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なぜ日本のテレビドラマは世界的ヒットが難しいのか…「今際の国のアリス」が示す最新エンタメの絶対条件

プレジデントオンライン / 2023年4月12日 15時15分

写真提供=Netflix

日本のドラマが世界的ヒットを狙うには、どうすればいいのか。テレビ業界ジャーナリストの長谷川朋子さんは「ストーリーや演技のよさだけでは世界では戦えない。Netflixで配信中の『今際の国のアリス』が世界的ヒットになったのも、ほかの日本発ドラマにはない迫力ある映像を作り込んでいるからだろう」という――。

■アジア作品はアジアの中だけでヒットしてきた

今でこそ日本のドラマも文化や言語の壁を超えて世界ヒットを狙えるようになったが、ひと昔前はトム・クルーズの『トップ・ガン マーヴェリック』のようなハリウッド映画ばかりに世界的人気が集中し、アジア人が出演する英語以外の言語の作品はチャンスがなかなか回ってこなかった。ドラマだとなおのこと、問題外だったと言い切れる。アジア作品はアジアの中だけでヒットする。それで以上だった。

物理的な要因は大きい。映画であれば、各国で配給までこぎつける必要があり、ドラマであれば各国の放送局に売る必要があった。流通経路が限られていたわけだが、技術の進歩も味方につけながら、ストリーミングメディアが台頭したことで流れは大きく変わった。Netflixはその代表格にあり、流通の弊害を取っ払っていった。サービスの棚に並べば、理論上はどの国のどの作品も横並びで見られる機会が作られている。

そんななか、英語以外の言語でNetflix最大の世界ヒット作が生まれた。韓国ドラマ『イカゲーム』だ。2021年に大ヒットしたこのイカゲーム効果によって、韓国ドラマ人気は今もなお続く。一過性のブームに終わらなかった。

■「3億超え」を記録する日本発の世界ヒット

アジア作品にも目が向けられていくなか、日本のドラマの中では漫画原作のNetflixオリジナルドラマ『今際の国のアリス』が成功した作品に挙げられる。

ある日突然“今際の国”に放り込まれたアリスがウサギと出会い、死と隣り合わせのゲームへの参加を強いられながら、“今際の国”の存在の謎を追いかける物語を描き、山﨑賢人がアリスを、土屋太鳳がウサギを演じている。映画『キングダム』などを代表作に持つ佐藤信介監督がメガホンを取り、元ROBOTで現在THE SEVENでCCOを務める森井輝プロデューサーが企画から立ち上げ、制作された作品だ。

2020年にシーズン1(全8話)、2022年にシーズン2(全8話)がNetflixで全世界配信され、シーズン2は90以上の国と地域でNetflix人気ランキング「TOP10」入りの実績を残し、シーズン1と2を合計した視聴時間は約3億6800万時間再生に上る(1月22日現在)。

世界的に影響力の大きいNetflixで好結果を残すことができた理由はひとつに限らないが、誰もが納得するものにあるのが、スケール感のある映像表現だ。実際に『今際の国のアリス』は物語の核となるゲーム会場が変わるたびに魅了させ、見どころのシーンでもったいないと思わせる画作りは一切なかった。

■日本各地から選ばれたロケーションへの強いこだわり

アリス(山﨑賢人)が高校時代からの親友カルベ(町田啓太)、チョータ(森永悠希)とふらついていたら、気づけば渋谷のスクランブル交差点が無人と化す。作品を象徴するこのシーンは、実は栃木県足利市にある足利スクランブルシティスタジオで再現されたセットで撮影され、大きな話題にもなった。

渋谷をはじめ東京が舞台の作品だが、シーンごとに没入感を生み出すために日本各地で選ばれたロケーションのこだわりは強い。日本各地にあるフィルム・コミッションと呼ばれる制作支援する自治体の協力によって作品が実現しているのだ。これが『今際の国のアリス』のスケール感のある映像表現につながったとも言える。

撮影地の詳細が紹介された「今際の国のアリス・日本ロケーションマップ」というものまで作られている。主に海外の制作スタジオに向けた撮影誘致が目的にある。香港で3月中旬に開催された国際番組マーケット「香港フィルマート」の現地会場で配布されたそれを実際に手にし、中身をみると計14の地域で29カ所のロケーションが明かされていた。

