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健康数値を正常に近づける努力をした方が死亡率が高まる…エラい医師ほど無視したがる"衝撃データ"

プレジデントオンライン / 2023年4月18日 17時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/simpson33

高齢者は健康状態を示す数値とはどのように向き合うべきか。医師の和田秀樹さんは「フィンランドの保健局が15年にわたって行った大規模調査では、介入的な健康管理によって血圧やコレステロール値などが数値的には改善していた人たちが、逆に死亡率が高くなっているという結果が出た。医者のいう正常値は平均値であり、長生きできる根拠があるわけではない」という――。

※本稿は、和田秀樹『70歳からは大学病院に行ってはいけない』(宝島社新書)の一部を再編集したものです。

■9割以上の医者が陥る「正常値絶対主義」という問題点

先の記事では、大学病院の医師たちの多くが、臓器別診療という専門分化の弊害により、「臓器は診れども人は見ず」といった診察になりがちで、トータルでみると高齢患者のリスクを高めるような治療・投薬に陥りやすいことを指摘しました。

なぜそのような「患者のリスクを高めるような治療や投薬」が平然と行われているのか。その背後にあるのが、9割以上の医者が陥っている「正常値絶対主義」とでもいうべき現代医療の問題です。

とかく、私たちは何かというと「正常値(基準値)」以下、「正常値」以上というように、自分の健康状態のバロメーターを正常値で判断しようとします。多くの人がせっせと受けている健康診断もそうですね。

基準値が常に示されて、それよりも高かったり低かったりするとC判定やD判定がついたりします。血圧が高いとか、コレステロールが高いとなると、医師から運動や食事についての厳しい指導をされたり、薬を処方されたりします。

あるいは、厚生労働省が2007年に義務付けて翌2008年からスタートしたのがメタボ健診ですが、このメタボ健診において肥満度の尺度としてたびたび持ち出されるのがBMIという数値です。体重(kg)を身長(m)の二乗で割ったもので、世界保健機関(WHO)の基準では「18.5〜25未満」に収まるように指導されます。

しかし、世界中のさまざまな統計においても、実はBMIが基準値の25を少し超えたあたりが一番長生きだという結果が出ています。

2006年、アメリカで29年にわたって国民の健康栄養を追跡した調査結果が発表されました。これによると、いちばん長生きなのはBMI25〜29.9の「太り気味」の人たちで、一方、18.5未満の「痩せ型」の死亡率はその2.5倍も高くなっていました。

日本でも、厚労省の補助金を受けたある研究結果によると、40歳の時点での平均余命がもっとも長かったのは、男女ともにBMI25〜30未満の「太り気味の男性が41.6年、女性が48.1年でした。

一方、もっとも余命が短かったのは18.5未満で、こちらは男性が34.5年、女性が41.8年。痩せ型よりも太めの人の方が、平均で7年ほど長生きするという結果が出たのです。

そうなると、そもそものBMI「18.5〜25未満」という基準値にどのような根拠があるのか、ということになってきます。メタボ健診とは真逆になりますが、ややぽっちゃりめのほうが、よほど長生きできるという結果が出ているのですから。

数値のことばかり指摘してくる医者に、振り回されてはいけないのです。

■正常値とはあらゆる世代を含めた「平均値」

多くの人が疑いを持たずに健康のバロメーターとしている「正常値(基準値)」ですが、実際には、「この値がもっとも健康を維持できる」あるいは「長生きできる」という根拠があるわけではありません。

では正常値とは何かというと、「平均値」のことなのです。しかも多くの場合、年代別の平均値ではなく、あらゆる世代をひっくるめた平均値が「正常値」として設定されています。

しかし、平均値が正常値となってしまうなど、本来はおかしな話です。

たとえば、成人男性の身長の平均値はおよそ170センチ。では、その前後10センチを加えた160センチから180センチを「正常値」にしましょう。それ以下とそれ以上は正常値から外れた異常な数値です、と決めてしまうようなものです。

さらには、全世代における平均値ですからさまざまな機能が低下してきた高齢者が、そのように決められた「正常値=平均値」から外れやすくなってくるのも当然といえば当然です。

