失敗を他人のせいにする人は、決して幸せにはなれない…ブッダの教え「人生を台無しにする3つの毒」とは
プレジデントオンライン / 2023年4月12日 14時15分
※本稿は、大愚元勝『自分という壁 自分の心に振り回されない29の方法』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■「他人と比べたくなる欲求」があらゆる悩みの元となる
苦しみを生み出す大きな要因のひとつに、「我」というものがあります。「我」とは自我、すなわち私たちが「私」と称しているものです。
人間に限らずすべての生きものにも当てはまることですが、「私」という最重要の存在が、脅かされたり、傷つけられたり、なにか危機的な状況に陥ったりした際にはそれを守ろうとしますよね。
この防衛本能の事を「我(自我)」といいます。これがわれわれが認識している「私」であり、苦しみを生む原因となる「自分」なのです。
次いで要因として挙げられるのは「他人と比較してしまいたくなる衝動」です。
仏教的には、この心の動きのことを「慢」といいます。「我」とセットにすると「我慢」。みなさんがよくご存じの言葉ですので、覚えやすいのではないでしょうか。
ただし、ここでいう「我慢」には、一般的に浸透している「耐え忍ぶ」「辛抱する」というニュアンスは含まれません。「我」も「慢」も仏教用語としては、あまりよろしくない意味合いで使われますので混同しないようにしてくださいね。
「慢」について細かく見ていくと、たくさんのパターンに分類できるのですが、掘り下げて説明していくときりがないので割愛します。大きく次の3つに分けられることを知っていただければ大丈夫です。
自分はこの人よりも劣っていると考える「慢」。
自分とこの人は同じくらいであると考える「慢」。
自分はこの人よりも優れていると考える「慢」。
人間は、社会的動物として集団生活を行うようになって以降、誰もがこのことを意識して日々を過ごしています。意識しているというより、無意識下で心がこの思考に支配されていると表現したほうがいいでしょう。
■人は誰もが「比べること」をやめられない
単独行動ならば自分のことだけを考えていればいいのですが、群れができると自然と他人の存在が視野に入ってきます。
群れの秩序を乱すようなことをする人はいないか?
自分の不利益になるようなことをする人はいないか?
そういったことが気になりだし、他人の行動をチェックしたり、自分と比較したりするようになります。ここから「慢」が生まれていったのです。そしてこの心の動きが、「羨み」「嫉妬」「軽蔑」といった苦しい感情を生み出す元となるのです。
「自分は他人なんか気にしない」「人のことなんてどうでもいい」とお考えの方もいらっしゃるかもしれません。でも、「慢」の具体例を見ると、多かれ少なかれ身に覚えのあるものがあると思います。
街を歩いていて、似たような年格好の人とすれ違うとき、自分より見た目がイケているとか、センスがあるとか、ダサいとか、知らず知らずのうちに比較してしまうことがあるのではないでしょうか。
背が大きい、小さい、ほとんど変わらない。
容姿が良い、イマイチ、似たようなレベル。
頭髪にコンプレックスをお持ちの方なら、自分よりも髪の毛が薄い、濃い、どっこいどっこい。
スタイルを気にされている方なら、自分よりも痩せている、太っている、同じくらい。
そうやって、人間はあらゆることに関して他人と比べることをやめることができない生きものなのです。
■頭の中は24時間、「慢」だらけ
お子さんをお持ちの親御さん同士でも同じです。
「あの子よりは運動神経がいいに決まっている」
「うちの子のほうがかわいいし、頭もいいだろうな」
みんな、心の中で同じことを考えています。同窓会や結婚式で久しぶりに再会を果たした旧友同士もそうです。
「○○さんって、まだ独身なんだね」
「お前、結局どこに就職したの?」
こんなふうに、口に出して質問(確認)してまで自分と比較をしたがる人も珍しくありません。
企業の社長さんたちが集まれば、お互いの会社の規模や年商の探り合いが始まります。作家さんや編集者さんが集まれば、相手がこれまで手掛けてきた本の発行部数が気になって仕方がないでしょう。YouTuberが集まれば、チャンネル登録者数と動画の総再生数の話題が飛び交います。
もう、24時間「慢」だらけです。
■「慢」がマイナスの感情を生み出す
