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塩分の摂りすぎにはならない…62歳の医師・和田秀樹が「ラーメンスープを最後の一滴まで飲み干す」医学的理由

プレジデントオンライン / 2023年4月17日 10時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VasilevKirill

高齢者の食生活は何を心がけるべきか。医師の和田秀樹さんは「私は、ラーメン店に足を運んだときは、基本的に『ラーメンスープ』を飲みきっている。高齢になると、腎臓が塩分を貯留する能力が落ちるため、塩分の摂りすぎどころか低ナトリウム血症のほうが心配だ」という――。

※本稿は、和田秀樹『80歳の壁[実践篇]幸齢者で生きぬく80の工夫』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。

■高齢者は「腹八分目」ではなく、「腹九分目」を心がける

さて、本稿では高齢者にお勧めの「食べ方」について、お話ししていきましょう。まずは「どれくらい食べるか(=どれくらいのカロリーを摂取するか)」です。

じつは、年をとっても、体が必要とするカロリー量は、思うほどには変わりません。

必要とするエネルギー量には、身体活動レベル(体をどれくらい動かすか)の違いによって幅がありますが、18~29歳の男性で2300~2650キロカロリーほど必要なのに対し、75歳以上でも1800~2100キロカロリーは必要です。

後期高齢者になっても、青年時代の80%近くは必要なのです。女性の場合も、必要とするカロリー量はすこし減りますが、「若い頃の8割弱は必要」という比率に変わりはありません。

しかし、現実には、若い頃の「8割」も食べている高齢者は、ごくまれです。唐突なようですが、私は、それを貝原益軒の『養生訓』の悪しき影響と見ています。3世紀以上も前のこの本の影響で、日本では「腹八分目」が健康上の「国是」のようにされてきたからです。

実際、高齢になると、今も「粗食」をむねとする人が少なくなく、高齢者の多くは、必要カロリー量を摂取していません。そして、低栄養状態に陥り、筋肉量が落ち、フレイル(健康な状態と要介護との中間の状態)への道を歩んでいる人が少なくないのです。

高齢になると、食欲が落ちていくにもかかわらず、「腹八分目」を心がけたりすると、いよいよ栄養不足になって、寿命を縮めることになりかねません。

たしかに、40~50代までは、「栄養の摂りすぎ」による生活習慣病が心配です。しかし、高齢になると、低栄養状態によるフレイル化のほうが、よほど心配なのです。

実際、厚生労働省が発表した「国民健康・栄養調査結果の概要」(令和元年度)によると、65歳以上の人のうち、低栄養傾向の人は男性12.4%、女性20.7%。85歳以上になると、じつに男性17.2%、女性27.9%の人が低栄養傾向にあるとされています。

ことに、低栄養になると、心配なのは「転倒」です。タンパク質不足から筋肉量が落ち、ちょっとしたことでころびやすくなることです。そして骨折が原因で、寝たきりになるケースが少なくないのです。

そこで、私は、高齢者は、「腹八分目」ではなく、「腹九分目」を心がけてはどうかと、ご提案します。暴飲暴食は避けながらも、食べたいものを食べ、量的にも満足感のある食事を摂る――それが、私のいう「腹九分目」の意味です。

■メタボを嘆くより、長生きできると喜ぶべき理由

「腹九分目」などというと、「メタボが心配」という人もいらっしゃるでしょう。しかし、本当は、少しくらい「太め」なほうが、健康に長生きできます。

それは、世界中のさまざまな調査から、明らかになっていることです。「やや太り気味」(BMIが25をすこし超えたあたり)の人が、最も健康であることは、疫学的にはっきりしているのです。

たとえば、アメリカで、29年間にわたって行われた国民健康栄養調査によると、最も長生きするのは、BMI25~29.9の「小太り型」。一方、18.5未満の「やせ型」の死亡率は、その2.5倍も高かったのです。

日本でも、かつて宮城県で行われた5万人対象の大規模調査の結果、「やせ型の人は、やや太めの人よりも、6~8年も寿命が短い」ことがわかっています。なお、BMIは、体重(kg)を身長(m)で2回割った数値で、18.5~25未満が「普通」、25を超えると「メタボ」とされます。

