれ。専門はマーケティング戦略、消費者行動、イノベーション。産学官連携活動、企業団体支援、企業との共同研究および企業研修などのマーケティングとイノベーションに関わる幅広い活動に従事。主な著書に『マーケティングの鬼100則』(ASUKA BUSINESS)、『嫉妬を今すぐ行動力に変える科学的トレーニング』(秀和システム)、『リープ・マーケティング 中国ベンチャーに学ぶ新時代の「広め方」』(イースト・プレス)などがある。

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(高千穂大学商学部准教授 永井 竜之介)

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