かくいう私も、かつては「慢」に満ちていました。私は学生時代に空手をやっていたのですが、すれ違う男性のことをもれなく「自分よりも強いか、同じくらいか、弱いか」という目で見ていました。
とくに顕著だったのが、私が通っていた駒澤大学の周辺にある銭湯を利用した際。ご近所には日本体育大学がありますので、自ずと銭湯には屈強な肉体を持ったスポーツマンが集まることになります。
洗い場で隣に座った筋骨隆々の男たちをチラ見しては、「こいつ、俺よりも強いかな? 弱いかな?」と、いつも考えていました。おそらく、向こうも同じようにこちらを値踏みしていたと思います。
これはある種の“格闘家あるある”であり、典型的な「慢」なのです。
このように、人間は誰しもが自分と他人とを比較しながら生きています。そしてその結果、「羨ましいなぁ」「悔しいなぁ」「かわいそうだなぁ」「バカだなぁ」「みじめだなぁ」などという自惚れ、嫉妬、羨み、軽蔑などのマイナスの感情が生まれ、それが悩みや苦しみの原因になっていくのです。
「慢」は無意識に働くものですので、完全に捨て去ることはできません。でも、自分が「慢」に支配されている状況に気づき、それをセーブしていくことならできます。
■だから苦悩がどんどん大きくなる…ブッダが説く「心を蝕む3つの毒」
「我」「慢」などの本能から生じる感情。これを仏教では「煩悩」と呼びます。そして、この煩悩が私たちにネガティブな感情をもたらすわけですが、ここではそれを促進する3つの要素について説明していきましょう。
ものごとを良い方向に促してくれるものの代表例として薬を挙げるとするならば、この3つは真逆の働きをしますので、毒とお考えください。いや、毒というより猛毒と表現したほうが適切かもしれません。
ブッダはこの3つの要素に対して「貪(とん)」「瞋(じん)」「痴(ち)」という名前を与え、人間の肉体と精神、ひいては人生を台無しにしてしまう「三毒」と位置づけました。
スムーズに苦悩を手放していくためには、この貪瞋痴のしくみを理解し、自分のことを冷静に見つめていく必要があります。原因を知らなければ、対処もままならないというわけです。
■「貪」「瞋」「痴」が人生を台無しにする
【「貪」は「欲」のこと】
「なにかがほしい」「なにかを求めていきたい」「好きなものに近寄っていきたい、自分に近づけたい」と願う衝動、すなわちエネルギーとお考えください。好きな人であったり、お金であったり、物品であったり、社会的地位であったりと、あらゆるものが対象になります。対象が磁石のS極であったら、自分は全力でN極になりたいと思う――そういう欲求が「貪」です。
【「瞋」は「怒り」のこと】
「貪」と反対に、「嫌いなものを自分から遠ざけたい、引き離したい」と望むエネルギー。対象が磁石のS極なら自分もS極に、向こうがN極なら自分もN極になりたいと思う感情が「瞋」です。嫌いだから遠ざけたい。でも、遠ざけられない。だから、怒る。その流れをイメージするとわかりやすいでしょう。
【「痴」は「無知」のこと】
智慧がないためにどうしていいかがわからず、心身ともに不安定になってしまう。あるいは、智慧がないために愚かな行為に走ってしまう。そんな心境と捉えてください。「貪」「瞋」のところで取り上げたエネルギーに例えると、行き場を失ってぐるぐる回っているような状態です。
■3大煩悩が生み出す負のサイクル
この貪瞋痴は、それぞれの性格こそ異なるものの、じつは密接にかかわり合っています。
「欲(貪)」が満たされないから、「怒り(瞋)」が生まれる。
「怒り(瞋)」が発生しても「無知(痴)」ゆえに鎮め方がわからない。
「無知(痴)」で現実や自分の本質を理解できていないため、新たな「欲(貪)」が生まれる。
絶えずこれをくり返しているのです。
現代では脳科学が進歩したことで、人間の心理メカニズムをある程度科学的に説明できるようになりましたが、ブッダは2500年以上前の時点ですでに、体感的にこの負のサイクルに気づいていたというわけです。
こういう感情を抱くと、心臓がドキドキしたり、頭がカッとなったりする。それが続くと体が疲弊し、心身の調子が悪くなる。結果的に、すべてのものごとがうまくいかなくなる。ブッダは自分の肉体と精神の変化を徹底的に観察することによって得られた答えを、すべてエビデンスにしていったわけですね。
ほったらかしにしておくと、苦悩が消えることはなく、自分の肉体・精神・人生を滅ぼしていってしまう――だから貪瞋痴は三毒なのです。
■欲があるから怒りが生まれ、無知だから新たな欲が生まれる…
恋愛に例えると、とてもわかりやすいかもしれません。
