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旧NHK党3億円、自民159億円、立民68億円…日本の政治を変質させた「政党助成金」は本当に必要なのか

プレジデントオンライン / 2023年4月18日 7時15分

辞任の意向を表明したNHK党の立花孝志党首。右は新党首の大津綾香氏=2023年3月8日、東京・永田町の参院議員会館 - 写真=時事通信フォト

旧NHK党(現・政治家女子48党)の代表権をめぐり、立花孝志氏と大津綾香氏の間で争いが起きている。政治ジャーナリストの鮫島浩さんは「党首の座を奪い合う泥仕合の内実は、年間3億円超の政党助成金の争奪戦だ。私たちの税金を内輪で分捕りあう政党のあり方そのものを問い直すべきではないか」という――。

■3億円超の政党助成金をめぐる旧NHK党の泥仕合

このまま目を塞いでおきたい出来事だったが、ついに編集者から執筆依頼が来てしまった。「NHK党」改め「政治家女子48党」の党首争奪をめぐる泥仕合のことである。

昨年夏の参院選比例代表で旧NHK党から当選したガーシー参院議員が一度も国会に登院せずに除名された問題をめぐり、立花孝志党首が辞任を表明したのが3月8日。政党名を「政治家女子48党」を変更したうえ、大津綾香氏という政界では無名の30歳女性に党首を譲るといきなり発表したのだった。

大津氏は政治経験がなく、今年1月にユーチューブで「政治家女子48党」の候補者募集を知って応募し、4月23日投開票の目黒区議選への擁立が決まったばかり。その名を知る人は政界でもほとんどいなかった。

ただし彼女にはとっておきの経歴があった。幼少期に子役として活動し、世論形成に影響力のあったNHKの「週刊こどもニュース」に池上彰氏の娘役として出演していたのである。

立花氏はNHKを退職した後、受信料不払い運動を皮切りに世間を騒然とさせるパフォーマンスを次々に繰り出してインターネット上の話題をさらい、国政政党まで作り上げた。決して立ち止まることなくネタを取っかえ引っかえしてメディア露出度をつないできた彼の目に、大津氏の経歴が輝いてみえたのは想像に難くない。

■「創始者(立花氏)」と「池上彰氏の娘役(大津氏)」の党首争奪戦

仲良く並んで党首交代の記者会見に臨んだふたり。1カ月も経たぬうちに立花氏が大津氏を「除名処分」して自らの党首復帰を宣言し、大津氏は「われこそ党首」と譲らずに党資金には不透明な流れがあると告発する内紛に発展するとは、さすがにどちらも予想していなかっただろう。

双方が連日ツイッターでののしり合い、通帳のコピーまでネット上に飛び交う暴露合戦はあまりに急展開で、最新の形勢をアップデートして把握しているのはよほどのマニアだけだろう。

暴露系ユーチューバーのガーシー氏の除名騒動に困惑して拒絶反応を示した多くの有権者にとって「政治家女子48党」の「創始者(立花氏)」と「池上彰氏の娘役(大津氏)」による党首争奪戦はもはや常軌を逸した劇場型政治でしかなく、話題にすることさえはばかられる異次元の政治ニュースとなった。

一方で、一部ネットメディアの報道は過熱し、興味のある人とない人では決してわかりあえないニッチな政治現象と化したのである。

■ミニ政党の“お家騒動”では片付けられない

私も目を塞いできた。この問題を政治ジャーナリストとして取り上げること自体が立花氏の世論喚起策への加担になると自分に言い聞かせ、見て見ぬふりを正当化してきたのかもしれない。だから立花氏と大津氏の骨肉の争いを詳しく解説する資格はないし、そのつもりもない。

だが、執筆依頼を受けて一連の騒動を改めて俯瞰してみると、やはり参院議員2人(2019年に当選した立花氏の失職で繰り上げ当選した浜田聡氏と、2022年に当選したガーシー氏の除名で繰り上げ当選した斉藤健一郎氏)のミニ政党のお家騒動として片付けるべきではないと思うに至った。

党首の座を奪い合う泥仕合の内実は、ミニ政党に流れる年間3億円超の政党助成金の争奪戦であるからだ。その原資が私たちの税金である以上、この国の政党政治のあり方を問う政治問題として目を塞いではいられない。

■政党の「税金依存」を可視化している

そして「政党助成金の争奪戦」の図式は、何も政治家女子48党というニッチな新興政党に限ったことではなく、自民党や立憲民主党をはじめとする主要政党にも当てはまることに気づいてハッとしたのである。

自民や立憲も政党助成金なしには存続できないほど「税金」に依存している。彼らは各党に配分された政党助成金の奪い合いを真綿で包んで「政局」という名の党内闘争を繰り広げているだけだ。

