大学病院が多い都道府県ほど平均寿命が短い…和田秀樹「高齢者が迂闊に大学病院へ行ってはいけない理由」
プレジデントオンライン / 2023年4月17日 14時15分
※本稿は、和田秀樹『70歳からは大学病院に行ってはいけない』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。
■大学病院の治療でヨレヨレの悲惨な状態になる可能性
大学病院に、みなさんはどのようなイメージをもっていますか。優秀な医師がたくさんいる? 自分にとってベストな治療が受けられる?
残念ながら、どちらも実態とはかけ離れたイメージと言わざるをえません。もっと言うと70歳以上の方の場合はむしろ、大学病院で治療を受けてしまったがゆえに、残りの人生をヨレヨレの悲惨な状態で過ごさなければならなくなる可能性すらあります。
そもそも、治療とは誰のためのもの、何のために受けるものでしょうか。当たり前ですが、治療を受けるその人自身が、よりよく生きられること。自己決定権を尊重されて、その人の望む暮らし方に少しでも近づけること。これこそが治療の本来の目的であるはずです。
ところが、大学病院の多くの医師にとって、関心があるのは、臓器の機能を示す数値データが正常値か否かということ。彼らにとって、患者さんの暮らしぶり、人生哲学などは、およそどうでもいい情報にすぎません。
結果として、その人の人生という唯一無二の大切なものをないがしろにしたまま、自分が担当している臓器を正常値に戻すことだけが目的化してしまうような本末転倒な治療、個人の特性を無視した、ステレオタイプな治療が横行してしまっています。
患者さんとまともに対話しようとしない。家ではどんな暮らしぶりなのか。今、どのようなことに不安を感じているのか。食事は、運動は、趣味は……。
患者さんから話を引き出す努力もせず、薬をきちんと管理できているのかすら配慮せずに、数値と睨にらめっこして独断的な投薬を繰り返す。果たしてこれで「患者主体」の治療を実現できるでしょうか。
■診ているのは人間ではなく「臓器」
大学病院には2つの役割があります。ひとつは、最先端の研究などを踏まえた高度医療を提供するというもの。もうひとつが、医師を養成するということ。
高度医療を提供する場であるのだから、大学病院に行けば、最先端の知見と技術をあわせもった優秀な医師から、自分にとってベストな治療を受けることができる。そう考える人は少なくありません。
しかし、最先端の研究に基づいた検査や治療、投薬を受けられるかどうかということと、あなたの身体や人生にとってベストな治療であるかどうかは、まったく別のものです。
とくに70歳以上の高齢者は、大学病院で治療を受けるべきではないと私は考えます。
トラブルを抱えた臓器の数値が正常値に戻ったとしても、手術による体力低下や投薬の副作用など、ある種の力技ともいえる治療によって肉体の別の部分がダメージを受け、退院する頃にはひどくヨボヨボになって帰宅するような羽目に陥りかねないからです。
それは、「臓器別診療」という大学病院の診察スタイルが、高齢者に求められる治療ニーズとかけ離れていることに起因します。
■高齢者が抱えている疾病は1つでない場合が多い
みなさんご存じのことと思いますが、今の大学病院に「内科」という科はありません。「呼吸器内科」「消化器内科」「循環器内科」などに細分化されています。
あるいは「外科」という科もありません。「脳神経外科」「呼吸器外科」「乳腺外科」といったカテゴリーになっています。こうして細分化し、臓器別の診療を行っているわけです。
この臓器別診療は、現代医学の理想の形として長らく実現を目指されてきたものでした。高度医療を提供し、難易度の高い手術を担う。そのために、医学部の医者たちは、それぞれが専門の臓器に特化して研究し、その専門性を高めてきたのです。
その結果、1970年代頃から、こうした「臓器別診療」が各大学病院でスタートします。
当時、65歳以上の高齢者は人口の7%程度でした。まだ高齢化が進行していなかった社会において、この臓器別診療が一定の役割を果たしたことは間違いありません。
多くの難病患者さんたちが、専門性の高い臓器別診療のおかげで命をながらえてきました。50代くらいまでの患者さんであれば、臓器別の高度医療による治療は効果的だと言えるのです。
