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プーチンに負けじと「習近平参り」を繰り返す…EU首脳が中国への再接近を始めている理由

プレジデントオンライン / 2023年4月10日 11時15分

2023年3月21日、中国の習近平国家主席は、ロシアのプーチン大統領とモスクワのクレムリンで会談(写真=Presidential Executive Office of Russia/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons)

■プーチン氏、EU首脳が習近平氏を奪い合う

フランスのエマニュエル・マクロン大統領は4月5日から3日間、中国を訪問し、習近平国家主席と会談を行った。今回マクロン大統領は、欧州連合(EU)の行政部局である欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長と共に中国を訪問し、習近平国家主席らとロシア=ウクライナ情勢などに関して協議を行ったようだ。

これに先立ち、3月20日から3日間、習近平国家主席はロシアのウラジーミル・プーチン大統領を訪問し、両国間の協力関係を確認したばかりである。ロシアは中国との間で政治・軍事面での協力関係の深化が図られたと主張するが、その実、協議のほとんどは経済的な論点にとどまっており、中国は中国として一線を引いている様相がうかがえる。

ウクライナに侵攻して以降、欧米を中心とする国際社会から経済・金融制裁を科されたロシアは、中国に代表される新興国との間で関係の深化に努めている。実際、経済面での深化は進み、2022年のロシアと中国の貿易額は前年比3割増となった。中国がロシア産の原油の輸入を急増させたことが、両国間の貿易が急増した主因である。

■EU首脳たちが中国を訪問する狙い

一方で中国は、ロシアに対して、化学品など、軍需品に転用できるモノの輸出を増やしている。また軍需品そのものの輸出も、第三国を経由するかたちで増やしているようだ。こうした動きをEU側は問題視するとともに、中国が過度にロシア寄りの立場を取らないように、けん制する思惑がマクロン大統領らにはあったと考えられる。

またEUには、中国と協力関係を深めることで、ロシアとウクライナの戦争の早期終結への道筋を付けたい思惑もあるようだ。中国は長期化する両国の戦争に対して仲裁役を買って出ている。EUには、中国と足並みをそろえてロシアとウクライナの戦争の早期終結を図るとともに、中国の外交面での台頭を防ぎたい意思があるのだろう。

■世界最大のマーケットを無視できない

他方で、今回のマクロン大統領の訪中に当たり、フランスを中心とする欧州最大の航空会社であるエアバス社などの企業関係者の多くも同行し、中国の経済界と会合を持ったようだ。人口14億人を擁する中国が世界最大のマーケットである以上、良好な関係の構築・維持に努めたいというのは、欧州の経済界の偽らざる本音だろう。

にぎわう北京のナイトマーケット
写真=iStock.com/fotoVoyager
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fotoVoyager

マクロン大統領の訪中に先立ち、スペインのペドロ・サンチェス首相もまた3月30日から2日間の日程で中国を訪問し、習近平国家主席と会談を行った。国交樹立50周年の節目として習近平国家主席がサンチェス首相を招待したものだが、両首脳はロシア=ウクライナ情勢に関する意見を交換し、経済関係の深化についても議論を行った。

この会談で両国は、スペイン産の柿とアーモンドの対中輸出に関して実質的な合意に達したと報じられた。2017年から協議していたこの問題だが、訪中したサンチェス首相に対する習近平国家主席からの「贈り物」といえよう。そのほか、エネルギーやインフラ関係を中心に、両国間での協力関係の深化について前向きな話がされたようだ。

■人権問題を棚上げしても経済関係を深めたい

スペインを例に取れば、2022年時点において、スペインの貿易総額に占める対中貿易の割合は5.8%と、米国(5.7%)と肉薄している(図表1)。

【図表】スペインの貿易総額に占めるEUと米中の割合
出所=国際通貨基金(IMF)『多国間貿易統計』

とはいえ、対米貿易の割合は2021年まで4%台前半であり、2022年の急上昇は化石燃料の輸入急増という特殊要因がある。スペインにとって中国が重要な貿易相手国であることに変わりはない。

