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稲盛さんが「心の世界」とか言うのはちょっと違うな…そう思っていたニデック永守重信会長が最近痛感したこと

プレジデントオンライン / 2023年4月23日 10時15分

2022年8月に亡くなった京セラ創業者で名誉会長の稲盛和夫氏 - 撮影=神崎順一

2022年8月に亡くなった京セラ創業者の稲盛和夫さんは、どんな人物だったのか。親交のあったニデック(旧日本電産)の永守重信会長は「僕が余計なことを言うと、『お前は生意気だな』と怒られていた。でもそれで二度と会わないような器の小さい人ではなかった」という。『熱くなれ 稲盛和夫 魂の瞬間』(講談社)よりインタビューを前後編でお届けする――。(後編/全2回)

※本稿は、稲盛ライブラリー+講談社「稲盛和夫プロジェクト」共同チーム『熱くなれ 稲盛和夫 魂の瞬間』(講談社)の一部を再編集したものです。

■「心からの尊敬があるからできるんですよ」

(前編から続く)

かつて、京都の創業者の会というのがあって、僕もそこに参加させてもらっており、稲盛さんとは毎月のように会っていました。一緒に食事したり、お酒を飲んだり。長いお付き合いの中で、僕もだんだん言いたいことを言うようになっていました。

「お前は生意気だな」と言われました。「けしからん」と叱られたこともある。「私の意見に逆らったりしやがって」とたいへん怒っておられたこともあった。でも、自分の先生といえども、違うんじゃないかと思ったらそう言わないといけないと思っていました。

実は稲盛さんの12歳上に、ワコール創業者の塚本幸一さんがおられて、稲盛さんは尊敬されていたんですね。でも、尊敬していながらも好きなことをおっしゃっていた。そういう稲盛さんの姿を僕は見ていたんです。

それはもう、僕も稲盛さんを心から尊敬しているわけです。だけども、そのまま、はいはい、稲盛さん、はいはい、というような態度は取りたくなかった。やっぱりときどきチク、チク、チクといく。そうすると、カーッと怒られたりする。これは、心からの尊敬があるからできるんですよ。

■「顔を見たら、怒っておられるのはわかる」

僕が余計なことばっかり言ってると、すごく気分を悪くされたりします。僕も同じことをされたら、絶対そうなる。だけど、本質は「あー、こいつは面白いやつだな。まともな議論ができる人間だな」と、そんなふうにとってもらっていたんじゃないかと僕は自分で思っているんですよ。

そうでなくて、気分が悪くなることばかり言う人間だとしたら、次から会ってもらえないですね。しかも、僕の会社もどんどん大きくなっていく。稲盛さんの苦労と変わらない苦労を積み上げてきたことがわかるから、僕の話を聞いてくれるわけです。

稲盛さんは、そんな小さな人ではないんです。人間の器が大きいんです。あいつとはもう二度と会わないとか、あの野郎ずいぶん大きくなって偉そうなことを言いやがってとか、そういう気持ちじゃないんですよ。だから、僕はあの人を尊敬している。

ただ、大僧正みたいに「うんうん」と聞いているのではないんです。口には出さなくても、顔を見たら、怒っておられるのはわかるから。でも、そういうところが人間的だから、また好きなんです。やっぱり人間は、喜怒哀楽を持ってないといけませんから。

JAL再建では手袋1枚の値段にまでこだわった

稲盛さんと僕とは、やがて会社の経営の方法とか、M&Aの方法とかが、大きく違っていきました。寄付のやり方も違う。稲盛さんは、箱物が好き。僕は、中身が好き。だから、がんセンターをつくったり、学校もやる。

どっちがいい悪い、ではないんです。やり方が違うだけで、やっていることの根本は一緒。だって、みんなが同じところばかりに集中したら、困るでしょう。いろんな人が、いろんな寄付をするから、世の中がよくなるわけです。

でも、最終的には相通じるところがあるんです。日本電産(現ニデック)はすでに69社(インタビュー時点。現在は70社)、会社を買収している。ほとんどがつぶれかかった会社を再建してきている。これは、第二電電をつくった稲盛さんの、国をよくしたいというまっすぐな気持ちの影響が間違いなくあると思う。

でも、会社の再建というのは、簡単な仕事ではないんですよ。ものすごいエネルギーが要るんです。その点では、稲盛さんというのは、言ったことを必ずやってこられたわけです。口だけじゃないんですよ。

JAL再建にしたって、自分で東京へ行って、現場に出向いて自ら指導してね。しかもあの年で、あの会社を再建に行くなんて、他にできる人はいない。本当に手袋1枚の値段まで調べて。だから、JALは立ち直ったわけですよ。

■「稲盛さんみたいなこと言い出したな」と言われる

この20年くらい、稲盛さんが心の世界とか、お寺のお坊さんみたいなことを言ってるのは、ちょっと違うなと思っていました。京都に坊さんは、たくさんいるのですからね、そんなもの、財界人が坊主になる必要はないだろう、と僕は考えていたんです。

