トップバリュのユニクロ化が始まった…「安さ」が売りだったイオンのPB商品に起きている大異変
プレジデントオンライン / 2023年4月13日 11時15分
■生活防衛でPB商品を買う消費者が増加
値上げラッシュの様相が鮮明になりはじめていた昨年4月、マヨネーズの市場に異変が起きました。業界の圧倒的なリーダーのキユーピーのシェアが大幅にダウン。業界2位で特売になりやすい味の素のシェアが微増する中で、PB(プライベートブランド)商品のマヨネーズのシェアが1.7倍に増加したのです。
とはいえまだPB商品のシェアはそれほど高くはありません。マヨネーズ市場では14%程度がPB商品の市場シェアです。ただ消費者調査の数字を見ても「生活防衛のためにPB商品を買うようになった」という人が増えています。
ある調査では週に2~3回以上PB商品を購入すると答えた人がこの10年間、コンスタントに増加トレンドを示していて、現在では全体の17%まで増えています。逆に捉えればナショナルブランドを主に買う人が8割以上と主流トレンドであることに変わりはなく、日本では消費者にとって大手メーカーブランド信仰は相変わらず強い状況ではあります。
■「買ってみたら意外と良かった」ことに気づき始めた
その日本で、電気代を中心に生活のあらゆる費用が上昇するというここ20年経験していなかった事態が起きています。その結果、渋々PB商品を試す消費者が増え始めたわけです。ただここからが第一の異変のポイントです。試してみたらそれほどPB商品は悪くないことに消費者が気づき始めました。なにしろちゃんとしたメーカーのちゃんとした工場で作られているのです。
この記事では主にイオングループのPB商品のトップバリュとナショナルブランドを比較しようと思います。
たとえばカップ麺の場合、トップバリュの醤油(しょうゆ)ヌードル(本当は「豚&鶏のコク Wの旨みコクとキレの醤油ヌードル」という長い名前なのですがこの記事では以後、省略して紹介します)は明星食品のグループ工場で製造しています。
その醤油ヌードルの価格は118円(税抜き、以下同じ)で、すぐ横に置いてある日清のカップヌードル168円と比較するとかなり安い感覚です。ちなみに分量はどちらも同じ78gで、味も品質もあきらかにカップヌードルを意識した商品設計です。トップバリュの場合はカップ麺に限らずライバルであるナショナルブランドの商品と同じサイズのものが多く、価格が比較しやすくなっています。
■欧米ではPBのシェア率はもっと高い
ビールは食品の中でもとりわけ消費者が味にうるさい商品だと思いますが、アサヒスーパードライの350ml缶が179円、一番搾りの同サイズが189円のところトップバリュのプレミアム生ビールは168円とやはりPB商品はお安い。パッケージを見るとサッポロビールが作っているので品質は心配なさそうです。
食品という分野は実は他の消費財と違って消費者のスイッチが起きにくい分野です。日用品なら100均で大丈夫だけど、食品はやっぱりいつも使っている有名ブランドがいいという消費者が多いのです。そのような分野で長年「日本のPB商品の比率は10%程度」と言われてきたものが15%前後まで増えてきた。これはひとつの異変なのです。
ちなみに欧米ではPB商品のシェアがもっと高いことから、日本もこの先はそのような世界にたどり着くのではないかというのが私の予測です。日本同様にナショナルブランドが強いアメリカでは、スーパーマーケット大手のクローガーではPBのシェアが26%です。ヨーロッパの主要国ではさらにPBのシェアが高い状況にあります。
背景事情としては日本よりもインフレ率が高く、かつ日本よりも貧富の格差が激しいということが挙げられます。この先の日本は欧米に似た格差社会になりそうだというのが私の予測の根拠です。
■トップバリュは「ユニクロ化」する
さて、ここからが今回の記事の本題です。どうもPB商品市場に第二の異変が起きているようなのです。ちょっと説明しづらいのですが先に結論を言うと「トップバリュのユニクロ化が始まっている」という話です。
ユニクロについて20年前の日本人は「安くて恥ずかしい服だ」と感じる人が正直多かったのですが、現在では「品質もデザインもいいから買う。価格は昔ほどは安くないけどね」というようにそのブランドイメージが大きく変わっています。
今のトップバリュはその観点で言えば20年前のユニクロとブランドイメージが近いかもしれません。値上げラッシュでトップバリュを買う人がこの1年で増えたのですが、「安いけど買っているのを知り合いに見られると恥ずかしい商品だ」と捉えている消費者はまだ多いのです。
ただ思い出していただきたいのですが、20年前のユニクロも品質もデザインも良かったのです。でも安いから消費者はそれを恥ずかしいと感じていた。特に服というものはマヨネーズと違って着ていればどのブランドなのか他人から一目瞭然でわかります。ユニバレという言葉が生まれたぐらいで、ユニクロを着ていることがばれるのが恥ずかしいという消費者が昔は確かに存在したのです。
要するにこの20年でユニクロのブランドイメージは向上しました。いろいろな手を打ってきたわけですが、たとえばクリストフ・ルメールやジル・サンダー、イネス・ド・ラ・フレサンジュといったトップランクのデザイナーコラボ商品展開はユニクロの価値を大きく引き上げたと思います。
■「安いが質は落ちる」から「同価格なのに高品質」へ
そこでイオンのトップバリュに話を戻すと、実はこの1年でナショナルブランド商品よりも中身がいい商品が目立つようになってきました。
たとえば醤油のプレミアム商品の棚ではキッコーマンの「しぼりたて生しょうゆ」450mlが278円で置かれているのですが、そのすぐ隣に同じようなボトルに入ったトップバリュの450mlの醤油がやはり同じ278円で置かれています。しかし商品名は「オーガニック特選丸大豆しょうゆ」となっています。
