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6児を育てる女医「忙しい方が多くのことをできる」子育てと仕事をしながらハーバード留学を実現できたワケ

プレジデントオンライン / 2023年4月6日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kohei_hara

同時並行で多くのことをできる人は何をしているか。医師の吉田穂波さんは「産婦人科医として勤務しながら、受験勉強・子育て・家事を両立し2人の子どもを連れてアメリカへ留学できたのは時間の制約があったからだ。『目が回るほど時間がなく忙しい』というときは、ステージアップのチャンスである」という――。

※本稿は、吉田穂波『「時間がない」から、なんでもできる!』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。

■忙しいときに限って机を片づけたくなる理由

「勤務先では、一日中、めいっぱい仕事、仕事、仕事。家に帰ってもバタンキューで寝るだけ。朝起きてまた仕事に向かって、夜遅くまで仕事」
「慌ただしい仕事を終えたら、保育園のお迎えをして今度は家事と育児。まったく自分の時間もない」
「仕事に家事に、一日中てんてこ舞い。自分がしたいことをするどころか、毎日を回していくのでせいいっぱい」

こんなふうに愚痴ってしまいたくなるときがありませんか?

その気持ち、すごくよくわかります。私もそうでした。

でも、今ならこういえます。

「毎日忙しくて消耗しますよね。でも時間がないということは、実はすごいチャンスなのですよ。やりたいことを始める最大のチャンスです!」と。

時間が自由にならなくて、何かに追われているときに限って「やりたい!」という強烈な思いが湧き上がってきた経験はないでしょうか?

「本当はこうしたいのに!」「そういえば、これもやろうと思っていたんだった」「あれもしたい」……まるで、身動きのとれない現状から抜け出そうとするかのように、他の何かに熱中したくなる経験。

しなければならないことが目の前にあるときに限って、整理整頓をしてみたくなったりするのも、時間に追われ、切羽詰まった自分が「きれいで居心地のいい場所に」という無意識の本能をふと思い出し、そのエネルギーが湧いたということ。

たとえば私の場合なら、子どもができて自分の時間が制限されるようになったとたん、それまではあまりありがたみがわからなかった勉強会などに無性に出たくなりました。

忙しくなればなるほど「あの本が読みたい」「生で落語や演劇を観(み)たい」「英語を勉強したい」「旅行に行きたい」など、やりたいことが増えていきました。

そう、自由な時間がないとき、忙しいときというのは、実は「やる気」のエネルギーが満ちあふれるときでもあるのです。

このエネルギーが噴出しているときは、やりたいことを始める最大のチャンス。

ときとしてそのエネルギーは、自分の人生を切り開く力さえもっている。

私はそう思っています。

■「24時間フル稼働」で仕事の評価は低いまま

といっても、私がこう考えられるようになったのはつい最近のこと。

晴れ晴れとした気持ちで家族とボストンの空港に降り立った日から、遡(さかのぼ)ること約1年半。私は仕事と家事と育児に追われ、毎日を憤慨した気分で過ごしていました。

冒頭の「勤務先では、めいっぱい仕事、仕事、仕事。家に帰っても家事と育児という名の仕事、仕事、仕事……」そう嘆いていたのは、何を隠そう、かつての私自身だったのです。

当時、私は東京・銀座の女性総合外来で、産婦人科医として働いていました。長女は2歳、次女は生後2カ月でした。

勤務時間は午前9時から午後5時まで。当時の自宅は栃木県宇都宮市にあったため、通勤には往復で約3時間かかりました。夕方5時になると病院を飛び出し、帰路を急ぎます。

保育園に子どもたちを迎えに行き、家に着くのは午後7時近く。そこからは子どもの相手をしつつ、夕食を作り、食べさせ、下の子に授乳をし、お風呂に入れ、洗濯をし、明日の保育園の準備をする……。毎日怒濤(どとう)のように時間が過ぎていきました。

赤ちゃんをあやしながら、洗濯物を取り出そうとしている母親
写真=iStock.com/SolStock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SolStock

当時の私は産婦人科医といっても、経験も知識も豊富なベテランドクターと違い、卒業後8年目で発展途上の半人前ドクターでした。

ベテランドクターに近づくために、もっともっと最新の情報や知識を吸収して、治療に生かしたい、患者さんにとって最善の結果となるような治療を、自信をもって行いたい。

そう意気込むものの、ほとんどは夕方以降に開かれるセミナーや講習会、勉強会に出席する時間がとれません。

治療の科学的根拠をつくるための統計・疫学といった研究スキルも身につけたい。そのためには留学という方法もある。そういえば、いずれは留学したいと前々から思っていたよね。あぁ、でも、毎日疲れきって教科書を開くことすらままならないじゃないの。

子どもを寝かしつけながらこんなことを思いつつ、疲れと睡魔に負けていつの間にか夢のなか……、という毎日でした。

また、自分では「24時間フル稼働」という感覚でしたが、勤務先では夕方以降の診察ができず、会議などにも出られないため、仕事の評価は下がっていきました。

■ストレスばかりがたまり愚痴るだけ

さらに追い打ちをかけたのが、長女の入院です。長女は1歳の誕生日を過ぎた頃、肺炎をきっかけに小児喘息(ぜんそく)にかかってしまったのです。喘息は、気管支が炎症を起こして腫れる病気です。