高齢者の場合、血管の弾力性が失われてくるため血流が悪くなり、血管に対して血流の圧がかかりやすくなってきて数値としての血圧は高くなる傾向にあります。

しかし、その人の健康を本当に考えるのならば、正常値まで下げることを優先するよりも、血管を太く元気にすることを考えたほうがいいのに、「正常値絶対主義」に陥った医師たちには、血圧という数値を下げることが主目的化してしまうのです。

もちろん、糖尿病におけるヘモグロビンA1cのように、病気のリスクを高めるという根拠がある程度明確になっている正常値もあります(それであっても、後述するように、正常値が必ずしも死亡率を下げるわけではないという試験結果が出ているわけですが)。

繰り返しになりますが、正常値というのは多くの場合、全世代の平均値から導き出された数値でしかなく、そのうえ、さまざまな機能が低下してきた高齢者にとって何を「正常値」とすべきかというのは、実は「よくわからない」というのが正解なのです。

高齢者の場合はとくに、数値に過度に惑わされることなく、その人の暮らしやすさ、人生の晩年をいかに快適に過ごせるかということをもっと優先した治療を行うべきです。

カルテと聴診器を机に置いて、さまざまな野菜を手に持っている
写真=iStock.com/Chinnapong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Chinnapong

■糖尿病の正常値に関する欧米の調査

ところで、前述した糖尿病の治療におけるヘモグロビンA1cの正常値の扱いについても、「正常値」を厳しくコントロールしすぎることの弊害を明確に示した試験が存在します。

米国の国立衛生研究所の下部組織が主導して2001年に開始したアコード(ACCORD)試験です。計1万人の糖尿病患者に対して行われた大規模なものでした。

ヘモグロビンA1cを、当時正常値とされていた6%に抑える「強化療法群」と、それよりも少し緩い基準の7.0〜7.9%までに抑える「標準療法群」という2つの群に分けて調査をしたところ、わずか3年半の観察期間で、死亡率に有意な差が出たというもの。それも、正常値の6%に抑えた「強化療法群」のほうが死亡率が高いという驚くべき結果が出たのです。

当時、糖尿病治療の権威というべき医師たちをはじめ、日本の医学部の教授たちはこの試験結果を見事に無視しました。しかし、正常値まで数値を下げたほうが死亡率が高くなるなど、どう考えてもおかしなことと思われることでしょう。

実際、このアコード試験の結果を見て、欧米の研究者たちは同様の調査を実施してさらなる検証を試みました。エビデンスに基づいて合理的に治療をすべきだと考えるならば、当然の反応だと言えます。なかでも本格的な調査を行ったのが、イギリスのカーディフ大学のブレイク・ハリー博士でした。

ハリー博士は4万8000人を対象に調査を実施、その結果、死亡率がもっとも低くなるのは、ヘモグロビンA1cが7.5%の時であるという結果を得ました。この数値を比較基準としたとき、11.0%まで上昇すると死亡率が79%上昇することがわかりましたが、一方で、6.4%まで下げてしまっても死亡率が52%上昇することが判明したのです。

のちに日本では、厳格にヘモグロビンA1cをコントロールしすぎると重症低血糖を起こしやすくなり、これにより心不全などの合併症リスクが高まるようだと分析され、やみくもに数値を下げればいいのではなく、コントロールの質が重要なのだという認識につながっていきました。

「正常値絶対主義」がいかに危ういものであるかを思い知ることになった調査結果だったのです。

しかしいまだに、糖尿病の権威として君臨しているような医学部の先生方のなかには、正常値になるまでインスリンを打たせ続けるような治療をしている人も少なくないようです。

健康診断の結果
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

■正常値の「基準」を上げることに反対する医師

かつて、血圧の基準や血糖値の正常値(基準値)をもう少し上げても大丈夫であるということが、人間ドックを受けた人たちの予後調査から見えてきたと人間ドック学会が発表した時も、循環器学会などがその発表をデタラメ扱いして基準を上げることに反対したということがありました。

日本の医師の世界というのは、きちんとしたデータを持っている人よりも肩書のほうが勝ってしまうというおかしな世界なのです。人間ドックの医者が言っていることが、大学医学部の教授の言い分よりも正しいなどということがあってはいけないというわけです。