これは従来のPB戦略とはちょっと違った売り方です。これまではサイズと品質が同じで価格が安いというのがPB商品の基本でした。しかしトップバリュのこの醤油はサイズと価格が同じであるにもかかわらず、品質がツーランクぐらい上を狙っています。
ここで商品名に謳(うた)われている「オーガニック」つまり有機栽培の原料を使った食品というのは食品の世界では値段が倍以上するプレミアム価格帯の食品として人気があります。それを謳った食品が通常のナショナルブランド商品と同じサイズ同じ価格で出現しているのです。
■醤油や食用油の「高付加価値化」
実はこの売り方というのはとてもユニクロ的です。ユニクロではオーガニックコットンやカシミヤ製の商品が他社の普通の綿シャツやセーターと同じ価格で売られていて、そこからブランドイメージ向上に火がつきました。
別のトップバリュ商品を取り上げると、食用油の棚には味の素の「健康サララ」というコレステロールの吸収を抑える特保の商品が600gで398円で売られています。その横に同じ600g398円で置かれているのがトップバリュの「キャノーラ油ハーフ」です。
この商品はコレステロール0であると同時に、炒め物専用で、使う油の量が半分で済むように商品設計されています。仕組みとしてはパームから作られた乳化剤を含んでいることで、食材から出る水分と油が馴染みやすくなるように工夫されていて、だから油の使用量が少なくてもきちんと炒めることができるのです。
油を使う量が少なければより健康に配慮する生活ができますし、使う量が本当に半分にできればそのすぐ近くに置いてある日清キャノーラ油900g378円よりも実質的には安く買うことができると言えるかもしれません。おもしろい発想の商品だと思います。
■著名ブランドとのコラボを続けるセブンプレミアム
さて、このような高付加価値PB商品の登場とトップバリュのユニクロ化がどう関係するのかを説明するために、もうひとつ別のトレンドを紹介します。それがここ数年のセブンプレミアムの進化です。
消費者が気づいているとおり、セブン‐イレブンのPB商品はすでにユニクロ的なブランドポジションを占め始めています。金のビーフシチューや有名ラーメン店とのコラボカップ麺などセブンプレミアムはここでしか手に入らない独自の高い価値を持っています。そして消費者もセブンで買い物をする際に「PB商品を買っているのを見られて恥ずかしい」などと感じることはありません。
消費者がユニクロでジル・サンダーの商品を買うように、消費者は「八代目儀兵衛監修のおにぎり」や「飯田商店のしょうゆらぁ麺」をプレミアム価値のある独自ブランド商品だと考えて購入しているのです。
■ウォルマートはPBの売上増で好業績に
セブンプレミアムの弱点は、本来であれば一番売上数量を伸ばせるはずのスーパーの販路が小さいことです。グループ内のスーパーであるイトーヨーカドーが不振で閉店ラッシュが続いているからです。
この収益構造はイオンも同じです。イオンでは長らくスーパー部門は業績不振で、グループの利益はドラッグストア部門、金融部門とイオンモールの家主に当たる不動産部門が稼いでいます。
(4月12日に発表された2023年2月期決算発表でイオンは過去最高の9兆円超の売上を記録し、GMSとスーパー部門のトータルでは369億円のセグメント利益が出ました。本稿は2022年11月の第3四半期決算までのデータをもとに記述しており、その時点ではGMSとスーパー部門のセグメント損益はトータルで74億円の赤字でした。イオンは黒字化の要因としてPB商品の好調を挙げています。)
では小売業は儲(もう)からないのでしょうか? 実はそうでもありません。ビジネスの世界の潮流として儲かる小売業は製造販売型のビジネスモデルの中に増えているのです。ユニクロもそうですし、アップルストアもそう、通販で人気の青汁だってその形です。
そしてスーパーでも売上の中で製造販売型のPB商品の比率が増えれば増えるほど利益は増加します。その恩恵を一番受けていると言われるのがアメリカの小売最大手であるウォルマートです。ウォルマートは直近の業績が好調である最大の要因として、PB商品の売上が大幅に増えたことを挙げています。
■「買うのが恥ずかしい」意識はいずれなくなる
日本ではユニクロが成功し、セブンプレミアムが成功したところですが、今現在はトップバリュがその成功に続こうと動き始めています。まだ消費者は「レジで近所の知り合いにトップバリュを買っているところを見られるのは恥ずかしい」と思っている状況ですが、この数年で状況は変わるでしょう。
なにしろ日本でも欧米並みの本格的な値上げラッシュが始まりそうです。そして所得格差も相変わらず開く一方です。その中で新たにPB商品を使い始める人口は確実に増加しています。使い始めてみればちゃんとした工場で製造されたちゃんとした商品であることがわかるのです。
今はちょうどユニクロで言えば15年前、2008年ぐらいの消費者イメージだと考えられます。ユニクロはアベノミクスが始まる2013年ごろにはすでにそのような「恥ずかしい」というブランドイメージから脱却していました。
トップバリュの場合もこれから先、仕入れ原価の上昇や光熱費の高騰、賃上げなどいろいろな経営課題に直面することになるとは思いますが、もし現在の戦略方針からぶれずに発展すれば、食品業界のユニクロとしてイオングループの収益構造を根本的に変えてしまう可能性があるのではないでしょうか。注目していきたいと思います。
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経営コンサルタント
1962年生まれ、愛知県出身。東京大卒。ボストン コンサルティング グループなどを経て、2003年に百年コンサルティングを創業。著書に『日本経済 予言の書 2020年代、不安な未来の読み解き方』など。
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(経営コンサルタント 鈴木 貴博)
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