■200個のコンテナを並べた圧巻の映像が生まれた

例えば、シーズン2でキューマ(山下智久)率いるクラブのキングのゲーム会場「すうとり」は、兵庫県神戸市にある「ポートアイランド」が撮影場所に選ばれたことがわかる。協力した神戸フィルムオフィスの話によると、真夏の暑い時期に1カ月間にわたって撮影が行われたという。

通常は船舶が入港したあと、貨物を積卸するバースと呼ばれる港内の場所にコンテナが詰まれている。だが、長期間にわたってそこで撮影するとなると難しい。そこで神戸フィルムオフィスは「ポートアイランド」を撮影場所に提供する。400ヘクタールもの土地があるため、港に近い空き地でセットを組むことができ、実際に200個のコンテナを並べた圧巻の映像が生まれた。

『今際の国のアリス』
写真提供=Netflix

またシーズン2冒頭の手に汗握るカーチェイスシーンは、なごや・ロケーション・ナビの協力によって名古屋市の「南大津通」で実現し、土屋太鳳のアクションシーンが見どころにある「ちぇっくめいと」のゲーム会場は北九州フィルム・コミッションの協力でバイオマス燃料を使用する最先端の「響灘火力発電所」で撮影が敢行された。他にも大阪、奈良、和歌山、富山、静岡、群馬、埼玉、神奈川、千葉、東京といった場所で印象的なシーンの数々が作り出された。

■日本各地の「フィルム・コミッション」こそ影の立役者

1話あたり数十億円もかけられたアメリカやイギリスのドラマ作品の場合、広大な土地で街全体を丸ごとセットで再現するようなケースは多々ある。韓国ドラマからもそんな事例が生まれ、韓国ドラマ史上最高額の制作費が掛けられたと言われるApple TV+オリジナルの『パチンコ』は、韓国と日本を舞台にしているが、実はニュージーランドで全て撮影が行われている。

残念ながら、現段階の日本は、ドラマや映画に数億円規模の制作費を投じるのは難しい。しかし、ストーリーや役者の演技がいくら良くても、没入感を邪魔するような映像表現では世界と勝負できないのが現実だ。

そんななか『今際の国のアリス』は今できる制作環境のなかで、日本各地にあるフィルム・コミッションが影の立役者となって成功した。限られた制作費であっても、撮影技術やセットの精巧度で見劣りしないレベルに引き上げている。工夫を凝らすことに長ける日本らしい話でもある。

「今際の国のアリス・日本ロケーションマップ」
筆者撮影

■大規模セットや最新の撮影技術に予算を投じる必要がある

北九州フィルム・コミッション上田秀栄事務局次長は「北九州や神戸で撮影される作品はテロやギャングを扱ったワイルドの作品が多く、直接的にインバウンドにはつながりにくい。それでも撮影協力するのは、生活のすぐ横にエンタメがあることが市民の誇りとして思えるから」だと話す。

こうした協力関係を築きながら、Netflixは新たな作品でも街の完全再現を計画する。Netflixで日本の実写作品を担当する高橋信一プロデューサーは3月22日に韓国ソウルで開催された「第1回APACフィルムショーケース」で「大規模セットを作り、VFXなど最新の撮影技術にも予算を投じていくのは、日本だけでなく、グローバルヒットを目指す上で必要なチャレンジにある」と語っていた。

『今際の国のアリス』と同じく麻生羽呂の原作を映像化する2023年公開予定のNetflix映画『ゾン100 ゾンビになるまでにしたい100のこと』はまさに新宿が舞台だ。歌舞伎町でゾンビパニックが起こる映像が披露されるという。

日本のどこかでひそかに撮影された作品がまたひとつ成功事例を生み出していくかもしれない。舞台裏にある誇りも支えに世界ヒットを狙う動きは続いていく。

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長谷川 朋子(はせがわ・ともこ)
テレビ業界ジャーナリスト
コラムニスト、放送ジャーナル社取締役、Tokyo Docs理事。1975年生まれ。ドラマ、バラエティー、ドキュメンタリー番組制作事情をテーマに、国内外の映像コンテンツビジネスの仕組みなどの分野で記事を執筆。東洋経済オンラインやForbesなどで連載をもつ。仏カンヌの番組見本市MIP取材を約10年続け、番組審査員や業界セミナー講師、行政支援プロジェクトのファシリテーターも務める。著書に『NETFLIX 戦略と流儀』(中公新書ラクレ)などがある。

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(テレビ業界ジャーナリスト 長谷川 朋子)

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