こうすれば1分間の価値を最大化できる…6児を育てる女医が編み出した「細切れ時間徹底活用法」
プレジデントオンライン / 2023年4月8日 13時15分
※本稿は、吉田穂波『「時間がない」から、なんでもできる!』(サンマーク出版)の一部を再編集したものです。
■マザー・テレサ、アインシュタインと同じ1日あたりの時間
やりたいことを阻む大きな壁、多くの人にとってそれは「時間がないこと」ではないでしょうか。
夢や目標がある、やりたいことなら山ほどある。
でも時間がない。とにかく自由な時間がない……。
私の場合も同じでした。「留学を実現させよう!」という思いは煮えたぎっていたものの、毎日やるべきことがパンパンに詰まっていて、勉強をするための時間がどこにも見当たりませんでした。
さて、どうしよう?
当時の私には立ち止まっている時間さえありませんでした。何しろ、留学準備にかけられる時間は半年しかなかったのですから。
しかし、ここでもまた「時間がない」ことが私の味方になりました。
時間がないことで、時間への執着心がグッと高まり、なんとかして時間を手に入れよう、時間を生み出す工夫をしようと思えたのです。
このとき、私はある言葉に出合いました。
時間が足りないなどといってはならない。あなたに与えられた1日当たりの時間はきっかり同じなのだから。ヘレン・ケラー、パスツール、ミケランジェロ、マザー・テレサ、レオナルド・ダ・ヴィンチ、トーマス・ジェファーソン、アルバート・アインシュタイン、誰もみな同じ。(H・ジャクソン・ブラウン・ジュニア)
あぁ、たしかにそうだよね。ヘレン・ケラーやマザー・テレサに限らず、偉人と呼ばれる人たちは、何も特別な時間を与えられていたわけではない。時間は平等に与えられていた。一日24時間という「長さ」は私たちと同じ。
■1分間の価値を最大限まで高められるか
では、彼らと私の違いはなんだろう? そう考えたとき、「時間密度」という言葉が頭に浮かびました。
たとえば、
大事な試験の最後の1分。
何も考えずにボーッと過ごす1分。
夜空を見上げて、宇宙の果てに思いをはせる1分。
ネット上をぼんやりとさまよう1分。
腕立て伏せを続ける1分。
カリカリイライラする1分。
他人のために尽くす1分。
笑いが止まらない1分。
物理的にはどれも同じ1分です。
でもどう使うかで、その1分の価値は大きく変わってくる。
偉業を成し遂げた人の時間というのは、その密度がすこぶる濃かったのではないか。たとえば同じ1分でも私のそれに比べたら、ずっと価値が高く密度が濃いものではなかったのか、と。
ならば、私も時間密度を高めればいい。
「時間がない、時間がない」と嘆いていたけれど、1分や2分の時間なら、1日のそこかしこに転がっているはず。その密度を高めていけばいいのだ。それを丹念に積み重ねていけばいい。
時間密度を高めれば、きっと人生はもっと豊かなものになる。そう思えたのです。
私にとって「時間がない」という状況で留学準備を進める経験は、同時に、いかにして時間をつくり出すか、また生み出した時間、見つけた時間をいかに密度の濃いものにするか、という時間管理の力を磨く経験でもありました。
本稿では、時間がなかったからこそ身につけた、私なりの時間の使い方、生み出し方をお伝えできたらと思っています。
■大切なのは「余力と笑顔が残る程度に」がんばること
といっても、1日24時間、1分1分を緊張状態で過ごす、というわけでは決してありません。
もともと私は、仕事も育児も家事も、できればそんなにがんばらないで続けたいと考えているタイプです。
もちろんそれぞれに真剣に取り組み、ときとして周囲の声が耳に届かなくなるほどグッと集中もしますが、自分を見失わない程度の真剣さ、なんだかうまく事が進まないというときでも、「これはこれで、まあいいか」と考える図太さが身についています。
だからときにはボーッとする時間もあっていい。
たとえそれが現実逃避とわかっていたとしても、友人ととりとめのないメールをやりとりする時間があってもいい。
それが明日への活力となるのなら、それで笑顔を取り戻すことができるのなら、それはそれで価値のある時間だと思うのです。
