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インスタ利用者ほど「美容整形はアリ」と答える…顔面加工フィルターに慣れた若者たちのルッキズム中毒

プレジデントオンライン / 2023年4月16日 14時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/miya227

若者は「美容整形」についてどう考えているのか。成蹊大学客員教授の高橋暁子さんは、「SNSで加工写真ばかり見るうちに自分のほうを寄せなければという気持ちになり、美容整形に肯定的な人が増えている。しかし、こうしたルッキズムは多くの若者を苦しめてもいる」という――。

■「元の顔が全部好きじゃなくなった」

ある大学生は複数の加工アプリを使い分け、顔写真の加工に余念がない。「かわいくなれるから、加工は好き。でも、もっとかわいくなろうと色々いじっているうちに、自分の元の顔が全部好きじゃなくなった気がする」と眉をひそめる。

ニーズに合わせて加工アプリはよりどりみどり。たとえば「Meitu」や「BeautyPlus」、「SNOW」を使えば、美白・美肌や歯のホワイトニングなどは当たり前。整形級の加工やオートメイク、体型補正なども可能だ。「FaceApp」を使えば性別から変えることもできる。こうした加工には際限がない。

きれいに見られたいのは当然の心理だし、それで気分良く過ごせるなら加工もありだ。ただし、徐々に加工しない素の顔は出したくなくなることも事実。大人世代でも、Zoomなどのビデオ会議でフィルター機能を使っている方なら気持ちがわかるのではないか。

■10代は「自分の顔を加工後に近づけたい」

履歴書などの証明写真に使う写真を加工するスタジオがあるというニュースが話題となった。大人世代は驚くが、若者世代はそのニュースに対してむしろ「当たり前では」という顔をする。そのくらい、若者世代において顔写真の加工は身近なものになっている。

マンダムの「顔画像の加工に関する女性の年代別意識調査」(2022年5月)によると、自分が写っている画像をSNSにアップしたり、知人に共有したりするとき、自身の顔の補正や加工をするか聞いたところ、10~40代の全年代で「いつもする」「たまにする」合わせて7割以上が「する」と回答した。

補正や加工済みの自分の顔画像と実際の顔を近づけたいかという質問に対して、「すごくそう思う」は10代で74.4%と7割を超えた。20代は4割強、30~40代は4割程度であり、その差は大きい。

■インスタ利用者は美容整形に肯定的な傾向

現在では、「まぶたを二重にしたい」「鼻をちょっと高くしたい」という場合、二重まぶた埋没法やボトックス注射などの方法で比較的リーズナブルに施術を受けられる。こうした「切らない整形」が増えている。

ボトックス注射を受ける女性
写真=iStock.com/vitapix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/vitapix

矢野経済研究所の調査によると、2014年に2833億円だった国内の美容医療市場規模(医療施設収入高ベース)は、2019年に4070憶円に拡大し、2020年は前年割れとなったが、2021年は回復基調となった。同市場は、今後も拡大基調で推移するとみられている(※)

※出典=株式会社矢野経済研究所「美容医療市場に関する調査(2022年)」(2022年7月20日発表)

美容整形肯定派という、ある20代女性は「費用対効果を考えると、アクセサリーより美容整形に軍配があがるのでは。日々の満足度を考えると、圧倒的に美容整形だと思う」という。美容整形をこのように肯定的にとらえる若者は増えている。

SBSデータバンク静岡市調査によると、美容整形についての考え方を聞いたところ、2016年と比べて2021年では「手術を伴う美容整形をしてもよい」が19%から28%、「軽い美容整形ならしてもよい」が31%から43%など、美容整形を肯定的にとらえる人が増えている。

35歳以上では「手術を伴う美容整形はいきすぎだと思う」が「よいと思う」を上回ったが、20歳から34歳では「よいと思う」が上回るなど、若者ほど美容整形を肯定的にとらえる傾向があった。

また、手術を伴う美容整形に肯定的な35~49歳の女性、否定的な35~49歳の女性を対象にInstagramの利用状況を聞いたところ、「よく利用している」「ときどき利用することがある」の割合が肯定派は54%、否定派は44%と肯定派のほうが多く、否定派は「登録をしていない」が41%を占めた。

■10代のメンタルに悪影響、摂食障害も

Instagramユーザーは美容整形に肯定的というのは納得感がある。Instagramといえば「インスタ映え」であり、投稿には肌をなめらかに加工した顔写真やスタイルを細く加工した写真があふれている。

「#美容整形」の投稿も約59万件あり、整形を公表する人も増えている。自らの美容整形を明らかにして、手術後の腫れや赤みが引かないダウンタイムの顔写真などを公開している美容整形系インフルエンサーも人気だ。二重整形を受けた小学生のビフォーアフターを掲載した動画が批判を集めたことも記憶に新しい。

メタの自社調査で、Instagramは10代のメンタルに悪影響があることがわかっている。自分の身体に対して悪いイメージを抱いたり、摂食障害につながる可能性が指摘されているのだ。中には利用することで自殺願望につながるという少女もいた。これはInstagramに限った話ではなく、TikTokにも同様の懸念があるという。

