ツイッター買収は間違いだった…私が「イーロン・マスクはすでに限界に来ている」と見放している理由
プレジデントオンライン / 2023年4月24日 9時15分
※本稿は、エミン・ユルマズ『大インフレ時代!日本株が強い』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。
■アップルのスマホそのものが優れているわけではない
読者から、あるいは講演会の席で、こんな質問をいただくことがある。
「自分はアップルとテスラに注目しているが、あなたはこの両社をどう捉えているのか。正直な考えを開陳していただきたい」
両社はハードウェアをつくっている。ただアップルに関しては、たしかにハードウェアの部分もあるけれど、アップルの強みはいわゆるiOSだ。
アップルが開発および提供する、iPhone、iPad、Mac向けのオペレーティングシステム(組み込みプラットフォーム)が秀逸なのである。
アップルのプラットフォームであるアップストアは、2021年に17兆円の市場規模に達したアプリ売り上げのうちの6割を獲得している。
またアップルはプラットフォームの提供者としてアプリ売り上げの3割をとっている。
アップルのソフトウェア部門とハードウェア部門を別々に考えた場合、ハードのバリュエーションはかなり低いのだと思う。
iPhoneにしても、アップルのスマホそのものが優れているのではない。
これより優れているアンドロイドスマホは山ほどある。
皮肉な言い方をすると、私はいつもアップルのiOSを、アップルよりもっと機能の高いサムスンなどのスマホで使えたらブラボーではないかなと思っている。
しかし、それはできないし、ポイントはそこではない。
アップルは音楽から動画から仕事アプリまで自社のエコシステムでつくり上げており、セキュリティーもしっかりしている。そこに価値があるわけである。
それが評価されて、高価格でも売れてきた。
■「テスラは自動車会社ではない」は本当なのか
一方、テスラに関しては、本当に自動車の会社であれば、あのバリュエーションはあり得ないと思う。
テスラの株主は、「この会社は自動車会社ではなくてパソコン会社、IT企業なのだ。だから、あのバリュエーションでも正当化できるのだ」と擁護(ようご)する。
さらに、「優れた自動運転技術やバッテリー技術を持っている」と主張するのだけれど、実際には疑問点がいくつもある。
■CO2の「環境クレジット枠」で利益をあげてきた
たしかにテスラは近年、高利益を出しているけれど、これには大きなからくりが存在する。
EUの自動車メーカーが創設したCO2排出削減に取り組む制度「オープンプール」に乗る形で、EV専業のテスラはCO2排出基準を達成できない自動車メーカーに対し、自社が持つ環境クレジット枠を販売してきた。
この環境クレジットビジネスがテスラに巨大な利益をもたらしてきたのだ。
ここ数年間、環境クレジット売却益は、全期においてテスラの純利益を大幅に上回ってきた。
極論を言うならば、この環境クレジットビジネスがなければ、テスラはいまも“赤字企業”に甘んじていたはずなのだ。
ところが、これまでテスラの環境クレジット枠を購入して忸怩(じくじ)たる思いをしてきた自動車メーカーも、今後は自前EVを次々と出してくる。
だから、テスラの収入源がガタ落ちとなる可能性が出てきたのである。
■自動車会社としての「格」の低さを悪用している
次なるテスラに対する疑問は、なぜ自動運転車の開発で、テスラは他社に先んじているのかというものだ。
その答えは明確この上ない。テスラはレピュテーション・リスク、つまり企業に関するネガティブな情報が広がり、ブランド価値や信用が低下して被るリスクを恐れていないけれど、他社はそれを考えざるを得ないからだ。
仮に業界大手のベンツやトヨタが自動運転で事故を起こしたら、これまで積み上げてきた信用が致命的に棄損(きそん)されてしまう。
かたやテスラは新興EVメーカーに過ぎない。事故を起こしても飄々(ひょうひょう)としていられる。
要は、自動車会社としての「格」の低さを悪用している。
■性能表示でイカサマのような対応をしてきた
私が悪質だと考えているのは、テスラがバッテリーパワーや走行距離などの性能表示でイカサマのような対応をしてきたところだ。
2023年に入って早々、韓国の公正取引委員会は、テスラが走行可能距離を誇大に広告していたと、課徴金納付を命じた。
EVのモデル3・ロングレンジについて、一度のフル充電で446キロ以上走行可能と謳(うた)っていたが、実際には冬場の走行距離は221キロと半分以下だった。
以上、テスラをあげつらってきたけれど、より本質的な疑問と弱点は同社経営者のイーロン・マスクに収斂(しゅうれん)されよう。
■民主党寄りの人たちはテスラにソッポを向く
2022年11月の米中間選挙におけるイーロン・マスクの共和党寄りの発言を聞いた私は、呆(あき)れ返った。
そもそもテスラのメインユーザーは、民主党寄りの人たちだ。
今回の選挙でよりクリアになったのは、若い人たちが圧倒的に民主党寄りだということだった。
もう1つ、テスラみたいなEVを買っている人たちは、都市に住む環境意識の高い人たちに他ならない。
翻(ひるがえ)って、イーロン・マスクが秋波(しゅうは)を送る共和党寄りの人たちは、「地球温暖化は嘘だ」と叫ぶトランプ支持者である。
彼らは絶対にテスラには乗らない。GMやフォードのバカでかいピックアップトラックに好んで乗るような、田舎で暮らす人たちと相場が決まっている。
そこから考えると、今後、別のメーカーから、テスラのオルタナティブとなるEVが登場した際、民主党寄りの人たちはテスラにソッポを向くはずだ。
■テスラのビジネスに「2つの大きなリスク」
今後のテスラのビジネスには、先の私の考察を含めて、おそらく2つの大きなリスクを内包する。
1つはチャイナリスク。テスラの販売が米国以外では、中国市場にかなり依存していることだ。
もう1つは、経営者リスク。先に論じたとおり、経営者のイーロン・マスクの政治発言やハチャメチャな行動がビジネスの腰折れを招いており、その矛盾が次第に際立ち始めていることだ。
■イーロン・マスクはすでに限界に来ている
イーロン・マスクはすでに限界に来ているのではないか。私はそう思う一人である。
ツイッター買収は、ビジネス判断を大きく間違えた。買う気がないのに買うと宣言してしまい、結局裁判沙汰になって、無理矢理、買わされてしまった。
メディアに適当なことを言っていたツケが回ったとしか思えない出来事であった。
同社に対するイーロン・マスクによるあからさまな株価操縦も疑われており、そろそろ経営者としての限界を迎えていると思われる。
もう1つ、米国と中国がこれだけ対立しているなか、イーロン・マスクの中国にべったりの姿勢は、今後かなりの修正を迫られるはずだ。
したがって、テスラという会社はいろいろな意味で、危ういところがあるのではないだろうか。
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エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年に複眼経済塾の取締役・塾頭に就任。著書に『新キャッシュレス時代 日本経済が再び世界をリードする 世界はグロースからクオリティへ』(コスミック出版)、『コロナ後の世界経済 米中新冷戦と日本経済の復活!』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)、『それでも強い日本経済!』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)などがある。
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(エコノミスト エミン・ユルマズ)
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