あなたに好きな人ができたとします。もっと近づきたい。触れ合いたい。付き合いたい。結婚したい。これは「欲(貪)」です。
そして、相手も自分のことを好きになってほしい、好きになってくれるかもしれないと期待します。しかし、世の中はかなわぬ恋が大半。残念ながら、「こうなってほしい」という欲望は、その人の心が生み出した都合の良い「妄想」にすぎません。
相手がこちらの好意を察して避けるようになったり、勇気を出して告白するもフラれたり、という結末が待っていることも多いでしょう。
すると今度は、「なんでうまくいかないんだ」「自分の思いどおりにならないんだ」という「怒り(瞋)」が生まれます。相手のことを好きな気持ちが強く、失恋のダメージが大きければ大きいほど、怒りの度合いが強くなることは自明の理。
「相手も自分のことが好きかもしれない」「好きになってくれるかもしれない」というのは完全に妄想であり、勝手にひとり相撲をとって自爆しているだけなのに、いつの間にかふつふつとこみ上げてくる怒りを抱える自分に苦悩することになるのです。
にもかかわらず、「それは愚かな自分の妄想にすぎない」ことを知らない。つまり、「無知(痴)」であるがために、再びかなわぬ恋を追い求めたり、ひどい場合には、好きな相手に対してストーカー行為をしてしまったりするようなこともあります。
また、いわゆるダメ男やダメ女との恋愛に失敗し、「二度と同じ過ちをくり返さない」と心に誓いながら、また似たようなタイプの人に引っかかることもあるでしょう。はっきりいえば、われわれ人間はアホなのです。「無知」は人間が巧みに生きることを阻む毒なのです。
■苦悩を生む原因は自分の心の中にある
あなたは、貪瞋痴の無限ループにハマっていないでしょうか?
自分の胸に手を当てて考えてみてください。
「私は大丈夫。煩悩はないし、人生に苦悩することもない」
そう断言できる人であれば、ブッダのアドバイスに耳を傾けなくても巧みに生きていけるでしょう。まさしく“釈迦に説法”です。
でも、そんな人はおそらく少ないですよね。人は大なり小なり、苦悩を抱えているものです。ゼロということは、なかなかないと思います。だから、巧みに生きるための智慧を身につけなければならないのです。
何度も言うように、苦悩を生む原因は自分自身にあります。その自分を客観的に、正しく見ること。これが智慧です。
「我」や「慢」によって自分のことを色眼鏡で見ていることに気づかない限り、苦悩がなくなることはありません。自分の都合の良いようにものごとを見て、望むように事が運んでくれるだろうと考えて、それを前提にものごとに取り組んでいては、結果的に失敗し、苦しみ、悩み、ストレスを溜め込むことになります。
■「誰かのせい」にすると苦しみから抜け出せない
そして、その原因が自分にあることを棚に上げて(その事実に気づかずに)、原因を相手に求め、「あいつが悪い」と非難・攻撃します。究極的には殺人を犯すか、自らを殺害してしまうことにもなります。そういう極端なことをしてしまう愚かな存在が、人間なのです。
だからこそ、そうならないために、巧みに生きていくために、智慧を育てましょう。人間の心のしくみを理解し、感情をコントロールできるようになりましょう。その方法論がきちんと体系立てられているのがブッダの教え、すなわち仏教です。
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佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表
空手家、セラピスト、社長、作家など複数の顔を持ち「僧にあらず俗にあらず」を体現する異色の僧侶。僧名は大愚(大バカ者=何にもとらわれない自由な境地に達した者の意)。YouTube「大愚和尚の一問一答」はチャンネル登録者数57万人、1.3億回再生された超人気番組。著書に『苦しみの手放し方』(ダイヤモンド社)、『最後にあなたを救う禅語』(扶桑社)、最新刊としてYouTube「大愚和尚の一問一答」のベスト版として書籍化した『人生が確実に変わる 大愚和尚の答え 一問一答公式』(飛鳥新社)がある。
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(佛心宗大叢山福厳寺住職、(株)慈光グループ代表 大愚 元勝)
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