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Web3に浮かれた人はみんな大損した…「仮想通貨の交換所」が詐欺に手を染めていたという呆れた実態

プレジデントオンライン / 2023年4月27日 9時15分

FTX破綻は「ポンジスキーム」だった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/Just_Super

暗号資産(仮想通貨)などの「Web3」のブームとは、いったい何だったのか。エコノミストのエミン・ユルマズさんは「破綻した暗号資産交換業大手のFTXは、『ポンジスキーム』という古典的な詐欺に手を染めていた。Web3のブームが、そうした詐欺の余地を生んでしまった」という――。(第3回)

※本稿は、エミン・ユルマズ『大インフレ時代!日本株が強い』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

■暗号資産交換業大手のFTXの錬金術

破綻した暗号資産交換業大手のFTXの錬金術とは、いったいどのようなものであったのか?

どの記事や論説を読んでもわかりにくかったので、ここは私自身で調べてみようと腕まくりした。ちなみに昨年12月22日に保釈されたFTX創業者のサム・バンクマン=フリード元CEO(30)の保釈金は2億5000万ドル(約330億円)であった。

まずはこのサム・バンクマン=フリード氏がどんな人物なのか。そこから始めよう。

彼はいわゆるエリートの家に生まれた。両親ともに名門の誉れ高いスタンフォード大学法科大学院の教授という。

■日本人や韓国人が高く買わされていた

マサチューセッツ工科大学(MIT)で物理学を専攻した彼は、卒業後しばらくはHFT(ハイ・フリークエンシー・トレーディング=超高速取引業者)企業のジェーン・ストリートでディーラーをしていた。

バンクマン=フリード氏はHFTを退職、アラメダリサーチという会社を創設した。

ここはいわゆるトレーディング、ディーリングを生業(なりわい)とする会社だった。

そしていまから5年ほど前、仮想通貨がまだ黎明(れいめい)期だった頃、アービトラージ取引(裁定取引)に着目し、大儲けをした。

その当時、本場の米国市場と日本や韓国の仮想通貨市場との間には価格差が存在していた。つまり、市場が効率性を欠いていたのだ。

例えば、ビットコインが米国市場で1万ドルだった場合、日韓市場では1万1000ドルだった。

日本人や韓国人が高く買わされていたわけである。

■米国市場でビットコインを買って、日韓市場で売りさばいていた

ここでバンクマン=フリード氏は何をしたのか。米国市場でビットコインを買って、日韓市場で売りさばいていた。

その利ザヤ部分が濡れ手に粟の儲けとなった。しかもリスクフリー状態だったことから、彼は莫大(ばくだい)な富を築いた。

「1、2週間で3、40億円の利益を出した」とか、「たった1日で20億円儲けた」といった伝説が残されている。

当然ながら、他の人たちもアービトラージ取引の旨味に気付いて、彼と同じことをやりだしたので、利ザヤは次第に薄まり、日・韓と米国のビットコイン価格はほぼ同額となった。

まあ、これは自然の流れといえた。市場内に流動性が増え、より健全になったことで、アービトラージ取引が消滅したわけである。

マンハッタン連邦裁判所を出るバンクマン=フリード氏
写真=AFP/時事通信フォト
Web3に浮かれた人はみんな大損した(マンハッタン連邦裁判所を出るバンクマン=フリード氏、2023年1月) - 写真=AFP/時事通信フォト

■両親のステータスが物を言った

ここで大きく儲けた彼はその後に資金調達を行い、2019年4月、FTXという取引所を創設した。のちにFTXは世界で2番目に大きな暗号資産(仮想通貨)交換業者となるまでに台頭してくる。

なぜ新参者FTXがやすやすと台頭できたのか?

FTXはプロの投資家向け、プロのトレーダー向けの商品を矢継ぎ早に出した。

例えば、デリバティブ(先物)商品。自分がHFT出身だし、天才的なトレーダーでもあったので、プロの投資家・トレーダーが使いやすい商品と市場を提供したのだった。

それに加えて、バンクマン=フリード氏の両親のステータスが物を言ったと思われる。

父ジョゼフ・バンクマン氏と母バーバラ・フリード氏は、FTXの法務顧問に就いていた。

ここまではよかった。FTXは取引所だから、本来であれば手数料ビジネスである。

ただそれだけだと、急成長は無理だった。

■価値のない仮想通貨に価格を付けて上場させる

そこでバンクマン=フリード氏が何をしたのかというと、ほとんど実質上価値のない仮想通貨に価格を付けて上場させる仕組みをつくったのだ。

未上場の会社を上場させる仕事は証券会社にとっても、業務のけっこう大きな部分を占める。アンダーライティングといわれるもので、証券会社が当該企業から売り出すことを目的にいったん株式を引き受けたり、売り出したりするのである。

FTXもさまざまなコイン(暗号資産)をつくっては上場させた。その代表が自社コイン、FTXトークン(電子証票)の発行であった。この仕組みを説明しよう。

FTXアリーナ
写真=iStock.com/JHVEPhoto
価値のない仮想通貨に価格を付けて上場させる仕組みをつくった(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/JHVEPhoto

