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渋谷―新横浜が最速25分に…神奈川県民の38年越しの夢「相鉄・東急直通線」開業で大混雑が予想される駅の名前

プレジデントオンライン / 2023年4月10日 9時15分

画像=東急電鉄HPより

2023年3月18日、相鉄と東急をつなぐ新線「相鉄・東急直通線」が開業した。これにより、渋谷―新横浜間は最速25分、目黒―新横浜間は最速23分で結ばれる。レイルウェイ・ライターの岸田法眼さんは「新横浜へのアクセスが向上したことは大きな利点だ。一方、早急に対応すべき課題も生じている」という――。

■渋谷―湘南台間は最速51分に

2023年3月18日、21世紀の首都圏では“大型新線”といえる「相鉄・東急直通線」が開業した。

相鉄の羽沢横浜国大(横浜市神奈川区)と東急の日吉(同市港北区)を結ぶ新線だ。

相鉄側は「相鉄新横浜線」(〈西谷―羽沢横浜国大〉間は2019年11月30日に開業済み)、東急側は「東急新横浜線」という路線名で営業する。

直通線の開業により、相鉄線〈湘南台―渋谷〉間が乗り換えなしで最速51分、東急線〈新横浜―渋谷〉間が最速25分でつながるなど、都心方面へのアクセスが向上することになった。

2019年11月30日開業の「相鉄・JR直通線」で相鉄本線から新宿・渋谷方面へは、すでに乗り換えなしで行くことができるが、東急線を経由することで直接アクセスできる場所がさらに増えた形だ。

■新横浜への利便性が格段に向上した

相鉄・東急新横浜線開業の最大のメリットは、東海道新幹線乗換駅の新横浜に直結することだ。

今まで都心から新横浜へは東海道新幹線が最短ルートながら、新幹線特急料金が必要なので割高という難点があった。また、東急側は武蔵小杉の近辺、相鉄側は西谷の真上に東海道新幹線がありながら、駅がないので、菊名や横浜での乗り換えを強いられていた。

新線の開業を受け、東海道新幹線を管轄するJR東海は新横浜6時03分発の臨時〈のぞみ491号〉新大阪行きを新設(おもに月・土曜日運転)。

武蔵小杉だと5時39分発の急行(平日は海老名行き、土休は湘南台行き)、西谷だと平日は5時33分発の特急渋谷行き、土休は5時32分発の特急小川町行きに乗れば間に合う。

東海道新幹線上り新横浜着の最終列車は23時27分の〈のぞみ64号〉東京行きで、相鉄新横浜線は0時23分発(土休は0時19分発)の各駅停車海老名行きに乗れば、二俣川でいずみ野線に乗り換えることができ、各駅停車湘南台行きに悠々間に合う。

東急新横浜線も23時42分発の各駅停車目黒行きに乗ると、日吉駅で東横線の各駅停車渋谷方面新宿三丁目行きに乗り換えられる。

■相鉄沿線住民以外にも恩恵が

神奈川県西部の住民にとっては、通勤・通学時間の短縮の恩恵にあずかれる。

相鉄沿線から都心方面への通勤時間が劇的に短縮されるのはもちろんのこと、JR東日本横浜線の〈新横浜―鴨居〉間、市営地下鉄ブルーライン〈新羽(にっぱ)―片倉町〉間の沿線住民は通勤・通学経路を相鉄・東急新横浜線経由に変えてゆくことも考えられる。

新横浜駅のブルーラインと相鉄・東急新横浜線の改札は同じ地下1階にあり、乗り換えが容易なのだ。新横浜駅の利用客数は急増するだろう。実際、相鉄・東急によると、新横浜駅は1日10万人の乗降人員を見込んでいる。

横浜アリーナ、横浜国際総合競技場など、イベントでの利用客増加も期待できる。すでに東急は新横浜発着の臨時列車を設定しており、万全の態勢を整えている。

神奈川県民にとっては県唯一の運転免許試験場の最寄り駅である相鉄線二俣川駅が近くなる。住まいの地域によっては横浜まで遠回りを強いられていたものが新横浜経由に変わることで近くなる。

相互直通運転の境界駅である新横浜は、相模鉄道と東急電鉄の共同管理駅になり、駅長も2人体制に
写真提供=東急
相互直通運転の境界駅である新横浜は、相模鉄道と東急電鉄の共同管理駅になり、駅長も2人体制に - 写真提供=東急

■利用客増加の可能性を秘めた武蔵小杉駅

メリットとデメリットが入り交じるのが武蔵小杉だ。

今までJRユーザーが新横浜に行くには、横浜まで向かい、そこから京浜東北・横浜線もしく市営地下鉄を使うのが一般的だった。

東急新横浜線の開業で〈武蔵小杉―新横浜〉が直結することから、JR東日本横須賀線および湘南新宿ライン、南武線の沿線住民は武蔵小杉で乗り換えするようになり、利便性が格段に向上する。

このため、駅の利用客は今以上に増加するだろう。

武蔵小杉駅(南武線)の駅名標
武蔵小杉駅(南武線)の駅名標(写真=LERK/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

