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「オレたちはこのままでいい」という空気を壊したい…楽天・三木谷浩史が「英語公用語化」にこだわる理由

プレジデントオンライン / 2023年4月17日 13時15分

ハーバード・ビジネス・スクールのセダール・ニーリーは、英語と日本語で書かれた書籍『英語が楽天を変えた』を出版するにあたり、2018年10月24日、東京の楽天本社で楽天社長の三木谷浩史を含む楽天幹部に講義を行った。 - 写真=つのだよしお/アフロ

2022年に創業25周年を迎えた楽天グループ。最大のターニングポイントについて、三木谷浩史CEOは「社内公用語の英語化」を挙げる。なぜそこまで英語化にこだわっているのか。『突き抜けろ 三木谷浩史と楽天、25年の軌跡』(幻冬舎)から、一部を紹介しよう――(聞き手・構成=上阪徹)。

■「英語化で社員の大半は辞める」と叩かれた

――楽天グループは2022年に創立25周年を迎えました。振り返ってみて、最大のターニングポイントは何だったとお考えですか?

【三木谷】社内公用語の英語化、というのは大きかったですね。言葉ってパソコンのOSのようなものじゃないですか。それを変えるわけですから大変でした。でも、実現したことによって、日本人だろうが、インド人だろうが、アメリカ人だろうが、中国人だろうが、まったく関係ないという日本で初めての会社になれた。10年計画でしたけどね。

今や、すべての会社はIT会社なんですよ。銀行にしろ、製薬会社にしろ、出版社にしろ。その意味においては、最も重要なアセットはサービスを実現するプログラムなんです。プログラムを作る人がいないと始まらないんです。

そのプログラムを誰に作ってもらうのかを考えたとき、ものすごく狭い日本のエンジニアのプールから選ぶのと、世界に数千万人といるエンジニアのプールから選ぶのと、どっちから選ぶんですか、ということなんです。

それは、世界中のサッカー選手の世界選抜対日本選抜という話なんです。だから、僕は世界選抜を作るんだと考え方を変えた。日本語でやっていると世界選抜はできないからです。これでは絶対に勝てないでしょう。

もちろんリスクはあった。英語化で社員の大半は辞めるとメディアには叩かれました。

でも、ほとんど辞めなかった。逆にいえば、こんなことで辞める人間は、これからの時代、戦力にはなりません。

一方で、ポジティブなサプライズもありました。役員や役職者など、中高年たちが頑張ったことです。若い者には負けない、と早朝からやってきて英語を勉強していた。今や流暢な英語をしゃべっていますからね。

社内公用語英語化がなければ、今の楽天グループには間違いなくなっていません。でも、残念ながら後に続く日本の会社はなかった。これには「あれ?」と思うしかありません。みんな、ついてくるんじゃないかと思いましたからね。

■いまの日本に欠けているのはアニマルスピリッツ

――楽天が誕生してからの25年の間、日本は「失われた30年」の真っ只中にいました。日本は何が足りないのでしょうか?

【三木谷】やっぱりアニマルスピリッツのようなものを、もう一度、呼び起こすしかないと思っています。豊かになって、島国で、なんとなく「現状より悪くならないならいいや」という空気に、あまり疑問を抱かないような脈々とした仕組みが日本の中にあるんだと思うんです。

明治維新、戦後と日本の近代史では大きな転換期があり、世界に追いつくという目標があった。でも、ジェネレーションも変わり、今や目標がない。著しい成長を遂げてきた中国には、明確な目標がありますよね。だから強い。アメリカはそもそもアントレプレナーシップという、国を強くさせるような仕組みがある。でも、日本人は目標を失っています。

しかも、未来予測をしっかりして危機感を得る、ということもない。実際、統計を見ても、本当に危機的状況なんです。子どもの数がこれだけ減ったら、経済が縮小するのは当然です。デジタルトランスフォーメーションといっても、エンジニアの数が圧倒的に足りない。

