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ビジネスと人生はぜんぜん違う…「コスパを追求する人」が貧乏でつまらない人生になりやすいワケ

プレジデントオンライン / 2023年4月14日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/marchmeena29

人生を豊かにするには、どうすればいいのか。経済コラムニストの大江英樹さんは「ビジネスと同じように人生でもコストパフォーマンスを求める人がいるが、それでは人生を楽しむのは難しい。衝動買いがストレス解消になるように、たまには無駄にお金を使ったほうがいい」という――。

※本稿は、大江英樹『90歳までに使い切る お金の賢い減らし方』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■「用だけを済ませて生きると真実を見落とす」

1913年生まれ、2021年に107歳で天寿をまっとうされた美術家の篠田(しのだ)桃紅(とうこう)さん。その篠田さんが今から8年前に書かれた『一〇三歳になってわかったこと』(幻冬舎)という本があります。ずっと現役の美術家として活躍してこられた篠田さんだからこそ書ける、柔軟な人生の智恵が一杯詰まった本でした。

そしてその本の中に、私がとても気になった次のような一節がありました。

「人は用だけを済ませて生きていると、真実を見落としてしまいます。真実は皮膜の間にある、という近松門左衛門の言葉のように、求めているところにはありません。しかし、どこかにあります。雑談や衝動買いなど、無駄なことを無駄だと思わないほうがいいと思っています」

■ビジネスにおいては効率は重要

今は「効率」を何よりも優先する時代といってよいでしょう。DX(デジタル・トランスフォーメーション)もAI(人工知能)も、なぜこれだけ話題になり、もてはやされているのかといえば、それは効率重視の考え方が根底にあるからです。

もちろん、ビジネスにおいては効率を考えることはとても大事です。単位時間あたりの生産量はできるだけ多い方が生産性は高くなります。このため、極力無駄を省いて効率よく業務を進めることが善とされることになり、デジタル化という流れになるのはやむを得ません。

ビジネスにおいて効率性は重要ですが、人生すべてにおいてそれが重要かどうかというと、必ずしもそういうわけではありません。いやそれどころか、ビジネスにおいても、どんな種類のビジネスモデルかによっては、効率性をそれほど重視しないものもあります。

■人生には少しくらい無駄があってもいい

たとえば私のように、1人起業して自分が作り出す知的生産物だけで食べている人間にとって、効率性というものはほとんど無縁なのです。

私の場合は、効率よりも効果を重視しています。効率を第一に考えるのであれば、大企業には逆立ちしてもかなうわけがありません。多少効率が悪くても、効果の大きい方を選ぶのが、我々のような零細業者の戦い方なのです。

ましてやビジネス以外の生活や人生を考えた場合、効率だけを重視するというのは、あまり感心しません。なぜならば、前述の篠田さんがおっしゃるように、「用だけを済ませて生きていると、真実を見落としてしまう」可能性があるからです。ここでいう“用だけを済ます生活”こそ、まさに効率重視ということになるのでしょう。

昨今話題になっている『映画を早送りで観る人たち』(光文社新書)も、タイパ(=タイムパフォーマンス)といわれる時間効率を重視する考え方なのでしょうが、少なくとも芸術作品を鑑賞する時には、効率性を重視するのはあまり相応しくないのではないかと私は思います。少しぐらい無駄があってもかまわないのです。

■お酒嫌いでも宴席が価値を生むことはある

では無駄とはいったい何でしょう。

これは絶対的な価値を測って数値化できるものではありません。あくまでもその人にとっての価値の問題です。

たとえば友人とお酒を飲みに行ったとします。じつをいうと私はお酒が嫌いで、ほとんど飲みません。ですから「お酒を飲む」という行為だけに絞っていえば、私にとってお酒を飲みに行くということは時間とお金の無駄といえます。

でもこの場合、誰と一緒に行くかが価値を決めるのです。たとえ酒は飲まなくても、一緒に語って楽しい仲間であれば、その「場」を持つことに価値があるので、私はお金を惜しいとは思いません。

でも人によっては、酒も飲めないし、そもそもあまり外向的ではないので、そういう席には行きたくないという人もいるでしょう。だからそういう人にとっては、「飲みに行く」という行為は無駄といってもいいでしょう。

