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共学化すれば生き残れるワケではない…系列中高からスルーされがちな「危険水域の女子大」5校の名前

プレジデントオンライン / 2023年4月13日 11時15分

恵泉女学園大学キャンパス(写真=CC-BY-SA-3.0,2.5,2.0,1.0/Wikimedia Commons)

女子大の経営が揺れている。恵泉女学園大学が2024年度以降の学生募集を停止した一方、共立女子、昭和女子、津田塾などは学部を新設している。大学ジャーナリストの石渡嶺司さんは「小規模の女子大ほど苦しくなる傾向が強くなっている。特に充足率60%未満の学部がある女子大の今後は厳しい」という――。

■歴史ある名門校でも入学定員充足率55.9%で募集停止

3月22日、女子大の名門校・恵泉女学園大学が2024年度以降の学生募集停止を発表しました。

1929年創立の恵泉女学園が前身であり、平和学・園芸学の研究でも有名です。近年では、大日向雅美学長が少子化問題の専門家として国会に専門委員・公述人として出席することでも知られていましたが、2022年度の入学定員充足率は55.9%と低い水準にありました。

恵泉女学園大学は募集停止に至った理由として、「18歳人口の減少、とくに近年は共学志向など社会情勢の変化の中で、入学者数の定員割れが続き、大学部門の金融資産を確保・維持することが厳しくなりました」と公式サイトで説明しています。

少子化が進んでいることは確かであり、今年2月には2022年の出生数が80万人の大台を割ったことが明らかになりました。

その一方で、大学進学率は1990年の24.6%から2022年には56.6%と大幅に上昇しています。今後も修学支援における家計年収の要件緩和などで大学進学率はさらに10ポイント以上伸びる見込みです。

女子大でも、生き残りが十分に可能な大学と、恵泉女学園大学のように募集停止に追い込まれる大学に二極化していくことが予想されます。

■全国の女子大65校中5~15校は惠泉と似た状況にある

2023年4月現在、私立女子大は全国に65校あります(一部共学化している長野・清泉女学院大学を含む)。

この65校すべての一般入試の志願倍率および入学定員充足率の推移について、データを集計しました。

入学定員充足率は入学定員に対して実際の入学者がどれだけいたかを示す指標で、1人でも少なければ「定員割れ」となります。もちろん、定員割れ=危険、というわけではありません。多少の入学辞退者などが出るのはあり得ます。

そこで、恵泉女学園大学の2022年と同じ水準、すなわち、志願倍率が1.5倍以下、充足率が60%未満の大学を抽出しました。

結果、2022年時点で恵泉女学園と同じ水準にある女子大は川村学園女子大学、岐阜女子大学、京都ノートルダム女子大学、大阪女学院大学、神戸海星女子学院大学の5校が該当します。

募集停止になってもおかしくない「危険水域」にある大学一覧

編集部註:記事初出時、数値の一部に間違いがありました。尚絅大学の2022年度入学定員充足率を50.2%としていましたが、2023年新設学部分を含めたことで誤った母数に基づく計算になっており、正しくは74.5%でした。また、恵泉女学園大学の2020年度偏差値を「35.0~40.0」としていましたが、正しくは「35.0~42.5」でした。訂正します。記事中の図版を修正し、合わせてタイトルを「6校」から「5校」に変更しています。関係者のみなさまにお詫び申し上げます。(4月19日14時30分追記)

付言しますと、充足率が60%台の女子大は8校ありました。

合わせて13校は危険水準にあります。このうち3校は、恵泉女学園大学と同じく、小規模(学部数は2学部以下)、都市部に立地という共通点があります。

充足率が70%台であっても安泰とは言えない女子大も数校あります。今後、5~15校が恵泉女学園大学同様に募集停止に追い込まれる可能性があります。

■学生集めが順調な大規模校はキャリア志向に対応

一方、大規模校を中心に、順調に学生を集めている女子大は23校あります。

専門性が極めて高いのは、女子栄養大学、女子美術大学、東京女子医科大学の3校です。

残る20校のうち、12校は2000年代以降に学部を増やした大規模校です。具体的には、昭和女子大学、東京家政大学、同志社女子大学、武庫川女子大学など。

女子大は1990年代以前だと、文学部や家政学部が中心でした。卒業後は一般職就職が中心です。共学校は理系学部だけでなく、文系学部でも女子学生が少なかった時代です。それよりも、女子学生だけで学ぶ女子大には需要があったのです。

