「褒めてから注意する」はむしろNG…外資系の一流マネジャーが「年上の部下」に使う3つのテクニック
プレジデントオンライン / 2023年4月20日 10時15分
※本稿は、山本真司『忙しすぎるリーダーの9割が知らない チームを動かす すごい仕組み』(PHP研究所)の一部を再編集したものです。
■マネジャーが守るのは自分のプライドではない
「チームメンバーを好きになろう」という気持ちを妨げるのが、自分の「プライド」です。「負けたくない」「偉いと思われたい」「バカにされたくない」というプライドが悪い方向に働くと、メンバーを人前で叱責(しっせき)して留飲を下げたり、会うたびに嫌味を言ったりという行動がついつい、出てきてしまうものです。
本来、リーダーとしてマネジャーが守るのは自分のプライドではなく、メンバーのプライドです。そうです、「自分はメンバーのプライドの警備員なんだ」というくらいの思いを持ってメンバーに接することが重要です。
メンバーを人前で叱ったり、弱みや失敗を責めたりするのは絶対にNGです。伝えたいことがあるなら、誰もいない時に、別室などで改めて伝えるべきです。嫌味は絶対に言わない、メンバー同士を比較するような発言をしない、なども重要です。
メンバーのプライドをどうしたら守ることができるのかを常に考えることも、マネジャーの仕事だと思ったほうが良いでしょう。彼らが顧客に責められていたら、自分事ととらえて即座にそのフォローをすべきですし、メンバーの悪口を誰かが言っているのを耳にしたらそれとなく注意すべきです。一緒になって悪口を言うようなマネジャーは論外です。
■「罵倒された」ということしか頭に残らない
なぜ、メンバーのプライドをそんなに大事にするのか。それは、私自身の過去の体験がベースにあります。
私もいろいろな上司の下で仕事をしましたが、いまでもそのアドバイスを鮮明に覚えており、その指導に感謝している上司が何人かいます。そういう上司の共通点は、私のプライドに最大限配慮してくれていたことです。人前で叱ったり、弱点を指摘したり、悪口を言ったり、嫌らしいからかいの言葉を発したりは一切しない、そんな上司たちでした。
私が最も影響を受けた上司は、私がダメな仕事をすると、途端に顔が怖くなったのですぐにわかりました。しかし、決して人前で私のダメな仕事ぶりを罵倒したり、私の弱点をこれ見よがしに口にすることはありませんでした。その代わり、ミーティング後に個室でみっちりしぼられました。
プライドに配慮してくれるマネジャーの下では、しぼられている時に「自分のプライドを守ろう」などと余計なことに頭を使わなくてすみます。だから、素直に反省し、改善策を考えられるのです。自分がいかに甘かったかに気づき、部屋を出た瞬間に走って自分の席に戻り、猛烈に仕事を始めたこともありました。
一方、人前で平気で罵倒するような上司もいました。いま思えば、彼らが言っていたことも、実は示唆に富むものだったとは思います。ただ、その言葉は、なんとか思い出そうとすれば思い出せるかもしれませんが、ほとんど頭に残っていないのです。罵倒されたことしか覚えていません。
自分に絶対の自信がある人など、ほんの一握りだと思います。私自身もそうですが、ほとんどの人がその弱さを隠すため、大なり小なり強がって、必死にプライドを守って生きていこうとしている。そのことをマネジャーは忘れないようにしたいものです。
■「褒めてから弱みを指摘する」のはNG
人前では、チームメンバーを褒めることに神経を使いましょう。
本気で思っていない口先だけの褒め言葉はすぐにバレます。言葉を尽くしておだてれば、その時はいい気分になってくれるかもしれませんが、今度はそれを聞いた周りの人が白けてしまいます。「どうせ、おだてたいだけだろう。魂胆が見え見えだ」と思われるのが関の山です。
私の経験からは、「褒める」というキャッチフレーズが行きわたっているような会社のほうが、かえって心配です。本音にかかわらず、腹を探り合うような変な文化になってしまうのではと思うこともあります。
「強みや良いところを褒めてから弱みを指摘する」のもNGです。これを繰り返していると、メンバーのほうは、褒めた瞬間に「あ、いまから悪口を言われるんだな」と身構えてしまいます。実際、私もそうでした。
人前で褒めるというのは、意外と難しいものなのです。
■「貢献実感」こそがやる気を最大限引き出す
では、どうすれば良いのでしょうか。まずは相手の良いところをしっかりと探す努力をすることが大事です。その際、その人の中で相対的によくできることを探すことです。
そして、メンバーが自信を持っている分野の話をよく聞きます。面白い発見があるはずです。
その上で、
「なるほど、私一人だったら、こんな考え方はできなかった」
「その考えは面白いね。とても参考になるよ」
と、本音で伝えてあげればいいのです。