■「タイムマネジメント」という言葉の魔力に取り込まれない
時間は節約すればいい、時間をやりくりして生み出しさえすればいい、というわけではありません。「タイムマネジメント」という言葉は魅力的ですが、それにとらわれてしまってはいけません。
大切なのは、今、目の前にある時間の密度を上げて、もっとも“価値の高い時間”を過ごすこと。
「時間バリュー」を最大にする、というところがポイントです。
それはただ単に一定時間にこなすべきことを詰め込んだり、その生産性を上げたりすることだけをさすのではありません。
たとえば、工場での製造やタスク処理など、生産性をぐんぐん上げることがその時間バリューを最大にすることにつながる場合もあれば、一方で、人間の場合、ひとまず生産性は脇に置いて、あえて休んだり家族とくつろいだりすることが、その時間の使い方として最大の価値を生むということもあります。
休日はあえて詰め込まずに、心身共にリラックスさせ自分をメンテナンスすることが、翌週からの有効な時間の使い方につながる、というように。
たとえば、私は子どもたちが起きている間は、メールチェックも含めて、子どもの前で仕事はしないと決めています。
平日は朝6時から8時まで、そして夕方6時から8時まで、子どもたちと向き合って過ごせる時間は24時間のうち4時間しかありません。
保育園にお迎えに行ってから寝かしつけるまでは、子どもたちとの時間。それを優先させ、思う存分関わりたい。そうすることが、私自身のエネルギー源にもなっています。
生産性ではなく「時間バリュー」に軸足を置いた、もっとも効果的な時間の使い方が1分を変え、それを積み重ねた1日、1年を変える。さらには人生をも変える。
そんな思いで時間に向き合うようにしています。
■手帳を午前3時スタートに書き換える
時間密度を上げて物事に取り組む。そう意識が変わった瞬間から、日常にあふれる小さな「細切れ時間」に気づくようになります。
朝、普段より少し早く起きて生まれる30分。お昼ごはんを早めに切り上げて生まれる10分。電車の待ち時間にできる5、6分。
やるべきことから、やりたいことまで全部をやるための時間、それは、時間密度を上げることで生み出すしかない。そうわかってから、私の留学準備は大きく進み始めました。
海外留学というゴールをめざしてとにかく走り出した私ですが、留学を決意した当時の私の1日のタイムスケジュールには、十分な勉強時間をとる余裕がありませんでした。
当時の私の平日の過ごし方は次のようなものでした。
世の中の仕事をもつお母さんの平均的なスケジュールにきっと近いでしょう。
仕事を終え帰宅したあとの時間は、「夕食」「入浴」などと文字にしてしまうと、ひとつひとつはとてもシンプルに見えます。
しかし子どもと一緒のそれは、実際はもうぐちゃぐちゃです。食事中におみそ汁やお水をこぼすのは日常茶飯事、「おかわり!」といううれしい催促もあれば、突然「トイレ~」といい出すときもあります。
子どもが落ち着いて食事をしているのは本当に一瞬。その一瞬の隙に、浴室の掃除をしたり、保育園の連絡帳のチェックをするなどします。とくに子どもたちが就寝するまでは、まさに怒濤(どとう)のように時間が過ぎていきます。
子どもが寝たあとは、たまった家事を一気に片づける時間。正直、からだはヘトヘトでした。というより、寝かしつけるときにうっかり自分も眠ってしまい、深夜一時頃に慌てて起きてきて残りの家事をして改めて就寝することも多かったのです。
当時の自分を今でも思い出します。「勉強したい!」と思っても、教科書を開けるのは通勤時間のみ。これだけでは時間が足りない……。
そこで、毎日のタイムスケジュールを次のように変更しました。
大きな変更点は、早朝の時間を確保し、そこを活用するようになったこと。
夜は子どもたちと一緒に就寝し、その分翌朝早く(午前3時)起き、子どもたちが起きてくるまでの3時間を勉強時間としてまずは確保したのです。
願書の応募締め切りまでに残されているのは6カ月。確保した時間に、ギュッと勉強を詰め込む必要がありました。
■月曜早朝3時の「to doリスト」
