100億円もかかるのに…チャールズ73歳老王の戴冠式に「大物アーティスト欠席」、盛り上がりに欠ける理由
プレジデントオンライン / 2023年4月18日 11時15分
■戴冠式後のコンサートで大物アーティストが出演辞退
英国王室で最長の在位(70年)を誇った、エリザベス2世女王陛下が2022年9月に崩御。それと同時に、皇太子であったチャールズが国王となった。それから約8カ月後の5月6日に、ロンドンのウエストミンスター寺院で戴冠式が行われる。
戴冠式はコードネーム「ゴールデンオーブ(黄金の宝珠)作戦」として以前より入念に準備されている。式の招待状は「KING CHARLES & QUEEN CAMILLA」となっており、カミラ妃が公に初めて“王妃”を名乗った。
式典まであと1カ月を切っているが、イギリスではどうにも盛り上がりに欠けているようだ。英国在住の筆者の友人たちにその理由を聞いてみたところ
「私の周りで戴冠式のことを話題にしている人はゼロ!」
「戴冠のお祝いで、聖歌隊として参加している近所の教会では、曲がヘンデルの『司祭ザドク』に決まった。式の翌々日の月曜が振替休日になって学校が休みになるので、子供たちは喜んでいる。話題はそれぐらい」
「EU離脱後の混乱や物価高やらで、イギリスは問題が山積。はっきり言って戴冠式どころではないのでは」
といった声が聞かれた。
今年の年明けには残念なニュースを耳にした。
イギリスの大衆紙「デイリー・メール」によると、戴冠式の翌日にウィンザー城で行われるコンサートに出演を打診されたエルトン・ジョン、ハリー・スタイルズ、さらにはこのコンサートのために再結成の噂があったスパイス・ガールズはNGとのこと。
これら3組の前にも国王自らが出演を望んだというアデル、エド・シーランからも出演できないと返答があり、彼はとても落胆したそうだ。しかも、すでにスケジュールが入ってしまっているならまだしも、予定もないのに出演を拒否したアーティストもおり、テンションがダダ下がりだ。
そのかわりと言ってはなんだが、イギリスのポップバンド・テイクザットが参加。「オペラ座の怪人」の作曲家アンドリュー・ロイド・ウェバー、ライオネル・リッチーがアメリカらやって来るそうだ。しかし、テイクザットは中心メンバーのロビー・ウィリアムズが出演しないし、ライオネル・リッチーに至っては、スターとして盛りを過ぎた感が拭い去れない。
■エリザベス女王の戴冠式より地味、しかし予算は莫大
エリザベス女王の戴冠式は、157万ポンド(現在の価値で約73億円)かかった。今回の式は、従来通り宗教儀式としての威厳を保ちつつ、前回よりも列席者を少なく、式の時間を短く、国王の衣装の着替えの回数を減らすなどと、時代に合わせてつつましくなるように計画されている(それでも100億円以上の予算がかかる、と現地では報じられている)。
先述の通り、国内の深刻な物価高やリセッション(景気減退)ゆえ、コンサートにビッグスターばかりそろい莫大な出演料が計上されては、国民の反感を買うかもしれない。だからかえって良かったのか……。
![2015年6月13日、エリザベス女王公式誕生日の祝賀祝賀パレードにて、馬車に乗るエリザベス女王とフィリップ王配](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/7/1200wm/img_e75b23e37528fba6ad13c57fed527c7b447035.jpg)
それにしてもエリザベス女王崩御時には、それまでの不人気ぶりとは裏腹に多くの国民から期待を持って迎えられたチャールズ国王の現在の状況は、なんともうら寂しい。改めて彼は国王としてふさわしいのか、考察してみたい。
■元妻に「国王の資質などない!」と痛罵された
ヒストリーチャンネルで放送された『暴かれた英国王室の秘密』によると、国王の元妻の故ダイアナ妃は「チャールズには国王の資質などない」と言い放ったという。チャールズ国王は誕生した時から将来の王位継承者であり、帝王学をきっちり教育されたはずだが、資質がないとはなぜか。
まずは、彼の率直な物言いが考えられる。
“君臨すれども統治せず”の君主として、エリザベス女王は人前で自分の意見を述べず、感情の揺れを表すことがなかった。
それに比べ皇太子時代のチャールズは、環境問題、ホメオパシー(代替医療)、慈善事業などで自分のプレゼンスをアピールし、その発言が度々物議をかもした。国王の父の故フィリップ王配は、人種差別発言も含む数々の舌禍事件を起こしてきたが、その血を受け継いでしまったか。
「でも『国王になれば私的な意見は控える』とBBCのインタビューに答えていました。己の個性を消して慎重になるという点では、エリザベス女王の路線を踏襲するのでしょう。先日、即位後初の外国公式訪問で訪れたドイツの連邦議会で演説をしましたが、出過ぎず引き過ぎず、そつなくこなして一定の評価を得ています」
とは、英国在住歴30年、イギリス全土とロンドンの公式ガイドを務める塩田まみさん。
長年女王の背中を見ており、さらには年の功で「こういう言動や行動は良くない」という判断ができ、処世術もついてきている。ダイアナ元妃と暮らしていた時よりも王としての風格は備わってきたと言ってもいい。
■ユーモアはあるが、短気でイライラしやすい
しかし、つい感情的になってしまう性格は変わらないようだ。
2005年にはBBCの王室特派員からのインタビューを受けた際、「あの男(特派員)には耐えられない」と、激昂していたのが録音されてしまった。
そして女王崩御後、北アイルランド訪問時の“イラっと”シーンも記憶に新しい。来客名簿にサインをしたが、訪問の日付を間違えたり、インク漏れがあったり。それが気に障ってか、テレビカメラが入っているにもかかわらず、「もううんざりだ!」とカミラ妃にあたり散らした。強行スケジュールの訪問で疲れていたのだろうという同情の声も多かったが、このシーンはすぐに世界中に拡散されてしまう。
