「10年も無心され続けている」78歳母が年金月15万円のうち10万円を46歳の独居ひきこもりの娘に送り続ける理由
プレジデントオンライン / 2023年4月15日 11時15分
■見えにくい女性のひきこもりの実態 バツイチのケース
先日発表された厚生労働省の調査では、ひきこもりに占める女性の割合は、年代によって異なるものの、4割を超えています。ひきこもりといえば、男性というイメージがありますが、女性も少なくありません。特に女性の場合は、「専業主婦」「家事手伝い」と認識されることもあり、見えにくい傾向があります。
以前に相談に来た方のお子さまも女性でしたが、すでに結婚して家を出ているけれど、ひきこもりだと言います。どんな事情なのか耳を傾けました。
◆相談者の家族構成
・相談者=母親:78歳(年金生活)
収入は夫の遺族年金と合わせて年180万円
・長女:46歳(無職)
※父親はすでに他界
◆資産
・預貯金:約2700万円
・自宅:戸建て持ち家
「このままの生活を続けていて大丈夫でしょうか?」
相談に訪れたのは78歳の母親でした。聞けば、離婚した一人娘(46歳)に仕送りを続けているというのです。長女は結婚し、自宅を出たものの、結婚生活は数年で破綻。離婚後は一人で暮らしていましたが、生活費が足りないということで仕送りをしている状況です。
離婚後は実家に戻ることも検討したのですが、仕事もあり、一人暮らしを続けることにしたとのことです。親としても、親元に戻ってきて、すっかり居ついてしまうよりは、早く再婚してほしいと願っていたそうです。
はじめは仕事に情熱を持って打ち込んでいたのですが、何があったのか突然辞めることになったと連絡がありました。離婚時の財産分与もそれほどあるわけではなく、その後、生活のためにアルバイトをしていたようですが、徐々に生活費に窮するようになりました。
はじめは次の仕事が見つかるまでと、お小遣い程度を渡していましたが、やがて無心をするようになり、今では月10万円前後も仕送りするようになってしまいました。そんな生活がもう10年近く続いています。
「最近は何も仕事をしていないようなんですよ。どうもほとんど外出もしないようで、家に閉じこもり気味になっているみたいなんです」
■「私からの仕送りは止めた方が良いのでしょうか?」
母親は心配顔です。女性のひきこもりは決して珍しくはありませんが、離婚後に、ある程度の年齢になってからひきこもるようになったというケースは初めてでしたので、私もうまくアドバイスできません。お子さんがいなかったことが良かったのか、悪かったのか。
「いい人でもいればいいんですけど」
母親はまだ長女の再婚を望んでいるようです。
「失礼ながら、家に閉じこもっていたのでは出会いもないでしょう。結婚よりも、生活を成り立たせることが先決ですね」
「私からの仕送りは止めた方が良いのでしょうか?」
確かに、自立した生活を送るべき年齢の大人に、いつまでも親が資金援助を続けるのは良いことではありません。しかし、お金がなくなったら働くというものでもありません。むしろなおさら閉じこもってしまうこともあります。
逆に立ち直るためには、生活の安定が必要だとの考えもあります。もちろん、そうはいってもお金が尽きてしまえば、親子で共倒れとなりかねません。私は話を伺いながら、将来の資金状況をシミュレーションしてみました。
相談者は、数年前に亡くなった夫が残した財産があり、遺族年金を受給(自分の年金と合わせ収入は計月15万円)しています。持ち家があるため、当面は、賃貸暮らしの長女に10万円もの仕送りをしても、自分の生活はなんとか成立させられます。
しかし、徐々に貯蓄(2700万円)を取り崩していくことになり、このままの状況が続いていくと、母親亡き後、長女が70歳前後に貯蓄が尽きてしまうことがわかりました(図表1赤線参照)。
「このまま、あの子は仕事も結婚もできない、ということなのでしょうか?」
私のシミュレーションをじっと見つめて、母親は落胆しました。
「もちろん、お嬢さんが立ち直って、少しでも収入が得られるようになるとか、再婚の可能性もあります。しかし、ここで楽観的な希望でシミュレーションをしていたのでは、将来への準備ができません。まずは、今のままの状態が続いた場合を考えましょう」
■母娘同居なら貯蓄が底をつくのは長女87歳以降
私はいつも、現状が続いた場合のシミュレーションを作成して、相談者に見てもらいます。そして、その上でどのような対策ができるかを検討します。
「何かいい手立てはないものでしょうか?」
「今は、お母様はお一人暮らし。お嬢さんも一人暮らし。それぞれが別々に暮らしていますから、費用が余計にかかっています。今はお嬢さんも仕事がないのでしたら、戻ってきてもらって、ご一緒に生活されると支出が抑えられます」
「そうした方がいいんでしょうか」
母親は浮かない顔をしています。
「お嬢さんが戻ってきて、一緒に生活したら、どうでしょう。お二人の仲がうまくいかず、けんかばかりしてしまうようでしたら、お勧めはいたしません」
長女が離婚後に実家に戻らなかったという経緯がありますので、私は心配しました。
「そんなことはないのですが……うちに戻ってしまうと、再婚も難しくなるのではと、その点が心配です」
「それは今のままでも難しいかもしれませんね。むしろ状況を変えた方が、生活が改善され、活動的になれるのではないでしょうか」
次に長女が実家に戻った場合のシミュレーションを作成しました。親子で同居することで、月々の賃貸料が不要となるなど生活費が削減され、貯蓄の減り方が小さくなります。その結果、長女が働けなかった場合でもなんとか貯蓄を維持して生活していけそうです。貯蓄が底をつくのは長女が87歳以降との試算になります。
「そうなると、娘は働かなくなるのではないでしょうか?」
「その心配も、今のままでも同じでしょう。むしろ、安心できるとわかった方が、前向きに考えられるようになるかもしれません」
「私も年ですし、娘に戻ってもらえるのなら、その方が安心です」
「これからのことを考えると、一人暮らしよりもご家族が一緒の方が安心ですね」
「娘に考えてもらうように、話してみます」
親元で不自由なく生活できるから仕事もしないで、ひきこもりになってしまうのだ、という見方もあります。しかし、一人暮らしであれば、ひきこもりにならないとも限りません。一人暮らしだと生活が不規則になりがちですが、家族と同居した方が生活リズムをつかみやすいでしょう。そして、生活費の面でも、一緒に暮らした方が支出を抑えられます。
後日、母親から、長女と同居を始めたと連絡がありました。
まだ仕事を始めたり、出会いの場に出かけたり、ということはできないようですが、母親の買い物には付き合ってくれるそうです。こういうことの積み重ねが、やがて社会復帰へとつながってくれることを願っています。
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ファイナンシャルプランナー
「働けない子どものお金を考える会」メンバー。 大手証券会社で個人顧客の投資相談業務を長年行い、ファイナンシャルプランナーとして独立後は、資産運用に限らず、家計の見直し、住宅購入、老後資金など幅広い相談を受ける。 特に、長期にわたる家計のシミュレーション分析を得意とし、ひきこもりや障害を持つお子さんとそのご家族の資金計画を行っている。
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(ファイナンシャルプランナー 村井 英一)
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