ところが、2000年代以降、女性のキャリアが変わっていきます。一般職採用は減っていき、総合職採用が中心となりました。女子学生側も、一般職よりも総合職に就職、結婚・出産後もキャリアの継続希望者が増えていきます。

そうなると、文学部や家政学部よりも、経済・経営・法学部や国際系・IT系学部などを志望するようになります。

このキャリア志向の変化に対応して学部を新設していった女子大は学生集めが順調です。

主な女子大の学部新設
・共立女子大学:国際学部(2007年)、ビジネス学部(2020年)、建築・デザイン学部(2023年)
・昭和女子大学:グローバルビジネス学部(2013年)、国際学部(2017年)、環境デザイン学部(2020年)
・津田塾大学:総合政策学部(2017年)
・日本女子大学:国際文化学部(2023年)
・椙山女学園大学:現代マネジメント学部(2003年)
・京都女子大学:法学部(2011年)、データサイエンス学部(2023年)
・武庫川女子大学:建築学部、経営学部(共に2020年)、社会情報学部(2023年)

■系列高校から内部進学者が出ない「系列校スルー現象」

2000年以降で募集停止・廃校となった大学は恵泉女学園大学を含めて16校あります。

なお、募集停止となった後も学生は在籍するため、基本的には卒業するまで大学は存続します(解散命令や大学譲渡により、即廃校となった大学は3校)。

この16校についても分析していったところ、立地も大きく影響していることが判明しました。具体的には、3校が地方に立地し、学生集めがそもそも難しかった「地方型」。10校は都市部に立地、競合相手の多さから学生獲得に失敗した「都市型」です(残る3校は運営の不祥事が主因となった不祥事型)。

恵泉女学園大学は都市型に該当します。2012年に募集停止となった東京女学館大学も都市型であり、この2校は立地だけでなく「系列校スルー現象」も似ています。なお、東京女学館大学の最終募集年度となった2011年度の定員充足率は61.1%、倍率は1.0倍でした。

系列校スルー現象とは、同じ学校法人が経営する系列の高校が内部進学者を出さない(スルー)状況を指しています。

日本の私立大学は学校法人が経営しており、その多くが系列の高校を擁しています。同じ系列なので、内部進学者が一定数出ることで大学は学生を確保できますし、高校生やその保護者からすれば、大学受験で苦労しなくても内部進学できます。

ところが、2000年代以降、都市部で中学受験が盛んになると、この内部進学モデルが崩れる私立高校が出てきました。

■大規模校であれば一定数の内部進学者を維持できる

高校からすれば、他校との競争に勝つため、進学実績を上げる必要があります。しかも、女性のキャリアの変化により、高校生・保護者とも高学歴志向となりました。その結果、国公立大や医学部を含む理系学部志望者が増加します。

首都圏の私立中高一貫校だと、豊島岡女子学園、鷗友学園女子、浦和明の星女子などは進学実績が伸びており、難易度が上がっています。

大学を擁する私立高校も、自校の生徒獲得のためには、内部進学より国公立・難関私大合格の実績を上げる必要に迫られます。

それでも、高校・大学ともに大規模であれば、内部進学がゼロになることはありません。高校内部でも、国公立・難関私立大志望から、内部進学希望まで多様です。特に、大学が日東駒専クラスより上であれば、「無理に受験しなくても」との心理が働きます。これは、中学受験を検討する保護者も同じ。

実際に、立教女学院(立教大学)、大妻(大妻女子大学)、共立(共立女子大学)などは、今も内部進学者が一定数います。そのため、系列校スルー現象は強くは出ていません。

■難易度の低い大学に内部進学するのは「格好悪い」

ところが、高校・大学とも小規模だとどうでしょうか。

高校の規模が小さければ、大規模校以上に大学進学実績に神経質になります。少しでも悪くなれば、志願者の減少もあり得るからです。

さらに、大学も小規模だと学部数が少なく、その分だけ選択肢が限られます。その上、一般にも知名度が高くないことから、難易度が高くありません。

そうなると、高校内でも同級生の国公立・難関私立大志望に引っ張られる形で内部進学を忌避するようになります。

もう一点、小規模校だと、高校と大学が同じ敷地内にある学校法人が多数あります。便利とも言えますが、これが系列校スルー現象を強める一因にもなります。高校生からすれば、大学進学で同級生だけでなく後輩にもいいところを見せたがります。それが小規模校で難易度も高くないと、「格好悪い」と考えてしまい、忌避するようになるのです。