というわけで、少し太ったときは、「メタボになった」と嘆くのではなく、むしろ「健康になった」「これで長生きできる」と喜んだほうがいいのです。

メタボリックなお腹
写真=iStock.com/kuppa_rock
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

■摂取カロリー量を減らすと、確実に体と脳の老化を早める

それなのに、厚生労働省は、2008年4月から、メタボかどうかをチェックする「特定健康診査」を国民に義務付けています。メタボになると、高血圧、糖尿病、高脂血症などになりやすいという理由から、メタボ対策を進めてきたのです。

対策の大きな柱は「食生活の見直し」です。端的にいうと、それは摂取するカロリー量を減らすことであり、「愚策」と呼ぶしかない政策です。

食生活を下手に見直し、摂取カロリー量を減らすと、確実に体と脳(心)の老化を早めます。カロリー量を減らすと、おおむねそれに比例して、摂取タンパク質の量も少なくなるので、筋肉量が減り、老化が急激に進むのです。

そもそも、人間が中年以降、太るのは当たり前のことです。たとえば、男性の場合は、その主な原因は男性ホルモンが減ることです。

テストステロンなどの男性ホルモンには、筋肉量を増やし、内臓の脂肪蓄積をおさえる働きがあります。そのホルモンが減少すれば、腹周りに多少脂肪がつくのも、人体の必然なのです。

だから、高齢になってからは、多少体重が増えたからといって、ダイエットや節食はNGです。高齢者の場合、食事量を減らして、低栄養になるほうがよほど危険なのです。

■市販の弁当やお惣菜で、「雑食」を心がける

高齢になると、食事のメニューが「単品化」しがちです。調理したり、皿を洗ったりするのが面倒という理由から、朝食は食パン、昼食はカップ麵といった単調な食事になりやすいのです。むろん、そうした食事を続けると、栄養バランスが崩れ、老化を早めることにつながります。

とはいえ、高齢になると、1日3度、台所に立つのも大変です。そこで、私は「中食」「外食」をもっと利用することをおすすめします。中食は、市販の弁当やお惣菜を買ってきて、家の中で食べることを意味します。

まず中食の食べ方について、お話ししましょう。

中食のいちばんのメリットは、「多くの種類の食材を口にできる」ことです。よく知られているように、1日に食べる品目数は「30種類」以上が理想とされますが、自分で料理をすると、そこまでの種類の食材はまず使えないものです。一方、中食を利用すれば、それが可能になります。

たとえば、コンビニや弁当チェーン店の「弁当」には、多種類の食材が使われています。とりわけ、「幕の内弁当」系なら、15種類ほどの食材を1食で食べることができます。

市販の弁当というと、「食品添加物が多そう」「塩分が多そう」というマイナスイメージを抱き、頻繁に食べるのは健康に悪いと思っている人もいることでしょう。

唐揚げ弁当
写真=iStock.com/runin
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/runin

■バラエティに富んだ「弁当生活」を

しかし、現実には、今どきの市販の弁当は、かなり優秀な食品です。競合店ひしめき合うなか、添加物を控えめにし、衛生状態にも気を配っています。3食のうち1度くらい食べても何ら問題はありません。

むろん、買うたびに、幕の内弁当を食べる必要はなく、「今日は豚肉のしょうが焼き弁当、明日は焼き魚弁当」と、バラエティに富んだ「弁当生活」を心がけるといいでしょう。それが、30品目を達成し、バランスよく栄養を摂ることにつながります。

ときには、若者用の「がっつり系」の弁当にも手をのばしてみてください。量が多ければ、2回に分けたり、夫婦2人でシェアして食べればいいのです。

そのようにして、和風、中華、洋風、いろいろな料理を楽しむことが、適切な栄養補給につながります。それは、「外食」する際も、同様です。今日、刺身定食を食べたら、次回は焼き肉、その次はラーメンというように、いろいろなメニューを楽しんでください。