政治家のプロパガンダに流されて、なんとなく自分はいい状況にあると思っているけれど、国際的に見るとどんどん遅れている。しかも、今も国民はお上がなんとかしてくれると思っている。だから、盲目的に言うことに従ってしまう。

「金儲けは悪だ」という感覚もそう。士農工商という身分制度もそうでしたけど、封建主義時代に作られた醜い商業の空気が今も続いている。

それを打破したのが、渋沢栄一であったり、岩崎弥太郎であったり、財閥であったり。戦後であれば、松下幸之助や盛田昭夫や豊田喜一郎だったわけです。それがだんだん官僚化して、アントレプレナーシップが生まれなくなってしまった。日本のモデルのライフサイクルは終わりつつあるということです。

だから、ニュージェネレーションが出てこないといけないんです。必要なのは、ビジョンやミッションがあって、それを達成するために事業や仕事がある、という発想です。給料をもらって、言われたことをただこなすのではなく、日本を豊かにするんだ、元気にするんだ、という夢を持って仕事をすることです。

富士山が見える東京の景色
写真=iStock.com/Eloi_Omella
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Eloi_Omella

■世界の人が憧れる日本にしたい

【三木谷】アントレプレナーという言葉を、僕は起業家ではなく、実業家と訳しています。スタートアップをやる人でなくても、本当の意味での実業を行っている人は実業家です。実業の定義は、ちゃんとしたビジネスであること。そして当事者意識を持ち、古い制度に対する挑戦者、破壊者になることです。

イノベーション理論を提唱した経済学者のヨーゼフ・シュンペーターは、ビジネスによってしか世の中は変わらない、という話をしていました。国はプラットフォームでしかない。ビジネスを作り、豊かさを作っていくのは、国民なんです。そこに気づかないといけない。

なんとなく「オレたちはこのままでいいんじゃないか」「この心地よいメンバーだけでやっていこうぜ」という空気が日本にはある。それは、マスメディアもソーシャルメディアも増幅しているところがあるかもしれません。

しかし、周囲が成長し、変化しているのに、自分たちが止まっているということは、後退しているということに他ならないわけです。

物事をより高い視座からとらえないといけない。そのために必要なことは、国際的な視点です。明治維新後に福澤諭吉たちが欧米視察に行ったように、あるいは遣隋使や遣唐使のように、世界を見に行ったほうがいいですね。日本が変わるために。

量子コンピューティングやブロックチェーン、ゼロキャッシュ……。とんでもないイノベーションが生まれ、今は世の中の再定義が行われようとしているんです。ここで、じっとしていてはいけない。

僕はやっぱり日本には、世界で輝いて、世界の人が憧れる国になってほしいんですよ。

■楽天がやることには、やっぱり影響力がある

――そして2022年、楽天のロゴマークの半分をグラデーションでグリーンにした25周年記念ロゴが発表されました。1月に行われた楽天市場の出店者向けカンファレンスでもお披露目されましたね。地球環境保護、エコプロジェクトに力を入れていく、と。

【三木谷】やはりこれは、世界中のあらゆる人が捉えるべき課題だとずっと思っていました。個人としても、ビジネスとしても捉えないといけない、と。改めて思ったのは、どうせやらなくちゃいけないんだったら、リーダーになろう、ということです。

楽天モバイルの立ち上げで、400人が一斉に異動して基地局をどんどん一気に建てていったくらいの気合いを持ってやれば、それもできるんじゃないか、と。

だから、まずは旗を立てたということです。緑の旗です。当然まずは社内から。楽天の全体的なエコシステムであったり、あるいは楽天に出てくる商品であったり、ホテルであったり、移動手段であったり、すべてのものにグリーンの旗を立てていく。それが、実業家としてのミッションだということです。

もちろん、いきなり来年からオールグリーンで、なんてことは無理ですよ。でも、10年かけてやろう、と。真剣に。そのための仕組みが必要だったということ。例えば、3カ月に1回、グリーン朝会をやる。それぞれの事業部が10年計画を立て、どんな進捗なのか報告してもらう。また例えば、楽天市場の出店者でカーボンニュートラルが実現されているとしたら、グリーンバッジを店舗につけるとか。

楽天はここまでの規模になったわけですから、やっぱり影響力があるんです。だから、象徴的なことをやる意味があると思っています。

■大学を卒業してから、「五月病」になったことがあった

――それにしても、わずか25年でどうしてここまで楽天は大きくなれたのでしょうか?