しかし、2021年現在、65歳以上の高齢者の割合は29.1%まで上昇しています。高齢になると、1つの臓器だけでなく、こっちにもあっちにもガタがきているという状態になっている人が少なくありません。
若年層の患者さんであれば、抱えている不調は1つだけ、ということも多いでしょうが、高齢者の場合は、3つも4つも疾病を抱えているという状態になりやすい。
高血圧でありながら、軽い糖尿病もあり、コレステロールが基準値オーバーで、骨粗しょう症も抱えている、といった具合です。身に覚えのある方も多いでしょう。
そうなると、血圧を下げるための降圧剤やコレステロール値を下げる薬を循環器内科で処方され、内分泌代謝内科で血糖値を下げる薬が処方される。尿もれが頻繁に起きてくれば、泌尿器科で膀胱収縮を抑える薬が出されるでしょう。
高齢者が薬漬けになりやすいことは広く知られていますが、飲むというより食べるといった量の錠剤を毎日口にしている人もいます。
こうなってくると、症状を軽減させるという薬の効果よりも、副作用の害のほうが大きくなりかねません。高齢になると代謝機能も落ちてきます。体内に摂取した薬を排出しづらくなってくるため、深刻な腎障害を起こす可能性もあります。
医療費の点でも問題です。複数の医師にかかる診療代や各科で処方される薬代など、一人のかかりつけ医に診てもらう場合よりもはるかに医療費が嵩(かさ)んでしまいます。臓器だけを見て、患者自身の健康をトータルに見ようとしない臓器別診療により、体への負担も財政への負担も大きくなってしまうということです。
■診療科同士の連携が取りにくい理由
専門医による臓器別診療をするのであれば、せめてそれぞれの科における医師の見立てや診療方針について、相互に情報や意見を共有し、ディスカッションをするべきです。
たとえば、コレステロールひとつとっても、免疫力やホルモンバランスの観点から考えればコレステロール値はむやみに下げるべきではありません。
一方で、循環器内科の医師であれば、基準値まで下げようとするでしょう。そのどちらも、自分の専門分野においては間違った治療方針ではありませんが、患者さん個人の状況を見極めたうえで、最適と思われる治療を選択すべきで、そのためにも、それぞれの専門医の相互ディスカッションが本来は欠かせないはずです。
ところが残念ながら、大学病院の医師たちは、そうした意見交換や相互ディスカッションに対してきわめて後ろ向きな人が少なくありません。
なぜなら、大学病院というのは強固な縦のヒエラルキー構造にがんじがらめにされた組織で、横のつながりをつくりづらい特殊な世界だからです。
肩書のうえでは、教授がとにかく一番偉いのです。各科においては、外科や内科が一番偉く、内科の中でも循環器内科が一番偉いという構造があります。
だから治療においても、循環器内科の声が一番大きく、暴走しやすい。その結果、免疫の観点や精神科の観点からは、やるべきではないような手術や投薬が平気で行われてしまう傾向にあります。患者ファーストという視点があるとは言えません。まるで、昨今のコロナ感染対策を見ているようです。
日本のコロナ対策は感染症学の医師だけが発言力を強めていったことで、きわめて歪なものになりました。
本来は国民の健康で文化的な生活を守ることを目指して感染症対策が行われるべきところを、感染症専門医が「暴走」していくことで、感染予防そのものが目的化し、感染さえ防ぐことができれば、高齢者の健康が犠牲になろうが、精神へのダメージを受ける人が増えようが構わない、といった有り様でした。
老年医学会や精神神経学会は沈黙し続け、多くの高齢者の心身の健康が損なわれるような対策が続けられたのは、ご存じのとおりです。
■大学病院が多い都道府県ほど平均寿命が短くなる傾向
ここに、思わずびっくりしてしまうようなデータがあります。
47都道府県で、大学病院の多い県、つまり臓器別診療を行う専門医の多い県だからといって、平均寿命が長くなっていないということ。むしろ、平均寿命が短いという傾向すらあることを示すデータです。
