なぜニデック本社は京セラ本社より5m高いのか…永守重信会長が語る「私が稲盛さんに絶対に勝ちたかった理由」
プレジデントオンライン / 2023年4月22日 13時15分
2022年8月に亡くなった京セラ創業者の稲盛和夫さんは、どんな人物だったのか。親交のあったニデック(旧日本電産)の永守重信会長は「第一印象で、自分にそっくりな人だと思った。以来、12歳年上の稲盛さんをライバル視してここまできた」という。『熱くなれ 稲盛和夫 魂の瞬間』(講談社)よりインタビューを前後編でお届けする――。(前編/全2回)
※本稿は、稲盛ライブラリー+講談社「稲盛和夫プロジェクト」共同チーム『熱くなれ 稲盛和夫 魂の瞬間』(講談社)の一部を再編集したものです。
■「自分とそっくりな人がいるな」という印象を受けた
稲盛さんがいなかったら、日本電産はこんなに早く大きくなれなかったでしょう。やっぱり強い人と一緒に走ると、自分も速く走れるようになるんです。
初めて会ったのは、会社をつくって10年くらい経った頃でした。京都銀行の常務さんが、京セラの稲盛さんという人がいらっしゃって、今ものすごく会社が伸びている、一度会ってみたらどうか、と一席設けてくださったんです。
同じ申年で、ちょうど12歳違う。僕は30代の終わりでしたが、稲盛さんは50代に差し掛かったところで、経営者として脂が乗り切っていた。それはもう話に勢いがありました。
僕も働く働く働く、でしたけど、稲盛さんも働く働く働く、でね。夜10時半くらいに食事が終わると僕は当然、会社に帰るつもりでした。稲盛さんはもう自宅に帰られるのかなと思ったら、今から会社に戻るとおっしゃって。やはりこれは半端ではないな、と思いました。
同時に、なんか自分とそっくりな人がいるな、という印象を受けたんです。それで、そうか、この人を目指していけばいいんだ、と思うようになりました。
■稲盛さん以外にライバル視できる人はいなかった
東京出張に行くときには、僕は朝一番の新幹線で行って、最終で戻ってくるんです。当時の京セラの本社は山科にありましてね。新幹線から見えるわけです。すると、最終電車で通るときに、会社に煌々と電気がついている。
それで京都駅に着いたら、我が社にすぐに電話を入れるわけです。京セラはまだ煌々と電気がついてたぞ、と。そうすると、「社長、こっちはまだ気分は昼飯ですよ」と社員が言いましてね(笑)。社風も、ものすごくよく似ていましたね。
そして稲盛さんと出会ったことによって、僕の中で大きな変化が出てきた。戦う相手が見つかったからです。身近なところでね。
12歳も年上で立派な方をライバル視するというのは、大変ですよ。
「ちょっとお前、いくらなんでもおごってないか」と周囲に言われたこともあります。銀行からも「あんた、稲盛さんがライバルとか、何を言っているんだ」とお叱り、お咎めを受けたこともある。
だけど、それは非常に高いところに目標を置いているということなんです。小さな会社の自分が、近いところの会社をライバルにしてもあまり意味がない。あの頃の自分としては、稲盛さん以外にライバル視できる人はいなかった。
サラリーマン経営者なんか、まったく価値を認めていなかったし、松下幸之助さんや本田宗一郎さんもすごいんだろうけど、会ったこともない人に影響を受けるわけがないですから。そうなってくると、稲盛さんしかいなかったんです。
■本社ビルを京セラより5メートル高くしたワケ
京セラが本社ビルを建てたとき、高さが95メートルでした。それからだいぶ経って、僕は100メートルの本社ビルを建てました。そんなもの、ビルの高さを競争してどうするんだ、なんですけど、ビルはつくった後に上につなげないですからね(笑)。
超えることを前提にしてね、先にビルの高さを100メートルにしておこうということで、今の本社をつくったんです。
何かにつけて、京セラが何をしているか、稲盛さんがどういうことを発言して、どういうことをやっているかということについて絶えず情報をとっていました。売り上げ、利益もチェックした。いやもう成長もすごいわけですね。
年が12歳違って、京セラは創業が14年早かった。普通にしていて追いつけるはずがない。ちょうど本社の僕の部屋から、京セラのビルは真正面に見えるんですよ。電気がついているかどうかまではわかりませんけど、望遠鏡があれば見える(笑)。あ、まだ残ってやっておられるな、とわかったら、これは絶対に先には帰れないなと思ってね。
とにかく京セラに追いつけ、ですよ。もっといえば、追い越せ、でした。もちろん、そんなことは稲盛さんには言いませんが、京セラを追い抜くことが心の中での目標でした。稲盛さんは、ご存じだったかもしれませんけど。
■「こういうことを徹底しなかったら、京セラは抜けないぞ」
本社ビルができたとき、稲盛さんは見に来てくださったんです。「中、見せて」とおっしゃってね。「お前の部屋も全部見せろ」と言われて。