「正常値絶対主義」に凝り固まって人間を見ない医師、患者の死亡率を上げてしまうかもしれないというエビデンスに対し、謙虚になろうともしない医師たちが一日でも早く引退していくことを願うばかりです。

■「放置した健康管理をしない方が健康」というエビデンス

もうひとつ、興味深い調査研究があります。「フィンランド症候群」に関するものですが、この名前を出そうものならば、日本の多くの医者は「デタラメ」だと怒り狂うことでしょう。自分たちのレゾンデートルが脅かされかねないからです。

しかし、デタラメだと主張するのであればまず、自分たちも同規模の調査研究を日本で行うべきだと思います。

この調査研究は、1974年から1989年までの15年間にわたってフィンランドの保険局が行った大規模調査のことです。循環器系が弱く血圧やコレステロール値などが高めの40〜45歳の男性1200人を対象に、きちんと健康管理をする介入群600人と、健康管理に何も介入しない放置群600人に分けて、15年かけて健康状態の追跡調査を行いました。

介入群には最初の5年間、4カ月ごとに健康診断を行い数値が高い人にはさまざまな薬が処方され、アルコールや砂糖、塩分の抑制を含めた食事指導や運動などの生活指導も行われました。

一方の放置群のほうは、定期的に健康調査票に記入するだけで調査の目的も知らせずに、文字どおり放置しました。

6年目からはどちらのグループも健康管理を自己責任に任せたうえで、15年後にその健康状態の追跡調査を行いました。

その結果は、多くの人の予想を裏切る衝撃的なものでした。がんなどの死亡率、自殺者の数、心血管性系の病気の疾病率や死亡率などにおいて、きちんと健康診断を受けて投薬治療や食事制限をされた介入群のほうが、放置群よりも高いという結果が出たのです。とくに、介入群には数名の自殺者がいましたが、放置群では皆無に等しいものだったようです。

つまり、介入的な健康管理によって血圧やコレステロール値などが数値的には改善していた人たちが、逆に死亡率が高くなっているという結果が出たのです。

この研究結果は非常に示唆的でした。数値的な改善が死亡率の低下にはつながらないという1つのエビデンスが示されたといえます。つまり、治療の常識を根本から問い直すようなものだったのです。

ところが、この調査結果が発表されたとき、日本の医学部の医師たちはほとんどまともにとりあおうともしませんでした。それはそうでしょう。自分たちが健康管理に介入しないほうが長生きできるなどと言われてしまっては、立つ瀬がありません。

和田秀樹『70歳からは大学病院に行ってはいけない』(宝島社新書)
和田秀樹『70歳からは大学病院に行ってはいけない』(宝島社新書)

しかし、頭ごなしに「こんな調査はインチキだ」と否定するのではなく、そこから学ぶべきものを学んで自分たちのよりよい治療に生かしていくべきではないでしょうか。

もし「インチキだ」と主張するのであれば、自分たちも同じように15年もの年月と費用をかけて、こうした大規模調査を行うべきでしょう。反証できる結果を示して「どうだ、きちんと介入したほうが死亡率は下がるではないか」と主張すればよいのです。

それをせずに、自分たちの常識と反するものが出たからといって、頭ごなしに「インチキだ」と否定するのは、科学者が科学を否定するにも等しいことです。

■太っている人は誰もが不健康とは限らない

「正常値絶対主義」は、医療界の随所で見られます。

厚労省の旗振りのもと、社会全体でメタボリックシンドローム対策に取り組んでいますが、この背後には「メタボの人はリスクが高くなって医療費がかさむ」ということが定説としてあるわけです。そうなるとすぐ、メタボな奴は医療費をたくさん使うからけしからん、という論調になりがちです。

でも、なぜそういうことになってしまうのか、その根本を真剣に考えてみたことはありますか。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
精神科医
1960年、大阪市生まれ。精神科医。東京大学医学部卒。ルネクリニック東京院院長、一橋大学経済学部・東京医科歯科大学非常勤講師。2022年3月発売の『80歳の壁』が2022年トーハン・日販年間総合ベストセラー1位に。メルマガ 和田秀樹の「テレビでもラジオでも言えないわたしの本音」

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(精神科医 和田 秀樹)

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