メニューに変化をつけると、しぜん足を運ぶ店が変わることにもなります。そうした「小さな変化」は、脳にとってもいい刺激になるのです。

■「味の濃い系」のラーメン店がつぶれない理由

私が「単品の食事は避けたほうがいい」と申し上げても、それでも「カップ麵は便利で、そこそこおいしい。ときどきは食べたい」という人もいるでしょう。

実際、高齢者には、「依存症」になったかのように、カップ麵を常食している人がいるものです。カップ麵は依存症を招きやすい食品です。その理由は「味が濃い」からです。

私は、根っからのラーメン党で、40年以上、いろいろなラーメン店を食べ歩いてきましたが、私の見るところ、「味の濃い系」のラーメン店は、まずつぶれません。味が濃いと、そのラーメンに依存する人、要するに「常連」が増えるからです。

一方、あっさり系のラーメン店は、かなりおいしい店でも、その味のように、あっさりつぶれることがあります。その理由は、依存症者(=常連)が増えにくいからだと、私は見ています。

カップ麵に話を戻すと、今は、各メーカーが添加物量などに留意しているので、毎食、カップ麵を食べていても、それで「命に関わる」ことはありません。

他の食品も含めて、加工食品に多少の発ガン性があるといっても、それは100万人に1人発症するかどうかの確率です。

とはいえ、むろん「毎食、カップ麵」という食生活をおすすめするわけにはいきません。カップ麵を常食すると、摂取する食材の種類が減り、栄養バランスが偏るからです。そうした単品型の食生活は、心身の老化を早めます。

また、同じものばかりを食べていると、「慢性型の食品アレルギー」になるリスクも高くなります。

というような理由から、単品型の食生活は避けたほうがいいのですが、「それでも、カップ麵を食べたい」という人には、自分で「具材」をトッピングすることをおすすめします。

今は、スーパーに行くと、煮玉子やメンマ、焼き豚など、ラーメン用の具材がいろいろと並んでいます。それらをカップ麵にトッピングするのです。そうして、食材の種類を増やせば、高齢者が陥りがちな「単品の害」をある程度防ぐことができます。

■ラーメンスープを飲み干しても、塩分の摂りすぎにはならない

私は、ラーメン店に足を運んだときは、基本的に「ラーメンスープ」を飲みきっています。先日も、若い知人とラーメンランチをともにした際、私がいつものようにスープを飲み干すと、「先生、医者の不養生ですよ。最後まで飲んでいいんですか」と“注意”されました。

私が「あなたは飲みたくないの?」と問い返すと、「そりゃ、飲みたいですけど……。でも、塩分の摂りすぎになりませんか」と、訊きかれました。

「なりませんよ」――私はそう答えました。

その理由は、専門的にいえば、「高齢になると、腎臓が塩分を貯留する能力が落ちるため、むしろ塩分不足、低ナトリウム血症のほうが心配だから」ということになります。同症は、血液中のナトリウム濃度が不足する症状で、悪くすると、意識障害や痙攣を引き起こします。

そもそも、今は、どのラーメン店でも、塩分や化学調味料の使用を控えています。また、ラーメンスープには、さまざまな食材のエキスが溶け込んでいます。それを飲まないのは、栄養面からみて、むしろもったいないことなのです。

和田秀樹『80歳の壁[実践篇]幸齢者で生きぬく80の工夫』(幻冬舎新書)
和田秀樹『80歳の壁[実践篇]幸齢者で生きぬく80の工夫』(幻冬舎新書)

そもそも、私は、「本当は飲み干したいのに、『我慢』する」という考え方こそ、「不健康」だと思います。塩分の害以上に、「我慢の害」が健康寿命を縮めることが多いからです。

不必要な我慢をすると、ナチュラルキラー細胞の活性が落ち、免疫力が低下して、ガンをはじめとする大病を招くリスクが高まります。

そもそも、「○○を食べたい」という欲求は、体が「タンパク質不足」や「脂質不足」など、何らかの「不足」を察知したことによって生じていることが多いのです。そのため、食べたいものを我慢すると、その「不足」を助長し、健康長寿を阻害しかねません。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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