美容整形によって自信が持てたり、満足するのであれば、検討するのも悪いことではない。しかし、あふれる情報によって自分自身に自信が持てなくなったり、拒食症になったり、美容整形しなければ生きていけないと思い込むのであれば問題だ。

■インスタ映えがルッキズムを加速させる

厚生労働省の思春期の悩みと相談先についての調査(2016年)によると、中学生における悩みは「成績」(62.0%)や「将来の進路」(57.6%)に次いで、容姿や体型などの「身体」が34.7%と多かった。

高校生でもほぼ同様で、やはり「身体」は40.5%と「将来の進路」(63.7%)、「成績」(56.5%)に続いて多くなっている。容姿や体型などに関して悩んでいる若者は多いのだ。

そして若者世代が多く利用するのが、InstagramやTikTokなどのSNSだ。「インスタ映え」に代表されるように、SNSはルッキズム、つまり外見至上主義の世界だ。ルックスがいいとフォロワーや「いいね」も増える傾向にある。

フォロワーや「いいね」がほしい若者は、こぞって写真を加工して美しい肌や細い体を演出するようになり、理想通りではない自分自身を否定するようになる子もいる。

InstagramなどのSNSアプリが表示されたスマホの画面
写真=iStock.com/5./15 WEST
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/5./15 WEST

■「リアルの肌」を見る機会が激減

高校生新聞に、「思い出は全て『加工の顔に』」という記事が出て話題になった。お互いの顔を加工した写真ばかり残した結果、中学時代の同級生との思い出写真では、お互い元の顔が見られなくなってしまったというのだ。

若者のSNSを利用する時間は長い。肌を加工した写真や細く加工した写真ばかり見ているうちに、「きれいな肌でなければ」「痩せなければ」というメッセージを受け取る。

SNSで毎日のように加工した顔写真を見続け、コロナ禍で顔の半分はマスクで隠した生活が続くことで、本物の肌を見る機会が激減している。本当の肌には産毛が生えているし、シミやシワなどもあり、赤みやほくろなどもある。しかし、SNSの世界にはそのようなものは存在せず、陶器のようにツルリとしている。

加工した肌を当たり前と思っている若者が、鏡で自分の顔を見たときに落ち込んだり、自分の肌や顔に嫌悪感を抱いてしまいがちになるのも当たり前ではないか。

■海外では「ステルス加工」の規制も

反動も起きている。たとえば、映えない系SNS「BeReal」は2022年5月時点でダウンロード数1000万を超えるなど、Z世代を中心に人気となっている。Instagramのように画像を加工することができず、アプリから通知がきたタイミングで原則2分以内に写真をアップしなければならない仕組みだ。

撮影時にはインカメラとアウトカメラ両方同時に撮るため、撮影時の自分も写る。映えを考えて撮影したり加工したりができず、名前の通りリアルであらねばならないというわけだ。

アパレルブランドのアメリカン・イーグル・アウトフィッターズは、自社の下着ブランド「Aerie」で広告写真を一切修正しないことを宣言している。シワやたるみ、傷やほくろなどもそのままであり、同時にプラスサイズなどさまざまな体型のモデルを起用している。無理せず自然体でいたい消費者の女性たちに支持され、売り上げを伸ばしているのだ。

SNSでの加工を明示しなければ法律違反となる国も現れている。ノルウェーでは2021年、広告主やSNSのインフルエンサーが写真を加工している場合、開示する義務が法律で定められた。ノルウェーの若い女性の死因3位が拒食症であるためだという。イギリスやフランスでも同様の規制が進んでいる状態だ。

■自分自身を受け入れられるよう見守りを

若者世代はSNSなどからダイレクトに影響を受けており、それが自己否定にもつながっている。述べてきたように、SNSの写真の多くは肌もスタイルも加工されており、決して真実ではない。まずその事実を子どもに教えてほしい。盛っていないリアル系インフルエンサーの投稿や加工しない広告などを見てリアルを知ってもらうこと、自分の素の姿を受け入れられることこそが大切ではないか。

強迫観念にかられて、自分を追い込むような情報ばかり積極的に見てしまう若者もいる。InstagramやTikTokなどは、ペアレンタルコントロール機能を使って利用時間制限も可能だ。問題ある投稿を積極的に見続けている子どもには、そのような対応も効果的だろう。

10代は自分の身体について些細なことも深く思い悩みがちだ。自分の身体や自分自身についてポジティブにとらえられるよう、見守ってあげてほしい。

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高橋 暁子(たかはし・あきこ)
成蹊大学客員教授
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、webメディアなどの記事の執筆、講演などを手掛ける。SNSや情報リテラシー、ICT教育などに詳しい。著書に『ソーシャルメディア中毒』『できるゼロからはじめるLINE超入門』ほか多数。「あさイチ」「クローズアップ現代+」などテレビ出演多数。元小学校教員。

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(成蹊大学客員教授 高橋 暁子)

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