1965年には、東京や愛知、神奈川など、大学病院が多い県は平均寿命が長いという傾向が見られたのですが、2000年に入ると、その順位がどんどん下がっていきます(男性に限ると、2015年の最新統計では、神奈川は5位、愛知は8位と高位をキープしていますが、女性はそれぞれ17位、32位と下がっています)。
ちなみに、医学部のある大学の数は東京が13校、大阪が5校、福岡、愛知、神奈川が4校と続きます。東京はやはりダントツに大学病院が多いのです。
つまり、何が言いたいかというと、専門医による臓器別の診療が、高齢者の健康や長寿に役立っていないのではないか、ということです。
あるひとつの疾患を抱える若い患者さんが専門医による高度な治療を受けることが、社会全体の健康促進に貢献していたはずが、人口構成がここまでがらりと変化してしまった今、臓器別診療が社会全体にとって理想的な医療の姿ではなくなってしまったというわけです。
長年、理想の医学を追求して専門医の育成に励んできたのに、ようやくそれが実現したと思ったら、社会状況がすっかり変わりニーズに応えられなくなっている。残念というほかありません。
■高齢者にとって薬は毒になる可能性
薬の量を減らすことによって、寝たきりのお年寄りが歩くことができるようになった、というような医療現場からの報告もあります。
1990年代はじめ頃、「老人病院」といわれる長期入院型病院では高齢者の入院治療の定額制が実施されました(現在は廃止)。高齢者の療養型病床の入院患者には、どれほど投薬し点滴したとしても、病院には定額しか支払われないというシステムです。
つまり、病院側としては、一定額しか支払われない以上、できるだけ薬や点滴の使用量を減らさなければ収益が減ってしまうということを意味します。そこで、数値の変化を見つつ、徐々に使用量を減らしていく取り組みが始まりました。
結果、3分の1まで薬の使用量を減らすことに成功した青梅慶友病院では、寝たきりだったのが、歩けるまでに回復した高齢者が少なからずいたと当時の院長が講演会で語っていました。薬の過剰投与が、どれほど高齢者の体を蝕んでいたのかがはっきりと示されたわけです。
なぜ、薬の投与が高齢者にとっては思いがけないダメージになってしまうのか。薬というのは、口から飲んだ場合、胃腸で吸収されてしばらく経ってから、血中濃度がピークに達します。
その後、肝臓で分解されたり、腎臓から排泄されたりするなどして、徐々に濃度が下がっていきます。その濃度がおおよそ半分まで下がったところで次の薬を飲むと、また徐々に吸収されていくことで、血中濃度がおおよそ一定に保たれる。この半減する時間が8時間であれば1日3回の服用、半日であれば1日2回の服用、といったことになるわけです。
ところが、高齢になると腎臓や肝臓の働きは衰えてきますから、分解するにせよ排泄するにせよ、若い頃よりも時間がかかるわけです。さらに、投与される薬の数が増えれば増えるほど、その負担も増します。
ですから1日3回の薬を2回に減らすとか、その人の体力や症状に照らし合わせて優先順位を決め、薬の種類を減らす、といった判断が、高齢者の健康維持、体力回復のうえでも重要になってくるのです。
■超高齢社会に求められるのは「総合診療」
今の時代に求められているのは、専門医よりも総合診療のできる医師です。消化器も呼吸器も循環器も診ることができて、さらに患者さんの心のケアにまで目を向けられる医師が理想です。
実際、総合診療というのが時代の潮流であることは間違いなく、イギリスでは総合診療医が医師全体の50%を占めています。
日本政府もまた、高齢社会における医療費抑制という喫緊の課題に取り組むべく動きました。2004年、小泉純一郎政権の時に臨床研修制度を必修化したのですが、その際に「スーパーローテート」というしくみをスタートさせたのです。
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精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」
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(精神科医 和田 秀樹)
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