筋トレとタンパク質摂取はいつ行うのが正解か…時間栄養学者が「健康に最も効果的」という時間帯
プレジデントオンライン / 2023年4月15日 8時15分
※本稿は、柴田重信『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』(講談社+α新書)の一部を再編集したものです。
■運動は体内時計のリズムに合わせると効果的
脂肪を燃やしてやせるには、運動量を増やすことと同時に、筋肉をつけることも重要になります。筋肉はエネルギーを燃やすエンジンなので、筋肉が大きくなればそれだけエネルギーもたくさん燃やせるのです。
運動によって動かすことができる骨格筋は、日々、筋肉を増やす「合成」と、筋肉を減らす「分解」をくり返しています。この合成と分解のバランスがとれていると、筋肉の量は維持されますが、分解する量が合成する量を上回ると筋肉はやせ、反対に合成が分解を上回ると筋肉は大きくなっていきます。
筋肉は加齢とともにやせていく傾向がありますが、日ごろ運動習慣があり、タンパク質をしっかりとっていると、筋肉のやせは予防できるだけでなく、さらに筋肉をつけることも可能です。
こうした骨格筋の合成と分解をくり返すリズムは、体内時計でコントロールされており、日中の活動期に合成され、夜間の非活動期に分解されるというリズムをもっています。
筋肉を増やすための運動も、この体内時計のリズムに合わせ、活動期に行うと効果が出やすいと考えられています。
■朝は筋肉の減少を防ぎ、夕方は筋肉を増やす
さらにきめ細かく見ていくと、いくつかの研究から、筋肉を増やす目的の筋トレをする場合は、体温も代謝も高まっている夕方が適し、筋肉がやせていくのを予防する筋トレは朝がいいとわかっています。
筋肉をつけて機敏に動きまわりたいという人は夕方に、加齢などによる筋肉の減少を防ぐには、朝の時間帯を選ぶとよいかもしれません。
■タンパク質をとるべきタイミング
筋肉をつけるには、運動だけでなく、筋肉の材料となるタンパク質をいつとるかということも重要なポイントです。
若い人を対象にした運動とタンパク質摂取についての研究があります。朝食、昼食、夕食のタンパク質のバランスが一般的な食事(朝食0.33g、昼食0.5g、夕食0.8g、すべて/kg体重)をとるグループと、朝食のタンパク質を少なくした食事(朝食0.1g、昼食0.5g、夕食0.8g、すべて/kg体重)をとるグループに分け、午前中から午後の早い時間に週3回、筋トレを行ってもらいました。
その結果、筋肉が大きくなったのは、朝、タンパク質を多くとった前者のグループのほうでした。筋肉をつけるには、朝食でタンパク質をとったうえで、体温も代謝も高まっている夕方に筋トレをすれば、より効果的に筋肉は増えると思われます。
しかし、タンパク質をとったあとの運動がいいといっても、やはり時間帯が重要です。
夕方にタンパク質をとって、夜、筋トレをしても、筋肉の増加はあまり期待できません。夜の非活動期は、筋肉は合成ではなく、分解のほうに進むからです。
■高血圧の人は夕方の運動が効果的
運動習慣のある約2500人を対象に、朝型か夜型かによって、活動量の強度や時間帯に違いがあるか、また血圧の高さとはどんな関係にあるかを調べました。
その結果、一日の活動量が多いと、夜型より朝型になりやすく、血圧も高くなく、BMIが低いことがわかりました。
興味深いのは、運動をしている時間帯を調べると、血圧が高くない人は夕方に運動していることです。
時間運動学的にその理由を考えると、夕方は体温が高く、代謝がよい時間帯で、脂肪を燃やしやすいことと関係があると考えられます。
夕方に運動することで、中性脂肪値は下がり、善玉コレステロールといわれるHDLコレステロール値は上がっていくことが期待できます。
高血圧の人は、肥満や脂質異常症、糖尿病を併発していることが多いので、これらを改善することで、血圧も下がりやすくすると考えられます。
複合運動による効果を調べた最近の研究では、男性では夕方の運動が収縮期血圧を下げることもわかっています。
したがって、高血圧の予防や改善にも、夕方の運動がよいということになります。
また、時間栄養学と合わせて考えると、昼食はカリウムを多く含む野菜をとると、塩分(ナトリウム)が排泄されるので、その後、夕方に運動をするとさらに高血圧の予防によいでしょう。
■インスリンの働きも改善
血糖値とは、血液中に含まれるブドウ糖の濃度のことです。ご飯やパンなどの糖質は消化吸収されてブドウ糖となり、血液に入ります。そのため、血糖値は、食後高くなります。血糖値が高くなると、膵臓(すいぞう)から分泌されたインスリンが働き、ブドウ糖は細胞に取り込まれてエネルギーとして燃やされます。
運動して筋肉を動かすと、筋肉の細胞膜でブドウ糖を運ぶタンパク質が増えるため、インスリンがブドウ糖を細胞に送りやすくなり、その結果血糖値を下げることができると考えられています。
