太っている人は「努力のできない怠け者」ではない…運動には減量効果がほとんどないと言える医学的な理由
プレジデントオンライン / 2023年4月21日 13時15分
■「運動不足だと太る」はまちがい
スポーツの習慣はなく、仕事は主にリモート、買い物はAmazon、おなかがすいたらUber Eats……そんな生活がごくふつうになっています。
運動不足かなと思ってスポーツクラブに入会しても数回でやめてしまった人、がんばっているのにやせないと不平たらたらの人も、身近にいるのではないでしょうか。
では、現代人は運動不足で不健康になっているのでしょうか?
あなたの友達は病人ばかりですか?
運動不足だと太る、と思われる方が多いかもしれません。ただそれはたぶん、まちがいです。
運動ではやせません。ここでは医学研究を基に、健康のためのダイエットが工夫されてきた中で、運動があまり効果を出してこなかったことをご説明します。
■ほとんどの日本人はやせる必要がない
そもそもダイエットのとらえかたが医学と日常生活ではかなり違います。
要点だけまとめると次のようになります。
・ほとんどの日本人はやせる必要がない。
・体重は増え続けるのが当たり前。
・ダイエットはリバウンドするのが当たり前。
順に見ていきましょう。
体重と死亡率の関係を調べると、いちばん死亡率が低いのは、BMI(体重÷身長÷身長、身長はメートルで表す)が23とか24の人です。
日本人男性の平均がちょうどそれくらいで、女性はもう少しやせていますから、医者はむしろ過半数の女性には「もっと食べて太りなさい」と言ってもおかしくないはずです。
また、BMIが30くらいの人の死亡率は、BMIが18くらいの人と同じです。やせているのが許されるなら太っているのも許されるはずなのです。
加えて、日本人でBMIが30を超える人は4%ほどしかいません。つまりほとんどの日本人は健康のためにやせる必要がないと言えます。
■ダイエットはたいていリバウンドする
対してアメリカなど肥満が大きな問題とされている国ではダイエット法が熱心に研究されています。
その中で常識的な前提とされているのが、体重は増え続けるのが当たり前だということと、ダイエットはたいていリバウンドするということです。
低脂肪食と低炭水化物食と地中海食を比較した2008年の有名な論文にある図は、その関係をはっきりと示しています。一番うまくいった低炭水化物食(糖質制限)でも5カ月で6kgあまり減ってから、また少しずつ増えています。
ですから、医学の立場から言うなら、たぶんあなたはやせなくていいし、あまり大幅に(たとえば6kg以上)体重を減らすことはおそらくできません。世間でやかましく言われているダイエットのほとんどは医学とは相いれないのです。
■運動の効果はほとんどない
それでも肥満が健康問題になっている(日本以外の)国々では、ダイエット効果を少しでも高めようと、運動療法を研究してきました。しかし、効果はほんのわずかでした。
2006年に当時あったすべての研究データを集めた調査があります。その結果、食事療法に運動療法を加えた人では、食事療法だけの人よりも多く体重が減っていました。
その場合の運動の効果はどれくらいだと思いますか? 実は3カ月から12カ月で1.1kgの差しかありませんでした。
![運動の効果はほとんどない](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/a/1200wm/img_2a3b1249eecc7199ce65417a59792a8c388796.jpg)
食事療法+運動療法の人は3.4kgから17.7kgやせました。対して食事療法だけの人は2.3kgから16.7kgやせました。
運動による差は小さく、個人差のほうがはるかに大きいことがわかります。
■運動が強いか弱いかで減量効果に差はない
では運動量を増やせばいいかというと、それも違うようです。
強い運動療法と弱い運動療法の比較も同じ調査で見つかっていて、強い運動療法のほうが1.5kg多くやせており、強い運動で1.3~8.9kgの減量、弱い運動だと0.1kg増量から6.3kg減量でした。
ただ、ここでも個人差のほうが大きいし、運動療法中に体重が増えることもあったわけです。
さらに、食事療法+弱い運動 vs 食事療法+強い運動というデータも見つかっています。