![資料を確認するビジネスパーソン](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/8/1200wm/img_980048fe4bb095a3393491fbbf1abc26396465.jpg)
要するに、活躍できる分野(相対的強み)をいつでも探すようにして、そういう分野で仕事をしてもらい、発言してもらい、仕事にも貢献してもらい、自信も深めてもらう。その上で、素直にその貢献を認めるために褒めるということです。
人は、自分が誰かに貢献できているかをとても気にするものです。そして、貢献しているという実感が得られると、やる気を出してくれるものです。そのことを感謝や賞賛の言葉で伝えましょう。
あくまでマネジャーである自分の思いで十分です。もちろん、それは本音である必要があります。だからこそ、相手は貢献実感が得られるのです。
■真価は「年上のマネジメント」で決まる
チームメンバーのプライドを守るということは、「年上のメンバー」のマネジメントをしなければならない時には、さらに重要になります。
場合によっては、かつての上司が自分の下の立場になることもあります。私の長年いた外資系の業界では、年齢、性別、国籍などで人を区別することは差別につながりますので、年齢差を意識する必要はほとんどなかったのですが、日本の企業の場合は、新人一括採用で、同期が一つの単位になり、かつ、最近まではかなり年功序列が貫かれていたところも多いと思います。
本来、マネジャーやリーダーというのは、皆をマネージする、あるいは、リードするという役割を与えられたというだけのことで、すべての仕事能力においてマネジャーがメンバーより優れているわけではないですし、そうである必要もありません。
ところが、年功序列型で、長幼の序の文化を抱える日本の企業の環境では、そうはいきません。ポジションの高さは、能力の高さであり、組織内でのパワーであると捉えられます。上司は「偉い」人だと認識されるわけです。
そこで、年齢上の逆転が起きるということは、下の立場に立たされた人にとっては大いにプライドが傷つくわけです。
■年上のメンバーのプライドは「3段階で守る」
本来、マネジャーの能力以上に高い専門能力を持っている人ならば、その能力を生かしてもらうほうが、当人にも、会社にもプラスであるはずです。しかし、プライドが傷つき、前向きに働けない。そんな人が日本にはたくさんいるのではないでしょうか。大変、もったいないことです。
今後、定年の実質延長が行われます。その意味でも、専門能力に長け、経験も積んだポテンシャルの高い年上のメンバーを使いこなし、そのフルポテンシャルを発揮してもらう必要は、以前にも増して高まっています。
私が意識しているのは、三つのポイントです。
最初は、日本文化の「長幼の序という社会的ルールを尊重する」ことです。仕事の場でも、プライベートなつき合いの場でも、年長者としての敬意を払うことは当然です。部屋に入る時、席に着く時、エレベーターに乗る時など、当たり前の常識的なレベルでの年長者を尊重する姿勢は貫徹させます。
その上で、二つ目は、その年上のメンバーの得意分野を見つけて、その得意分野で活躍してもらうよう仕事の割り振りを考えること。その分野の「プロとしてのプライド」を持って仕事をしてもらい、成果を出してもらいます。そして、そのことへの期待をはっきり伝えます。
![山本真司『忙しすぎるリーダーの9割が知らない チームを動かす すごい仕組み』(PHP)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/b/1200wm/img_3b1a8617008f12e9eca8060c6885266b188075.jpg)
三つ目は、「後進の育成」に携わってもらうことです。
私も大学教授として後進の育成がいまの仕事ですが、学生から「先生」と呼んでもらえた時の喜びはひとしおで、それが、自分のプライドをさらに促進させ、後進に恩返ししなければいけないという気持ちが強くなると実感しています。育成に携わると、モチベーションは非常に高くなります。
ただでさえ傷ついているプライドを傷つけず(長幼の序の尊重)、プライドを取り戻してもらい(プロとしてのプライド)、その上で新たなプライドを獲得してもらう(後進の育成)。この3段階が重要なのです。
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山本真司事務所代表
1958年生まれ。慶応大学卒、シカゴ大学経営大学院修了。東京銀行、ボストン・コンサルティング、ベイン・アンド・カンパニーなどを経てコンサルタントとして独立。著書に『20代 仕事筋の鍛え方』など。
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(山本真司事務所代表 山本 真司)
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