エグゼクティブがこっそり教えを請う"緊張対策のプロ"が伝授、あがり症が一瞬で消える直前の最強ルーティン
プレジデントオンライン / 2023年4月14日 11時15分
■緊張を緩和して仕事力アップ
新年度になると、新しい職場環境やポジションに就いて、初対面の相手や人前で話す機会が増えます。キックオフミーティングなどの重要なイベントが続くこの時期は、普段以上に緊張への不安を抱えている方もいるのではないでしょうか。
適度な緊張は集中力を高めることもあり、けっして悪いことばかりではありません。しかし、極度の緊張は、仕事の効率化やキャリアアップの妨げとなる恐れがあり、早めに改善しておきたいところです。そこで今回は、緊張を緩和する方法について取り上げます。
よく「緊張対策」を聞かれ「経験を積めば緊張しなくなるよ、場慣れだよ」と答える人がいます。もちろんそれも一理あります。しかし、緊張は、経験が少ない若手社員だけがするものでしょうか? 答えはNOです。事実、私の元にトレーニングにいらっしゃるのはほとんどが管理職や役員の方です。
なぜ管理職や役員が多いのかというと、もちろんさまざまなご相談内容がありますが、特に多い理由は2つです。1つ目は、これまで緊張をなんとか誤魔化してきたが、役員就任後はオフィシャルな場面で話す機会が増えるので、会社の代表としてふさわしいスピーチスキルを身に付けたいというものです。
2つ目は、役職が上がったからこそのプレッシャーがあるからです。若手の頃なら「慣れていないのでうまくいきませんでした」で済んでいても、管理職以上ともなると、周囲からうまく話せて当たり前と思われているため、「部下の前で失敗したらどうしよう」「恥ずかしいところを見せられない」というプレッシャーを抱えていることから、結構多くの方がトレーニングにいらっしゃいます。
■スピーチスキルはビジネススキル
外資系企業では、スピーチスキルはビジネススキルとして重要視されているところが多いようです。ある程度のポジション昇格とともにスピーチが苦手な方には会社からスピーチトレーニングの受講をすすめられることがあり、実際、私も担当することがあります。しかし、多くの日本企業では、まだ個人任せのところがほとんどではないでしょうか。
以前、国内メーカーに勤務するTさん(40代女性)が個人でスピーチトレーニングを受講してくださいました。広報部の課長になったばかりのTさんは、社内関係各所、メディア対応など人前で話す機会が増えたのですが、あがり症で、人前に立つと声や手が震えてしまうというお悩みを抱えていました。
もともと優秀な方でしたので、あがり症を克服して人前でもしっかり話せるようになった結果、あらゆる場面で本来のパフォーマンスを発揮できるようになり、社内外からの評価も上がり3年後には女性役員に抜擢されました。
この事例のように、マネジメント層の緊張対策は、決して個人の問題にとどまらず、企業にとっても人材活用につながるキャリア形成の上で重要なものなのです。
■緊張の主な原因3つと対策
では、人前で話す場面での緊張対策について、主な原因と対処法をみていきましょう。
① 自意識過剰
緊張すると声が震える、声が上ずる、顏がこわばる、手が震えるなどの現象が起きることがあります。また、頭が真っ白になるのが怖くて、原稿を早口で棒読みしてしまう人、資料ばかり見て視線を合わせない人もいます。このように、人前で緊張している自分が、周囲にどう見られているのか気になってしまって不安になるという方が多いようです。
![書類に目を通し、緊張に襲われている女性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/d/d/1200wm/img_dd78c054dd83ff57fb48a0664c76222f331590.jpg)
これは、自分に意識が向いている自意識過剰な状態です。人は誰でも、他人ではなく自分に一番興味があります。例えば、集合写真で最初に探すのは自分です。決して一緒に映っている友人を真っ先に探すことはしないでしょう。このように、誰でも自意識は持っています。
しかし、人前で話す場合、この自意識が強くなりすぎると厄介です。なぜなら、話の効果を決めるのは相手だからです。話の効果を高めるには、相手を動かさなければならないのですが、自分にばかり意識が向いていると、周囲がまったく見えなくなり空回りをしてしまいます。これでは、当然、期待する反応はかえってこないので余計焦ってしまうのです。