永田町的素人集団の政治家女子48党は党内闘争=ケンカの仕方が稚拙であけすけなだけで、「政党助成金の争奪戦」という点では既存政党と本質的に変わりはない。彼らのおぞましい内紛は、政党助成金という「税金」に依存してそれを党内で奪い合うこの国の政党の実像を実にわかりやすく単純化して可視化したのだった。

だとすれば、政党の内紛を引き起こす元凶である「政党助成金」について再考しなければならないと思い直したのである。

■自民159億円、立民68億円、維新33億円…

今年、各党に交付される政党助成金は総額315億円余りである。

自民党は159億1000万円、立憲民主党は68億円3200万円、日本維新の会は33億5100万円、公明党は28億6900万円、国民民主党は11億円7300万円、れいわ新選組は6億1900万円、社民党は2億6000万円、参政党は1億8400万円(共産党は政党助成制度に反対して1円も受け取っていない)。NHK党(現在の政治家女子48党)はれいわより少なく社民より多い3億3400万円だ。

交付額は毎年1月1日現在の国会議員数や近年の国政選挙の得票数から算出される。計算式は総務省のホームページに記載されている。年4回(4月、7月、10月、12月)に分けて交付される。今年最初の交付日は4月20日だ。

交付の条件は「①国会議員5人以上」か「②国会議員が少なくとも1人いて、前回の衆院選か、前回または前々回の参院選のいずれかで得票率2%以上
」のどちらかを満たすこと。NHK党(現在の政治家女子48党)はガーシー氏が当選した前回参院選比例代表で125万票(得票率2.4%)を獲得して②をクリアした。この先5年は助成金を得る資格がある。

秋葉原駅前で街頭演説をする立花孝志氏と堀江貴文氏(=2021年10月30日)
秋葉原駅前で街頭演説をする立花孝志氏と堀江貴文氏=2021年10月30日(写真=Noukei314/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons)

■政党助成金なしでは「破産」を免れない旧NHK党

浜田・斉藤の両議員は立花氏支持の姿勢を鮮明にしている。大津氏が政治家女子48党の党首に居座っても、両議員が立花氏を担いで全く別の新党を結成して国会で活動を続けることは可能だが、その新党は交付条件の①も②も満たさず、政党助成金を受給する資格はない。

NHK党は支援者から年利5%の利息をつけて返済すると約束して政治資金を借り入れ、333人から総額10億5000万円の債務を抱えているとされる。政党助成金なしでは返済が滞って「破産」を免れず、「政治家女子48党」の看板を手放すわけにはいかない。立花氏はそもそも政党助成金を当てにして新党を旗揚げし当面の政治資金を借り入れでかき集めたのだろう。

だが、主要政党も政党助成金に依存していることに変わりはない。

各党は政党助成金の使途を政治資金収支報告書で公開しているが、使途に制限がないのがこの制度の最大の特徴だ。議員が私的な遊興費に使うケースなどがマスコミ報道で時折発覚するが、実際の使途には不透明な部分も多く、政界対策やマスコミ対策の工作資金などに使われているとも指摘されてきた。

■現職議員は「カネのなる木」

現時点で公開されている最新の収支報告書(2021年分)によると、政党の収入に占める政党助成金の割合(依存度)は、自民党が69.6%、立憲民主党が81.5%、日本維新の会が79.6%にのぼっている。最も依存度が高いのは国民民主党で94.7%に達していた。

政党の離合集散が繰り返された1990年代、政党助成金を主な原資として蓄えた資金をどう分け合うかで激しい党内攻防が繰り広げられた。

最近では国民民主党が2020年に立憲民主党への合流組40人と、不参加組14人(現在の国民民主党)に分かれる際、40億円超の党資金をどう分割するかが大きな焦点となり、議員数比で割り振ることで決着。どちらにも属さず無所属となる8議員にも配分された。

当時の関係者は「少しでも多くの政党助成金を獲得するため一人でも多くの議員を引っ張り合う争奪戦が水面下であった。人とカネの奪い合いだった」と振り返る。

政党助成金に依存する政党にとって、現職議員は「カネのなる木」なのだ。

■派閥政治、金権政治の反省から生まれた助成金

自民党議員は「政党助成金を党内でどう配分するかという権限は総裁や幹事長ら党執行部が握っている。総裁選で勝ち組について党執行部の覚えがめでたくなれば資金面でも優遇される。だからみんな総裁選に必死になるし、総裁や幹事長の派閥に入りたがる」と打ち明ける。

立憲民主党議員は「与野党一騎打ちの小選挙区制度では、党公認を得られないと勝負にならず、各議員は代表や幹事長に刃向かえない。党の資金をどう割り振るかも党執行部が決めるので、どうしても上司に忠実なサラリーマンになる」。代表選で負け組になると党内人事で冷遇され、政党助成金も手厚く配分してもらえず、資金繰りが苦しくなる。だからこそ勝ち組につかなければならないというわけだ。