①FTXがFTXトークンをつくる

これは何も入っていない、いわば“空箱”だ。ほぼすべての暗号資産は空箱にすぎない。内容はプロトコールと呼ばれるただのプログラムである。

FTXはこれを最初につくった会社であるアラメダリサーチに送った。アラメダリサーチはのちにマーケットメーカー会社へと発展していったのでコインを一旦受けた。

②アラメダリサーチが価格を付けてFTXに渡す

マーケットメーカーとは、まだ価格が決まっていないものに価格を付ける、価格を提供するところだ。マーケットメーカーであるアラメダリサーチがFTXと取引をして、FTXトークンを買う。そこでマーケットメーキング、つまり価格付けを行う。仲間内でそれを広げていき、FTXに返す。

③FTXトークンをFTX(自社取引所)に上場させ、個人投資家に販売する

こんなに高い価格が付いているし、しかもどんどん上昇中なので、「是非上場させよう。一般投資家もこれに乗らない手はない」という話になり、自社取引所に上場させた。

④個人投資家は無価値のトークンを、FTXは現金を獲得する

このときになって初めてこのスキームに対し、外部から本当のお金が入ってきた。

こうして日本円、米ドル、ユーロなどの法定通貨での取引が始まった。

■ポンジスキームそのもの

取引に参加した投資家の現金は当然ながら、FTXに集まってくる。これが世間で認知されると、猛烈な勢いでFTXトークンの価格が上がっていった。

一時期は「1FTXトークンあたり85ドル」にまで暴騰、時価総額は1兆円超えとなった。

本来、親会社子会社の関係にあるアラメダリサーチとFTXは相場操縦を行う可能性があるから、つながってはいけない。

仲間内でつくった空箱のFTXトークンを系列会社(アラメダリサーチ)に買わせて価値を付けさせ、さらにそれを自分の取引所で上場させて、個人投資家に売るスキーム。

これは明確な詐欺である。よく言うところのポンジスキームそのものだ。

男性のスーツとマスク
写真=iStock.com/kuppa_rock
ポンジスキームそのもの(※写真はイメージです) - 写真=iStock.com/kuppa_rock

けれども、まだこのレベルにおいては、ごく“一般的”な詐欺レベルといえる。FTXが破綻するほどではなかった。

■発行しようと思えばいくらでもつくれる

次にバンクマン=フリード氏は何をしたのか?

FTXトークンは当然自社トークンだから、発行しようと思えばいくらでもつくれる。

彼はある狙いを持って、FTXトークンをFTXのバランスシートに組み入れた。

FTXトークンの価格が急上昇中ということで、FTXという会社のバランスシート(資産)がどんどん膨れ上がってきた。

この手の投機的商品は、市場にお金がジャブジャブに溢(あふ)れているときには、“現金性”が高まる。つまり、現金同等の扱いがなされるわけである。

FTXという会社の中身を知らない人は、この会社は市場でいつでも売れる資産を膨大に持っていると思い込んでしまう。

実際にFTXの資産ポートフォリオの6割がFTXトークンであった。まさしくマジカルコインだ。

■レバレッジを掛けまくった

時価総額が1兆円を超えると、バンクマン=フリード氏はそれを担保にさまざまな金融機関から資金調達を行った。これがFTXトークンをFTXのバランスシートに組み入れた狙いであった。

そして、彼はレバレッジを掛けまくった。株取引で信用取引をされている人も多いと思うけれど、100万円を入れたら3倍の300万円までは取引が可能だ。FXではマックス25倍までが許されている。

■大谷翔平や大坂なおみがアンバサダーに

バンクマン=フリード氏は、実際にはほとんどゴミのようなFTXトークンをはじめとする暗号資産を元本に資金調達をし、有名人をたくさん起用して大々的なキャンペーンを張った。

派手なCMを打ったり、スタジアムのネーミングライツを買ったり、eスポーツチームのスポンサーになったり、超大盤振る舞いをした。

エミン・ユルマズ『大インフレ時代!日本株が強い』(ビジネス社)
エミン・ユルマズ『大インフレ時代!日本株が強い』(ビジネス社)

メジャーリーグの大谷翔平選手やテニスの大坂なおみ選手がFTXのアンバサダーに就いていたのを覚えている人も多いはずだ。

バンクマン=フリード氏はFTXトークンの価格が下落すると、自社取引所FTXに投資家たちが預けている暗号資産にまで手を付けた。

最初に仲間内でつくった空箱スキームを詐欺レベル1とすると、価値のない資産で資金調達を行ったのは詐欺レベル2だろう。

さらに、顧客資産を担保に、資金調達やレバレッジを掛けたのは、詐欺レベル3にあたる。バンクマン=フリード氏とFTXは“三重”の詐欺を行っていたのである。

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エミン・ユルマズ(えみん・ゆるまず)
エコノミスト
トルコ・イスタンブール出身。2004年に東京大学工学部を卒業。2006年に同大学新領域創成科学研究科修士課程を修了し、生命科学修士を取得。2006年野村證券に入社。2016年から2024年まで複眼経済塾の取締役・塾頭を務めた。2024年にレディーバードキャピタルを設立。著書に『夢をお金で諦めたくないと思ったら 一生使える投資脳のつくり方』(扶桑社)、『世界インフレ時代の経済指標』(かんき出版)、『大インフレ時代! 日本株が強い』(ビジネス社)、『エブリシング・バブルの崩壊』(集英社)『米中新冷戦のはざまで日本経済は必ず浮上する 令和時代に日経平均は30万円になる!』(かや書房)などがある。

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(エコノミスト エミン・ユルマズ)

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