■「何のために話しているか」に意識を集中させる
対処法としては、まず自分の緊張を意識しすぎないことです。残念ながら、相手はそこまで、あなたに興味がありません。自分では緊張してあがっていると思っていても、自分が思うほど、他人は気にしていないのだと割り切ることです。
次に、意識を自分から相手に向けるには、何のために話しているのかに集中することです。例えば、キックオフミーティングの目的は、「自分がうまく話すこと」ではありません。「メンバーに部の方針を自分事として受け止めてもらい自発的な行動を促す」ことです。このように本来の話す目的やゴール設定を具体的に言語化すると効果的です。
もし、自身の声の震えなど、話し方が気になるようであれば、話し方の練習で改善が図れます。どうしても人の目が気になってしまう方や、声が小さくて話の効果が上がらない場合には、緊張しても相手に伝わらないように話し方の印象を整えることをおすすめしています。
■「失敗するかもしれない」という考えを捨てる
② 思い込みやマインド
過去に失敗をして人前で話すことにネガティブな思い込みを持っている方や、「失敗したらどうしよう」「うまくいかなかったらどうしよう」と心配性な方も、緊張しやすい傾向にあります。また、「取引先の機嫌を損ねるかもしれない」「社員の士気を下げるかもしれない」「否定的に受け取られるかもしれない」と、悪く思われたくないと考え過ぎる方も緊張しやすく、言葉が出にくくなります。
こういう方への対処法としては、与えられた話す機会をプラスにとらえるように、考え方やマインドを変えてくことが肝心です。人前でうまく話せる人は、決して緊張していないわけではありません。ただ、その機会を、話を聴いてもらえる絶好のチャンスとプラスに捉えているのです。過度に緊張してしまうときは、他人の視線を恐れるあまり「失敗するかもしれない」「悪く思われたくない」とマイナスな考え方になっているのかもしれません。
「失敗するかもしれない」と思いながら何回プレゼンをしても、決してうまくいきません。「成功するために何を話すか」といったプラスの考え方に切り替えてゴール設定をしなければ決して成果はでません。どうぞ、話す場面ごとに「提案の価値を分かってもらう」「士気を高めていこう」などとプラス思考になりましょう。
■自分を動画で客観的に見てみる
③ 話し方に自信がない
これまで自己流でなんとかやってきたが、役職に求められるご自身の話し方に自信が持てないという方も多いようです。今は、YouTubeなどで多くの名スピーチやプレゼンテーションを見ることができます。そういう上手なスピーカーと比較をして、自分は劣っているのではないかと不安になってしまうようです。その他にも、職場で、上司から話し方について指摘を受けてから、気になって話せなくなってしまったという方もいます。「ダメな点を指摘されたが、改善方法がわからずに困っている」というご相談もよくいただきます。
話し方に自信が持てない方は、自身の話し方を客観的に確認することをおすすめします。スマートフォン等で動画を撮影して確認をするのです。自分が映っている動画を見るのは、恥ずかしくて嫌かもしれませんが、自分をちゃんと見ずにダメだと思い込んでしまうのではなくて正しく現状を確認することが何より大切です。中には、動画を見て「思ったほど悪くなかった」という感想を持つ方もいます。実は、このようにご自身を客観視すると他人にどう見られているのかという不安の解消にもつながります。そして、改善したい点が見つかれば、「見せたい自分」に近づけていけばいいのです。
■人前での緊張を緩和する「話し方ルーティン」を取り入れる
人前での緊張を克服して成果を上げるためには、話し方の基本的な体の使い方を学び再現する方法があります。ただ、話し方は、生活習慣によるところが大きいため、緊張を緩和して自分の理想とする話し方を習慣化するには、ある程度練習が必要です。
個人差はあると思いますが目安として、ロンドン大学のフィリッパ・ラリー博士らの研究によると、新習慣が身に付くまでの平均時間は、66日だと言われています。皆さんは、仕事で安定した成果を出したいときに、決まった所作・動作を繰り返す「ルーティン」を取り入れることがあると思います。話し方の改善も「ルーティン」を取り入れて、少しずつ習慣を変えていくと効果的です。今回は、ご自宅や職場で取り入れやすい簡単なルーティンをご紹介します。