1990年代以前は違った。自民党では各議員に活動資金を配るのは党執行部ではなく各派閥の役割だった。首相を目指すには派閥の親分となり、多くの議員を自派閥に引き込んで党内勢力を広げる必要があった。

派閥の親分は企業献金をかき集めて激しい派閥間抗争を繰り広げ、金権政治が蔓延ったのである。その結果、リクルート事件や佐川急便事件といった巨大汚職事件が次々に発覚して派閥政治・金権政治への批判が高まり、自民党は1993年衆院選で政権から転落したのだった。

■上司に忠実なサラリーマン議員が急増した

政党を税金で助成する制度は、非自民連立政権と野党自民党の協議を経て、企業献金を制限する代わりに導入された。派閥主導から党主導へ、企業献金から公費助成へ、政党のあり方を根本的に変えてクリーンな政治を目指したのである。

同時に衆院選挙制度も、自民党内の派閥同士が競い合う中選挙区制から、与野党一騎打ちの小選挙区制へ変更され、二大政党時代が幕開けした。

約30年の時が流れ、確かに派閥は弱体化して党執行部の力が強まり、企業献金は減少した。その代わりに政党は「税金による助成」に依存するようになり、党執行部が資金の配分を牛耳ることで上司に忠実なサラリーマン議員が与党にも野党にも急増した。

自民党の閣僚経験者は「国会議員が選挙区の有権者より総裁や幹事長の顔色を窺うようになった」と話す。カネと公認権を握る総裁や幹事長は支配力を増し、いったん「勝ち組」になるとますます勢力を拡大できるようになった。どの政党でも批判勢力は影をひそめ、総主流派体制となる傾向が強まったのである。

■カネをどう使うかは党幹部次第

政権与党にはもうひとつ税金を原資とする重要な資金源がある。領収書不要のつかみ金である内閣官房機密費だ。国会対策やマスコミ対策の「裏金」として使われていることがたびたび指摘されてきた。

菅義偉政権が1年間に使った官房機密費は13億円超で、官房長官が自由に使える「政策推進費」は12億4000万円にのぼることが判明している。1日平均300万円以上を何の制約もなく費消してきたのだ。官房機密費は、使途が公開される政党助成金よりも深いベールに包まれているといってよい。

曇天の国会議事堂
写真=iStock.com/kanzilyou
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kanzilyou

政党助成金の配分権を握るのが幹事長なら、官房機密費の金庫の鍵を握るのは官房長官である。内閣改造・党役員人事の際に幹事長と官房長官の人選に注目が集まるのは、巨額の資金を差配することができるポストだからだ。

有力政治家はこれらのポストに就任している間に資金を蓄え、政治基盤を強化して首相を目指す。安倍晋三元首相は幹事長と官房長官の両方を歴任したし、菅義偉前首相は安倍政権下で官房長官を歴代最長期間つとめた。岸田文雄首相の政権基盤がいまいち固まらないのは、幹事長も官房長官も経験していないことと関連があるだろう。

■「税金」を奪い合う政党の内紛を放置していいのか

かつて企業献金を奪い合った政治家たちは今、私たちの税金を原資とした政党助成金や官房機密費を奪い合っている。資金源のパイは大政党ほど大きくなり、そこに群がる面々は膨れ上がる。小政党ほどパイは小さくなり、内向きな争奪戦は生き残りを賭けた熾烈(しれつ)なものになる。どちらも資金獲得のための「党内政局」に明け暮れていることに変わりはない。

政治家女子48党で勃発した党首争奪戦は、どの政党でも繰り広げられている政党助成金の争奪戦をより稚拙に単純化して可視化したに過ぎない。最も問われるべきは、私たちの税金を内輪で分捕り合う政党のあり方そのものであろう。

企業献金を競って集めた金権政治・派閥政治へ逆戻りしていいはずはない。さりとて「税金」を奪い合う党内闘争に明け暮れる今の政党を放置すべきでもない。

政党を公費で助成するのは正しい選択なのか。仮に正しいとしても、今の配分システムが適切なのか。政治家女子48党のニッチな泥仕合は「政党助成金」のあり方そのものを問い直している。

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鮫島 浩(さめじま・ひろし)
ジャーナリスト
1994年京都大学を卒業し朝日新聞に入社。政治記者として菅直人、竹中平蔵、古賀誠、与謝野馨、町村信孝らを担当。政治部や特別報道部でデスクを歴任。数多くの調査報道を指揮し、福島原発の「手抜き除染」報道で新聞協会賞受賞。2021年5月に49歳で新聞社を退社し、ウェブメディア『SAMEJIMA TIMES』創刊。2022年5月、福島原発事故「吉田調書報道」取り消し事件で巨大新聞社中枢が崩壊する過程を克明に描いた『朝日新聞政治部』(講談社)を上梓。YouTubeで政治解説も配信している。

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(ジャーナリスト 鮫島 浩)

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