二国間貿易収支はスペインの輸入超過が定着しているが、スペインから中国への輸出も増えている(図表2)。

【図表】スペインの対中貿易収支
出所=国際通貨基金(IMF)『多国間貿易統計』

EUでは、基本的人権に代表される価値観を重視する欧州議会(立法府)を中心に、対中強硬論が根強い。とはいえ、EU各国の貿易・投資を考えるうえで中国の不可欠な存在でもあり、ここに一種の相反関係が生じている事実がある。

■中国は関係改善のタイミングを計ってきた

中国にとっても、EUとの関係改善は急務である。2020年末に欧州委員会との間で大筋合意した包括的投資協定(CAI)に関しても、依然として発効のめどが立たない。米国との関係もあり、中国はEUとの関係を重視する姿勢に変わりはない。中国は常にEUとの間で関係改善のタイミングを計ってきたと言っていいだろう。

他方でEUの場合、各アクターで中国への姿勢にまとまりを欠いている状態にある。立法府である欧州議会は、基本的人権に代表される、EUが普遍的とする価値観を重視する観点から、中国に対して強硬姿勢を貫く。行政府である欧州委員会は、中国との関係を重視するが、一方でEUが定めたルールを順守させようとする。

例えば、フォン・デア・ライエン現執行部が描く産業政策は、保護主義的な性格が強い。EUから中国への輸出や中国企業のEU域内での生産の増加は歓迎するが、中国からEUへの輸出の増加は必ずしも歓迎しない。中国がEUと貿易・投資関係を深めたいのであるなら、EUが定めたルールに従うべきであるというスタンスだ。

ブリュッセルの欧州委員会の本部ビル
写真=iStock.com/PaulGrecaud
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PaulGrecaud

■戦争長期化で高まる対中ビジネスの重要性

こうした姿勢は、その実として、改革開放以来の中国の通商スタンスでもある。中国の市場にアクセスしたいのであるなら、中国が定めたルールに従わなければならない。具体的には、外資系企業は中国に有利な条件の下に中国で合弁企業を設立し、生産を行うことが義務付けられた。その合弁事業を通じ、中国は技術水準を高めてきた。

いわば中国と同様の我田引水を欧州委員会は企図しているわけだが、このままではEUと中国の経済関係が好転するわけもない。一方で、EU各国レベルでは、スペインやフランスのみならず、ドイツも含めて、中国に対するアプローチを強めている。少なくとも経済の観点では、中国との関係改善を進めたい国がほとんどではないだろうか。

冷え込み続けたEUと中国の関係であるが、ここに来てのEU勢の相次ぐ中国訪問は、EUと中国の関係改善に向けた機運が着実に醸成されてきたことの証左といえよう。経済的には、EU各国にとって中国は不可欠なパートナーだ。景気の足踏みが続くEU各国にとって、対中ビジネスの重要性が再認識された側面も大きいだろう。

■EUと中国の急接近は日本の脅威となる

政治的にも、ロシア=ウクライナ情勢の悪化が、EUと中国の接近を促した側面があるのではないだろうか。戦争の長期化を受けて、EU側では支援疲れが顕在化している。情勢の悪化を受けてエネルギー価格が再び急騰するような事態になった場合、厭戦(えんせん)ムードのみならず、ウクライナに支援を続けるEUへの反感が、EU各国で高まりかねない。

実際のところ、欧州委員会の「我田引水」的なスタンスに鑑みれば、EUと中国の関係改善が一気に進むとは考えにくい。一方で、双方が妥協できる範囲においては、少なくとも経済協力に向けた機運は徐々に回復してくのではないだろうか。EUの各国レベルでは、中国との関係改善を模索する動きが確たるものになっている

2023年4月6日、北京で会談する(左から)マクロン仏大統領、中国の習近平国家主席、欧州連合(EU)のフォン・デア・ライエン欧州委員長(中国・北京)
写真=AFP/時事通信フォト
2023年4月6日、北京で会談する(左から)マクロン仏大統領、中国の習近平国家主席、欧州連合(EU)のフォン・デア・ライエン欧州委員長(中国・北京) - 写真=AFP/時事通信フォト

そして、EUと中国の経済関係の改善が進めば、双方の市場で双方の企業が存在感を高めることになる。EU企業が中国でプレゼンスを高めてくれば、対中ビジネスを重視する日本企業にとっては脅威である。実際、どこまでEUと中国の経済面での関係改善が図られるか定かではないが、そうであるからこそ、日本も動向を注視する必要がある。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

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