話し方ルーティン
② 腹式呼吸を意識する
③ 笑顔を意識する
④ 第一声は山なり
では、順番に解説します。
■安定的な力を発揮できる4つの習慣
① 姿勢を整える
まず、背筋を伸ばして姿勢を整えます。自信がないとうつむきがちになってしまいますが、うつむきがちになると、暗い印象、やる気が無いと見られてしまいます。
また、前傾姿勢になると喉が閉じてしまい、声が出にくくなります。
緊張すると首や肩に力が入り過ぎていて、声が出にくくなりますので、首や肩を回して軽くほぐして、力みを取りましょう。喉の力みは大きなあくびをすると力が抜けます。
② 腹式呼吸を意識する
普段は、胸式呼吸という浅い呼吸をしている方がほとんどですが、人前で話すときの緊張緩和策として「腹式呼吸」を使えるように日頃から練習しておくといいです。「腹式呼吸」を使うと深い息を吸えます。深い息は医学的に副交感神経が優位になりリラックス効果をもたらします。また、声が小さいのは、息の量が不足しているからです。「腹式呼吸」で息の量を増やして声量を増やせば小さい声を改善できます。声が震える、上ずってしまう場合には、お腹に力を込めて話すことで安定します。
腹式呼吸に慣れるための練習法です。
2・鼻から大きく息を吸ってお腹を膨らませる
3・口から長い息を吐きながらお腹をへこませる
これを何回か繰り返します。
実際に話すときには、2の状態でお腹に力を入れて話し始めて、息が続かなくなったら鼻呼吸をします。
③ 笑顔
緊張を見せないようにしたいのであれば表情を整えることも大事です。無理に笑おうとすると、ひきつってしまいますが、表情筋を鍛えることで緊張しても微笑みを維持できるようになります。ぜひ日頃からルーティンに笑顔を取り入れ表情筋を鍛えておきましょう。また、笑顔で話すと、声が明るくなるのでおすすめです。
④ 第一声は山なり
①~③で体と表情をセットしたら声を出します。
普段、リラックスした状態で会話をしているときには、山なりの自然な抑揚がついています。しかし、緊張すると、つい独り言のようになってしまいがちです。そこで、人前でも相手にしっかり言葉が届くように話す習慣をつけるため、第一声を相手の胸元に向けて山なりに届けるイメージで発声します。
ご自宅で練習するときには、誰かと話す想定をして、鏡の前で姿勢と表情を確認しながら声を出してみましょう。職場では、ミーティングの冒頭に、毎回体と表情とセットをしてから相手の胸に山なりに届けるイメージで「では、ミーティングはじめます」「よろしくおねがいします」など、第一声を出してみましょう。大切なことは毎日楽しみながら取り組むことです。まずは、緊張しない場面で、ルーティンを取り入れて話し方を整えていきましょう。
この話し方ルーティンは、緊張しそうな場面の直前にやっていただいても効果がありますのでお試しください。緊張の原因や対策を知っておけば、いざというときに慌てません。どうぞあらゆる場面で緊張に負けず、実力を発揮していきましょう。
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WACHIKAコミュニケーションズ代表
青山学院大学経営学部卒業。中部日本放送アナウンサーを経て、NHK衛星放送キャスターとして、株式市況、世界のトップニュースを10年担当。20年にわたり、スポーツ、経済、情報番組に関わる。アナウンサー名は瓶子和美。現在は、TV現場で培った技術を活かし、ビジネス現場でコミュニケーション力を発揮し、成果を出す人材を育成する研修、講座、講演を行っている他、経営層・管理職、エグゼクティブリーダー向けプレゼン・スピーチのパーソナルトレーニングやコンサルティングなどを実施している。著書に『心をつかみ思わず聴きたくなる話のつくり方』(日本能率協会マネジメントセンター)、『仕事ができる人の話し方』(青春出版社)があり台湾でも翻訳されている。ホームページ
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(WACHIKAコミュニケーションズ代表 阿隅 和美)
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