こちらはデータの質が低いとして結論には採用されていないのですが、食事療法と同時であれば、運動が強いか弱いかで減量効果に差はないという結果でした。
![ダイエット効果を決めるのは食事療法](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/f/1200wm/img_8ff2f2a44da077a7ef42dbc7e1dd6b73295520.jpg)
■そもそも体重は減らせない
こうして見比べると全体像がわかってきます。
・そもそも体重は減らせない。減らせても少し。
・ダイエットの効果は個人差が大きい。平均的にはわずかな効果しかない。
・ダイエット効果を決めるのは食事療法。運動を上乗せしても差は小さく、どんな運動でもあまり変わらない。
つまり、食べるのをやめられない人が運動でなんとかしようという考えには無理があるのです。
先に挙げた減量効果の数字を見て、「それでも運動で減っている」と思う人もいるかもしれません。
ただ、そういう人は、この数字はもともと肥満治療の研究だということを思い出してください。50kgの人が1kg減らすより、100kgの人が1kg減らすほうが簡単です。だからこの数字も大きめに出ているのです。
そもそも太っていない日本人は、この数字をさらに割り引いて考える必要があるのです。
■運動で消費されるエネルギーは少ない
なぜ運動ではやせないのでしょうか。それは、基本的に運動で消費されるエネルギー(カロリー)が少ないからです。
運動の種類ごとの消費エネルギーは2011年にアメリカの学術団体がまとめた一覧表を基に計算できます。
この表に載っている「メッツ」という数字が消費エネルギーに比例すると考えられていて、じっと座っていれば1メッツ、フィットネスクラブに行くと5メッツほどです。
だいたい1メッツで、1時間に体重1kgあたり1kcalの消費に相当します。
もちろん運動の内容によっても変わりますし、メッツとカロリーが比例するという仮定も大まかなものですので、細かい数字にはこだわらないでください。
50kgの人が5メッツの運動を1時間すると250kcal、1時間はきついので30分だと125kcal消費することになります。これはスポーツドリンク500mlに含まれるエネルギーと同じくらいです。
つまりスポーツクラブで30分汗を流し、のどが乾いたのでスポーツドリンクを1本飲むと、収支はゼロです。座っていてもエネルギーは消費するので、むしろ太る方向の活動をしたことになります。やせるわけがありませんね。
■筋トレでつく筋肉は1カ月で1kg程度
よくある誤解(あるいは過大な期待)として、運動をすると筋肉がつくというイメージがありますが、筋肉はそう簡単につきません。
また、筋肉が基礎代謝を増やすのでやせるというのも期待しにくいです。
一般に、筋トレをコツコツ続けることで、1カ月あたり1kg程度の筋肉をつけることができます。
筋肉量は20kgくらいが平均的ですので、だいたい1カ月で5%、半年で3割増やすことができます。
3割も増えればかなり目立ってきそうですが、それには半年休まず筋トレを続ける必要があります。
![筋トレでつく筋肉は1カ月で1kg程度](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/c/3/1200wm/img_c3fb9a3fad73add6105151c546487b6e416346.jpg)
■筋トレではやせない
筆者にはそもそも筋トレを1カ月続けるというのがけっこうな難題に思えるので、半年かけて筋肉量を3割増やせる人がどれくらいいるのか想像もつきません。
そんなに厳しく自分を律することのできる人なら、食事制限のほうが簡単ではないかとも思えます。
それはともかく、筋トレを長いこと続けて筋肉がついたとして、やせるでしょうか。
筋肉が1kgつけば、さきほどの消費エネルギーの計算で体重が1kg増えますから、じっとしていても毎日24kcal、5メッツの運動をすれば1時間あたり5kcal多く消費することになります。ダイエット効果としてはほとんど当てにできないくらいの差ですね。
しかもこの計算は筋肉のぶん体重が増えたと仮定しています。体重を減らすのが目標なら、筋肉が増えたぶんを上回るほど脂肪を減らさないといけないわけですが、それは前述のとおり難しいことです。