特に南武線は小田急電鉄小田原線乗換駅の登戸、東急田園都市線乗換駅の武蔵溝ノ口(東急は溝の口)は新横浜への短絡ルートになることから、ラッシュ時の〈武蔵中原―武蔵小杉〉の混雑率が上昇する可能性がある。

参考までにコロナ禍前の2019年度は182%、コロナ禍後の2020年度は120%、2021年度は112%である。

■異なる車両編成

東急側も東横線の列車は8・10両編成、目黒線の列車は6・8両編成が混在している。

両線の列車が乗り入れる東急新横浜線は6・8・10両編成の3種類で、利用客にとってはややこしいと思うのではないだろうか(6両編成の列車は相鉄新横浜線に乗り入れず、新横浜で折り返す)。

将来、東横線の全列車10両化、目黒線の全列車8両化を図り、輸送力増強と混雑緩和を両立させたいところ。実現するには相互直通運転先の東京メトロ、都営地下鉄、埼玉高速鉄道、横浜高速鉄道の協力や理解が必要で、しばらくはこの状態が続くものと思われる。

■不便なペデストリアンデッキ

ここからは課題を挙げていく。

まず新横浜駅の構造だ。新しく完成した相鉄・東急新横浜線の新横浜駅からJR線の新横浜駅へ乗り換える際、最短ルートは〈出口5A〉に直結する地上のペデストリアンデッキに出て駅ビルまで歩くことだ。

新設されたデッキは利便性向上を考え、バスターミナルにも直結している。だが、一部に上屋があるのみで、雨の日は傘をささなければならず、若干の手間を要する。実際開業日は雨が強く、傘がなくても衣類や荷物が濡れてしまうほどだった。

また、雪になると路面の凍結により、けが人が発生することも考えられる。今後はペデストリアンデッキの上屋を可能な限り増設する、悪天候時を中心に駅員が〈出口1〉へ誘導案内することで、誰もが快適に利用できるよう願う。

新横浜駅平面図(東急電鉄HPより)
画像=東急電鉄HPより

■なぜ大倉山駅にホームを設けなかったのか

新横浜駅でもうひとつ気になるのは、両隣の駅までの距離が長いこと。東急新横浜線〈新綱島―新横浜〉間は3.6キロ、相鉄新横浜線〈新横浜―羽沢横浜国大〉間は4.2キロで、首都圏では異例の長さだ。

東急新横浜線の一部は東横線〈日吉―大倉山〉間にほぼ沿っており、大倉山にホームを設けなかったのが惜しい。事実上の複々線にすることで東横線の混雑緩和につながったはずだ。

一方、相鉄新横浜線〈新横浜―羽沢横浜国大〉間は東海道新幹線にほぼ沿っている。航空写真地図を見る限り、比較的住宅が密集している八反橋交差点あたりに駅を設けてもよかったと思う。

相鉄・東急によると、駅間は地下を掘り進めたシールドトンネルのため、開業後の新駅建設ができないという。

東急新横浜線日吉―新綱島間の単線並列シールドトンネル
筆者撮影
東急新横浜線日吉―新綱島間の単線並列シールドトンネル - 筆者撮影

ちなみに東京メトロ銀座線、丸ノ内線、日比谷線で全通後に地下新駅が建設できたのは、地面からトンネルを掘り進めてゆく開削工法によるものである(丸ノ内線の一部区間を除く)。

■目的地は同じでも料金が変わる

相鉄にとって都心直通ルートがJR東日本経由と東急経由の2通りになったことで、乗り間違いも考えられる。両線とも武蔵小杉と渋谷に停車するが、運賃は東急経由が安い。

〈西谷―渋谷〉間の大人運賃は、相鉄・JR経由だと770円(IC運賃 758円)、相鉄・東急経由だと620円(IC運賃 616円)になる。

JR直通か東急直通かを見分けるには、先頭車前面の行先を見るのが確実だ。だが、相鉄の都心直通車両はすべてヨコハマネイビーブルー。さらに、ホームドアの設置が進み、先頭車の顔は確認しづらい。

左は東急東横線直通用の20000系、右はJR線直通用の12000系。いずれもヨコハマネイビーブルーを身にまとう
筆者撮影
左は東急東横線直通用の20000系、右はJR線直通用の12000系。いずれもヨコハマネイビーブルーを身にまとう - 筆者撮影

相鉄では、列車種別の色をJR東日本直通はグリーン、東急直通はピンクにして、駅ホームにある電光掲示板のほか、車両側面のデジタル方向幕や旅客情報案内装置に表示している。それでも間違える人が現れるだろう。

仮に乗客がJR東日本の有人改札で「乗り間違い」を申告した場合、柔軟な対応が求められる。

【図表】都心直通列車(上り)のホーム・列車の色分け表示(海老名駅・湘南台駅→西谷駅→新横浜駅間)
画像=相模鉄道HPより

■期待は東急の快適シート運用

東急は2018年12月14日から平日夜の大井町線〈大井町発の急行長津田行き〉で有料座席指定サービス、Qシートの営業が開始され、好評を博している。

これを受け、東横線でも2023年度下期頃からQシートを導入する予定だ。現時点、渋谷から横浜・みなとみらい方面での営業運転を想定している。また、新横浜方面の着席ニーズがある場合、検討する可能性があるという。可能であれば相鉄線にも直通してほしいところ。