■「衝動買い」はしてもいい

また、「雑談」というのも、ビジネスの世界においては無駄といえるかもしれません。しかしながら、商売のヒントや発明のヒントなどは往々にして雑談の中から生まれてくることがある、というのもまた事実です。雑談の多くは、単なる息抜きや頭を休めるためのゆとり時間ではありますが、ビジネス的な発想で考えても、それは新しいものを生み出すためのコストと考えてよいのではないでしょうか。

また、無駄の典型と思われているものに「衝動買い」があります。でも私は衝動買いだって無駄だとは思いません。なぜなら衝動買いはストレスを解消してくれる効果があるからです(これは男性にはあまり理解できないかもしれませんが)。

ショッピングで紙袋をたくさん持っている女性たち
写真=iStock.com/Edwin Tan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Edwin Tan

そもそも、衝動買いをするのはあまり極端に高価なものではありません。せいぜい数万円までの、いわば自分のお小遣いで買える程度のものです。自動車や家を衝動買いするなどというのは、よほどの資産家でない限りはあり得ないでしょう。だとすれば、その程度の出費でストレス解消できるのであれば安いものです。

また、買ったあとで「失敗した!」と思うこともあるでしょうが、仮にもしそうだったとしても、それは学習効果があったということですから、決して無駄にはなりません。

世の中、何でもかんでも無駄をなくそうとすると、けっこう気持ちが萎縮してしまいます。結局、世の中に無駄なものなど何もないのです。

■無意味なものにお金を使ってはいけない

では、世の中に無駄なものなど何もないのであるなら、何でもいいからどんどんお金を使えばいいのでしょうか?

私は無駄なものは世の中に何もないと思いますが、「無意味」なものはたくさんあると思います。無駄なものにお金を使っても、それなりに意味はあると思いますが、無意味なものにお金を使うのはやめた方がよいと思っています。

何だか禅問答みたいになってきましたが(笑)、私が定義する「無駄」と「無意味」は明らかに違います。人から見たら無駄に思えたとしても、自分にとって価値がある、あるいは自分が興味あるということであれば、それは決して無駄なものではありません。ですから無駄と考えてやめてしまう必要はないと思います。

一方、無意味というのは、明らかに重複していたり、自分にはまったく興味がなかったりするものにお金をかけることです。まあ、重複といっても、うっかり歯磨きをダブって買ってしまったとかいう程度であれば、問題はありません。

たとえば私にとって無意味なものの代表は民間の医療保険です。

■何が「無意味」かは人それぞれ

これは多くの人が誤解していると思いますが、民間の医療保険というのは、医療行為に対する治療費を出してくれるものではありません。入院時の食事代とか、通院のためのタクシー代とか、個室へ移る場合の差額料などは、公的な医療保険ではまかなえず、いずれも全額自分でお金を出す必要があります。民間の医療保険では、そういった諸々の費用をまかなうために、現金が給付されるわけです。

大江英樹『90歳までに使い切る お金の賢い減らし方』(光文社新書)
大江英樹『90歳までに使い切る お金の賢い減らし方』(光文社新書)

であるなら、貯金を持っていれば、特に問題はありません。貯金なら、使いみちは自由ですが、医療保険は該当する事由が発生しないと支払われないのが原則だからです。

もちろん、誰に対しても無意味というわけではありませんが、少なくとも私にとっては民間の医療保険はまったく無意味なものです。仮に病気になったとしても、治療費は公的な医療保険で出ますし、高額療養費制度を使えば、どんなに治療費がかかっても、月10万円もかかりません。病院へタクシーに乗って行ったり、入院中の食事代を払ったりするぐらいの貯金は持っています。

ですから私には民間の医療保険はまったく無意味ですが、人によって意味があると考えるのであればそれはかまわないでしょう。自分にとって意味があるかないかを考えるべきだと思います。

■コスパばかりを気にすると人生が貧乏になる

どうも現代の多くの人は、日常生活において、そして人生においてすら、無駄をなくして効率的に生きようとしているように思えてなりません。でも、もう少し鷹揚に考えて、お金を使うこともしてみるべきなのではないでしょうか。お金の使い方に関して、誰もが無駄をなくして効率を求めた結果、何でもかんでも「コスパのよいモノ」を求める時代になりつつあるように思います。

私はこの「コスパのよさを求める」ということが、日本人をますます貧乏にしていっているような気がしてなりません。

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大江 英樹(おおえ・ひでき)
経済コラムニスト
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。

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(経済コラムニスト 大江 英樹)

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