運動そのものによる消費カロリーは小さく、筋肉量が増えてもやはり小さいので、脂肪を減らす方法は食事制限しかありません。すると筋肉量維持にはマイナスに働くかもしれません。タンパク質ばかり食べたとしても両立はかなり難しそうです。
![ダイエットの最中からリバウンドは始まっている](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/3/6/1200wm/img_367b34991fe3c25b4699674d99ff0be8324683.jpg)
■ダイエットの最中からリバウンドは始まっている
さきほど挙げた実験結果を再掲しましょう。
・食事療法だけで2.3~16.7kg減。食事療法+運動療法で3.4~17.7kg減。平均差は1.1kg。
・弱い運動で0.1kg増~6.3kg減。強い運動で1.3~8.9kg減。平均差は1.5kg。
・食事療法+弱い運動と食事療法+強い運動の比較では差がない。
強調しておきますが、ダイエットを続けている最中にリバウンドはすでに起こっています。ここに挙げた1.1kgの差とか1.5kgの差は積み上がりません。どんどんリバウンドし、なかったことになります。
ほかの研究でも、報告された数字は数カ月程度に区切った研究期間だけのものです。つまり、減量効果が最大になったタイミングに近いものです。長期的にはその効果が失われていくと考えられます。
ということは、運動による1kgあまりの差も、全体として体重が元に戻っていく中で、すぐに見えなくなるはずです。
■体型で人を評価するのはくだらない
体重を減らすのは非常に難しいです。しかもその方法が運動だとすればなおさら難しいです。そんな難しいことにチャレンジしてまでやせる必要があるのでしょうか。
肥満で困っている人はたしかにいます。健康上の理由でやせる必要がある人のために、医学は方法を考え出してきました。胃を小さくする手術でたくさん食べられないようにするとか、最近では糖尿病の薬の副作用を利用するといった、当てにならない食事療法や運動療法に頼らない方法です。
もちろん手術にも薬にもリスクがあります。ただ、そこまでしなければ肥満のために深刻な問題が起きてしまう人も実際にいるわけです。
それに対して、いま困っているわけではなく、なんとなく「やせたほうがかっこいい」と思うだけで、本当に難しいダイエットをしないといけないのでしょうか。
■体型は遺伝で決まっている可能性も
筆者は美容を軽視しているわけではありません。衣服に持ち物、髪型、化粧に気を使うのは大事なことだと思います。
しかし体型をそこに含めてしまうのは無茶です。努力してやせることは非常に難しいからです。
できないものをできると思い込んでしまうと、太っている人が「努力のできない怠け者で、かっこ悪い」ということになります。
本当は遺伝か何か、本人にはどうしようもない原因で体格が決まっているらしいのです。それなのに、理不尽に見下されている人からすればたまったものではありません。
運動は好きな人が楽しみのためにやれば十分です。筋肉自慢の人を見て楽しむのもいいですが、自分もムキムキになれるとは限りません。
体型で人を評価するのはくだらないことです。できもしないダイエットに熱中するより、たまにはおいしいものでも食べたほうが、日々を楽しく過ごせるのではないでしょうか?
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医師
1983年、大阪府に生まれる。東京大学医学部卒業。出版社勤務、医療情報サイトのニュース編集長を経て医師となる。首都圏のクリニックで高齢者の訪問診療業務に携わっている。著書には『「健康」から生活をまもる 最新医学と12の迷信』、訳書にはペトルシュクラバーネク著『健康禍 人間的医学の終焉と強制的健康主義の台頭』(以上、生活の医療社)、ヴィナイヤク・プラサード著『悪いがん治療 誤った政策とエビデンスがどのようにがん患者を痛めつけるか』(晶文社)がある。
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(医師 大脇 幸志郎)
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