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人口7000万でも社会機能を維持するためにやるべきこと…橋下徹「なぜ移民受け入れ、生産性向上と合わせて『定年制度廃止』が必要なのか」

プレジデントオンライン / 2023年4月14日 9時15分

早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。最新の著作は『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)。 - 撮影=的野弘路

元大阪市長・大阪府知事で弁護士の橋下徹さんであれば、ビジネスパーソンの「お悩み」にどう応えるか。連載「橋下徹のビジネスリーダー問題解決ゼミナール」。今回のお題は「定年廃止」です――。

※本稿は、雑誌「プレジデント」(2023年4月14日号)の掲載記事を再編集したものです。

■Question

人口減が進む中で定年制度を廃止する意味は?

役所の会計年度末である2023年3月には60歳になった公務員が定年を迎えます。日本では民間企業にも存在する定年制度ですが、今、経済界でその廃止論が浮上しています。本格的な高齢社会のもとで働き手を確保するための方策である一方、能力主義を徹底し、雇用の流動化を促すきっかけにもなりそうです。この動きをどうとらえたらいいでしょうか。

■Answer

正規・非正規のアンバランスを解消し、日本的能力主義を構築せよ

日本の人口がすさまじい勢いで減少していく様が、各メディアで報じられています。これまで僕らが当然のように享受してきたさまざまな社会サービスが受けられなくなり、経済的ダメージも計り知れないと。でも、この現象は今に始まったことではありません。

僕がまだ政治家だった約15年前、「いずれ日本は人口7000万人時代に突入する」と発言し、猛バッシングを受けました。「橋下は『日本の人口を7000万人にすべき』と言っている」と(笑)。僕は「人口を減らせ」と言ったのではなく、「人口減少時代において社会機能を維持する方策を考えるべき」と提言したのです。

僕は予言者ではありません。それでも公表されている出生数データから換算すれば、将来日本が人口減に見舞われることは十分予測がつきました。にもかかわらず炎上した理由の1つは「移民受け入れ」を提言したことに対するアレルギーでしょう。もう1つは「日本の人口が減る」事実を誰も直視したくなかったからです。政府すらいまだその事実を公に認めていません。「人口1億1000万人維持」を目標にし、そのために「子育て支援」「少子高齢化対策」を掲げていますが、本来、この2つはまったくの別物です。

もちろん「子育て支援」の結果、出生率が回復すれば万々歳ですが、戦後の特殊状況下で起きたベビーブームが再び訪れるとは考えにくい。

一方、人口維持ができなかった場合どうするかを考えるのが、本来の「少子高齢化対策」です。子供を増やすことだけが少子高齢化対策ではないのです。対策としては、①移民の受け入れ、②定年制度の廃止、③AIやロボットの活用による生産性向上――といったことが挙げられますが、今回は「定年制度の廃止」を考えましょう。

屋外に立つ白髪のビジネスウーマン
写真=iStock.com/maruco
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/maruco

日本の定年制度は、高度経済成長と共に定着しました。若者が爆発的に増える時代、かつ男性の平均寿命が60代、70代だった時代には、一定の年齢で雇用が解消される仕組みは合理的でした。一家の長が家族を養う期間は雇用を守り、定年後は夫婦2人の余生を年金で守る。そうすると個々人は人生設計が立てやすく、企業にとっては人材確保がやりやすく、若手も成長環境が用意されます。

しかし、このシステムはもはや今の時代に即しているとは言えません。男性の平均寿命は80年を超えました。定年後も20年以上続く“余生”を、年金で賄い続けることは不可能です。高齢者の概念も変化しました。50年前の70代と現在の70代は異なります。医療技術は向上し、70代の人でもまだまだ働くことができます。それなのに一定の年齢に達したからといって労働を止められると、人口減少社会においては社会が持ちません。

ただ、企業も全員を無期限に雇用し続けるわけにはいきません。個々の能力に応じて、待遇や条件は判断されるべきで、能力の不足分は「リスキリング」で補う必要もあるでしょう。これは年齢とは関係なく、若い人にも当てはまります。

僕が岸田内閣のやり方に物足りなさを感じるのはこの点です。リスキリングの重要性を説くわりに、「能力が上がらなかった場合」については言葉を濁す。日本の働き方が今後、メンバーシップ型からジョブ型に変化し、能力主義が徹底されるということも明言しない。定年廃止は高齢者の雇用を確保するためばかりではなく、「能力がなければいつでもご退場(解雇)願いますよ」というメッセージとセットなのです。ここを政治は、はっきりと言うべきなのです。

■リスクはすべて非正規雇用者に押し付けてきた

能力主義への移行は一見過酷に見えるかもしれません。でも、そもそもここ30年、日本政府と産業界がしてきたのは、「正規雇用者は徹底して守り、リスクはすべて非正規雇用者に押し付けてきた」ことです。かたや“正社員”は入社と同時に約40年保証の「給与+退職金」という安泰チケットを手に入れ、かたや“非正規雇用者”は翌年の安心も保証されず、結婚も子育てもままならない。そんなアンバランスな社会が継続した結果が、現在の超少子高齢化社会です。

今や非正規雇用者は労働人口の約4割に迫ります(女性は5割以上)。正規雇用者への過度な“安泰”を解除し、非正規雇用者に“安心”を付与することで、ようやく社会のバランスは保たれます。理想は正規・非正規・フリーランス問わず、それぞれの立場で能力を磨き、生産性高く仕事をして、安心して生活していける社会です。

追記するならば、日本経済の生産性低下は「人材の流動性」に欠けていることが原因です。最近、アメリカでは大手テック企業が、数千人から1万人レベルの大規模レイオフを発表しましたが、かといって社会全体で失業者が莫大に増えているわけではありません。雇用の流動性が高い社会では、一社を去っても次の会社に席を見つけ、挑戦を繰り返していけるからです。

ただし、アメリカ型能力主義は、日本人の安定志向からするとちょっとハードルが高すぎるかもしれません。日本型能力主義社会には、万が一の場合に備えた「セーフティーネット」の充実が欠かせません。「能力主義」を徹底した結果、スキルアップできない人間は自己責任で職も家も命も失う……、そんなディストピア社会は誰も幸せにしません。

正規雇用者・非正規雇用者・フリーランスであっても、雇用の機会・リスキリングのチャンス、いざというときのセーフティーネットは平等に用意されるべきです。もちろん世代・性別・立場の如何を問わずです。事故や病気、家族の状況で働けなくなっても、社会がしっかり基本的な生活を守る。「万が一の安心」と挑戦はセットです。安心がなければ誰も挑戦しません。

政治に望むのは、今度こそ少子高齢化が進むのを傍観しないことです。なし崩し的に「能力主義」が暴走しないように、セーフティーネットを整えること。そのうえで「人口7000万人時代」でも、年齢に関係なく能力のある人たちは働き続けることができ、明るい社会を実現できるという明確な将来ビジョンを描いてもらいたいです。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。北野高校時代はラグビー部に所属し、3年生のとき全国大会(花園)に出場。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。最新の著書に『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)がある。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹 構成=三浦愛美 撮影=的野弘路)

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