留学めざして邁進(まいしん)! とはいえ、日々の生活には、ルーティンの仕事やそれ以外にもやるべきことが次から次へと舞い込んできます。仕事と家事、子育てをして、雑事をさばき、なおかつ勉強時間をキープするにはスケジューリングが重要です。
私は、スティーブン・R・コヴィー著の『7つの習慣』(川西茂訳・キングベアー出版)を参考に、1週間の計画を立てることにしました。
スケジューリングの詳細は、ぜひそちらをご覧いただきたいと思いますが、ここでは私がどのように勉強時間を組み入れていたかをご紹介します。
まず使っていた手帳は手製のもの。『7つの習慣』に掲載されていた形式と同じものを入手できなかったので、大学ノートに線を引き、似たものをつくりました。
スケジュールは見開き1週間単位で、時間は30分刻みのスケジュール帳です。
毎週月曜日の早朝にその週の計画を立てるようにしていました。
最初に行うのは、1週間の「to doリスト」の作成です。
「留学準備」「仕事」「家族」「友人」「健康」など、そのときに自分が取り組むべきいくつかの大きなテーマについて、それぞれやるべきことを箇条書きにしていきます。
すべて書き出したら、それらの「to do」に頭から番号をふっていきます。
次に、スケジュール帳のなかで1週間のうち自由になる時間を赤いペンで囲っていきます。平日はだいたい、早朝の3時から6時、通勤時間、昼休みだけでした。
この赤枠のなかに、先ほど書き出した「to doリスト」の番号を書き入れていきます。番号順とは限りません。重要度、緊急度、所要時間などを考えながら、適切なところに配置していくのです。
これをコツコツと消化していけば自動的に「to doリスト」が片づいている、という状態です。もちろん、予想以上に時間がかかって終わらなかった、急な用事が入ってその処理に追われ、予定どおり進まなかった、という場合もしょっちゅうでした。
そのときは、その日のうちにリストに×をつけてその週の残り時間で計画を入れ直したり、翌週に持ち越すなどします。
無事終了した項目については、大きくチェックをつけました。こうして目に見える形にすると、遅々としながらも片づいていっているという実感があり、大きな励みになりました。
■まず「大きな石」のための時間を確保する
月曜日の早朝に書き出した「to doリスト」をこなす際、私は「大きな石」を意識するようにしています。
「大きな石」のたとえ話をご存じでしょうか。
たとえばここに、川の中流あたりにゴロゴロしていそうな大きな石が3~4個、それより小さなこぶし大の石が10個、さらに、小さめのスーパーのビニール袋に入った砂があるとしましょう。そして、その横にはひとつの空のバケツ。
このバケツにできるだけ多くの石や砂を入れるには、どのように入れていけばよいでしょうか。
正解は、まず大きな石を入れ、次に小さな石、最後に砂を入れる、という方法です。
小さな石や砂を先に入れてしまうと、大きな石のいくつかははみ出してしまいますが、最初に大きな石を入れれば、その隙間に小さな石や砂が入り込みます。最初に小石や砂を入れるより、ずっと多くの石と砂を入れることができるのです。
このやり方なら、ここにさらに水を入れることも可能です。水は石と石のわずかな隙間に入り込み、砂のなかに浸透していきます。
日頃のタイムマネジメントもこれと同じこと。人生という限られた時間に私たちがまずやるべきなのは最重要事項(大きな石)であって、小さな石のための時間はおのずと見つけられます。
目先の用事やつまらないことに時間を割いていては重要事項をやる時間がなくなってしまう、というわけです。
裏を返せば、私たちはつい、それほど重要でない事柄やつまらないことに人生の大事な時間を費やしてしまいがち、ということでしょう。
私はこの話を『7つの習慣 最優先事項』(スティーブン・R・コヴィー他著・宮崎伸治訳・キングベアー出版)で読んだのですが、いわれてみれば「大きな石」から入れるべきなのはあたりまえのこと、しかし案外忘れがちだな、と思ったものでした。
■ハーバード受験のための学習プラン