それでもイギリス人らしいユーモアを忘れないのはさすが。後日訪問先の市民からちゃんとインクが入っているペンを「Just in case(念のためです)」と渡されて、国王は照れ笑いしながら受け取った。別の署名シーンでは、「こういうのは気分のムラが出るよね」とカミラ妃に語っていたとか。イギリス人にとって自虐気味のジョークは欠かせない。すぐにイライラするのはよくないが、失敗をリカバリーできる術が備わっているのならば、問題なさそうだ。
■ワーカホリックでついてこられないスタッフにイライラ
英国王室のシニアメンバー(高位王族)は誰もが働き者だ。存命だった頃の女王やフィリップ王配はもちろん、女王の一人娘のアン王女は数多くの公務をこなしている。しかしワーカホリックで言えば、国王がダントツ。皇太子時代からあまりのハードワークぶりに、彼が当時住んでいたクラレンスハウスのスタッフたちに恐れられていたという(出展:『Courtiers: The Hidden Power Behind The Crown』バレンタイン・ロウ著)。ロウ氏の著作によると、チャールズ皇太子は週7日、朝から晩までほとんど休みなく働き、かつ仕事のペースが早い。しかもスタッフにも同様の仕事ぶりを要求するが、国王のスピード感についていけない。それに対して腹を立てたチャールズは、イライラしたり怒ったりするわけだが……。しかしタチの悪い怒りではないそう。瞬間湯沸かし器のように怒りのレベルがあがるが、すぐ収まってしまう。つまりスタッフに対してネチネチと怒り続けるわけではない。
彼の怒りの矛先は、たいていメディアだったらしい。
2022年公開されたドキュメンタリー映画『プリンセス・ダイアナ』では、いつでもどこでもメディアに狙われていることに「正気を失いそうだ」ともコメントしている。こんな状態で心身は大丈夫なのか、彼の治世は短いのではと心配になってしまう。
しかし、前出の塩田さんはこう断言する。
「彼の心身は頑健です。父母が90代後半まで、祖母のクイーンマザーは100歳を超える長寿を誇りました。そのせいか、チャールズ国王が病気をしたというニュースを聞いたことがないです。きっと長生きするでしょうから、彼の治世はそんなに短くないと思います」
世間から散々バッシングを浴びたにもかかわらず、不倫相手のカミラ妃との愛を貫き、ついに彼女と結婚もした。強い意志と心臓の持ち主といってもいい。そしていつも傍には夫の操縦を心得たカミラ妃が寄り添っている。だから心身の健康面はそれほど問題なさそうだ。健康で長く生きることも、良い君主の条件なのだ。
![ウェストミンスター寺院](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/b/1200wm/img_fb1d78481e418b36a67123c39530c2bf467725.jpg)
■問題はやはりハリー&メーガン
以上のように、国王として満点とは言えないにしても、今のところまあまあの及第点を取れているように思う。しかし戴冠式が盛り上がらないのはなぜだろう?
「エリザベス女王の戴冠式は、第2次世界大戦後の荒廃からイギリスが立ち直り始めた時におこなわれ、若く美しい女王は“新時代”の象徴でした。それに比べると、73歳の老王の戴冠式は、あまりワクワクするトピックではありません」(前出・塩田さん)
それでも、戴冠式の直近になれば、それなりの盛り上がりは期待できるかもしれない。なぜなら国王の最大のお荷物“ハリー&メーガン”が、式に出席し
やんちゃな末っ子ハリー王子は、メーガン妃と結婚するまでは、父とまあまあ良好な関係を保っていた。しかし、メーガンへの人種差別発言が端緒となって、二人は王室を離脱。今年初めに発売されたハリー王子の暴露本『スペア』は、英国王室のダークサイドを暴き、父、兄、継母をこき下ろし、麻薬や戦争での殺人など自らの悪行も書き散らした。しかしイギリス国民はいたって冷静で、「ハリーは頭が悪いからしょうがない」という受け止め方をしている。
![2018年5月19日、ヘンリー王子とメーガン・マークルの結婚式で、メ―ガンのフェイスマスクを後頭部に着けている男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/f/f/1200wm/img_fffa233f59f9f3d5bd8f4fab357bfeb6408789.jpg)
こんな目に遭いながらも、王室のスリム化を図りながらも、国王はハリー王子の子供たち、つまり孫に「王子、王女」の称号を与えた。この称号があれば、子供たちに警護の費用が出るので、ハリー&メーガンはしてやったりだ。
こんな“バカ息子”をバッサリ切り捨てればいいものの、それができないのは親の愛情か、息子の母親を死に追いやった原因を作った負い目なのか。なんとも人間くさいチャールズ3世。彼の戴冠式の盛り上がりを期待したい。
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ファッション系出版社、教育系出版事業会社の編集者を経て、フリーに。以降、国内外の旅、地方活性と起業などを中心に雑誌やウェブで執筆。生涯をかけて追いたいテーマは「あらゆる宗教の建築物」「エリザベス女王」。編集・ライターの傍ら、気まぐれ営業のスナックも開催し、人々の声に耳を傾けている。
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(フリーランスライター・エディター 東野 りか)
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