【図表】楽天の売上高の推移
出典=Rakuten.Today

【三木谷】大きくなったらいいというものではないと思いますが、やっぱり夢とビジョンがあるからだと思います。それにみんながついてきてくれた。

楽天のブランドコンセプトに、「大義名分」「品性高潔」「用意周到」「信念不抜」「一致団結」の5つを掲げていますが、やっぱりこれなんだと思っています。実際、この通りにやってきたし、世の中にとって正しいと信じていることは誰に対してでも僕は言ってきましたしね。

声を上げないといけないときには、医薬品のネット販売だって、送料無料ラインの共通化だって、思い切り声を上げてきた。それは、そっちのほうが、最終的にはみんなにとってプラスだと思ったからです。本質論で突き進むことは、とても大事なことです。

学生時代、テニス部のキャプテンになって、新入生の球拾いを廃止したことがありましたが、それと同じです。球拾いやって、うまくなりますか、テニスが。ちゃんと本質的に考えないままで進むと、こういうことが当たり前になっていくんです。誰も考えない先に待っているのは、やっぱり停滞だと思うんですよ。

大事なことは、何のためなのか、ということです。原点に立ち戻る。実は大学を卒業して5月になって、僕はいわゆる五月病になったことがあったんです。学生時代、とにかくアグレッシブに熱く生きてきたのに、いきなり暗くやる気もなくしてしまった。

理由ははっきりしていました。何のために働くのか、わからなくなってしまったからです。日本を元気にしよう、日本の金融をリードして日本を作っていこうと思って興銀に入った。でも、自分の仕事がどこにつながっているのかが、見えなくなってしまった。ようやくモチベーションを上げられたのは、留学をして世界をリードするビジネスパーソンになるんだ、という目標が見つかってからでした。

■現代版の「亀山社中」をつくりたい

三木谷浩史『突き抜けろ 三木谷浩史と楽天、25年の軌跡』(幻冬舎)
三木谷浩史『突き抜けろ 三木谷浩史と楽天、25年の軌跡』(幻冬舎)

【三木谷】イノベーションは、人々の生活を豊かにし、国を富ませてくれます。でも、何のためのイノベーションなのかを間違えたら大変なことになる。やっぱり、いかに世の中を良くするか、世の中を元気にするか、ということだと思うわけです。それをビジネスを通して、僕はやっていきたいんです。やっぱり本質論であり、夢とビジョンなんですよ。聖域を作らず、旗を立てて、ときには地べたを這いつくばりながら、世界を良くしていく。それが楽天というプロジェクトです。

今はインターネットがある。インターネットを通じて、真の意味での経済民主主義を実現するというビジョンは実現できると僕は思っていますし、それにみんなが賛同し参画してくれると嬉しいと思っています。

坂本龍馬は亀山社中を作りましたが、その現代版が楽天だと僕は考えています。まだまだ、これからですよ。

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三木谷 浩史(みきたに・ひろし)
楽天グループCEO
1965年兵庫県神戸市生まれ。88年一橋大学卒業後、日本興業銀行(現みずほ銀行)に入行。93年ハーバード大学にてMBA取得。興銀を退職後、97年2月株式会社エム・ディー・エム(現楽天グループ株式会社)を設立。同年5月インターネット・ショッピングモール「楽天市場」を開設。その後、トラベルや証券、クレジットカード、銀行、プロ野球、携帯キャリア事業等へと業容を拡大。現在、楽天グループ株式会社代表取締役会長兼社長。また、東京フィルハーモニー交響楽団理事長、一般社団法人新経済連盟代表理事、楽天メディカル社の副会長兼Co-CEOも務める。

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(楽天グループCEO 三木谷 浩史 聞き手・構成=上阪徹)

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