以来、私はスケジュールを組むときに、今の私にとって「大きな石」は何かを考えるようになりました。そしてできるだけ、まとまった時間には優先的に「大きな石」を入れるようにしていったのです。
これは勉強の予定を組むときにも同様です。先ほども触れましたが、ハーバード公衆衛生大学院を受験するには、次の勉強・準備が必要でした。
◦TOEFLとGREのスコアで高得点をとること
◦小論文「私はどんな母子保健の専門家になって世の中に貢献したいか」の作成
では、これらの勉強の計画をどのように立てたか。
TOEFLの勉強もやりつつ小論文の内容も考えるというように、基本はここでも同時並行でした。ただし、そのときどきで「今は何がいちばん大きな石か」を意識しながらスケジュールを組んでいきました。
たとえばTOEFLとGREの試験前は、そのための勉強が「大きな石」になります。TOEFLもGREも、試験はほぼ毎月1回実施されており、合格レベルの点数をとるまで(ただし大学院の応募締め切りまで)何度でも受けられます。
どちらも受験料は安くないので、ある程度力がついてから試験を受ける、と考える人が少なくありませんが、私の場合はまず早めに試験の予約を入れてしまいました。先に試験の日程が決まっていたほうが自分を追い込める、と考えたのです。
「受験料が高いから、そう何度も受けられない。とにかく早く合格点をとろう!」とわざと自分を焦らせました。
これらの点数がとれたあとは、小論文の作成が、私にとって何よりも「大きな石」。集中して頭をフル回転させなければできない作業だったので、大学院の応募締め切り直前まで、早朝のまとまった時間はほぼ小論文作成に費やしました。
■生み出した時間で「何をやるか」が何倍も大事
この「大きな石」を意識してスケジュールを組むやり方は、受験勉強が終わったあとも続いています。
さあ仕事を始めようというとき、ついつい大好きなメールからチェックし、気づけばメールのやりとりだけで1時間以上たっていた、ということがあります。
もちろん重要なメールもありますが、あとから考えれば「そんなに時間をかける必要はなかったかも……」と思うときもしばしば。そんな自分を戒めるためにも、スケジュールを組むときには「大きな石」を意識するのです。
まとまった時間は、もっとも優先すべき「大きな石」をあて、細切れに生まれた時間に「小さな石や砂」ともいえる小さな作業をあてる。
苦労して時間を生み出したとしても、それを自分自身の向上や最優先事項につなげられるかどうかはまさに自分次第。
朝時間でも、他の時間でも、時間を生み出すことはもちろん大切です。でもそれ以上に、その時間で何をするのか、それをよく吟味することの大切さを教えてくれたのがこの話でした。
自分にとって「大きな石」が何かを常に意識することが、時間密度を高めることにつながるのです。
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医師
医学博士、公衆衛生修士。1973年、札幌市生まれ。三重大学医学部卒業後、聖路加国際病院産婦人科で研修医時代を過ごす。2004年名古屋大学大学院にて博士号取得。ドイツ、英国、日本での医療機関勤務などを経て、2008年ハーバード公衆衛生大学院入学。2010年に大学院修了後、同大学院のリサーチ・フェローとなり、少子化研究に従事。帰国後、東日本大震災では産婦人科医として妊産婦と乳幼児のケアを支援する活動に従事。2012年4月より国立保健医療科学院生涯健康研究部主任研究官、2017年神奈川県保健福祉局保健医療部健康増進課技幹兼政策局ヘルスケア・ニューフロンティア推進本部室シニアプロジェクトリーダー兼神奈川県立保健福祉大学保健福祉学部准教授。2019年より神奈川県立保健福祉大学大学院ヘルスイノベーション研究科教授。2020年以降は厚生労働省や神奈川県にて新型コロナウイルス感染症対策本部に従事。2歳から17歳まで6児の母。
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(医師 吉田 穂波)
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