実は女子大・共学校合わせて10校程度でも、この系列校スルー現象が出ています。

■恵泉女学園の募集停止発表に添えられた一文の意味

東京女学館大学と恵泉女学園大学、この2校は系列校の置かれた状況に関しても奇妙なまでに一致します。

四谷大塚全国中学入試偏差値一覧によると、東京女学館中学、恵泉女学園中学とも偏差値は54。

2023年大学入試での合格者は東京女学館高校が東京大学1人、東北大学1人、東京外国語大学3人、早稲田大学20人、慶應義塾大学34人など。

恵泉女学園高校は、大阪大学2人、九州大学1人、千葉大学1人、早稲田大学20人、慶應義塾6人など。付言すると、2022年には東大合格者を1人出しています。

学校規模も、両校とも1学年200人程度と似ています。

一方、東京女学館大学は国際教養学部のみの1学部、恵泉女学園大学は人文学部、人間社会学部の2学部。人間社会学部を構成する2学科のうち1つは国際社会学科で、東京女学館大学国際教養学部と同じ国際系です。

人文学部も国際系学部・学科も、近隣には共学校含めライバルが多数存在します。しかも首都圏は公共交通網が発達しており、多少離れている大規模校にも簡単に通学できてしまいます。

恵泉女学園大学が募集停止の発表時に「恵泉女学園中学・高等学校は、この件で不利益を被ることはございません」との一文を入れているのは、系列校スルー現象をよく示しています。

■生き残りの鍵を握るのは「共学化」「規模拡大」「都市部移転」

女子大の未来はどうなるのでしょうか。

2024年には北海道武蔵女子大学が新設されるなど、今後も新規参入はあります。

この新設校を含めた女子大66校のうち、20校程度は安全水域、5~15校程度は危険水域にあります。残る30~40校は中間層であり、今後、安全水域・危険水域、どちらに転ぶか分かりません。

時代のニーズにあった学部新設により規模を拡大していく、キャンパスを立地のいい場所に移転するなどの方策が考えられます。

あるいは、共学化も有力な選択肢となります。実際に2023年は神戸親和女子大学(現・神戸親和大学)、鹿児島純心女子大学(現・鹿児島純心大学)の2校が共学化しました。

2000年以降に共学化した大学の中では、武蔵野大学(2004年/旧校名は武蔵野女子大学)、文京学院大学(2005年/旧校名は文京女子大学)、京都橘大学(2005年/旧校名は京都橘女子大学)などが共学化だけでなく、学部新設による規模拡大やキャンパス移転もあって、成功しています。

■充足率50%未満の大学は学部新設が困難になる

ただし、共学化は女子大が生き残る特効薬ではありません。2000年開設の広島安芸女子大学は2002年に共学化しましたが2003年に募集停止・廃校。音楽大学の名門だった上野学園大学は2007年に共学化するも、2020年には募集停止を発表しました。

日本の若い女性3人が勉強
写真=iStock.com/Milatas
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Milatas

2022年の志願動向を分析したところ、2000年以降に共学化した元・女子大学26校のうち、5校は恵泉女学園大学と同じ、危険水域にあります。

女子大の中間層(30~40校)が共学化をする際は、合わせて学部新設やキャンパス移転などの拡大策も検討することが求められます。

そして、危険水域にある女子大(5~15校)は打てる手が多くありません。文部科学省は2023年に、充足率50%未満の学部がある大学については学部新設を抑制する方針を発表しました。こうなると、危険水域にある大学は学生が見込める看護学部・医療系学部などを新設して収入を増やす方策が取れません。傷が浅いうちに他大学との統合や募集停止を選択することも必要となります。

冒頭でも述べた通り、このように女子大は生き残る大学とそうでない大学、この二極化で推移していくものと見られます。そしてそれは、女子大にかぎらず大学全般にいえることとなりそうです。

筆者註:本記事公開後の2023年4月17日、神戸海星女子学院大学が2024年度以降の学生募集停止を発表しました。同大は本記事中の図表にて、「危険水域」とした5校のうちの1校です。(4月17日17時00分追記/4月19日14時30分訂正)

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石渡 嶺司(いしわたり・れいじ)
大学ジャーナリスト
1975年札幌生まれ。北嶺高校、東洋大学社会学部卒業。編集プロダクションなどを経て2003年から現職。扱うテーマは大学を含む教育、ならびに就職・キャリアなど。主な著書に『改訂版 大学の学科図鑑』(ソフトバンククリエイティブ)など累計31冊。近著に『ゼロから始める 就活まるごとガイド2025年版』(講談社)がある。

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(大学ジャーナリスト 石渡 嶺司)

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