重症発作を引き起こすと、あっという間に全身状態が悪くなり入院が必要になります。

発作の程度は子どもによって違うので通院で乗り切れる場合もありますが、長女の場合は10日前後の入院をするのが常でした。

入院すると、ほぼ24時間、ベッドの横に家族の誰かがつくことになり、そのほとんどは母親の私の役目でした。

小児喘息は、一度症状が改善しても繰り返しやすい、という特徴があります。退院し、しばらく家で様子を見て、ようやく保育園に登園、私も安心して仕事に行けると思ったのもつかの間、再び発作を起こして入院ということを何度か繰り返しました。

フラストレーションがたまります。

新しい情報や知識の吸収どころか、ましてや留学どころか、満足に仕事にさえ行けない。暗澹(あんたん)たる私の気持ちとは対照的に、症状が落ち着いてきた長女がベッドの上で無邪気に笑っています。

元気になって本当によかったと安堵(あんど)しつつ、今日はたしか担当の患者さんの予約が入っていたはず、誰が私の代わりに診てくれたのだろう、こうたびたび休むようでは上司や患者さんに申し訳ないと落ち込みました。

こんなに毎日一生懸命がんばっているのに何もうまくいかない。誰も認めてくれない。気づけば夫や友人に愚痴ってばかりいる自分がいて、しばらくこの状態が続きました。

■「やろうとしないから、困難なのだ」

しかし、ある日ふと疑問に感じたのです。

「私は自分のことを悲劇のヒロインのように思っているけれど、このままで本当にいいの?」と。

そしてこの苦しい状況からなんとか抜け出したい、現状を変えたい、変える方法はないだろうか、そう本気で考えました。

そんなとき、書籍のなかに見つけた言葉が、私の胸に突き刺さりました。

「困難だから、やろうとしないのではない。やろうとしないから、困難なのだ」(『三週間続ければ一生が変わる』ロビン・シャーマ著・北澤和彦訳・海竜社)

そうか。私は、勉強したい、向上したいと思いながら、それができないことを環境や子どもの体調のせいにしている。そしてそんな自分を、忙しいから仕方ない、と心のどこかで許している。このままではいけない。

それがすとんと自分の腹のなかに落ちたとき、カチッ! と音を立てて、私のなかのスイッチが切り替わったのです。

留学を実現させよう!

■鬱々とした思いを着火剤にする

産婦人科医としての仕事をしながら受験勉強をして、2人の子どもを連れてアメリカへ留学したというと、「どうやって?」と聞かれることが多いのですが、すべての出発点はここにあります。

時間がなかったからこそ、できた――。

今思うと、産婦人科医としての仕事があり、子育ても家事もやらなければいけないという、時間の制約が常にあり、抱えている「大荷物」がたくさんあって、身動きのとれない状況だったからこそ、強く「やりたい!」という気持ちが湧いてきたのでしょう。

簡単にはできない状況だったからこそ、ますます「やりたい」「こうなりたい」という思いは強く大きくなったのです。

さらに仕事も子育ても思うように進まず、飢餓感や焦燥感にかられていたからこそ、かえってそれが燃料となり「なんとしてでも成長しよう、この現状を変えよう」という気持ちになったのです。

もし一日24時間すべてが自分の時間となり、「自由に使っていいよ」といわれていたら、短期間であそこまで大量の勉強はできなかったかもしれません。

子どもたちが成長し、朝からひとりでゆっくりコーヒーを飲めるような状態だったら、あそこまで燃えなかったでしょう。

吉田穂波『「時間がない」から、なんでもできる!』(サンマーク出版)
吉田穂波『「時間がない」から、なんでもできる!』(サンマーク出版)

毎日仕事にてんてこ舞い、育児や家事でまったく時間がない……、そんな「目が回るほど時間がなく忙しい」というとき、実はそれこそが、ステージアップのチャンスです。

「やりたい!」というエネルギーがもっとも湧き、そして「うまくいかない」というがんじがらめの状況への鬱々とした思いが着火剤となって、そのエネルギーに火を注いでくれる、絶好の機会です。

だから、仮に仕事や家事、育児で手一杯で自分の時間がまったくとれないとしても、落ち込む必要はないと思うのです。それはむしろ「チャンス」です。

時間がない、うまくいかないという「障壁」は、自分を次のステージへと導く扉そのもの。壁と思っていたものが、実は取っ手のついた「ドア」なのですから。

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吉田 穂波(よしだ・ほなみ)
医師
医学博士、公衆衛生修士。1973年、札幌市生まれ。三重大学医学部卒業後、聖路加国際病院産婦人科で研修医時代を過ごす。2004年名古屋大学大学院にて博士号取得。ドイツ、英国、日本での医療機関勤務などを経て、2008年ハーバード公衆衛生大学院入学。2010年に大学院修了後、同大学院のリサーチ・フェローとなり、少子化研究に従事。帰国後、東日本大震災では産婦人科医として妊産婦と乳幼児のケアを支援する活動に従事。2012年4月より国立保健医療科学院生涯健康研究部主任研究官、2017年神奈川県保健福祉局保健医療部健康増進課技幹兼政策局ヘルスケア・ニューフロンティア推進本部室シニアプロジェクトリーダー兼神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部准教授。2019年より神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授。2020年以降は厚生労働省や神奈川県にて新型コロナウイルス感染症対策本部に従事。2歳から17歳まで6児の母。

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(医師 吉田 穂波)

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