参考までに、渋谷―新横浜―湘南台間40.6キロの最速所要時間は51分なので着席需要が高いと思う。

湘南台で交わる小田急電鉄江ノ島線は特急ロマンスカーが全列車通過することから、Qシートを導入するにはうってつけである。

Qシートは簡易優等車両で、有料座席指定サービス時はクロスシート、それ以外はロングシートに設定される(写真は大井町線急行用の6020系)
筆者撮影
Qシートは簡易優等車両で、有料座席指定サービス時はクロスシート、それ以外はロングシートに設定される(写真は大井町線急行用の6020系) - 筆者撮影

■なぜ構想から38年も時間かかかったのか

最後に相鉄・東急直通線の歴史について触れておこう。

新線のきっかけとなったのは、1985年7月の運輸審議政策委員会が答申した東京圏での高速鉄道網整備計画路線として、「二俣川―新横浜―大倉山・川崎方面」が記載されたことだ。のちに「神奈川東部方面線」と称される。

これを受け、神奈川県、横浜市、川崎市はさまざまな調査の末、1990年8月に「第3セクター鉄道として2000年の第1次開業を目指す」ことを発表。1991年には神奈川県、横浜市、川崎市が合同で事務局を設立し、ルートの検討を始めた。さらに東急、相鉄、京浜急行電鉄の出資を見込み、交渉を始める。

しかし、バブル崩壊による景気低迷などの影響で、1996年に東急、相鉄、京浜急行電鉄が出資の見合わせを表明。やむなく神奈川東部方面線計画は暗礁に乗り上げ、保留の決断を下す。その後、1998年に「建設は第3セクター、運営は民間鉄道」に方針転換するも大きな動きはなかった。

動きが見えたのは2000年のこと。1月27日に、運輸審議政策委員会で神奈川東部方面線(二俣川―新横浜―大倉山間)を「2015年までの開業が適当」という答申があったのだ。

これを受け、2004年9月8日、相鉄とJR東日本が〈西谷―横浜羽沢〉間に新線を建設し、相互直通運転実施の検討が明らかにされた。

当時、横浜羽沢駅は貨物駅だったため、JR東日本の旅客列車は通過していた。相鉄と相互直通運転を行うことで、一般列車を走らせることができるようになったのだ。

ただ、この計画にはわずか2キロの新線を建設するだけで総事業費が数百億円にのぼる難点があった。

開業1年前、東急の元住吉検車区で行なわれたメディア向け撮影会。このうち右端の西武鉄道、その隣の東武鉄道の車両は東急新横浜線に乗り入れない。
筆者撮影
開業1年前、東急の元住吉検車区で行なわれたメディア向け撮影会。このうち右端の西武鉄道、その隣の東武鉄道の車両は東急新横浜線に乗り入れない。 - 筆者撮影

■新線の持つ大きなポテンシャル

実現に向けて大きな追い風となったのは、2005年8月1日に都市鉄道等利便性増進法施行された。

これにより建設費用は国と自治体が3分の2、残る3分の1を独立行政法人の鉄道・運輸機構が負担したうえで、東急と相鉄は線路や駅を借りて営業するスキームになった(JR東日本は名を連ねていない)。

負担が分散したことで、相鉄とJR東日本の相互直通運転は「相鉄・JR直通線」として大きく前進。長年の懸案だった新横浜方面も西谷―新横浜―日吉間の「相鉄・東急直通線」として具現化した。

当初、相鉄・JR直通線は2015年3月まで、相鉄・東急直通線は2019年3月までの開業を目指していたが、前者は相鉄線とJR線の接続工事が長引いたこと、後者は用地取得の難航などで、共に4年遅れでの開業となった。

苦労して生まれた相鉄・東急新横浜線には課題もあるが、それ以上に神奈川―東京間の利便性向上や、人口増が見込まれる神奈川県西部の開発、渋谷への注目度アップなど多くのポテンシャルを秘めている。今後も注視していきたい。

開業前に執り行われた竣功開業式典で祝辞を述べる菅義偉元総理
写真提供=鉄道建設・運輸施設整備支援機構
開業前に執り行われた竣功開業式典で祝辞を述べる菅義偉元総理 - 写真提供=鉄道建設・運輸施設整備支援機構

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岸田 法眼(きしだ・ほうがん)
レイルウェイ・ライター
1976年栃木県生まれ。「Yahoo!セカンドライフ」の選抜サポーターに抜擢され、2007年にライターデビュー。以降、フリーのレイルウェイ・ライターとして『鉄道まるわかり』シリーズ(天夢人)、「AERA dot.」(朝日新聞出版)などに執筆。著書に『波瀾万丈の車両』『東武鉄道大追跡』(ともにアルファベータブックス)がある。また、好角家でもある。

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(レイルウェイ・ライター 岸田 法眼)

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