座禅をする僧侶
写真=iStock.com/SAND555
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SAND555

ところが最近、僕もああいうことを言い出してきたんです。12歳違いますからね、10年遅れくらいで、だいたいほぼ同じようなことを言い出していて。「あんた、稲盛さんみたいなこと言い出したな」と最近は言われているんです(笑)。

松下幸之助さんも、人生の後半にPHPをつくられた。僕は別にそういうことを意識しているわけではないんだけども、人間というのは、やっぱり国のためとか、社会のためとか、寄付行為をするとか、そうなるんだなと今は思っているんです。だんだんだんだん、稲盛さんに似てきたな、と。

ということは、やっぱり今も稲盛さんに影響を受けているわけです。やっぱり自分が真似て学んできた大先輩ですから。僕は稲盛さん以外の人の真似なんて、したことないですから。創業した頃は、オムロンの立石一真さんの教えの影響を大きく受けてやっていましたが、ある程度、会社が大きくなってからは、稲盛さんの影響がとにかく大きかった。

結局、自分が影響を受けるということは、考え方とか生き方とか、経営の仕方に親しみを持っているということだと思うんです。そこに尊敬心があったり、やっぱりこの人は立派だなと感じたり、そういうことがあるから影響される。他にはないんですから。

■何はともあれ「努力と我慢」

会社を興すのでもいいし、何か資格を取るのでもいい。自分が目標を持って、何かやろうと思っていることがある人に言いたいのは、何はともあれ努力と我慢だ、ということです。この2つを持っていないと絶対に成功しません。今も昔も一緒です。人よりもよく働く。何はともあれハードワーキングです。

家族の考え方も大事です。稲盛さんにしても、あの夫あってこの妻あり、というご夫婦なんですよ。男の成功も女の成功も、一緒に住む人がどんな考え方か、とても大事になる。

僕も子どもが2人いるわけですけど、どこかに遊びに連れていったためしなんてない。それは妻が全部やってくれた。そして、あなた、そのかわり偉くなってくださいな、大きな会社にしてくださいよ、とこういうことなわけです。

そうすると子どもたちが、「お父さん、次の日曜日には、どこかの遊園地に連れていってやると言ってたけど、また会社か」と言って、2人で怒っていました。でも、そんな子どもたちも、今は2人とも会社を経営しています。

遊園地に連れていかなかったら、子どもはおかしくなるのか。そんなのは全部、ウソですよ。そんなことよりも、酔っぱらって帰ってきて玄関で寝ている父親のほうが、よっぽどひどいでしょう。

■人生はいいこと、悪いことでプラマイゼロ

稲盛さんもそうですけれど、僕は人間は叱って育てないといけないと思っている。本屋に行ったら、褒めて育てようなんて本ばかりですけど、もしそうだったら、もっといい人が育ってるだろうと。人は叱って育てる。これも、稲盛さんと共通しています。

稲盛ライブラリー、講談社「稲盛和夫プロジェクト」共同チーム『熱くなれ 稲盛和夫 魂の瞬間』(講談社)
稲盛ライブラリー+講談社「稲盛和夫プロジェクト」共同チーム『熱くなれ 稲盛和夫 魂の瞬間』(講談社)

家族の中で、夫が会社をつくった、妻が会社をつくった、と。それで死ぬほど働いていると。それに対してサポートもしないで、反対したり、協力しなかったりする奥さんや旦那さんだったら、絶対に会社は大きくはなりません。

やはり人間が成功していく過程では、配偶者や子どもに対して、ものすごく迷惑をかけてしまう。でも、だから会社は大きくなるんです。子どもを留学させることだってできるんです。それは、会社が大きくなったからできたわけです。

人生はプラスマイナスゼロです。いいことと悪いことで、プラマイゼロ。ところが、人間はいいことは忘れるけれど、嫌なことだけは覚えてますからね。

いや、僕の人生はそんなことない、嫌なことが9割あったなんて言う人もいますけど、それは全部ウソ。すべてはフィフティフィフティなんです。

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永守 重信(ながもり・しげのぶ)
ニデック会長
1944年、京都府生まれ。職業訓練大学校(現・職業能力開発総合大学校)電気科卒業。73年、28歳で従業員3名の日本電産(2023年4月にニデックへ社名変更)を設立、代表取締役社長に就任、「世界№1の総合モーターメーカー」に育て上げた。現在は代表取締役会長(CEO)。公益財団法人永守財団理事長、京都先端科学大学を運営する学校法人永守学園理事長も務める。著書に『人を動かす人になれ!』(三笠書房)、『成しとげる力』(サンマーク出版)、『永守流 経営とお金の原則』(日経BP)、『人生をひらく』(PHP研究所)、『大学で何を学ぶか』(小学館)、『運をつかむ』(幻冬舎)などがある。

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(ニデック会長 永守 重信 聞き手・構成=上阪 徹)

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