2023年の大谷翔平は打率3割、40本塁打、100打点を狙える…MLBジャーナリストがそう断言する具体的な根拠とは
プレジデントオンライン / 2023年4月11日 9時15分
2023年4月2日、リングセントラルコロシアムで行われたオークランド・アスレチックス戦で5回にソロ本塁打を放ったロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平 - 写真=Stan Szeto-USA TODAY Sports/Sipa USA/時事通信フォト
※本稿は、AKI猪瀬『大谷翔平とベーブ・ルース』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■2021年は強靭な肉体を武器に46本塁打を記録
2021年、打者大谷は46本塁打という記録を残した。シーズン最終盤まで本塁打王争いに加わり、惜しくも2本差で逃したものの、MVPを獲得した。その活躍を受けて、22年も本塁打量産に期待がかかったが、本塁打のペースは2021年を下回った。
悪夢の「ロックアウト」が長期化した影響で期間は短縮されたが、エンゼルスのスプリングトレーニングはアリゾナ州テンピで行われた。大谷はもちろんだが、MLBで活躍する日本人打者は、技術力が非常に高く、スプリングトレーニングで行うバッティング練習中にバットを折るようなことはほとんどない。
しかし、2022年のスプリングトレーニングで大谷は、幾度となくバットを折った。普段見ることのない大谷がバットを折るシーンに、22年バージョンへのアップデートを目指す、打者大谷の新たな試みが推測された。
毎年更新される、緻密に計画したトレーニングをコツコツと積み重ねて、大谷は強靱(きょうじん)な身体を手に入れた。その努力の結晶が、2021年に記録した46本塁打である。おそらく大谷は、自身のパワーがMLBでも十分に通用することを確信したシーズンだったはずだ。その確信をもとに22年は、より確実性を求めていたに違いない。打者が求める確実性とはすなわち「打率」である。
■22年は新たな打撃フォームで打率を向上
打率を向上させるために大谷は、ボールを身体に近いところまで呼び込んで打つことを意識した。最短距離でバットが出るように、バットのグリップを下げる新たな打撃フォームの修得を目指した過程が、バットを折るシーンにつながる。しかし、完璧な状態に仕上げるには、スプリングトレーニングで消化した13試合34打席では少なすぎた。
シーズンに入ってからも大谷の試行錯誤は続いた。
■2022年打率は前年の.257から.273へ
200打席ほどを消化した5月終盤から、ようやく打率が安定してきた大谷は、その後も打撃フォームの微調整を繰り返した。最終的には、2021年の2割5分7厘を上回る2割7分3厘を記録した。
打率向上に取り組んだ結果、様々な成績で好影響が確認できる。
2021年はファストボール系(4シーム、2シーム、カットボール、シンカー)に対しては、打率2割7分4厘、空振り率30%だったが、22年は打率2割9分7厘、空振り率23.1%。ブレイキングボール系(スライダー、カーブ)に対しては、打率2割3分9厘、空振り率40.7%だったのが、打率2割8分7厘、空振り率35.1%と向上した。
ただ、オフスピード系(スプリット、フォーク、チェンジアップ)に対しては、打率2割4分0厘、空振り率39.9%だったのが、打率2割0分3厘、空振り率30.1%と数字を落としている。この悪化の要因は容易に説明がつく。
21年の打者大谷は、全打席中75.4%の割合で極端な「大谷シフト」を敷かれたのに対して、22年は、全打席中88.3%の割合で敷かれたのだ。極端なシフトが敷かれていなかった場合、オフスピード系に対する大谷の予想打率は、21年を上回る2割4分8厘となる。
打率向上への意識は、打球方向にも現れている。2021年は、右方向に引っ張った打球の割合が46.6%だったのに対して、22年は36%。センター方向への割合は、30.6%に対して36.2%。左方向へは、22.9%に対して27.8%と、全方向へ打ち返していたことがわかる。そして、日米問わず、「初球からバットを振れる打者は好打者」と称されるが、22年の初球を振る確率は、キャリア最高となる41.6%を記録した。
■「バレルゾーン」と「ランチアングル」の変化
打率は向上した大谷だが、本塁打に付随する成績は下がった。本塁打もしくは長打が出る確率が最も高いエリアを「バレルゾーン」と呼ぶ。ボールの射出角度が26度から30度以内、打球速度158キロ以上で打ち返すと長打が出やすいとされている。
さらに、打球速度が161キロならば、射出角度は24度から33度へ広がり、打球速度が187キロを超えると、射出角度は一気に広がり8度から50度になる。この条件でボールを打ち返すことができれば、高確率で本塁打を量産できるのだ。
2021年の大谷は、「バレルゾーン」でとらえた打球の割合がMLB1位となる22.3%を記録したが、22年は4位の16.8%だった。そして、平均打球速度も21年の150.7キロに対して、22年は149.6キロと落ちた。しかし、「バレルゾーン」でとらえた打球の本数は、21年が78本、22年は72本と大きな差はなかった。
本塁打に付随する成績で最も数字を下げたのが、「ランチアングル(打球角度)」だ。2021年は、平均16.6度の打球角度があったが、22年は12.1度しかなかった。
■2023年は本塁打量産型と確実型のハイブリッドに
本塁打の打球方向も変化した。2021年はパワー全開で右方向に引っ張る本塁打が14本あったが、22年は4本と減り、右中間からセンター方向への割合が増えた。この傾向もスプリングトレーニング期間中に取り組んだ、ボールを身体に近いところまで呼び込む新しい打撃フォームの影響である。
2021年が打者大谷の完成形かと思いきや、22年はさらなる進化を追い求めた。本塁打量産型の21年に対して、打率が上がり、三振数が減少した確実型の22年。23年以降の打者大谷は、本塁打量産型+確実型を併せ持つ「ハイブリッド型」を目指すことになるだろう。
具体的には3割、40本塁打、100打点をコンスタントにクリアしていく打者である。この成績を残すことができれば、投手大谷の成績を加味することなく、毎年、MVP投票の上位5人に選出されるはずだ。
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MLBジャーナリスト
1970年生まれ。栃木県出身。89年にアメリカへ留学。MLBについての研究をはじめ「パンチョ伊東」こと伊東一雄に師事。現在はMLBジャーナリストとしてJ SPORTS、ABEMA等に解説者として出演。流暢な英語を交えた独自の解説スタイルには定評があり、出演本数は年間150試合におよぶ。東京中日スポーツで20年以上コラムを執筆するなどスポーツライターとしても活動中。著書に『メジャーリーグスタジアム巡礼』がある。
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(MLBジャーナリスト AKI猪瀬)
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