![ルッコラ、ハム、目玉焼きをバゲットにのせたオープンサンド](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/d/1200wm/img_9d34097ac5f97389c9989e90be5e92ef488778.jpg)
■体内時計を遅らせてしまうと逆効果にも
糖尿病の予防のためには、ブドウ糖が筋肉へ運ばれるタイミングの食後1時間たったころに運動すると、筋肉の血流が増え、インスリンの効果が高まり、血糖値を早く下げることができるとわかっています。
しかし、毎回食事1時間後に、運動できないという人も少なくないでしょう。その場合は、時間運動学的に夕方の運動をおすすめします。
インスリンの働きは、体内時計によってコントロールされており、朝、いちばん効き目が高く、夜になると効き目は低くなっていきます。そのため、インスリンの効き目が低下しはじめる夕方に運動で筋肉を動かすと、低下したインスリンの働きを助けることになると考えられます。
夕食の時間が午後4時や5時ごろと早い人は、夕食後に運動するとよいでしょう。しかし、午後7時過ぎに夕食をとる人は、食事のあとに運動をすると体内時計を遅らせてしまうため、夕食の前に運動するようにします。
![トレーニングジムでバックラットプルダウンをしている女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/e/1200wm/img_de15afca4fa394b73650cd3837e450de375252.jpg)
大事なのは、運動習慣。決まった時間に運動する習慣をつけておくと、インスリンが少量しか分泌されなくても筋肉が糖を取り込む効率がよくなります。
夕方の運動が高血糖を改善するということは、これまで糖尿病の患者さんを対象にした研究でも確認されていました。
■研究で夕方の運動効果の高さを実証
男性の2型糖尿病患者に週3回、運動強度の高いインターバルトレーニングを、朝行った場合と夕方行った場合で比較しました。すると、夕方の運動のほうが明らかに血糖値の減少が見られ、2型糖尿病の血糖値コントロールには、夕方の運動がより有効であることがわかりました。
![柴田重信『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』(講談社+α新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/b/1200wm/img_3b607c38d83cc57144c414795be12292254542.jpg)
ただし、インスリンを作る膵臓のベータ細胞が障害されて起こる1型糖尿病では、インスリン注射の影響で、夜間以降に低血糖が起こることがあります。その低血糖を防ぐのは、朝の運動のほうがいいという結果が出ています。
これらの研究を踏まえ、私たちは健康な若い男性10人を対象に、いつ運動すれば、血糖値を下げやすいか研究を行いました。
その結果、やはり夕方の運動のほうが血糖値が穏やかに下がり、糖尿病の予防にもなることがわかりました。
中強度の運動を週3回2時間、朝9時から行った場合と、夕方4時から行った場合を比べると、夕方に運動するほうが血糖値の上昇が穏やかで、血糖値をコントロールするインスリンの分泌を促すインクレチンも上昇しやすかったのです。
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広島大学医科学研究科特任教授、日本時間栄養学会(理事、顧問)
1953年生まれ。76年九州大学薬学部薬学科卒業。81年九州大学大学院薬学研究科博士課程修了。薬学博士。早稲田大学人間科学部教授などを経て、2023年まで同大理工学術院先進理工学部電気・情報生命工学科教授を務めたのち、現在、同大名誉教授、広島大学医系科学研究科特任教授、日本時間栄養学会理事・顧問などを兼任。監修書『食べる時間を変えれば健康になる』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、共著書『Q&Aですらすらわかる体内時計健康法 時間栄養学・時間運動学・時間睡眠学から解く健康』(杏林書院)、著書に『食べる時間でこんなに変わる 時間栄養学入門 体内時計が左右する肥満、老化、生活習慣病』、『脂肪を落としたければ、食べる時間を変えなさい』(講談社+α新書)ほかがある。
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(広島大学医科学研究科特任教授、日本時間栄養学会(理事、顧問) 柴田 重信)
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