それで見せたら、こう言われたんです。「なんだ、お前のとこは、植木をこんなに並べてるのか」
本社ビルの新築祝いにもらったんですよ、と言うと、こう返されました。
「これ、毎日、誰が水をやるんだ。枯れたら、誰が捨てに行くんだ。いっぺん、私のところに見に来い。生木は一本もないぞ。全部、造花だ」
それも、もらったもので、コストはゼロ。造花だから水もやらなくてよい。枯れることもないので、捨てに行く必要もない。こうズバッと来るわけですよ。
「こういうことを徹底しなかったら、京セラは抜けないぞ」
その後も、ビルの中をずっと見て歩いて、「なんだ、こんなことをしてるのか」「これは無駄だなぁ」というような話をさんざんされるわけです。でも、僕からすれば、なるほどなぁ、と感心することが多かった。たまたまビルの竣工(しゅんこう)式に来てもらって、そこでも多くの学びを得たんです。
お祝いにやって来て、そういう手厳しいことを言ってくれる人がどのくらいいるか、と思うわけです。だから、なるほどと思ったことは、すぐにやりました。まずは同じレベルに持っていかないといけない。そうでないと、勝てないですから。
■稲盛さんがやっていることはなんでも真似る
もうとにかく、真似ましたね。いろんなことを真似た。朝も早く行く。夜も遅くまで働く。それから、稲盛さんがやっている方法もまず真似る。どういうことを言っておられるか、それも真似る。もう真似ることが全然なくなったら、今度は学ぶ。稲盛さんの本も読んだりする。
社員にもとにかくずっと語りかけました。一緒にご飯も食べた。京セラも日本電産も、それは一緒でしたね。会社組織も学校もそうですけど、やっぱりよく似た考え方の人が集まると強い集団になるんですよ。
もちろん、いろんな意見の人が集まって、いろんなことを言うことも大事かもしれません。会社が大きくなってから、そうなるのはいいですよ。でも、小さいときにいろんな意見が合わずにやっていたら、成長しません。
だから僕は京セラを見ていてね、ああ、こういうふうにならないといけないなぁ、と。これも稲盛さんから学んだんです。
■違った考え方の人を集めるほうがいいと言うが…
酒を飲みながら、社員に語ってね。ああいう場は、自分の考え方をみんなに広く強く植え付ける場だと思っている人がときどきいるんですけど、それは違うんです。みんな同志なんです。考え方はできるだけ一緒にして働かないといけないということなんです。
![稲盛ライブラリー、講談社「稲盛和夫プロジェクト」共同チーム『熱くなれ 稲盛和夫 魂の瞬間』(講談社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/9/d/1200wm/img_9dc301180d6e2abc5de21f7011075ac2112588.jpg)
意見の差があって、あたかも自由闊達(かったつ)でいいという場合もあるけれども、やはりゼロから会社をつくって大きくしていくには、そういう考え方でいったん固まらないといけないですね。
会社が立派になってきて、余裕ができたら、そこで初めて議論して、いろんな考え、違った考え方の人を迎える。今は、いろんな違った考え方の人を集めるほうがいいと言うけど、フラフラの会社で、それぞれの社員が違った考えを持っていたら、会社はつぶれてしまいますよ。
でも、いつまでも真似ていたのでは勝てない。だからアメーバ経営よりも、もっといい方法があるはずだ、と違う方法として事業所経営というのをやったわけです。最初は稲盛さんのやり方を学んでいたのですけれど、もっと優れた手法を編み出そうということで、新しい経営方法に取り組み、強力に攻めていったわけです。(後編に続く)
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ニデック会長
1944年、京都府生まれ。職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科卒業。73年、28歳で従業員3名の日本電産(2023年4月にニデックへ社名変更)を設立、代表取締役社長に就任、「世界№1の総合モーターメーカー」に育て上げた。現在は代表取締役会長(CEO)。公益財団法人永守財団理事長、京都先端科学大学を運営する学校法人永守学園理事長も務める。著書に『人を動かす人になれ!』(三笠書房)、『成しとげる力』(サンマーク出版)、『永守流 経営とお金の原則』(日経BP)、『人生をひらく』(PHP研究所)、『大学で何を学ぶか』(小学館)、『運をつかむ』(幻冬舎)などがある。
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(ニデック会長 永守 重信 聞き手・構成=上阪 徹)
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